2022年01月07日
姉さんそれはタラちゃんじゃないよ F
ズル……ズル……と何かを引きずるような音。
そして言葉までは聞き取れないが、何かをぶつぶつと呟くような声。
カツオ「姉さん……?」
僕はなぜかその音の正体を確かめることが出来なかった。
襖を開け、廊下に出てしまうのは簡単なのに、どうしても足が進んでくれない。
カツオ「こっちに来てる……?」
その場に動けないでいるうちに、姉さんの声は確実に近づいているのがわかる。
昨日姉さんの部屋の前で感じた、警告音のような嫌な感覚が全身に広がる。
姉さんはいったい何をしているのか確かめたい。
この場から逃げ出してしまいたい。
確かめなくては。
逃げなくては。
二つの感情が僕の頭の中で渦巻いて結論が出ない。
逃げようと思えば窓からでも逃げられるのだし、確かめるのには廊下に出てしまえばいいのだ。
だけど僕はそのどちらも選ばず、部屋の中に留まることにした。
押し入れの中に身を隠し、浮きを潜める。
姉さんがこの部屋に入るとは限らないが、もしもの場合にいきなり鉢合わせてしまう事態を避けるためだ。
押し入れに入ってしまうと謎の音も姉さんの声も聞こえない。
押し入れの襖の模様に紛れるように空けた小さな穴から外を伺う。
そこにはただの一条が広がっていた。
なんの変哲もない僕とワカメの部屋だ。
ただ布団に圧迫されるように押し入れに隠れている僕が息苦しい思いをしているだけだ。
しばらくそうしていたが、姉さんは入って来るわけでもワカメが入って来るわけでもなく、時間だけが過ぎた。
先程僕が感じた危機感のようなものなんて、とうの昔に薄れて消え去って。なんだか隠れているのがばかばかしく思えてきた。
もうやめよう、気のせいだったのだ。
だって今朝の姉さんはあんなに明るくて、笑顔だった。
口うるさくてお節介な僕の姉さん。ただそれだけなのに、僕はなんで隠れてはいなければならないのか。
カツオ「……出よう」
そう思い押し入れを開けようと手を掛けた瞬間、廊下と僕の部屋を繋ぐ襖が開かれた。
べちゃり。そんな音を立てて、何かが投げ込まれる。
それがいったいなんなのか僕にはなかなかわからなかった。
サザエ「あれー? カツオは帰って来たんじゃなかったのかしら?」
真っ赤で、同じ色の液体を滴らせるそれはワカメの服を着ていた。
サザエ「おかしいわねー、一回出てってまた戻ってきたと思ったのに……」
言葉だけ聞けばいつもの姉さんとなんら変わりはないように思えるが、感情の篭らない声と虚ろな瞳はまるで昨日の姉さんのようだった。
姉さんの服や顔に飛び散った赤い液体と、ワカメの服を着た物を染め上げるその色が、誰かの血の色なのだと気づくのにしばらくの時間がかかった。
誰か、なんて信じたくはないし信じられないようなことではないけれど、そこに転がっている赤い塊はワカメで、流れている血は彼女の物なのだ。
服から出ている部分は原型を留めない程にぐちゃぐちゃと何かに切り刻まれたかのような状態なのに、真っ赤に染まった服をそれでも着こなしているのはどこかシュールな光景だった。
突然のことで麻痺した恐怖心が僕に悲鳴を上げさせようとしている。
それを口に手を押し込み堪えた。
くしくもそれは昨日姉さんに噛まれた方の手で、傷口に僅かに走る痛みが僕の思考をなんとかつなぎ止めていた。
姉さんそれはタラちゃんじゃないよ Gへ
そして言葉までは聞き取れないが、何かをぶつぶつと呟くような声。
カツオ「姉さん……?」
僕はなぜかその音の正体を確かめることが出来なかった。
襖を開け、廊下に出てしまうのは簡単なのに、どうしても足が進んでくれない。
カツオ「こっちに来てる……?」
その場に動けないでいるうちに、姉さんの声は確実に近づいているのがわかる。
昨日姉さんの部屋の前で感じた、警告音のような嫌な感覚が全身に広がる。
姉さんはいったい何をしているのか確かめたい。
この場から逃げ出してしまいたい。
確かめなくては。
逃げなくては。
二つの感情が僕の頭の中で渦巻いて結論が出ない。
逃げようと思えば窓からでも逃げられるのだし、確かめるのには廊下に出てしまえばいいのだ。
だけど僕はそのどちらも選ばず、部屋の中に留まることにした。
押し入れの中に身を隠し、浮きを潜める。
姉さんがこの部屋に入るとは限らないが、もしもの場合にいきなり鉢合わせてしまう事態を避けるためだ。
押し入れに入ってしまうと謎の音も姉さんの声も聞こえない。
押し入れの襖の模様に紛れるように空けた小さな穴から外を伺う。
そこにはただの一条が広がっていた。
なんの変哲もない僕とワカメの部屋だ。
ただ布団に圧迫されるように押し入れに隠れている僕が息苦しい思いをしているだけだ。
しばらくそうしていたが、姉さんは入って来るわけでもワカメが入って来るわけでもなく、時間だけが過ぎた。
先程僕が感じた危機感のようなものなんて、とうの昔に薄れて消え去って。なんだか隠れているのがばかばかしく思えてきた。
もうやめよう、気のせいだったのだ。
だって今朝の姉さんはあんなに明るくて、笑顔だった。
口うるさくてお節介な僕の姉さん。ただそれだけなのに、僕はなんで隠れてはいなければならないのか。
カツオ「……出よう」
そう思い押し入れを開けようと手を掛けた瞬間、廊下と僕の部屋を繋ぐ襖が開かれた。
べちゃり。そんな音を立てて、何かが投げ込まれる。
それがいったいなんなのか僕にはなかなかわからなかった。
サザエ「あれー? カツオは帰って来たんじゃなかったのかしら?」
真っ赤で、同じ色の液体を滴らせるそれはワカメの服を着ていた。
サザエ「おかしいわねー、一回出てってまた戻ってきたと思ったのに……」
言葉だけ聞けばいつもの姉さんとなんら変わりはないように思えるが、感情の篭らない声と虚ろな瞳はまるで昨日の姉さんのようだった。
姉さんの服や顔に飛び散った赤い液体と、ワカメの服を着た物を染め上げるその色が、誰かの血の色なのだと気づくのにしばらくの時間がかかった。
誰か、なんて信じたくはないし信じられないようなことではないけれど、そこに転がっている赤い塊はワカメで、流れている血は彼女の物なのだ。
服から出ている部分は原型を留めない程にぐちゃぐちゃと何かに切り刻まれたかのような状態なのに、真っ赤に染まった服をそれでも着こなしているのはどこかシュールな光景だった。
突然のことで麻痺した恐怖心が僕に悲鳴を上げさせようとしている。
それを口に手を押し込み堪えた。
くしくもそれは昨日姉さんに噛まれた方の手で、傷口に僅かに走る痛みが僕の思考をなんとかつなぎ止めていた。
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