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2022年04月18日

アガリビト5


「アガリビト……あがりさんってこの辺の人は呼んでるけど危ないものじゃないんだよ。神様……守り神みたいなものなんだよ。あれは人間だと思っとる人も村には沢山いたけどね。そりゃ今みたいに飛行機でどこまでも行けるような時代にね山に神様がいて、それが人間の姿をしているけど神様なんだよって言っても若い人には信じられないかもしれないけど、私はねあんたみたいに若い頃に一度アガリさんを見たことがあるんだよ」

とまるで子供に言い聞かせるように電話で話し始めた。

ばあちゃんがまだ若い頃。
戦争は終わりかけで村には町から疎開で沢山の子供が村にあふれかえっていた。
村の小学校のグランドは全部畑になって芋やら大根やらを植えて疎開してきた人の食料を補っていたらしい。
畑を耕すのは今まで鍬なんか触った事もない町の子供達だ。
女学生だったばあちゃんは気の毒に思ってよく肝油や角砂糖なんかを配ってたらしい。
食料も豊富で安全と言われて疎開してきたけれど現実はシラミだらけの煎餅布団と畑仕事。
子供達はだんだん痩せていったそうだ。
そしてある夜の事、数人の子供が疎開先から脱走し畑の野菜を盗み山に逃げ込んだらしい。


んで捜索隊が結成されてばあちゃんも男の人数人と森に探しに行ったらしい。
熊とかも出るし暗いしめちゃくちゃ怖かったけどばあちゃんは腹が減って腹が減って仕方なかったらしく、捜索隊の人とわざとはぐれてジネンジョを掘りにいったらしい。
道からはずれたところで野生のジネンジョをみつけて川で洗い生で食べてると、、ヒトの声が向こう側から近づいてくる。
ばあちゃんはあわてて道から離れて木の陰に隠れたらしい。
もしもこんなところを見られらた家族が何を言われるのか分からないとの一心で、ブルブル震えながらやり過ごしてたらしい。

「敵の飛行機より同じ国のお隣さんのほうがこわいなんて変な時代だったわ」

とばあちゃんはふんと笑いながら懐かしそうに語った。


ばあちゃんは隠れてやりすごそうと、声のする方を見てたら何故か歌みたいなものが聞こえてきたらしい。
詩吟みたいな間延びした歌を歌いながらゾロゾロと数人の人影が歩いているものが見えたそうだ。
しかしその集団は明らかに村の捜索隊ではなかった。
男も女も全員裸で目が虚ろで、体も村人とはちがい幾分かふくよかな気がする。
いや、服を着ている子供がいる。
そばをフラフラ歩いているのは、行方不明になっていた疎開してきた小学生だった。


ばあちゃんは怖くて仕方無かったけど、もしかしたらこの人たちは川を渡ってやってきたとなりムラのやつらかもしれない。報告の必要もある。
怖くて仕方が無かったが、ばあちゃんは手段の後を追いかけることにしたらしい。


ばあちゃんは子供だけでも助けようとしたのだが、裸の集団に囲まれていて手出しが出来ない。
こんな時代だし人足としてどんな扱いを受けるか分かったもんじゃない。
幸い月が出ていて集団を見失う事は無かったが、無事に帰れるか不安だったらしい。
小一時間程歩き集団は森の開けた場所で立ち止まった。
ばあちゃんは遠巻きに見ていたが、何やら黒い塊みたいなものの周りに集団が集まり始めた。
しばらくするとその黒い塊がもそもそと動き初めぐっと起き上がった。
その塊は人の形をしているが普通じゃない形をしていたとばあちゃんは話してくれた。
その黒い塊の上半身は『ノートルダムのせむし男』みたいな形をしていて首と手足がヒョロヒョロに長かったらしい。
動きも操り人形みたいに地に足はついていないようなフラフラとした動きで、ばあちゃんはそれを見てると心細くなるわ怖いわで泣きそうになるのを必死で堪えたらしい。


しばらくすると黒い生き物が詩吟のような歌を歌い始めた。
とても良い声だったのが逆に不安になりガタガタ震えていると、今までてんでバラバラに唸るように歌っていた集団が黒い生き物にあわせて歌い始めた。
声がそろうとバグパイプみたいな音だったらしい。
「ん〜ん〜ん〜」としばらく宙を見つめながら歌っていた集団。
しばらくすると黒い生き物が地面に屈むと集団はピタリと歌うのをやめた。
そして集団は子供の服を脱がせ黒い生き物の前に連れて行った。
黒い生き物は集団に何かを話すとパタリと集団の中の一人が倒れたらしい。
するとまた集団はバラバラに詩吟を歌いながらどこかに子供を連れて行ってしまった。
その場に残ったのは黒い生き物と、倒れている裸の人。
ばあちゃんは逃げたくて仕方がなかったが怖くてその場から動けなくなってしまったらしい。
いまからここで怖いことがおこる。


直感で感じるのだが体が動かない。声も出ない、もう気が動転して、とりあえず指一本、叫び声一つあげなければそのまま自分は石みたいにカチコチになってしまうと思ったらしく、滅茶苦茶に叫ぼうとしたらしい。
しばらく頑張ってると喉の奥の方から蚊の鳴くような声で

「…………ぅぁ」

とうなり声がやっと出た。すると黒い塊がふらりとこっちを見た気がして、ばあちゃんはそのまま気を失ったらしい。
俺の頭の中には昔見たアガリビトの目が鮮明に浮かび上がっていた。
これね→<●><●>
で気がつくとばあちゃんは家の布団で寝てたらしい。


……まぁばあちゃんの話はこんなところです。
年配の人の話なので同じ事を何度も話すしゆっくりだし、すこし昔の言葉で聞き取りづらかったけど多分こんな感じです。
読みやすさの為に若干僕の推測と言いますか想像も入っていますが、ばあちゃんの話のスジはだいたいこんな感じでした。
今携帯みたらAさんの奥さんが紹介してくれた人から着信が入ってた。
アガリビトを個人的に調べてる人らしんだけどばあちゃんの話を聞く限り、ただの村の風習ってわけじゃなさそうだしおかるティックな人だったら嫌だなぁ……
厨二っぽいことつらつら語られても困るしなぁ……
正直俺自身子供の頃の体験を掘り下げてここまで話が広がるとなんかあるんじゃないか、少し不安になってきたけど内心ワクワクしている自分もいる。
もしもその人と連絡が取れて聞きたい事とかあったら書いておいてくれれば質問しとく。
俺としてはけっこうお腹いっぱいだし最近トラブル続きで、正直なにかあるんじゃないかとビビってるんで客観的な意見をよろしく。
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