2018年09月04日
拓馬篇−終章4 ★
「わたしかシズカさんみたいな人をさがしていて……それで先生たちはどんないいことがあるの?」
「私も知らされていないのです」
ヤマダは目を丸くした。悪事の動機をよくわからずに犯行をかさねていた、という盲信的な事実に耳をうたがっているようだ。しかし拓馬はその自白を信じる余地がある。
「エリーも同じことを言ってたな」
「わたしがねてたときに聞いたの?」
「ああ、お前に伝えてなかったけど……」
「赤毛さんは聞いてた?」
赤毛──拓馬が忘却していた存在だ。本物の悪党らしき人物は気になる予想を立てていた。
「そういやあいつ、お前とシズカさんの力の使い道を言ってた」
「どう使うの?」
赤毛が例え話にあげたものは、あの時拓馬たちが捜索していた白い狐だ。当時の狐は生死のない状態におちいっていた。それがあちらの世界の犯罪者を罰した状態と同じだという。その状態を正常化させる人間がシズカたちだ。しかしヤマダは狐がどんな状態だったか知らない。彼女がわかりやすい説明はないか、拓馬はなやむ。
「なんて言えばいいか……あ、校長室にいた武者の霊をおぼえてるか?」
「うん、武者のおじさんね」
「あいつ、お前がさわるまで固まってたよな。異界にはそういう状態の人が集められてる場所があるらしいんだ」
「なんで固まった人を集めるんだろ?」
「極悪人は死んだらまた悪人に生まれ変わる、とかなんとか信じられてるんだとさ。それで悪人を生き返らせないように、ずーっと固めたまんまにしとくらしい」
「へー、犯罪者を保管してるんだね」
「悪人連中をめざめさせれば一波乱起こせるって話だが」
「その線はあるの?」
ヤマダはかるい調子で仮説段階の推論をシドにたずねた。彼は「どうでしょうね」とあいまいな返事をする。
「そのような囚人の収容所を突き止めろと命じられたことはありません。私以外の同胞が探っているのかもしれませんけど、私が知りうるかぎり、囚人の解放の可能性は低いかと思います」
「そっか……ほかに、わたしを利用できることはある?」
「あります。言い伝えが真実であるなら、そちらのほうが汎用性が高いでしょう」
「どんなことができる?」
「のぞみをなんでも叶えられる……そんな装置を使えるそうです」
夢のような装置だ。そんなものが異界にあって、シズカもあつかえるという。そうでありながらなぜ彼は地道に不穏分子を対処しているのだろう、と拓馬は疑問がわく。
「それをシズカさんが使えるってんなら、こっちで悪事をはたらくバケモノ連中を出禁にしたらいいんじゃないのか?」
「彼は使わないのです。使用時の代償をおそれています」
「どういう代償?」
「世界が不安定になる……といいます。天変地異が起こりやすくなったり、凶暴な化け物が増えたりするとか」
「あ……それはハタめいわくだな。シズカさんが使わないのもわかる」
「はい。使用者には害が直接およばないところが、厄介な仕組みだと思います」
「自分さえよけりゃいいって考えのやつには格好の装置なんだろうな……」
「そうですね……私たちの種族には被害がありませんし、かえって活動しやすくなるそうですから、わが主がお使いになることに抵抗はないかと」
「さっき言った『凶暴な化け物が増える』ってのは、先生たちのことか?」
「それもあります」
つまるところ、シドとその仲間たちにはメリットばかりの装置の利用、が彼の人捜しの終着点である可能性が高いようだ。
「なにかねがいごとをして、その反動で仲間を活発にさせる……のが最終目的か?」
「確証はありませんが、その方法がもっとも理にかなっていそうですね。主は私のような手駒を増やしたいとお考えのようですし」
「先生はそうしたいと思うか?」
化け物の代表格たる人物は困り顔で「どうとも言えません」と言う。
「まことに同胞たちが皆、外の世界へ行きたいとのぞんでいるなら……かなえたいです。ですが、ネギシさんの推測通りの手段をとるべきだとは思いません」
「先生ならどうする?」
「同胞の自我がはっきりするまで、待ちます」
「待つ……って、ようはなにもしないのか?」
「自我を確立する手助けはしたいと思います。現時点では模索段階ですが……」
「ヤマダを向こうに連れていくってことはないんだな?」
「はい、オヤマダさんの力を悪用するつもりはありません。その力をだれかがねらうのも私が阻止する考えでいます」
その一言が聞けて、拓馬は肩の荷が下りる思いがした。ヤマダは人外に興味をもたれやすいが、その対抗手段が彼女にも拓馬にもない。守ってくれる者が増えれば心強いのだ。
「それはたすかる。こいつ、ヘンなのに好かれやすいからさ」
「貴方たちが異空間で会った人物も、オヤマダさんのことを気にかけていそうです。しばらく警戒しておきましょう」
「あの赤毛か?」
「はい、たとえ捕まってもオヤマダさん相手なら丁重にあつかってくれるとは思いますが」
「あいつのこと、どういうやつだか知ってるのか?」
「簡単に言うと……いわゆる、西洋のドラゴンですね。英雄譚でいえば、主人公である勇者の敵役になるような存在です」
「やっぱわるいやつなのか」
「そうとも言えません。悪評は立っていますが、実際に人を害した記録というと、あまりのこっていないようです。その主人が二代目の魔王とよばれた方でして、こちらは不穏な呼び名に反した人格者だったそうです。この魔王の命令を忠実に聞いていた竜だといいます」
「マオウ? なんかおとぎ話じみてきたな」
「はい……その魔王は私の時代だと亡くなっています。もう、過去の話です」
「手綱を引いてくれるやつがいないとなると、あの赤毛がどううごくかわからないんじゃ?」
「無意味に人を傷つけることはしないと思います。幼少期から養育された竜は、そういった主人の言い付けに縛られて生きていく生き物だと聞きますから」
忠犬のような特徴だ。亡き主人の影をずっと追いかけているのだと思うと、あの赤毛もあわれなやつだと、拓馬に同情心が芽生える。
「思ったより、情の深いやつなんだな……」
「その竜のこと、くわしく知りたいですか?」
「いや、もういい。いまは俺らに関係あることを……そうそう、金髪っていまはどうなってんだ?」
この問いには複数の意図がある。もし目覚めてから日数が経過したのなら、彼は現在なにをしているのか。もはや拓馬たちへの報復は考えていないのか、といった危険性の確認。もしまだねむっているのなら、どのように起こすのか。そして覚醒後の彼の危険性はどう解消するか、といった手段の確認だ。
「現在は昏睡状態で、まもなくシズカさんが目覚めさせる手筈になっています」
金髪はこれから活動をはじめる。そうと知った拓馬は質問内容を絞る。
「あいつ、元気になったらまた俺たちや先生にケンカふっかけてくるんじゃ?」
「その対策として、彼の記憶を部分的に思い出せなくさせる予定です」
「そんなことができるのか?」
「貴方が会った白い服の男性ならできます。その際に異界のとある道具を使うのですが、こちらの世界では精気で捻出した贋物を使わざるをえず、効力はだいぶ落ちるそうです。うまくいく確約はできません」
「セイキ……でつくる、ニセモノ?」
「精気とは私たち異界の者の生命力だと思ってください。その生命力をけずることで、姿を実体化したり、なにもないところから物を生み出したりします。先日ネギシさんが痛い思いをしたナックルも、私が精気で創りだした武器です。本物は、異界にあります」
拓馬はナックル攻撃で負傷していた部位をさすった。シズカが上げてくれた防御力を贋物でも突き破ってきたのに、本物ならどれだけの威力になったのだろうと思うと、ぞっとする。
「あ、うん……だいたいわかった。こっちの世界だと道具の性能を完全再現できないってことか」
「そうです。記憶を封じる効果がはやく切れてしまうおそれはありますが……オダギリさんの場合はその特性を逆手にとるつもりです」
「わざと思い出させるのか?」
「いえ、わすれたままでもかまいません。ただ、その状態では本人が不満に感じると思われます。失った記憶を取りもどすのを見返りとし、私との同行を彼が希望する方向へ誘導しようと考えています」
「なんかむずかしそうだな……あいつ、頭いいんだろ? フツーに言ってもこっちが思ったとおりにうごいてくれなさそうなんだが」
「その心配はごもっともです。私も順調にいくとは考えていないので、その都度やり方は変えていくつもりです。シズカさんにいくらかフォローしてもらいますし、おそらく貴方たちの協力も必要になるかと思います。しばしお付き合いを願えるでしょうか?」
拓馬はヤマダと顔を見合わせる。
「俺はかまわないけど……お前はどうだ?」
「わたしもいいよ。でも金髪くんのほうがわたしをイヤがると思う」
彼女はいつぞやのプロレスごっこの一件を言っている。あれで金髪にトラウマを植えつけた自覚があるのだ。その場にいなかったシドは事情を知らないはずだが、彼は「その心配はいりません」と言う。
「オダギリさんには皆さんのこともすべてわすれてもらいます。しばらくは初対面の者同士のように接してよいかと」
「うん、だったらだいじょうぶだね」
直近の計画が決まった。これで金髪の件はみなの納得がいっている。
「なんかほかに聞くこと……」
拓馬はヤマダの書いたメモ用紙に注目した。聞きだせた内容は文頭にペケが書かれてある。話の最中に彼女がチェックしたのだろう。未着手の質問のうち、重要性の高いものは──
「あ、須坂のことを聞いてないな」
メモには「美弥をストーキングした理由」と直球な文が書いてある。書いた本人が「ホントだね」と他人事のように言う。
「美弥ちゃんと先生ってけっこう接点があったと思うけど、これまでの話題でかすりもしなかった。どうして?」
回答を想定しなかった質問らしく、シドは窓に顔をむける。窓辺の猫はうすく開眼したが、すぐに寝顔にもどった。
「私も知らされていないのです」
ヤマダは目を丸くした。悪事の動機をよくわからずに犯行をかさねていた、という盲信的な事実に耳をうたがっているようだ。しかし拓馬はその自白を信じる余地がある。
「エリーも同じことを言ってたな」
「わたしがねてたときに聞いたの?」
「ああ、お前に伝えてなかったけど……」
「赤毛さんは聞いてた?」
赤毛──拓馬が忘却していた存在だ。本物の悪党らしき人物は気になる予想を立てていた。
「そういやあいつ、お前とシズカさんの力の使い道を言ってた」
「どう使うの?」
赤毛が例え話にあげたものは、あの時拓馬たちが捜索していた白い狐だ。当時の狐は生死のない状態におちいっていた。それがあちらの世界の犯罪者を罰した状態と同じだという。その状態を正常化させる人間がシズカたちだ。しかしヤマダは狐がどんな状態だったか知らない。彼女がわかりやすい説明はないか、拓馬はなやむ。
「なんて言えばいいか……あ、校長室にいた武者の霊をおぼえてるか?」
「うん、武者のおじさんね」
「あいつ、お前がさわるまで固まってたよな。異界にはそういう状態の人が集められてる場所があるらしいんだ」
「なんで固まった人を集めるんだろ?」
「極悪人は死んだらまた悪人に生まれ変わる、とかなんとか信じられてるんだとさ。それで悪人を生き返らせないように、ずーっと固めたまんまにしとくらしい」
「へー、犯罪者を保管してるんだね」
「悪人連中をめざめさせれば一波乱起こせるって話だが」
「その線はあるの?」
ヤマダはかるい調子で仮説段階の推論をシドにたずねた。彼は「どうでしょうね」とあいまいな返事をする。
「そのような囚人の収容所を突き止めろと命じられたことはありません。私以外の同胞が探っているのかもしれませんけど、私が知りうるかぎり、囚人の解放の可能性は低いかと思います」
「そっか……ほかに、わたしを利用できることはある?」
「あります。言い伝えが真実であるなら、そちらのほうが汎用性が高いでしょう」
「どんなことができる?」
「のぞみをなんでも叶えられる……そんな装置を使えるそうです」
夢のような装置だ。そんなものが異界にあって、シズカもあつかえるという。そうでありながらなぜ彼は地道に不穏分子を対処しているのだろう、と拓馬は疑問がわく。
「それをシズカさんが使えるってんなら、こっちで悪事をはたらくバケモノ連中を出禁にしたらいいんじゃないのか?」
「彼は使わないのです。使用時の代償をおそれています」
「どういう代償?」
「世界が不安定になる……といいます。天変地異が起こりやすくなったり、凶暴な化け物が増えたりするとか」
「あ……それはハタめいわくだな。シズカさんが使わないのもわかる」
「はい。使用者には害が直接およばないところが、厄介な仕組みだと思います」
「自分さえよけりゃいいって考えのやつには格好の装置なんだろうな……」
「そうですね……私たちの種族には被害がありませんし、かえって活動しやすくなるそうですから、わが主がお使いになることに抵抗はないかと」
「さっき言った『凶暴な化け物が増える』ってのは、先生たちのことか?」
「それもあります」
つまるところ、シドとその仲間たちにはメリットばかりの装置の利用、が彼の人捜しの終着点である可能性が高いようだ。
「なにかねがいごとをして、その反動で仲間を活発にさせる……のが最終目的か?」
「確証はありませんが、その方法がもっとも理にかなっていそうですね。主は私のような手駒を増やしたいとお考えのようですし」
「先生はそうしたいと思うか?」
化け物の代表格たる人物は困り顔で「どうとも言えません」と言う。
「まことに同胞たちが皆、外の世界へ行きたいとのぞんでいるなら……かなえたいです。ですが、ネギシさんの推測通りの手段をとるべきだとは思いません」
「先生ならどうする?」
「同胞の自我がはっきりするまで、待ちます」
「待つ……って、ようはなにもしないのか?」
「自我を確立する手助けはしたいと思います。現時点では模索段階ですが……」
「ヤマダを向こうに連れていくってことはないんだな?」
「はい、オヤマダさんの力を悪用するつもりはありません。その力をだれかがねらうのも私が阻止する考えでいます」
その一言が聞けて、拓馬は肩の荷が下りる思いがした。ヤマダは人外に興味をもたれやすいが、その対抗手段が彼女にも拓馬にもない。守ってくれる者が増えれば心強いのだ。
「それはたすかる。こいつ、ヘンなのに好かれやすいからさ」
「貴方たちが異空間で会った人物も、オヤマダさんのことを気にかけていそうです。しばらく警戒しておきましょう」
「あの赤毛か?」
「はい、たとえ捕まってもオヤマダさん相手なら丁重にあつかってくれるとは思いますが」
「あいつのこと、どういうやつだか知ってるのか?」
「簡単に言うと……いわゆる、西洋のドラゴンですね。英雄譚でいえば、主人公である勇者の敵役になるような存在です」
「やっぱわるいやつなのか」
「そうとも言えません。悪評は立っていますが、実際に人を害した記録というと、あまりのこっていないようです。その主人が二代目の魔王とよばれた方でして、こちらは不穏な呼び名に反した人格者だったそうです。この魔王の命令を忠実に聞いていた竜だといいます」
「マオウ? なんかおとぎ話じみてきたな」
「はい……その魔王は私の時代だと亡くなっています。もう、過去の話です」
「手綱を引いてくれるやつがいないとなると、あの赤毛がどううごくかわからないんじゃ?」
「無意味に人を傷つけることはしないと思います。幼少期から養育された竜は、そういった主人の言い付けに縛られて生きていく生き物だと聞きますから」
忠犬のような特徴だ。亡き主人の影をずっと追いかけているのだと思うと、あの赤毛もあわれなやつだと、拓馬に同情心が芽生える。
「思ったより、情の深いやつなんだな……」
「その竜のこと、くわしく知りたいですか?」
「いや、もういい。いまは俺らに関係あることを……そうそう、金髪っていまはどうなってんだ?」
この問いには複数の意図がある。もし目覚めてから日数が経過したのなら、彼は現在なにをしているのか。もはや拓馬たちへの報復は考えていないのか、といった危険性の確認。もしまだねむっているのなら、どのように起こすのか。そして覚醒後の彼の危険性はどう解消するか、といった手段の確認だ。
「現在は昏睡状態で、まもなくシズカさんが目覚めさせる手筈になっています」
金髪はこれから活動をはじめる。そうと知った拓馬は質問内容を絞る。
「あいつ、元気になったらまた俺たちや先生にケンカふっかけてくるんじゃ?」
「その対策として、彼の記憶を部分的に思い出せなくさせる予定です」
「そんなことができるのか?」
「貴方が会った白い服の男性ならできます。その際に異界のとある道具を使うのですが、こちらの世界では精気で捻出した贋物を使わざるをえず、効力はだいぶ落ちるそうです。うまくいく確約はできません」
「セイキ……でつくる、ニセモノ?」
「精気とは私たち異界の者の生命力だと思ってください。その生命力をけずることで、姿を実体化したり、なにもないところから物を生み出したりします。先日ネギシさんが痛い思いをしたナックルも、私が精気で創りだした武器です。本物は、異界にあります」
拓馬はナックル攻撃で負傷していた部位をさすった。シズカが上げてくれた防御力を贋物でも突き破ってきたのに、本物ならどれだけの威力になったのだろうと思うと、ぞっとする。
「あ、うん……だいたいわかった。こっちの世界だと道具の性能を完全再現できないってことか」
「そうです。記憶を封じる効果がはやく切れてしまうおそれはありますが……オダギリさんの場合はその特性を逆手にとるつもりです」
「わざと思い出させるのか?」
「いえ、わすれたままでもかまいません。ただ、その状態では本人が不満に感じると思われます。失った記憶を取りもどすのを見返りとし、私との同行を彼が希望する方向へ誘導しようと考えています」
「なんかむずかしそうだな……あいつ、頭いいんだろ? フツーに言ってもこっちが思ったとおりにうごいてくれなさそうなんだが」
「その心配はごもっともです。私も順調にいくとは考えていないので、その都度やり方は変えていくつもりです。シズカさんにいくらかフォローしてもらいますし、おそらく貴方たちの協力も必要になるかと思います。しばしお付き合いを願えるでしょうか?」
拓馬はヤマダと顔を見合わせる。
「俺はかまわないけど……お前はどうだ?」
「わたしもいいよ。でも金髪くんのほうがわたしをイヤがると思う」
彼女はいつぞやのプロレスごっこの一件を言っている。あれで金髪にトラウマを植えつけた自覚があるのだ。その場にいなかったシドは事情を知らないはずだが、彼は「その心配はいりません」と言う。
「オダギリさんには皆さんのこともすべてわすれてもらいます。しばらくは初対面の者同士のように接してよいかと」
「うん、だったらだいじょうぶだね」
直近の計画が決まった。これで金髪の件はみなの納得がいっている。
「なんかほかに聞くこと……」
拓馬はヤマダの書いたメモ用紙に注目した。聞きだせた内容は文頭にペケが書かれてある。話の最中に彼女がチェックしたのだろう。未着手の質問のうち、重要性の高いものは──
「あ、須坂のことを聞いてないな」
メモには「美弥をストーキングした理由」と直球な文が書いてある。書いた本人が「ホントだね」と他人事のように言う。
「美弥ちゃんと先生ってけっこう接点があったと思うけど、これまでの話題でかすりもしなかった。どうして?」
回答を想定しなかった質問らしく、シドは窓に顔をむける。窓辺の猫はうすく開眼したが、すぐに寝顔にもどった。
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