2019年12月04日
取材篇−ブリガンディ3
ブリガンディの飛竜になった者はワタシの二番目の娘です。こちらの娘をこれから紹介しましょう。
娘の名前をハルコードといいます。この子はとても大人しくて、ご飯の時間になってもぼーっとしている子でした。そうそう、幼い竜はご飯を食べるんですよ。ワタシのような大人の飛竜はご飯がなくても平気なんですがね、未成熟なうちは大気中の精気の取り込みがうまくいかないのですよ。ですからちゃんと食べものから栄養をとって、力をつけるのです。
──たとえばどんな食べものを?
上の子たちは母親の好みで、よく果物を食べていたと思います。思う、というのは、じつはワタシはあまり子どもの世話をしなかったので、正確なことを把握していないのです。テニエスたちが全面的に養育していました。恥ずかしながら、そのせいで上の子たちはワタシが父親だという認識が薄まりました。この反省をこめて、下の子たちには積極的に関わるようにしました。
それで、ハルコードには同時期に生まれた兄弟がいましてね、こいつはよく食べるやつでした。ハルコードがご飯を食べないでいるとその分も手を付けてしまう、いじきたない子です。こちらはハルコードの食事を横取りするせいか、成長が早かったですね。体は大きいし、言葉を早期に話せていました。それはよいのですが、兄弟のせいでハルコードの生育がとどおってしまっては困ります。そこで下の子たちにはべつべつにご飯を与えるように工夫しました。しかしそれでもハルコードの食事がすすみません。もともとこの子は食べることに関心がとぼしかったのです。
ブリガンディたちは当然ハルコードに食事をさせようとします。この子が食べたがる食材をさがしに出かけ、人里でやっとハルコードが気に入るものが見つかりました。その食べものは鶏の唐揚げです。
ですが唐揚げは子どもの常食にしてよい食べものじゃありません。人も獣も赤子のうちは油っこいものを食べさせるとよくないと言うでしょう。竜はどうかわかりませんが、我が子でためす親はいませんよ。なので鶏肉を主食にしつつ、子どもにも食べられる調理をほどこしたものを、ハルコードに与えました。そのおかげで娘はご飯を食べるようになりました。
──よかったですね。それでハルコードさんは無事に大人になれたのですか。
この話はまだ終われません。ほかに厄介なことがありました。新鮮な鶏肉を得ようとすると、人里までやってこなくてはいけません。上の子たちの場合は魔界で生える食材で事足りたようで、テニエスがちょっと飛竜を駆ればすみました。これが人界へ通うとなると、少々めんどうです。逐一、門を稼働させる必要がありますからね。一度飛竜に乗って、門のそばに着いたら飛竜から降りて、門を操作して、また飛竜に乗って、が繰り返されるのです。やれなくはない作業ですが、ほかに楽になる方法がないか、模索しました。
どうにか人里まで行く回数を減らせないものかと考えたところ、魔界で食用の鶏を飼育してはどうか、という発想に行き着きました。鶏を手元で生かしておいて、食事のときにシメれば新鮮な肉が手に入ります。そう考えたすえに鶏肉のほか、生きた鶏とその飼料も運べるだけ購入して、テニエスの居住地で管理しました。この管理もなかなか大変ではありましたよ。鶏が逃げ出さないよう、人里にあった鶏小屋を参考にして、専用の小屋を作りましたし、定期的な清掃なども必須でした。これらの負担を考えると、人里へ行き来するのとどっちが楽だったか、わかりませんね。
鶏を飼育しはじめた当初はそれまで通り、購入した食用に処理された肉を使って食事を用意しました。食肉の在庫が尽きたら、いよいよ生きた鶏の調理をすることになります。ところがこの手順に取りかかろうとしたら、ハルコードが泣きさけびました。このときのハルコードはきちんと喋れなかったのですが、兄弟とブリガンディがハルコードの気持ちを察して、鶏を殺す行為を嫌がってるのだと解釈しました。たぶんブリガンディたちもちょっと嫌だったのだと思いますよ。彼らもしばらく鶏たちに餌をやったりなでたりしてましたから、情が移ったのでしょう。
──飼育していた鶏はどうなりましたか。
子どもたちの意見を尊重して、飼った鶏を生かす方向に計画を変更しました。鶏肉を出せないかわりに、果物や野菜を食べるようハルコードに言いきかせると、娘はちゃんと食べるようになりました。これで子どもたちの食事情は解決します。
──はい、ではこれで今回のお話しは……
まだこの件と関連する話題があります。生かした鶏のその後こそを話しておかねばなりません。
食用に飼っていた鶏は子どもたちの意向により、継続して世話を焼いていきました。鶏は雄雌を分けずにいたので、次第に繁殖し、数が増えます。これではいつか管理しきれなくなります。最初に立てた小屋が手狭になってきたころ、テニエスはこの鶏たちをどうするか、決めました。テニエスが一部の鶏に力を分け与え、有翼の魔人に変化《へんげ》させたのです。
この目的はいろいろあります。まずひとつめは、魔人になれば繁殖に歯止めがかかるということ。一度魔人および魔獣となった元動物は、動物であったころより何倍も繁殖しづらくなる傾向があります。ゆえに鶏の増殖をゆるやかにするねらいがありました。ふたつめは、雑用係を確保すること。テニエスたちがめんどうだと思うことを、代行させるのです。それまではテニエスを慕うほかの魔人たちが手を貸していましたが、これを機に彼らも多少楽ができるようになっていきました。
そしてみっつめ……ブリガンディを守る戦士を用意すること。これは長期的な視野が必要な使い道でした。なにせ元が普通の鶏です。それを魔人にしたからといってさしたる特殊能力はありません。翼があっても飛ぶのが下手でしたし、飛行訓練をさせないうちは簡単なお使いに出すこともままなりません。それでもテニエスは自分たちに忠実な戦士になるよう育てていきました。これが、のちのち彼らの手勢となる兵士の誕生秘話です。
──もともとは食用の鶏だったんですね。
ええ、ただ食われるためにいた獣が重要な戦力になるとは意外な成果です。ああ、同じことを人がやろうとしても難しいでしょうね。テニエスには強力な術具がありましたから。個人の力だけでは大量の鶏を魔人に変えられないとワタシは思いますよ。
今回はこれでワタシの話したいことは話せました。次はどうしましょう、まだ娘たちのことで話せることはありますが、似た話題が続くと飽きがきませんか。もっとほかの魔人の話をまとめておきましょうかね。
娘の名前をハルコードといいます。この子はとても大人しくて、ご飯の時間になってもぼーっとしている子でした。そうそう、幼い竜はご飯を食べるんですよ。ワタシのような大人の飛竜はご飯がなくても平気なんですがね、未成熟なうちは大気中の精気の取り込みがうまくいかないのですよ。ですからちゃんと食べものから栄養をとって、力をつけるのです。
──たとえばどんな食べものを?
上の子たちは母親の好みで、よく果物を食べていたと思います。思う、というのは、じつはワタシはあまり子どもの世話をしなかったので、正確なことを把握していないのです。テニエスたちが全面的に養育していました。恥ずかしながら、そのせいで上の子たちはワタシが父親だという認識が薄まりました。この反省をこめて、下の子たちには積極的に関わるようにしました。
それで、ハルコードには同時期に生まれた兄弟がいましてね、こいつはよく食べるやつでした。ハルコードがご飯を食べないでいるとその分も手を付けてしまう、いじきたない子です。こちらはハルコードの食事を横取りするせいか、成長が早かったですね。体は大きいし、言葉を早期に話せていました。それはよいのですが、兄弟のせいでハルコードの生育がとどおってしまっては困ります。そこで下の子たちにはべつべつにご飯を与えるように工夫しました。しかしそれでもハルコードの食事がすすみません。もともとこの子は食べることに関心がとぼしかったのです。
ブリガンディたちは当然ハルコードに食事をさせようとします。この子が食べたがる食材をさがしに出かけ、人里でやっとハルコードが気に入るものが見つかりました。その食べものは鶏の唐揚げです。
ですが唐揚げは子どもの常食にしてよい食べものじゃありません。人も獣も赤子のうちは油っこいものを食べさせるとよくないと言うでしょう。竜はどうかわかりませんが、我が子でためす親はいませんよ。なので鶏肉を主食にしつつ、子どもにも食べられる調理をほどこしたものを、ハルコードに与えました。そのおかげで娘はご飯を食べるようになりました。
──よかったですね。それでハルコードさんは無事に大人になれたのですか。
この話はまだ終われません。ほかに厄介なことがありました。新鮮な鶏肉を得ようとすると、人里までやってこなくてはいけません。上の子たちの場合は魔界で生える食材で事足りたようで、テニエスがちょっと飛竜を駆ればすみました。これが人界へ通うとなると、少々めんどうです。逐一、門を稼働させる必要がありますからね。一度飛竜に乗って、門のそばに着いたら飛竜から降りて、門を操作して、また飛竜に乗って、が繰り返されるのです。やれなくはない作業ですが、ほかに楽になる方法がないか、模索しました。
どうにか人里まで行く回数を減らせないものかと考えたところ、魔界で食用の鶏を飼育してはどうか、という発想に行き着きました。鶏を手元で生かしておいて、食事のときにシメれば新鮮な肉が手に入ります。そう考えたすえに鶏肉のほか、生きた鶏とその飼料も運べるだけ購入して、テニエスの居住地で管理しました。この管理もなかなか大変ではありましたよ。鶏が逃げ出さないよう、人里にあった鶏小屋を参考にして、専用の小屋を作りましたし、定期的な清掃なども必須でした。これらの負担を考えると、人里へ行き来するのとどっちが楽だったか、わかりませんね。
鶏を飼育しはじめた当初はそれまで通り、購入した食用に処理された肉を使って食事を用意しました。食肉の在庫が尽きたら、いよいよ生きた鶏の調理をすることになります。ところがこの手順に取りかかろうとしたら、ハルコードが泣きさけびました。このときのハルコードはきちんと喋れなかったのですが、兄弟とブリガンディがハルコードの気持ちを察して、鶏を殺す行為を嫌がってるのだと解釈しました。たぶんブリガンディたちもちょっと嫌だったのだと思いますよ。彼らもしばらく鶏たちに餌をやったりなでたりしてましたから、情が移ったのでしょう。
──飼育していた鶏はどうなりましたか。
子どもたちの意見を尊重して、飼った鶏を生かす方向に計画を変更しました。鶏肉を出せないかわりに、果物や野菜を食べるようハルコードに言いきかせると、娘はちゃんと食べるようになりました。これで子どもたちの食事情は解決します。
──はい、ではこれで今回のお話しは……
まだこの件と関連する話題があります。生かした鶏のその後こそを話しておかねばなりません。
食用に飼っていた鶏は子どもたちの意向により、継続して世話を焼いていきました。鶏は雄雌を分けずにいたので、次第に繁殖し、数が増えます。これではいつか管理しきれなくなります。最初に立てた小屋が手狭になってきたころ、テニエスはこの鶏たちをどうするか、決めました。テニエスが一部の鶏に力を分け与え、有翼の魔人に変化《へんげ》させたのです。
この目的はいろいろあります。まずひとつめは、魔人になれば繁殖に歯止めがかかるということ。一度魔人および魔獣となった元動物は、動物であったころより何倍も繁殖しづらくなる傾向があります。ゆえに鶏の増殖をゆるやかにするねらいがありました。ふたつめは、雑用係を確保すること。テニエスたちがめんどうだと思うことを、代行させるのです。それまではテニエスを慕うほかの魔人たちが手を貸していましたが、これを機に彼らも多少楽ができるようになっていきました。
そしてみっつめ……ブリガンディを守る戦士を用意すること。これは長期的な視野が必要な使い道でした。なにせ元が普通の鶏です。それを魔人にしたからといってさしたる特殊能力はありません。翼があっても飛ぶのが下手でしたし、飛行訓練をさせないうちは簡単なお使いに出すこともままなりません。それでもテニエスは自分たちに忠実な戦士になるよう育てていきました。これが、のちのち彼らの手勢となる兵士の誕生秘話です。
──もともとは食用の鶏だったんですね。
ええ、ただ食われるためにいた獣が重要な戦力になるとは意外な成果です。ああ、同じことを人がやろうとしても難しいでしょうね。テニエスには強力な術具がありましたから。個人の力だけでは大量の鶏を魔人に変えられないとワタシは思いますよ。
今回はこれでワタシの話したいことは話せました。次はどうしましょう、まだ娘たちのことで話せることはありますが、似た話題が続くと飽きがきませんか。もっとほかの魔人の話をまとめておきましょうかね。
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