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2022年04月06日

クソデカ羅生門



クソデカ羅生門とは、はてなダイアリーに突如投下された爆発的に印象に残る文章である。芥川龍之介がかいた羅生門のパロディでよくクソデカ感情を爆発させているオタク特有の改変を入れながらも、内容全体は元ネタから逸脱していない奇跡のような作品である。
今回は原文とクソデカ羅生門の二つを見比べてみたいと思う。
クソデカ羅生門いつか消されたらいやだし……。


【内容】



原文
ある日の暮方の事である。
一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。
ただ、所々丹塗りの剥げた、大きな丸柱に、蟋蟀が一匹とまっている。
羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もうニ三人はありそうなものである。
それが、この男のほかには誰もいない。
何故かと云うと、このニ三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか飢饉とか云う災がつづいて起った。


クソデカ文章
ある日の超暮方(ほぼ夜)の事である。
一人の下人が、クソデカい羅生門の完全な真下で雨やみを気持ち悪いほどずっと待ちまくっていた。
馬鹿みたいに広い門の真下には、この大男のほかに全然誰もいない。
ただ、所々丹塗のびっくりするぐらい剥げた、信じられないほど大きな円柱に、像くらいはある蟋蟀が一匹とまっている。
クソデカ羅生門が、大河のように広い朱雀大路にある以上は、この狂った男のほかにも激・雨やみをする巨大市女笠や爆裂揉烏帽子が、もうニ三百人はありそうである。
それが、この珍妙男の他には全然誰もマジで全くいない。
何故かと云うと、このニ三千年、京都には、超巨大地震とか破壊的辻風とか最強大火事とか極限飢饉とか云うエグすぎる災が毎日つづいて起こった。


原文
そこで洛中のさびれ方は一通りではない。
旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪の料に売っていたという事である。
洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧みる者がなかった。
するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸が棲む。
盗人が棲む。
とうとうしまいには、引取りてのない死体を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。
そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪がって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。


クソデカ文章
そこでクソ広い洛中のさびれ方はマジでもう一通りとかそういうレベルではない。
旧記によると、クソデカい仏像や文化財クラスの仏具をものすごいパワーで打砕いて、その丹がベッチャベチャについたり、金銀の箔がもうイヤになっちゃうくらいついたりした木を、路ばたに親の仇のようにメチャメチャにつみ重ねて、薪の料に売りまくっていたと云う事である。
クソ治安がいいことで知られる洛中がその始末であるから、正気を疑うレベルでデカい羅生門の完全修理などは、元より誰も捨てて顧る者がマジで全然なかった。
するとそのドン引きするくらい荒れ果てたのをよい事にして、クソヤバい狐狸がドンドン棲む。
世界最強の盗人が6万人棲む。
とうとうしまいには、マジで悲しくなっちゃうくらい全然引取りてのないきったない死体を、この門へ猛ダッシュで持って来て、超スピードで棄てて行くと云う習慣さえ出来た。
そこで、日の目が怖いくらい全然まったく見えなくなると、誰でもメチャメチャ気味を悪がって、この門の近所へはマジでビックリするくらい足ぶみをしない事になってしまったのである。


原文
その代り鴉がどこからか、たくさん集まって来た。
昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾のまわりを啼きながら、飛びまわっている。
ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻をまいたようにはっきり見えた。
鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄みに来るのである。
――もっとも今日は、刻限が遅いせいか、一羽も見えない。
ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞が、点々と白くこびりついているのが見える。
下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖の尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。


クソデカ文章
その代りまた超凶悪な鴉がどこからか、億単位でたくさん集まって来た。
昼間見ると、その鴉が何万羽となく輪を描いて、クソ高い鴟尾のまわりを鼓膜破壊レベルの音量で啼きながら、亜音速で飛びまわっている。
ことに門の上の空が、夕焼けで思わず目を疑うくらいあかくなる時には、それが胡麻をえげつない量まいたようにはっきり見えた。
鴉は、勿論、頭おかしいくらいデカい門の上にメチャクチャ大量にある死人の肉を、気g狂ったように啄みに来るのである。
――もっとも今日は、刻限がハチャメチャに遅い(ほぼ夜)せいか、マジで一羽も見えない。
ただ、所々、ほぼ崩れかかった、そうしてその崩れ目にメチャメチャ長い草の森のごとくはえ倒したクソ長い石段の上に、鴉のえげつなく臭い糞が、点々と白くこびりついているのが見える。
下人は七千万段ある石段の一番上の段に、洗いざらしてほぼ透明になった紺の襖の尻を据えて、右の頬に出来まくった、クッソ大きな面皰を気にしながら、メチャメチャぼんやり、とんでもない豪雨のふりしきるのを眺めていた。


原文
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。
しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。
ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。
前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。
今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波に他ならない。
だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこまれた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。
その上、今日の空模様も少からず、この平安期の下人のSentimentalismeに影響した。
申の刻下りからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。
そこで、下人は、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。


クソデカ文章
作者はさっき、「下人が雨やみをメチャメチャ待っていた」と書いた。
しかし、下人は激烈豪雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはマジで全然ない。
ふだんなら、勿論、クソ強い主人のえげつなくデカい家へ帰る可き筈である。
所がその糞主人からは、四五日前に暇を出し倒された。
前にも書いたように、当時ただでさえ最低最悪のゴミの掃き溜めである京都の町は一通りならず衰微しまくって本当に惨めな感じになっていた。
今この最強にヤバい下人が、永年、犬のごとくこき使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの大衰微のクソしょぼい小さな小さな余波にほかならない。
だから「下人が雨やみをメチャメチャ待っていた」と云うよりも「クソヤバい豪雨にふりこめられた下人が、マジで全然行き所がなくて、超途方にくれていた」と云う方が、完全に適当である。
その上、今日の空模様も少からず、この平安朝のヤバい下人のUltimet-Sentimentalisme of the Godsに影響した。
申の刻下りからふり出した大雨は、いまだに上るけしきが全然かけられない。
そこで、のちに剣聖と呼ばれる最強の下人は、何をおいても差当り明日の暮しをメチャメチャどうにかしようとして――云わば絶望的にどうにもならない事を、どうにかしようとして、悲しくなるくらいとりとめもない考えをたどりながら、さっきからアホみたいに広い朱雀多時にふる豪雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。


原文
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。
夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍の先に、重たくうす黒い雲を支えている。


クソデカ文章
豪雨は、トチ狂ったクソデカさの羅生門をつつんで、メチャメチャ遠くから、ざあっと云う轟音をあつめて来る。
夕闇は次第に空をびっくりするほど低くして、見上げると、超巨大門の超巨大屋根が、斜につき出した超巨大甍の先に、ドチャクソ重たくうす暗い雲を嫌になるくらい支えまくっている。


原文
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない。
選んでいれば、築土の下か、道ばたの土の上で、餓死をするばかりである。
そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。
選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やっとこの局所に逢着した。
しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。
下人は、手段を択ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人になるほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。


クソデカ文章
どうにもならない事を、どうかするためには、手段を選んでいる遑は本当にマジでまったくない。
選んでいれば、築土の真下か、道ばたの土の真上で、超苦しい餓死をするばかりである。
そうして、このガチで世界一デカい門の上へ猛スピードで持って来て、きったない犬のように兆速で棄てられてしまうばかりである。
選ばないとすれば――巨大下人の考えは、何度も寸分たりとも違わず完全に同じ道を低徊した揚句に、やっとこの局所へ逢着した。
しかしこの「すれば」は。マジでいつまでたっても、結局「すれば」であった。
クソザコ下人は、手段を選ばないという事をエグ肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「世界最強の盗人になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの莫大な勇気が出ずにいたのである。


原文
下人は大きな嚔をして、それから、大儀そうに立上がった。
夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。
丹塗の柱にとまっていた蟋蟀も、もうどこかへ行ってしまった。


クソデカ文章
下人は、意味わからんくらいクソ大きな嚔をして、それから、死ぬほど大儀そうに立ち上がった。
南極かってくらいに夕冷えのする世界最悪の罪の都京都は、もう火桶が8億個欲しいほどのガチえげつない寒さである。
暴風は信じられないほどデカい門の巨柱と巨柱との間を、クソヤバい濃さの夕闇と共にマジで全然遠慮なく、吹きぬけまくる。
丹塗の超巨大柱にとまっていた像サイズの蟋蟀も、もうどこかへ行ってしまった。


原文
下人は頸をちぢめながら、山吹の汗袗に重ねた、紺の襖の肩を高くして門のまわりを見まわした。
雨風の患のない、人目にもかかる惧のない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。
すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子が眼についた。
上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。
下人はそこで、腰にかけた聖柄の太刀が鞘走らないように気をつけながら、藁草履をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。


クソデカ文章
下人は、頸を人間の限界を超えてちぢめながら、山吹の汗袗に無理やり重ね倒した、紺の襖の肩を物理的にありえない動きで高くしてクソデカ門のまわりを見まわした。
雨風の患のない、人目にかかる惧のない、一晩メチャメチャ楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、クッソ長い夜を明かそうと思ったからである。
すると、幸い超巨大門の上の宮殿並みにデカい楼へ上る、幅のバカ広い、これも丹をキチガイみたいに塗りたくった梯子が眼についた。
上なら、人がいたにしても、どうせ臭くてきったない死人ばかりである。
下人はそこで、腰にさげた巨大な聖柄の大太刀が鞘走らないように気をつけ倒しながら、藁草履をはいた巨大な足を、そのバカでかい梯子の一番下の段へ渾身の力でふみかけた。


原文
それから、何分かの後である。
羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子を窺っていた。
楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。
短い鬚の中に、赤く膿を持った面皰のある頬である。
下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高を括っていた。
それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。
これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛の巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。
この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。


クソデカ文章
それから、何百分かの後である。
クソデカ羅生門の楼の上へ出る、幅のアホみたいに広い梯子の中段に、一人の巨大な男が、猫のように身をちぢめまくって、ヤバいくらい息を殺しながら、上の容子を窺っていた。
楼の上からさす大火災の目を灼く光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。
えげつなく短い鬚の中に、とんでもなく赤く膿を持った巨大な面皰の大量にある頬である。
巨下人は、始めから、この上にいる者は臭死人ばかりだと高を括っていた。
それが、梯子を二三千段上って見ると、上では誰か燃え盛る大火をとぼして、しかもその大火をそこここと疾風のごとき速さで動かしているらしい。
これは、そのドブのように濁った、この世の理を超えて黄いろい光が、すべての隅々に巨大人食い蜘蛛の巣をかけた天井らに、激しく揺れながら映ったので、メチャすぐにそれと知れたのである。
この豪雨の夜に、このクソデカ羅生門の上で、世界すら灼く業火をともしているからは、どうせただの者ではない。


原文
下人は、守宮のように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。
そうして体を出来るだけ、平にしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗いて見た。
見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸が、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。
ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸があるという事である。
勿論、中には女も男もまじっているらしい。
そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、土を捏ねて造った人形のように、口を開いたり手を延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。
しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖の如く黙っていた。


クソデカ文章
下人は、巨大な守宮のように足音をぬすんで、やっとクソ急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。
そうして体を出来るだけ、紙のように平にしながら、顎を出来るだけ、ろくろっ首の如く前へ出して、恐る恐る、巨大な楼の内を覗いて見た。
見ると、地の果てまで広がるがごとき楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの山のように巨大な死骸が、無造作に棄ててあるが、業火の極光の及ぶ範囲が、思ったよりクソ狭いので、数は幾つともわかたない。
ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に完全に全裸の死骸と、メチャクチャ高級な着物を着まくった死骸とがあるという事である。
勿論、中には女も男もまじっているらしい。
そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、土を捏ね倒して造った人形のように、口をヤバイくらい開いたり手をキロ単位で延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。
しかも、肩とか胸とかの山くらい高くなっている部分に、ぼんやりした猛火の光をうけて、クソ低くなっている部分の影を一層超死ぬほど暗くしながら、永久の唖の如く黙っていた。


原文
下人は、それらの死骸の腐乱した臭気に思わず、鼻を掩った。
しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。
ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからだ。
下人の眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲っている人間を見た。
檜皮色の着物を着た、背の低い、痩せた、白髪頭の、猿のような老婆である。
その老婆は、右の手に火をともした松の木片を持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。
下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時は呼吸をするのさえ忘れていた。
旧記の記者の語を借りれば、「頭身の毛も太る」ように感じたのである。
すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱をとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。
髪は手に従って抜けるらしい。


クソデカ文章
下人は、それらの超ビッグ死骸のメチャメチャくっせえ腐爛した最悪の臭気に思わず、鼻を掩って掩って掩いまくった。
しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を完全に忘れ尽くしていた。
あるハチャメチャに強いクソデカ感情が、ほとんどことごとくこの最強男の嗅覚を奪ってしまったからだ。
下人の巨眼は、その時、生まれてはじめてその激臭死骸の中に蹲っている最低最悪醜悪人間を見た。
檜皮色のきったねえ着物を着た、ノミのように背の低い、ナナフシのように痩せこけた、白銀髪頭の、豆猿のような老婆である。
その老婆は、右の手に大火災をともした最高級の巨大木片を持って、その大死骸の一つの巨顔を覗きこむように眺め倒していた。
髪の毛のクソ長い所を見ると、多分傾国の美女の死骸であろう。
下人は六〇〇分の恐怖と四〇〇分の知的好奇心とにつき動かされ続けて、暫時(七十二時間)は呼吸をするのさえ忘れていた。
旧記の記者の語の全てを丸々借りれば、「頭身の剛毛も一生太り続ける」ように感じまくったのである。
するとあの糞老婆は、高級松の大木片を、床板の間に狂ったように挿して挿して挿し倒して、それから、今まで眺め続けていた大死骸の首に両手をかけると、丁度、大猿の親が大猿の子の虱を全部とるように、そのバカ長い髪の毛を一〇〇〇〇本ずつ抜きはじめた。
髪は手に奴隷のように従って抜けるらしい。


原文
その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。
そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。
――いや、この老婆に対すると云っては、語弊があるかも知れない。
むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。
この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、餓死をするか盗人になるかと云う問題を、改めて持出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、餓死を選んだ事であろう。
それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片のように、勢いよく燃え上り出していたのである。


クソデカ文章
その髪の毛が、一〇〇〇〇本ずつ抜けるのに従って、下人の腐りきった心からは、恐怖が少しずつ完全に消えて行った。
そうして、それと完全ピッタリ同時に、この老婆に対する想像を絶するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。
――いや、この糞老婆に対すると云っては、語弊がありすぎるかも知れない。
むしろ、この世に∃しうるありとあらゆる悪に対する巨大な反感が、一分毎に強さを等比級数的に増して来たのである。
この時、誰かがこの最強正義の体現たる下人に、さっき門の真下でこの性根の腐ったドブ男が考えていた、超苦しい餓死をするか世界最強の盗人王になるかと云う世紀の大問題を、改めて持出したら、恐らく清廉潔白超高潔下人は、マジで何の未練のカケラもなく、本当にめちゃめちゃ苦しい餓死を選んでいた事であろう。
それほど、この男の中の男のあらゆる悪を世界一憎む心は、老婆の床に挿しまくった最高級松の大木片のように、超勢いよく燃え上り出したのである。



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