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2022年01月10日

姉さんそれはタラちゃんじゃないよ G

サザエ「ちょうどいいところに帰って来てくれたと思ったのに、勘違いだったみたいね」

何がちょうどいいのかわからないけど、姉さんの手に握られた包丁をみるかぎり僕にとってはちょうど良くないことに違いない。
おまけに反対側の手にはあのタラちゃんの縫いぐるみが抱かれていた。

サザエ「ごめんね、タラちゃんもう少し我慢してね」

姉さんはまた縫いぐるみに話し掛け、本当の我が子にするように笑いかけた。不思議なのは昨日綿を抜かれてぺしゃんこになっていたはずのそれが、いまは妙に膨らんで見えたことだ。

サザエ「昨日のタラちゃんはタラちゃんじゃなかったのよ」
サザエ「だって母さんもそう言っていたしね」
サザエ「だって中身があんなに軽くてふわふわしていたもの」
サザエ「もう一度ママの体に戻そうと思っていたけど」
サザエ「もっと簡単に出来るって気がついたのよ」
サザエ「タラちゃんの体を取り戻せばいいんじゃない」

姉さんのぶつぶつと呟く声が耳に届く。
言っている内容はめちゃくちゃなのだが、今の姉さんに見つかることは非常に危険だということは分かった。
無残なワカメの姿を見ても、可哀相だとか酷いだとかの感情が浮かぶのではなく、ただ恐怖だけが僕を捕えている。

サザエ「きっとワカメがタラちゃんをこんな目に合わせたのよ、体を奪い取って綿と詰め替えていたのよ」

だからワカメから取り返したのだろう。
ワカメの体から肉を削り取り、縫いぐるみに詰めていたようだ。
縫いぐるみから滴る血も全部ワカメのものだったのだ。

サザエ「でもワカメからばっかりじゃ可哀相よね、カツオだって悪いんだもの」

僕の名前があの声で呼ばれたとき、思わず体が強張った。
どこかで音を立ててしまっていないか、早まった心拍と同じリズムで手の傷がドクドクと脈打った。

サザエ「タラちゃんが酷い目に合わされているってのに黙って見てるだけなんて」
サザエ「ワカメはこれで許してあげる、体が軽くなりすぎちゃったでしょう」
サザエ「台所にお肉を用意しておいたから足りない部分に足すといいわよ」

姉さんは動かないワカメを揺さぶりながらそんなことを言っていた。
ワカメはきっともう死んでいるはずだ、あの状態ならば生きている方が悲惨なようなのだ。
口の端を僅かに歪めて笑う姉さんだけが楽しそうに見える。
姉さんは虚ろな視線をフラフラと漂わせて、ある一点で止めた。


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