アフィリエイト広告を利用しています
写真ギャラリー
検索

広告

posted by fanblog

2021年12月31日

姉さんそれはタラちゃんじゃないよ A

タラちゃんが死んでから一ヵ月程経った頃のことだった。
皆はそれを見せたら姉さんがタラちゃんを思い出してよけいに悲しむのではないかと、懸念してが、事態は予想外の方向へ向かった。

サザエ『あら、タラちゃん! こんな所にいたのね』

仏壇の近くに置いてあったその縫いぐるみを、姉さんが明るい声を出しながら抱き上げたのだった。
久しぶりに見る姉さんの笑顔に、家族は皆喜んだ。
タラちゃんを失った悲しみは癒えはしないだろうけど、しばらくはこの縫いぐるみで気を紛らわせるのではないかと思った。
一日中暗い部屋に篭り、ろくに食事もとれないような生活になっていた姉さんは。その日から変わった。
いや、元の姉さんに戻ったのだ。
タラちゃんという存在が欠け、崩れていたバランスが縫いぐるみによって埋められたからである。
姉さんは縫いぐるみにタラちゃんと、呼びかけまるで本当の子供のように接した。
皆、初めの頃はそれを暖かく見守っているだけだったけど、それが一月経ち、二月経ち、変わらず縫いぐるみを可愛がり続ける姉さんが、さすがに不安に思えてきた。

ある日のことである。ついに母さんが姉さんから縫いぐるみを取り上げようとした。

フネ『サザエや、もういい加減にしたらどうだい』
サザエ『え、何が? 母さん』
フネ『これは……』グイッ
サザエ『ああっ、駄目よそんなに乱暴にタラちゃんを引っ張っちゃ!』
フネ『これはタラちゃんなんかじゃないのよ……』
サザエ『あ、ああ……』
フネ『分ってくれたかい?』
サザエ『ほら母さん、タラちゃん痛がってる! 話してあげて!』
フネ『サザエ……』
サザエ『大丈夫?タラちゃん』

姉さんはすっかり縫いぐるみをタラちゃんだと思い込んでしまったのだ。
その件以来母さんは姉さんのことには触れないようになってしまったし、他の家族も、もっと時間が経てば、元に戻るだろうと楽観的に考えていた。
それにどうしようも無かったのだ。
父さんと母さんは古い人で、姉さんを精神科に連れていくことを決断しかねていた。
マスオ兄さんも我が子を失った悲しみは深く、自分以上に傷ついている妻を狂人扱いすることは出来なかったのである。
そうして今に至る訳だが、一年近く使われ続けている縫いぐるみは所々ガタが出てきている。
ワカメや母さんが、姉さんの目の届かない所で直しているのだが、いずれ限界がくるだろう。


姉さんそれはタラちゃんじゃないよ Bへ
この記事へのコメント
コメントを書く

お名前:

メールアドレス:


ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/10936936
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
<< 2024年06月 >>
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
最新記事
カテゴリーアーカイブ
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。