はい。皆様、木曜日です。2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。当作品の事を良く知りたい方はリンク集のwikiへどうぞ。
ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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―予感―
「ふぅ・・・。やっと終わったか・・・。」
そう一人ごちると、アカネは大きく一つ伸びをした。
しなやかに反る背の上を、黄金色の髪がサラサラと流れていく。ふと窓の方に目をやれば、外にはもう、夜の帳が色濃く下り始めていた。
アカネのクラスでは今、生物の授業において、数人で行うグループ研究の形式がとられていた。それぞれのグループは月に一度、研究内容を授業内で発表することになっており、彼女の班は次の授業がその順番になっていた。よってここ数日、アカネは他のメンバーとともにその準備に奔走していた。
おかげで、日課である筈の千石屋でのアルバイトも不参加続きだった。
「・・・ミドリとタマミには、悪いことしちゃったな・・・。」
そう言って、今頃大量の洗い物相手に奮闘しているであろう、二人の盟友の顔を思い浮かべる。
二人とも事情を聞くと、嫌な顔一つせずに了承してくれた。
お互いの及ばぬ分を、お互いが埋め合う。それは彼女達にとって空は上にあり、地は下にあるという事と同じ位当たり前の事だった。
とはいえ、それと個人の心に沸き起こる感謝の念とはまた別のものである。
仕事に復帰したら、彼女達の負担を少しでも減らせる様に頑張んなきゃ、などと考える。
―と、その耳に何処か遠くの方から2つのサイレンの音が飛び込んできた。
(パトカーと救急車・・・。)
その音に、アカネは眉をひそめる。
(何処かで、事故でもあったのかな・・・?)
そう思ったアカネの脳裏に、悟郎の顔が浮かぶ。
「・・・そう言えば、ご主人様、大丈夫だったかな?」
今朝の悟郎の様子。皆がしきりに心配していたのを思い出す。当然、自分も。
何処かぼんやりとして、心の焦点が合っていない様に見えた。ランやミカがしきりに休む様に言っていたが(もっとも、ミカの方には例によって、何やらよろしからぬ下心がある様でもあったが・・・。)、今日は大事な手術があるからと言って、振り切る様に出ていってしまっていた。
「・・・・・・。」
災厄を知らせる二つのサイレンは、すでに耳に届かない。
もちろん、あれが悟郎に関するものだとは限らない。けれど、アカネの胸中には得体の知れない胸騒ぎが生まれていた。
「・・・・・・。」
アカネはおもむろに側らに置いてあったカバンを取り上げると、その中からケースに入った分厚い本の様なものを取り出した。
奇妙な装飾のされたケースから中身を取り出し、表紙を開く。するとそこには、活字の並んだページの代わりに古風なイラストと、デザイン化された文字に飾られたカードの束が納められていた。
タロットカード。
占いを趣味と特技にするアカネにとっては、必須のアイテムである。以前は扱いの簡単な水晶玉を使っていたが、学校に通う様になって外出の機会が増えると、携帯しやすいこちらを愛用する様になっていた。
アカネはカードの束を手に取ると、手馴れた手つきで素早くシャッフルする。シャッフルした束の、一番上から七番目、十四番目、二十一番目のカードを抜き取り、裏向きのまま三角形の形に並べる。
「大三角形の秘法」と呼ばれる占法。
結ばれた三角形の、向かって右下のカードは「過去」を示し、向かって左下のカードは「現在」を表す。そして、頂点のカードはそれらの行き着く「未来」を暗示するという。
アカネの指が、そっと「過去」をめくる。現れたのは暗い夜空に浮かぶ朱い三日月と、それを仰ぐ二頭の狼と一匹のざりがに。
―「月(THE MOON)」―
象徴するものは、「不安」。
アカネは眉根を潜め、次に「現在」のカードをめくる。鎖に繋がれた一組の男女と、その鎖を握り、不気味な笑みを浮かべる異形の者。黒い肌と蝙蝠の翼、ねじ繰れた角に山羊の頭。
―「悪魔(THE DEVIL)」―
象徴するものは、危険へと通ずる「誘惑」。
「・・・・・・。」
そして、アカネは最後のカードに手をかける。
「過去」と「現在」、全ての結果に通ずる「未来」がゆっくりとその面を上げて―
教室を飛び出したアカネの前に、びっくりした顔の級友達が立っていた。
黒髪をポニーテールに結び、眼鏡をかけた少女と、栗色のストレートヘアを背の半ばまで伸ばした少女。
アカネと同じグループのメンバーである彼女らは、資料集めに使った図書室の鍵を職員室まで返しに行き、たった今戻ってきた所だった。
眼鏡の少女が鬼気迫る形相で飛び出してきたアカネに、少々面食らいながらも話しかける。
「あ、アカネ。あのさ、これから皆で慰労会ってことでカラオケ行くんだけど、どう?一緒に・・・」
「ごめん!!また今度!!」
言い終わらぬ内にそんな言葉を残し、アカネは走り去ってしまっていた。
少女のポニーテールが、空しくヒラヒラと揺れている。
「・・・・・・。」
その恰好のまましばしの間固まると、眼鏡の少女はガックリと肩を落とした。
「・・・また、断られちゃったねぇ・・・。」
燃え尽きた様にうなだれる相棒の肩をポンポンと叩きながら、栗毛の少女がなだめる様にそう語りかける。
「・・・負けないもん・・・!」
相方の(あまり親身ではない)励ましを受けながら、眼鏡の少女はポツリとそう呟くのだった。
「・・・あれ?」
教室に入った眼鏡の少女は、そこに落ちる一枚のカードに気がついた。
「これ、アカネのタロットカードだ・・・。どうしたんだろ?いつも大事にしてるのに、忘れていくなんて・・・。」
そう首を傾げながら、手にしたカードを返す。
「・・・うわ、何これ?縁起悪ぅ・・・。」
現れた絵柄に、少女は思わずそう言って眉をしかめた。
枯れ色の荒野と、そこに佇む黒衣を纏った痩躯の男。
右手には錆びた大鎌を担ぎ、左手には刈り取ったばかりの人の生首。
闇色のフードから覗く顔に肉はなく、ただ白く干からびた髑髏だけが虚ろな眼窩を光らせている。
・・・それは、運命を形取る三角形の最後の一枚。たどり着く「未来」を示すもの。
そこに刻まれた文字は、
―「死(DEATH)」―
象徴するは、「死」と「破滅」。
続く
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