2012年09月20日
十三月の翼・23(天使のしっぽ・二次創作作品)
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木曜日。隔週掲載、2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意
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イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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ガサッガサッ ゴソゴソ・・・
少し古ぼけた部屋の中に、何かをまさぐる様な音が響く。
そこは、老舗旅館つるやにある、睦悟郎のかつての私室。
そこで、悟郎は押入れの中身を片っ端からひっくり返していた。
古いアルバム、ビデオテープ、小学校の頃に書いた日記・・・
“それ”に関する事が、少しでも触れてありそうなものは全て引っ張り出し、中を確認していく。
実家に戻ってからのこの数日、悟郎は家業を手伝いながら、旅館中で同じ様な事を繰り返していた。
両親の部屋の押入れから、箪笥等の家具の中。外の物置に中居達の休憩室。果ては使われなくなった客室まで。
しかし、“それ”に関する様なものは見つからなかった。
自分の部屋を探索するのは、今日で二度目。
一度目の時よりも、さらに念を入れて隅々まであさっていたが、やはり目ぼしいものは出てこない。
全身埃塗れになりながら、悟郎が落胆の溜息をついた時、“それ”が目に入った。
中身を全て引っ張り出された押入れの一番奥の片隅に、まるで隠される様に落ちていたそれは、濃いセピア色に染まった、一枚の写真。
変色した地肌が押入れの暗がりに紛れ、今まで気付かなかったのだ。
うつ伏せに落ちていたそれを拾い上げ、表を返す。
その瞬間―
ドクン
心臓が、跳ねた。
そこに写っていたのは、幼い日の悟郎。
右手にオカリナを持ち、こちらを見ながらニパニパと笑っている。
しかし、問題はそこではなかった。
オカリナを持つ手とは逆の手。
肩より高く上げられたその先にあったのは、悟郎のものではない、もう一本の手。
そう。写真に写っていたのは、悟郎だけではなかった。
小さな悟郎の隣。
彼と手をつなぐ、もう一人の人物。
それは。
その姿は―
写真を持つ手が震え、冷たい汗が頬をつたう。
凍りつく時間。
その中で、悟郎は何かが外れる音を、確かに聞いた。
―出会い―
ガタン
重い音を立てて、自販機の入り口に缶が落ちる。
「はい、ルル。青汁だよ。」
「ありがとうらぉー。」
「これで、皆に行き渡ったかな?」
悟郎の言葉に、各々好みの缶ジュースを手にした面々が頷く。
悟郎は微笑み、もう一度自販機のボタンを押す。
ガタン
落ちてきたそれは、「蜂蜜レモン」。
それを手にした悟郎は、手近にあったベンチの脇に、それを置く。
「?」
怪訝そうな顔でそれを見る皆の視線を他所に、悟郎はベンチの中心に腰を下ろした。
丁度、皆が悟郎を囲む様な配置になる。
パキンッ
皆の視線が集まる中で、自分用に買ったコーヒーのブルタブを開け、悟郎は一口、喉を潤した。
「さぁ、それじゃ始めようか。“あの娘”の、話・・・。」
「!!」
それを聞いた皆の間に、緊張が走る。
その緊張を知ってか知らずか、悟郎はゆっくりと話し出した。
「それはね、僕がすごく小さい頃・・・そう、皆と出会う、もっと前の話なんだ・・・。」
ジジッジッ
薄明るい外灯の下、壊れた蝉が、壊れた声でそう鳴いて、クルクルクルと回って這った。
―それは遠い、悟郎が生きてきた年月の中では、酷く遠い日の出来事。
ミーンミンミンミンミー ミーンミンミンミンミー
辺り一帯に振りしきる、五月蝿い程の蝉時雨。
目に映る全てのものは、陽炎の中に妖しくたゆたう。
そんな、暑い、暑い夏の日の事だった。
両親が旅館を経営している関係で、幼い悟郎は一人で遊ぶ事が多かった。
その日も悟郎は、裏山の麓で一人オカリナを吹いて過ごしていた。
木々の茂り、木陰が落ちる山裾は、夏の最中でも涼しい風が通る。耳に喧しい蝉の声を除けば、夏の日中を過ごすには快適な場所だった。
その心地良い風の中、丁度良い倒木に腰掛け、手にしたオカリナに息を送る。
プヒ〜 ヒュヒ〜
しかし、父から貰ったばかりのオカリナは、まだ新しい主人の口には馴染まず、また悟郎自身の未熟もあって、幾ら吹いてもまともな音は出なかった。
ヒュヒ〜 ピ〜
むきになればなるほど、オカリナから洩れるのは気の抜けた音ばかり。
ミーンミンミンミンミー ミーンミンミンミンミー
周りの蝉の声が、嘲笑っている様に聞こえてくる。
いい加減、嫌になってオカリナを放り投げようとしたその時、
クス、クスクスクス
不意に背後から、そんな笑い声が響いてきた。
思わず振り返ったその視線の先で、黒い髪が木風(こかぜ)に踊った。
そこにいたのは、見覚えのない、一人の少女。
着ているのは涼しげな、白いワンピース。同じく白いつば広帽子を被り、長く艶やかな黒髪を赤いリボンで纏めている。
華奢な体形で、おそらく数歳年下であろう悟郎から見ても、随分と小柄に見えた。
そんな少女が、自分の方を見てクスクスと笑っている。
恐らく、自分のオカリナを巡る悪戦苦闘ぶりをずっと見ていたのだろう。
気恥ずかしさと憤慨で悟郎がふくれると、少女はゴメンゴメンと言って近づいてきた。
近くまできた少女は、ヒョイとしゃがんで悟郎と目線を合わせると「名前、何て言うの?」などと聞いてきた。
あからさまに子ども扱いだった事に腹が立ち、人に名前を訊く時は自分から名乗るものだと、昨日テレビで聞いておぼえた台詞を返してやった。
少女はしばしポカンとし、そしてまたクスクスと笑うと「なるほど。それもそうだね。」と言った。
「わたしの名前はね―」
―冬葉(とうは)、だよ―
降り注ぐ蝉時雨の中で、その声は妙にはっきりと、悟郎の耳に焼きついた。
その後、二人は一緒に倒木に座って、お互いの事を色々と話した。
悟郎は、自分がすぐそこにある旅館の一人息子である事。
いつもこの辺りで遊んでいること。
オカリナが下手なのは、まだ父親に貰って間がないせいであって断じて自分のせいではないと言う事等々。
冬葉は悟郎の言う事を、時折クスクス笑いながらも、うんうんと頷きながら真剣に聞いてくれた。
冬葉は、自分は12歳である事。
身体が弱く、大病を患ったばかりである事。
ここには、祖父母が住んでいるという事。
静養のため、母親とともに来ていると言う事などを話してくれた。
「わたしね、ここじゃあ余所者だから、友達いないの。だからさ、」
そう言って、冬葉は悟郎を見て微笑むと、
「悟郎君、友達になってくれないかな?」
と言った。
それは、とてもとても綺麗な微笑みで、悟郎は見惚れたまま、コクリと頷いていた。
「ありがとう。」
そう答える声はとても澄んでいた。
悟郎は思う。
まるで、鈴の音の様だと。
ミーンミンミンミー
蝉が、鳴いていた。
暑い、とても暑い夏の日だった。
「・・・冬葉、さん・・・?」
「その人が、あの娘のオリジナル・・・?」
ラン達の言葉に無言で頷くと、悟郎はまた一口コーヒーを含む。
コクリ
微かに響く、飲み下す音。
そして、話は続く。
二人の出会いを、仕事で子供を構ってやれない事を気にかけていた悟郎の両親や、冬葉に友達がいない事を懸念していた彼女の家族は、そろって歓迎した。
二人はすぐにお互いの家を行き来する仲になり、毎日の様に一緒に裏山で遊んだ。
冬葉は物知りだった。
ペットボトルを使って、小川で小魚を捕る方法を教えてくれた。
森の中に響く小鳥の声を聞いて、その主の名前を教えてくれた。
カブトムシやクワガタムシが集まる木を見分け、教えてくれた。
冬葉と一緒に遊ぶうちに、悟郎の世界はどんどん広がって行った。
そして、そうやって過ごすうちに、冬葉の体調もどんどん良くなっていく様だった。
雪の様に白かった肌には健康的な血色が戻り、か弱かった所作にも少しずつだが力強さが戻り始めていた。
「今思えば、不思議な娘だったよ・・・。」
そう言って、悟郎は宙を仰ぐ。
ある時、二人が冬葉の家で本を読んでいると、突然窓にビシィッと何かが当たる音がした。
悟郎は訳が分からず、ただ驚くだけだったが、冬葉は「あ・・・」と言ったきりそれが何であるかを察した様に窓を見つめた。
外に出てみると、窓の下には一羽の小鳥が転がっていた。
羽と足を不自然に縮こまらせ、身動き一つしない。手にとってみると、首の骨が折れているのか小さな頭がカクカクと動いた。
「・・・あれだ。」
上を見上げていた冬葉が、空の一角を指差した。
そこには、鋭角な翼を広げて滑空する小さな影が一つ。
「ハイタカだよ。」
冬葉が言った。
「あれに追われて逃げてるうちに、窓にぶつかっちゃったんだね。」
動かぬ塊となった小鳥を手に、悟郎は茫然とその言葉を聞いていた。
それから少しして、悟郎と冬葉の姿は山裾の小道にあった。
「悟郎君、その子、ちょうだい。」
冬葉はそう言って悟郎から小鳥を受け取ると、茂みを掻き分け、その隙間に小鳥を置いた。
「これでよし。」
そう言って、服についた葉や小枝を払う冬葉に、悟郎は「おはかつくらないの?」と聞いた。
その問いに冬葉は頷くと、「この山がね、この子のお墓になるんだよ。」と言った。
訳が分からないといった態の悟郎に、冬葉は教える。
「山の中(ここ)に置いておけば、他の動物や虫がこの子を土に帰してくれる。草や木がこの子を受け止めてくれる。生きてるものはね、そうやって天国に行くんだよ。」
「天国に行くの?」
「そう。天国に行くの。」
いいながら、冬葉は空を見上げる。
その顔を、悟郎は不思議なものを見る面持ちで見つめた。
「ね、何か子供らしくない感覚だろ?」
そう言って、クスリと笑う悟郎。
だけどその顔はどこか寂しげで、誰も返す言葉を見出せない。
ただ、悟郎の声だけが続けて夜空に響いた。
そんなある日、
「悟郎君、やってみたい事があるんだけど・・・」
冬葉が少し悪戯っぽい笑みを浮かべ、そんな事を言ってきた。
その日、悟郎は旅館の調理室に忍び込むと(実際には皆気付いていたが)、皆の目を盗んで(つもり)まな板の上の牛肉の切れっ端を掠め取った。
目的のものを手に、急いで調理室を出て行く悟郎を目端で見送ると、調理人達は、
「坊ちゃん、あんなもんどうする気なんでしょう?」
「まさか、食べる気じゃないでしょうね?“あれ”。」
「まさか。肉から切り取った、生の脂身の塊だぞ?捨てるしかない様な場所だ。」
「じゃあ、どうする気なんでしょう?」
「さあ?」
等と言い合うのだった。
そしてその頃、悟郎と冬葉は―
「そうそう、これこれ!!さすが悟郎君!!」
そう言って喜ぶ冬葉を見ていると、何か自分まで嬉しくなり、悟郎はニコニコと誇らしげに微笑んだ。
冬葉は、こちらも家から持ち出してきたのだろう。針金製の衣文かけを取り出すと、それをグイグイとほぐし始めた。
「本当は、冬の餌が乏しいときにやる事なんだけど―」
衣文かけだった針金を真っ直ぐに伸ばすと、今度はその両端をつの字に曲げる。
「ちょっとくらい、いいよね。」
そしてその片端に悟郎が取ってきた脂身を突き刺し、もう片方を手頃な木の枝に引っ掛けた。
「さ、隠れて隠れて。」
冬葉はそう言って、悟郎と一緒に少し離れた藪の中に隠れた。
そうして待つこと数十分。
悟郎がいい加減じれて来た時、
「しっ!!来たよ!!」
冬葉が囁く様な声でそう言った。
冬葉といっしょに、そっと藪の隙間から覗いて見ると・・・
木の枝からぶら下げられた脂身に一羽の小鳥が止まり、盛んに脂身を啄ばんでいた。
黒い帽子を被った様な頭。灰色の身体に、背中はモスグリーンだ。
「・・・シジュウカラだよ・・・。」
冬葉がそっと教えてくれる。
シジュウカラはひとしきり脂身を食べると、どこかへ飛んでいってしまった。
「でも、これで場所を覚えたから、きっとまた来るよ。」
そう言って冬葉は「大成功」と親指を立てた。そして悟郎も、つられて親指を立てた。
その後も、待っていると色々な鳥が訪れた。
シジュウカラよりも小さく、尾の長いエナガ。
全身ウグイス色で、目の周りだけが白いメジロ。
大きなアオゲラが来た時には、二人して驚いた。
次々と訪れる“お客”に夢中に見入る内に時は過ぎ、いつしか日は西へと傾き始めていた。
「そろそろ帰ろっか?」
そう言って、冬葉が藪から立ち上がる。
悟郎はもう少し、と言ったが、冬葉は首を振る。
「駄目駄目。もう少しで日が沈んじゃう。そうしたら、真っ暗になって帰れなくなっちゃうよ。」
冬葉に諭され、悟郎も渋々腰を上げる。
最後に名残惜しそうに脂身の方を見た時、悟郎はそれに止まっている、小さな黒い点に気がついた。
それが妙に気になり、悟郎は脂身に近づいていく。
「どうしたの?悟郎君。」
怪訝そうに言って、冬葉も近づいてきた。
脂身に止まっていた、小さな黒い点。それは、一匹の小さな虫だった。
最初はハエかと思ったが、それにしてはスマートな体形をしている。
白と黒の綺麗な縞模様に彩られたその虫は、脂身の端っこにある赤身の部分に取り付いて、そこを盛んに齧っていた。
カシカシ・・・カシカシカシ・・・
小さな顎が肉を削る音が、微かに聞こえてくる。
「・・・クロスズメバチだ。」
それを見た冬葉が、つぶやくようにそう言った。
続く
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