木曜日。隔週掲載、2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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クロスズメバチ
クロスズメバチ属に属する体長10〜18mmの 小型の蜂。
全身が黒く、白または淡黄色の横縞模様が特徴。
北海道、本州、四国、九州、奄美大島に分布する。
多くは土中に巣を作り、6月ごろから羽化をする。
成虫は花蜜や果汁、樹液などを餌とするが、幼虫の餌として小型の昆虫、蜘蛛等を狩り、ハエ等は巧みに空中で捕獲する。捕えた獲物は筋肉を切り取り、肉団子を作る。また、新鮮な動物の死体からも好んで採餌する。
攻撃性はそれほど高くなく、毒性も強くはないが、巣の近くを通りかかったりした場合、大群に襲われるケースがある。
危険害虫として駆除の対象にされるが、その一方でハエや蝶、蛾の幼虫等の害虫を捕るという益虫の一面も持つ。
―透羽―
「ハチ・・・?」
蜂と聞いて、思わず尻込みする悟郎。
両親に、外で遊ぶ際、蜂と蛇には気をつける様に言われていた。
蛇は毒を持ってるし、蜂は針を持っていて、それで痛く刺すのだと教えられていた。
だけど、冬葉は微笑みながら言う。
「大丈夫だよ。そんなに気荒い蜂じゃないし、今は餌に夢中になってる。虐めたり、触ったりしなきゃ、刺されないよ。」
そう言われたので、恐る恐る近づくと、今度は改めてしげしげと観察した。
そして―
・・・何て、格好いい生き物なんだろう。
幼い心に、悟郎はそう思った。
漆黒と純白に色分けされた身体。
シュッと刃物の様に伸びた翅。
楕円形の胸部はその下で鋭くくびれ、そこから綺麗な曲線を描いて腹部を形作る。
ピコピコと動く触角や、固そうな甲殻で覆われた節足は、テレビアニメのロボットを連想させた。
小さな頭はテレビの某ヒーローを思い出させる形をしていて、そこについた大きな目は、その周りの黒よりも薄い色に彩られていて、夕日を受けては明るい琥珀色に輝いていた。
それを見て、冬葉が言う。
「この子、ちょっと目の色が変わってる。突然変異かなぁ。」
言葉の意味は分からなかったが、普通のそれとは違っているのだという事は理解できた。
でも、そんな事はどうでもいいぐらい、幼い悟郎は目の前の生き物に魅了されていた。
「カッコいい・・・」
悟郎が声を出してそう言うと、冬葉はちょっと複雑そうな顔をした。
「うーん。「カッコいい」はどうかなぁ・・・?」
悟郎がどうして?と訊くと、冬葉は「だってこの子、女の子だよ?」と言った。
何でそんな事が分かるのか、と問えば「だって、こういう風に餌集めに出てくる働き蜂は、みんな雌だもの。雄蜂は決まった時期にしか生まれないし、ずっと巣の中にいて餌集めになんか出てこないよ。」との答。
何かずるい。と言うと、冬葉は少し考えて「それもそうだね。」と笑った。
「だからさ、『カッコいい』だと、ちょっと変じゃないかなぁ?」
別にそんな事もないだろうと思いながらも、それならと悟郎は考える。
まだ少ないボキャブラリーをあさり、見つけ出したピッタリの言葉。
「・・・キレイ?」
その言葉に冬葉はしばし考えると、なるほど、と相槌を打つ。
「綺麗か。そうだね。ピッタリだね。」
そう言って、改めて肉に止まっている“彼女”を見る。
カシカシ・・・カシカシ・・・
自分を見つめる視線に気づいているのかいないのか、“彼女”は無心に生肉を削る。
やがて、削り取った肉片を丸い団子状に纏めると、“彼女”はそれを抱えて飛び立った。
フィイイイイイイン
研ぎ澄まされた翅が、空気を鋭く刻む音が響く。
“彼女”はしばしの間肉の周りでホバリングした後、ふいっと向きを変えて飛び去った。
鋭い羽音が、悟郎の頭の上を飛び越えてゆく。
思わず首をすくめる悟郎。
「ああやってね、巣にいる子供達のご飯にするんだよ。」
林の薄闇の中へと消えてゆく“彼女”を見送りながら、冬葉はそんな事を言った。
その日、悟郎は冬葉に頼んで、彼女の家で図鑑を見せてもらった。
クロスズメバチという生き物が、どの様な生き物なのか。
図鑑を見ながら、詳しく教えてもらった。
確かに”彼女”は人を害する事がある事。
だけどその存在が、人間にとって決して危険一辺倒ではない事。
”彼女”と付き合うために必要な知識を、丁寧に丁寧に教えてもらった。
そして、その図鑑に描かれていたイラストで、普通のクロスズメバチの目が身体と同じ、真っ黒である事を知った。
あの琥珀に輝く目を思い出す。
あの”娘”は特別なのだ。
その事が、悟郎の心に強く焼きついた。
目を皿の様にして図鑑を見つめる悟郎に、しかし冬葉は念を押す。
「いい?悟郎君。あの”娘”を見る時は絶対に手を出さないこと。それと万が一、あの”娘”の巣を見つけても絶対に近づかない事。あの”娘”と人間(わたし)達の間には、超えちゃいけない一線があるの。その事を絶対忘れないで。」
と、そこで冬葉は「もっとも」と言葉を区切ってこう言った。
「これは自身の体験談な訳ですが・・・」
そして、ワンピースの袖を巻くりあげ、白い腕を晒した。
目を凝らせば、そこには微かに残る小さな刺し跡。
「実は、刺された事あるんだ。わたし。」
そう言って、冬葉はペロリと舌を出す。
「痛かったよ〜。泣いちゃうくらい。」
そう言いながら、悟郎に凄んで見せる。
怯む悟郎。
そんな彼を見て微笑むと、冬葉はひょいと小指を差し出した。
「そんなわたしの二の舞にならない為に。いい?約束。」
悟郎は頷いて、冬葉の小指に自分の小指を絡める。
「「ゆーびきーりげーんまーんうそついたらはーりせんぼんのーます。指切った。」」
こうして、少女と少年のささやかな密約は交わされた。
次の日から、悟郎と冬葉は足繁くその場所に通った。
もちろん、脂身に集まる小鳥達が目当てだったが、悟郎にはもう一つの目当てがあった。
その客人は、いつも、天敵である鳥達の足が途切れる夕暮れ間際にそこを訪れた。
人の気配を感じれば、寄り付きもしない鳥達に比べ、“彼女”は一度来れば自分の気が済むまで近付いても逃げる事なく、思う存分観察させてくれた。
カシカシカシ・・・カシカシカシ・・・
無心に肉片を齧る“彼女”を、悟郎はやはり無心に見続けた。
「熱心だねぇ。悟郎君。」
冬葉が呆れた様に笑う。
「それにしても、今日も来てるか。よっぽど気に入ったんだね。悟郎君の作ったお食事場。」
覗き込む冬葉の前で、“彼女”が飛び立つ。
フィイイ・・・イン
小さな翅が、空気を刻む。
「綺麗な羽音だね・・・。」
耳を澄ましながら、冬葉が言う。
「そうだ。ねぇ、悟郎君。」
突然冬葉が身を屈め、悟郎の顔を覗き込んできた。
「あの子に、名前をつけてあげよう。悟郎レストラン一番のお得意様にさ。」
「!」
それは幼い悟郎にとって、とても素敵な考えに思えた。
無邪気にキラキラ光る目で、冬葉を見つめる。
「そうだねぇ・・・。あの子の名前は・・・」
思案にふける冬葉。
その次の言葉を、悟郎はワクワクしながら待つ。
「よし!!」
冬葉が、ポンと手を打った。
思わず身を乗り出す悟郎。
「何も思いつかないぞ!!」
ガックン
悟郎、思いっきりずっこける。
「あはははは、ごめーん。苦手なんだよね。わたし、こういうの。」
ケラケラと笑うと、冬葉は地面に転がっている悟郎の肩をポンポンと叩く。
「ねえ、悟郎君がつけてあげなよ。あの子の名前。」
その言葉に、顔を上げる悟郎。
「ね。」
微笑みながらのその言葉に、悟郎は満面の笑顔で頷いた。
それからしばし後―
ウーン。ウーン。
悟郎は考えていた。
ウーン。ウーン。ウーン。
真剣に考えていた。
ウーン。ウーン。ウーン。ウーン。
これでもかというくらい、真剣に考えていた。
草の上に腰を下ろし、両手を組んで、ウーンウーンと唸っていた。
傍らでは、ちょこんとしゃがみこんだ冬葉が、面白そうにその様子を眺めている。
ウーン。ウーン。ウーン。ウーン。ウーン。ウーン。
考えて考えて考え抜いて、そして―
プシュー
煮詰まった。
コロンとひっくり返る悟郎。
「キャー、悟郎くーん!!」
慌てて駆け寄る冬葉。
「そんな必死になって考える事ないんだよー!!もう少し楽にしてー!!」
そう言いながら、引っくり返った悟郎を抱き起こす。
・・・抱き起こされる悟郎の瞳に、冬葉の顔が写る。
黒い髪に、白い肌。
それが、“彼女”の漆黒と白磁に彩られた姿に重なる。
「・・・トウハ・・・」
「え?なぁに?」
自分の事を呼ばれたと思った冬葉が、訊いてくる。
悟郎は違うという風に首を振る。
「あのこのなまえ・・・」
「え?」
「あのこのなまえは、『トウハ』だよ!」
幼い悟郎の口は、その歳らしい拙さで、けれどはっきりと、その言葉を形にした。
続く
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