2022年01月03日
姉さんそれはタラちゃんじゃないよ B
カツオ「それ、まだ大丈夫そうかい?」
ワカメは頭部に渡を詰め足しながら曖昧に頷いた。
ワカメ「うーん、そろそろ危ないかもしれないわね」
薄汚れた縫いぐるみがワカメの手の中でグラグラと揺れている。
綿を詰め終わり、開いた部分を針と糸で縫い合わせるワカメの手元を僕はぼーっと眺めていた。
何度もやっている作業のため、スムーズに動く針の動きに見とれていると不意に首筋に視線を感じたような気がした。
カツオ「……誰?」
僕は勢いよく振り向く。
瞬間、ぴしゃりと襖が閉められた。
それを聞いて後を追い掛ける勇気は僕には無かった。
ワカメ「どうしたの……?」
カツオ「あ、ああ……誰かが覗いてたみたいだったからさ」
ワカメ「もしかして……!?」
カツオ「大丈夫だって……それは、ない……よ」
そんな根拠はどこにもないのだけれど僕は掠れる声で呟いた。
カツオ「姉さんの訳……ないじゃないか、はは」
やがて母さんの声に呼ばれ、僕とワカメは夕食の席に着いた。
カツオ「さ、さあタラちゃん、姉さんの所に行きなよ」
僕は姉さんの隣に縫いぐるみを置く。
先程のあれは本当に姉さんでは無かったのだろうか。
もし部屋を覗いていたとしたらワカメが縫いぐるみを修理していたのを見ていたかもしれない。
姉さんにとってこの縫いぐるみはタラちゃんなのだ。その体を開き、針を刺す場面などどのように映るだろう。
サザエ「さあタラちゃんいらっしゃい、おいしそうなハンバーグでしょう」
僕は笑顔で縫いぐるみを抱き抱える姉さんに、心の中で安堵のため息をついた。
サザエ「はい、タラちゃんあーんして」
サザエ「おいしい? そう、うふふ」
サザエ「あらー駄目じゃないこんなにこぼしちゃって……」
サザエ「タラちゃんもそろそろ一人で食べられるようにならなきゃ駄目よ」
食卓では姉さんの楽しそうな声が響く。
縫いぐるみは口に押し付けられた食べ物をただボロボロと床に落とすばかり。
最近ではすっかり見慣れた我が家の食事風景だ。
サザエ「あら?どうしたのタラちゃん」
サザエ「もう食べないの?」
サザエ「食欲がないってどうしたのよ」
サザエ「頭が痛いの? うーん、風邪かしら」
サザエ「少し部屋で横になりましょうか、そうね、それがいいわ」
サザエ「母さん、私タラちゃんを休ませて来るわね」
姉さんから心配そうな言葉が続く。どうやら縫いぐるみの具合がよくないらしいのだ。
フネ「あ、ああ……そうかい」
姉さんは縫いぐるみを大事そうに抱き抱えると、寝室へと向かった。
僕らが食事を終えても姉さんは戻らなかった。
皆特に気にもせずに、母さんとワカメは食器の片付け、父さんとマスオ兄さんは晩酌を始めていた。
することがなくなった僕は、部屋に戻って漫画でも読もうかと廊下へ歩き出した。
姉さん達の寝室の前を通過する時、妙な音が聞こえてきた。
思わず立ち止まり耳を澄ませてみると、その音はどうやら人の囁き声のようだった。
止めておけばいいものの、僕は思わずその場に立ち止まり、耳を澄ました。
姉さんそれはタラちゃんじゃないよ Cへ
ワカメは頭部に渡を詰め足しながら曖昧に頷いた。
ワカメ「うーん、そろそろ危ないかもしれないわね」
薄汚れた縫いぐるみがワカメの手の中でグラグラと揺れている。
綿を詰め終わり、開いた部分を針と糸で縫い合わせるワカメの手元を僕はぼーっと眺めていた。
何度もやっている作業のため、スムーズに動く針の動きに見とれていると不意に首筋に視線を感じたような気がした。
カツオ「……誰?」
僕は勢いよく振り向く。
瞬間、ぴしゃりと襖が閉められた。
それを聞いて後を追い掛ける勇気は僕には無かった。
ワカメ「どうしたの……?」
カツオ「あ、ああ……誰かが覗いてたみたいだったからさ」
ワカメ「もしかして……!?」
カツオ「大丈夫だって……それは、ない……よ」
そんな根拠はどこにもないのだけれど僕は掠れる声で呟いた。
カツオ「姉さんの訳……ないじゃないか、はは」
やがて母さんの声に呼ばれ、僕とワカメは夕食の席に着いた。
カツオ「さ、さあタラちゃん、姉さんの所に行きなよ」
僕は姉さんの隣に縫いぐるみを置く。
先程のあれは本当に姉さんでは無かったのだろうか。
もし部屋を覗いていたとしたらワカメが縫いぐるみを修理していたのを見ていたかもしれない。
姉さんにとってこの縫いぐるみはタラちゃんなのだ。その体を開き、針を刺す場面などどのように映るだろう。
サザエ「さあタラちゃんいらっしゃい、おいしそうなハンバーグでしょう」
僕は笑顔で縫いぐるみを抱き抱える姉さんに、心の中で安堵のため息をついた。
サザエ「はい、タラちゃんあーんして」
サザエ「おいしい? そう、うふふ」
サザエ「あらー駄目じゃないこんなにこぼしちゃって……」
サザエ「タラちゃんもそろそろ一人で食べられるようにならなきゃ駄目よ」
食卓では姉さんの楽しそうな声が響く。
縫いぐるみは口に押し付けられた食べ物をただボロボロと床に落とすばかり。
最近ではすっかり見慣れた我が家の食事風景だ。
サザエ「あら?どうしたのタラちゃん」
サザエ「もう食べないの?」
サザエ「食欲がないってどうしたのよ」
サザエ「頭が痛いの? うーん、風邪かしら」
サザエ「少し部屋で横になりましょうか、そうね、それがいいわ」
サザエ「母さん、私タラちゃんを休ませて来るわね」
姉さんから心配そうな言葉が続く。どうやら縫いぐるみの具合がよくないらしいのだ。
フネ「あ、ああ……そうかい」
姉さんは縫いぐるみを大事そうに抱き抱えると、寝室へと向かった。
僕らが食事を終えても姉さんは戻らなかった。
皆特に気にもせずに、母さんとワカメは食器の片付け、父さんとマスオ兄さんは晩酌を始めていた。
することがなくなった僕は、部屋に戻って漫画でも読もうかと廊下へ歩き出した。
姉さん達の寝室の前を通過する時、妙な音が聞こえてきた。
思わず立ち止まり耳を澄ませてみると、その音はどうやら人の囁き声のようだった。
止めておけばいいものの、僕は思わずその場に立ち止まり、耳を澄ました。
姉さんそれはタラちゃんじゃないよ Cへ
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/10936940
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック