(2019年投稿記事です。)
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2019年台風15号、台風19号の災害に見舞われた方にお見舞い申し上げます。
今回、台風19号の災害派遣に関して、一部で災害派遣に待ったがかかる事態が発生しました。
災害派遣と、現地での情報錯綜・要請判断基準の認識のずれが起きたといえます。
ただ、自治体からの災害派遣要請に待った!がかかることは珍しいことではありません。
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(1)神奈川県山北町の給水支援に待った!
神奈川新聞の情報と、神奈川県庁の災害派遣要請発表を元に、状況を整理します。
(2019年の動き)
・10日13日未明:山北町が陸自駒門駐屯地(静岡県駒門)に災害派遣準備の要請(給水支援)
・その後、山北町より神奈川県庁に災害派遣要請の要求
・神奈川県庁は給水支援は県の給水車が向かう。(要求却下)
・午前2時前後:陸上自衛隊の給水車が山北町に到着
・災害派遣未発令により、陸上自衛隊給水車は引き返す。
・10月13日午後1時ごろ:県の給水車が山北町に到着。
・10月13日午後1時40分:神奈川県「災害派遣要請」
(相模原市緑区での倒木・土砂による安否不明者捜索救助)
結局、山北町への給水支援は、災害派遣の内容に含まれませんでした。
※留意点:災害救助法
(10月12日付で、神奈川県は災害救助法適用を発令済み)
(当該の山北町も、災害救助法適用地域内)
URL:http://www.pref.kanagawa.jp/docs/bu4/prs/r2649720.html
1.1 山北町の判断は間違っていない。
今回の山北町と神奈川県庁の判断で、いろいろ言われている部分があります。
ただ自衛隊にいたものとして、
『山北町の災害派遣準備を要請したのは間違っていない』
といえます。
図1 神奈川県山北町の位置
引用URL:https://www.google.com/maps/
(静岡県御殿場市に駒門駐屯地がある)
最も近い自衛隊部隊への災害状況への通報と災害派遣をお願いするかもしれないという要請は、正しい判断です。
部隊側も必要ニーズの情報が入ってきて準備がしやすくなります。
図2 災害派遣(台風15号の給水支援)
引用URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/saigai/2019/typhoon15/photo/1_20190916b.jpg
1.2 神奈川県庁の判断も一概に悪いわけじゃない。
今回もう一方の神奈川県庁の判断も、その時の判断としては間違ってはいないといえます。
給水支援について、県の給水車での活動で実施可能という判断があったといえます。
その後、被害が拡大して他の地域に給水支援の災害派遣要請が行われています。
災害派遣発令前という状況判断が、判断のズレになったと推察します。
1.3 非代替性の壁に阻まれた陸自部隊
出動した陸自部隊も、災害派遣の3原則の中にある非代替性の壁に阻まれたといえます。
『県の給水車で給水支援はできる』
という
代替性がある場合、災害派遣として活動が難しくなり、自主出動や近傍災害も発動できません。
陸自給水車到着の情報が、うまく県庁側に伝達されなかったのではないかと推察されます。
災害派遣の制度上の狭間で発生した事態といえます。
ただ、災害派遣要請が自治体に却下されるというのは珍しくありません。
私も、在職中に2度ほど災害派遣要請での自治体の葛藤を体験しました。
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(2)災害派遣の要請現場で感じたジレンマ
まず災害派遣についておさらいすると、
・災害派遣要請を行えるのは、知事・海上保安庁・空港事務所長です。
・市町村長は、災害派遣要請の要求を知事等に行えます。
・災害派遣命令の発令権者は、防衛大臣になります。
・事前に大臣より指定された部隊等の長が、部隊への災害派遣命令を発令します。
・命令を受けた部隊は、災害派遣の当該地域で活動します。
図3 災害派遣のフロー
引用URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/saigai/images/top_image02.jpg
基本は、自治体の災害派遣要請を受けて出動するのが原則です。
この時災害派遣(自衛隊法第83条)は、災害派遣の3原則を満たすことが前提となります。
(「公共性」「緊急性」「非代替性」)
災害派遣の現場で感じたのは、3原則と実際の現場の乖離です。
2.1 江田島市での行方不明者捜索災害派遣
1度目の体験は、幹部中級課程で江田島の共通教育課程での災害派遣です。
中級課程で教育を受けているときに、
『江田島の海水浴客が流されて行方不明』
という通報が、江田島市および江田島警察署からありました。
図4 海自災害派遣(水中処分隊)
引用URL:https://pbs.twimg.com/media/EDLnONqUEAAHAfl.jpg
『行方不明者捜索に海自からも潜水員を増派できないか?』
江田島市から要請があり、1術校潜水科が中心で準備が始まりました。
江田島市は広島県に、災害派遣要請の要求も同時に行いました。
幹部中級課程に入校中の幹部学生の中にも、潜水員・水中処分員の資格を持つものが何人かいました。
潜水科教官、水中処分課程学生、潜水員・水中処分員有資格にて50名程が臨時編成されることになりました。
幹部中級課程学生が指揮官となり、陸上からの捜索部隊編成も行われました。
ここで、
『海の安否不明者捜索に、海自を出すのはいかがなものか?』
という、災害派遣要請に待ったがかかりました。
最終的には江田島市長が強い要求で押し切って災害派遣が発令されました。
安否不明者の捜索が実施されましたが、発見に至らず捜索打ち切りとなりました。
緊急性という観点で、警察・消防・海保の捜索に、自衛隊がさらに加わることへの懐疑的意見が理由でした。
2.2 豪雪の道路開啓災害派遣がキャンセル!
2度目は豪雪での道路開啓について、実際に防衛省LO(連絡幹部)として、派遣された時です。
防衛省に出向していた時、豪雪により交通網が寸断される事態に遭遇しました。
私は防衛省LO(連絡幹部)として、担当地域の市に防衛局幹部とともに派遣されました。
(防衛局幹部は、実際に防衛省としての判断を出すためです。)
図5 豪雪被害での災害派遣(イメージ)
引用URL:https://www.mod.go.jp/js/Activity/Gallery/images/Disaster_relief/hevy_snow_2014/20140220chichibu_03.jpg
そこで目にしたのは、
『情報錯綜の現場で混乱する災害対策本部』
でした。
図6 災害対策本部指揮所での活動(イメージ)
引用URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/saigai/2019/typhoon15/photo/6_20190916a.jpg
災害派遣要請が、出るのか出ないのか?
情報錯綜が激しく、刻々と時間と状況が変化していきます。
・『県の除雪車両は、今どこにいて何台こちらに来るのか?』
・『市内の建設機械を動かして、どこまで除雪できたのか?』
・『自衛隊としては、これだけの車両をここに派遣できる。』
市の防災担当者も、大変苦労しているのですが、なかなか調整が進みません。
国・県・民間業者との調整、避難所の開設に追われます。
・『まだ、県と国土交通省の車両応援で何とかできる。』
・『県庁は、まだ災害派遣の段階ではないと言っている』
結局、担当地域の市は災害派遣要請の要求を行わないという決定となりました。
その後1週間ほど、市内の交通網は乱れたままとなりました。
あれは、災害派遣を強く勧めるべきだったかもしれない・・・
退職した今でも、LOとして出動したあの苦い教訓は忘れないと思います。
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(3)災害派遣の敷居を下げるべき!
災害派遣については、自衛隊の本来任務として位置づけられています。
災害派遣について災害要請権者である知事が、要請を躊躇する要因として、
『災害派遣という大事にしたら今後どうなる』
という、苦悩と敷居の高さを感じているのではないかと考えます。
実際に被災している市町村長から派遣要請の要求が出ていても、敷居の高さが心理的な壁となっているのかもしれません。
3.1 防災事前協定の締結を進めるべき!
災害派遣で要望のキャンセルなどが起きるのは、ニーズの把握が遅れることです。
そのため、平時において市町村と部隊との間にて防災事前協定を締結しておくことが必要と考えます。
「どこまで起きたら自衛隊に出てもらい、ここを担当してもらう」
防災協定で取り決めておけば、災害派遣のハードルは低くなります。
3.2 市町村長に派遣要請権限を分任することを提案!
現在の制度は市町村長に、直接の災害派遣要請の権限がありません。
自治体の要請は。知事が一括して要請することになっています。
災害派遣要請の権限について、権限の一部を市町村長に分任することを提案します。
(「分任」:一部権限と任務を委譲する)
会計制度などでは分任行為は、すでに地方自治制度で存在します。
非代替性が、災害派遣のハードルを挙げている部分があります。
市町村長に災害派遣要請権限の一部を分任することで、被災地でのミスマッチを防げると考えます。
自衛隊の各地部隊は、担当する地域について普段から情報収集と交流を進めています。
災害派遣がある場合は、すぐにどこに所要があるか把握しています。
今回のキャンセルの一件を教訓に、災害派遣を見直してみてはどうでしょうか?
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