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2022年04月05日

禁后−パンドラ−(ほん怖)4



彼女は自分の家系については母から多少聞かされていたので知っていましたが、特に関心を持った事はありませんでした。
妻となって数年後には娘を出産、貴子と名付けます。
母から教わった通り隠し名も付け、鏡台も自分と同じものを揃えました。
そうして幸せな日々が続くと思われていましたが、娘の貴子が10歳を迎える日に異変が起こりました。
その日、八千代は両親の元へ出かけており、家には貴子と夫だけでした。
用事を済ませ、夜になる頃に八千代が家に戻ると、信じられない光景が広がっていました。
何故か爪が剥がされ、歯も何本か抜けた状態で貴子が死んでいたのです。
家の中を見渡すと、しまっておいたはずの貴子の隠し名を書いた紙が床に落ちており、剥がされた爪と抜かれた歯は貴子の鏡台に散らばっていました。夫の姿はありません。
何が起こったのかまったく分からず、娘の体に泣き縋るしか出来ませんでした。
異変に気付いた近所の人達がすぐに駆け付けるも、八千代はただずっと貴子に泣き縋っていたようです。




状況が飲み込めなかった住民達はひとまず八千代の両親に知らせる事にし、何人かは八千代の夫を探しに出ていきました。
この時、八千代を一人にしてしまったのです。
その晩のうちに、八千代は貴子の傍で自害しました。
住民達が八千代の両親に知らせたところ、現場の状況を聞いた両親は落ち着いた様子でした。

「想像はつく。八千代から聞いていた儀式を試そうとしたんだろ。八千代には詳しく話したことはないから、断片的な情報しか分からんかったはずだが、貴子が10歳になるまで待っていやがったな」

と言って、八千代の家へ向かいました。
八千代の家に着くと、さっきまで泣き縋っていた八千代も死んでいる…住民達はただ愕然とするしかありませんでした。
八千代の両親は終始落ち着いたまま

「わしらが出てくるまで誰も入ってくるな」

と言い、しばらく出てこなかったそうです。




数時間ほどして、やっと両親が出てくると

「二人はわしらで供養する。夫は探さなくていい。理由は今に分かる」

と住民達に告げ、その日は強引に解散させました。
それから数日間、夫の行方はつかめないままだったのですが、程なくして八千代の家の前で亡くなっているのが見つかりました。
口に大量の長い髪の毛を含んで死んでいたそうです。




どういう事かと住民達が八千代の両親に尋ねると

「今後八千代の家に入ったものはああなる。そういう呪いをかけたからな。あの子らは悪習からやっと解き放たれた新しい時代の子達なんだ。こうなってしまったのは残念だが、せめて静かに眠らせてやってくれ」

と説明し、二人の供養も兼ねて、八千代の家はそのまま残される事となったそうです。
家のなかに何があるのかは誰も知りませんでしたが、八千代の両親の言葉を守り、誰も家の中を見ようとはしませんでした。
そうして、二人の供養の場所として長らく残されたのです。




最後に鏡台の引き出しに入っているものについて。
空き家には一階に八千代の鏡台、二階に貴子の鏡台があります。
八千代の鏡台には一段目は爪、二段目は歯が、隠し名を書いた紙と一緒に入っています。
貴子の鏡台には一、二段目ともに隠し名を書いた紙だけです。
八千代が「紫逅」、貴子が「禁后」です。
そして問題の三段目の引き出しですが、中に入っているのは手首だそうです。
八千代の鏡台には八千代の右手と貴子の左手、貴子の鏡台には貴子の右手と八千代の左手が、指を絡めあった状態で入っているそうです。
もちろん、今現在どんな状態になっているのかわかりませんが。
Ⅾ子とE君はそれを見てしまい、異常をきたしてしまいました。
厳密に言うと、隠し名と合わせて見てしまったのがいけなかったという事でした。




「紫逅」は八千代の母が、「禁后」は八千代が実際書いたものであり、三段目の引き出しの内側にはそれぞれの読み方がびっしりと書かれているそうです・
空き家は今でもありますが、今の子供達はほとんど知られていないそうです。
娯楽や誘惑が多い居間ではあまり目につく存在ではないのかも知れません。
地域に関してはあまり明かせませんが、東日本ではないです。
それから、Ⅾ子のお母さんの手紙についてですが、これは控えさせていただきます。
Ⅾ子とお母さんはもう亡くなられていると知らされましたので、私の口からは何もお話出来ません。




その後、老朽化などの理由でどうしても取り壊すことになった際、初めて中に何があるかを住民達は知りました。
そこにあったのは私達が見たもの、あの鏡台と髪でした。
八千代の家には二階がなかったので、玄関を開けた目の前に並んで置かれていたそうです。
八千代の両親がどうやったかはわかりませんが、やはり形を成したままの髪でした。
これが呪いであると悟った住民達は出来るかぎり慎重に運び出し、新しく建てた空き家の中へと移しました。
この時、誤って引き出しの中を見てしまったそうですが、何も起こらなかったそうです。
これに関しては、供養をしていた人達だったからでは?という事になっています。
空き家は町から少し離れた場所に建てられ、玄関がないのは出入りする家ではないから、窓・ガラス戸は日当たりや風通しなど供養の気持ちからだという事でした。
こうして誰も入ってはいけない家として町全体で伝えられていき、大人達だけが知る秘密となったのです。
鏡台と髪は八千代と貴子という母娘のものであり、言葉は隠し名として付けられた名前でした。




ここから最後の話になります。
空き家が建てられて以降、中に入ろうとする者は一人もいませんでした。
前述の通り、空き家へ移る際に引き出しの中を見てしまったため、中に何があるかが一部の人達に伝わっていたからです。
私達の時と同様、事実を知らない者に対して過剰に厳しくする事で、何も起こらないようにしていました。
ところが、私達の親の間で一度だけ事が起こってしまったそうです。
前回の投稿で私と一緒に空き家へ入ったAの家族について、少しふれたのを覚えていらっしゃるでしょうか。
Aの祖母と母がもともと町の出身であり、結婚して他県に澄んでいたという話です。これは事実ではありませんでした。




子供の頃に、Aの母とBの両親、そしてもう一人男の子(Eとします)を入れた四人であの空き家へ行ったのです。
私達と違って夜中に家を抜け出し、わざわざハシゴを持参して二階の窓から入ってあの空地へと行ったのです。
窓から入った部屋には何もなく、やはり期待を裏切られたような感じでガクッとし、隣にある部屋へ行きました。
そこであの鏡台と鏡を見て、夜中という事もあり凄まじい恐怖を感じます。
ところが四人のうちA母はかなり肝が据わっていたようで、怖がる三人を押しのけて近づいていき、引き出しを開けようとさえしたのです。




さすがの三人も必死で止め、その場は治まりますが、問題はその後に起こりました。
その部屋を出て恐る恐る階段を降りるとまたすぐに恐怖に包まれます。
廊下の先にある鏡台と髪。
この時点で三人はもう帰ろうとしますが、A母が問題を引き起こしてしまいました。
私達の時のⅮ妹のように引き出しを開け中のものを出したのです。




A母が取り出したのは一階の鏡台の一段目の引き出しの中の「紫逅」と書かれた紙で、何枚かの爪も入っていたそうです。
さすがにやばいものでは、と感じた三人はA母を無理矢理引っ張り、髪を元に戻して帰ろうとしますが、じたばたしてるうちに棒から髪が落ちてしまったそうです。
空き家の中で最も異様な雰囲気であるその髪にA母も触れる勇気はなく、四人はそのままにして帰ってきてしまいました。
それから二、三日はそのまま放っておいたらしいですが。親にバレたら…という気持ちがあったので、元に戻しに行く事になります。
B両親はどうしても都合があわなかったため、A母とE君の二人で行く事になりました。




夜中に抜け出し、ハシゴを使って二階から入ります。
階段を降り、家から持ってきた箸で髪を掴んで何とか棒に戻しました。
さぁ早く帰ろうとE君は急かしましたが、ホッとしたのかA母はE君を怖がらせようと思い、今度は二段目の引き出しを開けたのです。
「紫逅」と書かれた紙と何本かの歯が入っていました。
あまりの恐怖にE君は取り乱し泣きそうになっていたのですが、A母はこれを面白がってしまい、E君にだけ中が見えるような体勢で三段目の引き出しを開けたそうです。
E君が引き出しの中を見たのはほんの数秒ほどでした。
何があった〜?とA母が覗き込もうとした瞬間、ガンッ!!と引き出しを閉め、おーっとしたまま動かなくなりました。
A母はE君が仕返しにふざけてるんだと思ったのですが、何か異常な空気を感じ、突然怖くなって一人で帰ってしまったのです。
家に着いてすぐに母親に事情を話すと、母親の顔色が変わり異様な事態となりました。
E君の両親などに連絡し、親達がすぐに空き家へ向かいます。




数十分ぐらいして、家で待っていたA母は親達に抱えられて帰ってきたE君を少しだけ見ました。
兄かを頬張っているようで、口元からは長い髪の毛が何本も見えていたそうです。
この後B両親も呼び出され、親を交えて話したそうですが、E君の両親は三人に何も言いませんでした。
ただ、言葉では表せないような表情でずっとA母を睨み付けていたそうです。
この後、三人はあの空き家にまつわる話を聞かされました。E君の事に関しては、私達に言ったのと全く同じ事を言われたようでした。
そして、E君の家族がどこかへ引っ越していくまでの一ヵ月間ぐらいの間、毎日A母の家にE君の両親が訪ねてきていたそうです。
この事でA母は精神的に苦しい状態になり、見かねた母親が他県の親戚のところへ預けたのでした。
その後A母やE君がどうしていたのかはわかりませんが、A母が町に戻ってきたのはE君への償いからだそうです。




所感:

全体的に後半のD子が引っ越したところで話が終わればそれなりの評価だったように自分は判断を下すが、前日譚(E君にまつわる話)と儀式の内容に関して述べるなら、語り過ぎな印象が強く、どうしても創作の色が強い。
前日譚ではA母の行動が完全に理にかなったものではなく、「私達の前に似たことがあった」の一言で終えればいいのに無駄な記載が多い。
儀式の内容に関して述べるなら、書き手は明らかに当事者でないにも関わらず主観的な記載がちょくちょく混ざり、話に入り込めない感じがあった。引き出しの中に入っていた親子の手首が絡まって〜などが、特にそのように感じられる。
「紫逅」が引き出しに記載されていたとのことだが、基本的にこの儀式は母と選ばれた娘一人で完結しているようなものだし、書く必要はなく無駄な設定にしか思えない。
田舎町の一軒家で意味不明なものがある、という風にシンプルにまとめていればもっと面白くなっただろうに残念である。
そもそも話題に出しただけで激怒されるのに、空き家の風通りを気にしガラス戸にするなど、奇妙な話である。
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