2018年08月01日
拓馬篇−10章1 ★
拓馬とヤマダは無口な仲間を連れて、蜘蛛がねぐらとする校舎にもどった。二階へ続く階段は依然として極太の白い糸で装飾されている。これが大蜘蛛の縄張りだ。その範囲は二つの校舎をつなぐ連絡通路にはおよんでいない。
拓馬たちが階段をのぼりきる直前、ヤマダが仲間に引き入れた武者の霊が前方へ行く。彼は下向きに矢を弓につがえていた。臨戦態勢のようだ。
(見えてなくても、わかるのか)
武者はすでに異形の気配を捕捉している。その証に、武者は二階廊下へ出るとすぐさま矢を放った。奇怪な音が響く。蜘蛛のうなり声だろうか。音が止むのを待たずに武者は二本目の矢を撃った。武者は自発的に健闘する。その様子に拓馬の胸がおどる。
「本当にやっつけてくれそうだな」
拓馬がヤマダに同意を求めたところ、彼女は両手をひざにつき、つらそうに立っている。
「どうした? 調子がわるいのか」
「いきなり、体が重くなってきて……」
「やせ我慢してたんじゃないか?」
ヤマダは拓馬の足を引っ張るまいと、無理をしていたのかもしれない。なにせ彼女は少女の異形に活力をうばわれていた。その回復が未完全なのだと拓馬は推しはかった。
「ううん、急に、だよ」
「そうか? とりあえず、ここの蜘蛛を退散させたら休むか」
蜘蛛退治をすぐに放棄してもよいのだが、武者を止める方法がわからなかった。そのため拓馬は物陰から人外の闘争を見守った。
当初は武者の優勢に見えた。だが蜘蛛がねばり、糸を武者の体にまきつけて、弓攻撃を妨害する。身動きの取れにくくなった武者は跳び、窓へぶつかる──と思いきや窓をすり抜けた。糸でつながっていた蜘蛛もつられて外へ行く。二体の人外は落下せず、すっと掻き消えていった。
(いなくなった?)
拓馬はあわてて窓に駆け寄る。地面にも宙にも、彼らの姿はない。ひょっとしたらこの窓なら外に出られるのだろうか。そんな淡い期待から窓を開ける。外へ手を出そうとするも、見えない壁に押し返された。
(窓の外は行けないのか?)
一階は中庭に出られるため、おそらく一階の窓ならこんな妨害はされない。二階以上の高さになると、出入りが禁じられるようだ。
(なんであいつらだけ……?)
人外たちのみが忽然と消えたことに拓馬は釈然としなかった。だが目下の目的は狐の捜索である。狐捜しをはばむ障害がなくなったいま、やるべきことはひとつだ。
「とにかく、順番に教室を──」
見ていく、と拓馬が言いかけた。振り返るとヤマダの姿がない。視線を下へずらしてみると、彼女は階段上で突っ伏していた。段の角が彼女の頬に当たっている。
「おいおい、そんなとこで寝るな!」
倒れるなら床にしとけ、と小言を言いながら、拓馬は介抱しにむかった。以前ジュンがノブにやっていた、意識不明者を運ぶ方法にならう。まずはヤマダの体を仰向きにする。脇の下へ自分の腕を通して彼女に腕組みをさせ、その両腕を持って二階へ引き上げる。彼女が背負うリュックサックを下ろし、上半身を壁に寄りかからせた。
(ここで休ませて、いいのか?)
安全な場所へ移りたいが、どこが適切な休憩場所だか判断しようがなかった。通常、体調不良の者は保健室で休むものだ。しかし保健室とて異形がいつ出現するか知れたものではない。
(ヘタにうろつくのも危険だしな……)
人ひとりを運びながらの移動は体力を消耗する。そのうえ、襲撃を受けた際の逃走にも支障が出る。おまけに場所を移動すればするほど、異形との遭遇率も高まるだろう。むやみな移動は避けるべきだ。危険がせまるまでは待機するのが賢明だと拓馬は考えた。
いつでもうごけるよう、拓馬はヤマダのリュックサックを背負った。横から、上から、下から異形が現れないかと周囲に気を配る。
視界による警戒を続けて数分が経つ。まだなにも起きない。この後もあたりに平穏が続くようなら、ねむる女子を置いて狐捜索に行けるが──
(でも目をはなした隙をつかれるってこと、きっとあるよなぁ)
異形は神出鬼没。ものの数秒であっても、連中は無抵抗な人間に接近できるはずだ。
(ムチャする意味はないな……)
拓馬はおとなしく待機を続けた。
拓馬自身にも若干の睡魔がにじり寄ってきたころ、足音が聞こえた。人のようだ。その根拠は三つ。異形は足を鳴らさない。幽霊は地に足をつけて歩かなかった。赤毛は飛行で移動する。となると、それ以外の人、あるいは人型の異形だ。
(さっきの女の子なら、いいんだが)
現状、男のほうがくると抵抗すらできずにやられる。拓馬は自分たちに協力的な少女の到来に期待を寄せた。
足音の出所は連絡通路。拓馬が通路へ一点集中すると、銀髪の少女を発見した。シド及び大男でないことを拓馬はよろこんだ。
少女は拓馬のもとにくる。ねむるヤマダを見て、不思議そうに拓馬の顔をのぞく。
「こんなところにヤマダをいさせていいの?」
「安全な場所がどこだかわかんねーんだ。お前、知ってるか?」
「はじめに、ここへきたときにいたとこ。あそこがいいよ」
「追試をやる予定だった教室のことか?」
「うん、むこうのすみのへや。あそこはいちばん境《さかい》がうすくなってて、外をこわがる仲間はちかよらない」
「俺らが最初にいた教室が安全なのか……」
言われてみれば、拓馬たちが気絶している間は何者にもおそわれなかった。それが黒い異形たちにとっての不可侵な領域ゆえか。
「それに、シズカはあのへやにくる。使いがそこからきてた」
安全圏かつシズカとの合流場所──とくれば絶好の休憩場所だ。
「それを早く教えてくれよ!」
拓馬は明朗に言い、ヤマダを横抱きで持ち上げた。シドのように軽々とはいかないが、空き教室までは持ちこたえられる。一気に駆け抜けようとしたものの、少女が「わたしがもとうか?」とたずねてきた。
「え……お前が、こいつを?」
「うん」
エリーは拓馬と同じ持ち方でヤマダを抱えた。そのさまはシドと同じく、重さを苦にしない屈強さがある。拓馬はちょっとした敗北感を覚える。
「お前たちはみんな力持ちなのか?」
「たぶん、そう」
こともなげに答えられてしまった。少女は先天的な能力の優秀さを誇る様子なく歩きだした。拓馬も空き教室へ移動を開始する。少女のとなりで歩く最中、ヤマダが倒れた原因について少女にたずねてみる。
「武者の霊を連れて蜘蛛を追っ払ったら、ヤマダが倒れちまったんだ。なんでだろうな」
「しえき、してたから、かな」
「なんだ、その『しえき』って。はたらかせるっていう意味の『使役』か?」
「そう。シズカのつかいとおなじ」
シズカに例えられると拓馬は納得がいった。シズカも、自身の活力と引き換えに異界の獣を呼び出し、活動させている。その関係を構築する術を、ヤマダが意識せずに行なっていた、ということになる。
「あの武者も……ヤマダの力をつかって、蜘蛛と戦ったのか」
「そう。それに、わたしがヤマダから力をとってたせいもあるかも」
その見解は拓馬もうすうす勘付いていた。ふと、なぜ少女がヤマダの力を欲したのか気になりはじめる。
「そういえば、なんでお前は人から力を吸い取ろうとしてた?」
「おはなし、するため……」
「本当に、それだけか?」
会話だけなら黒い化け物の状態でもできはしていた。発話がスムーズにいかない不便さはあっただろうが、会話が成立しないほどではなかったと拓馬は思う。
「化け物の姿でもしゃべれただろ?」
「うん……」
「お前が人に化ける目的……俺らと話をすること以外にもあったんじゃないか?」
「わかんない。そうしろっていわれた」
「お前が人に化けると、いいことがあるのか?」
「たぶん、そう」
少女自身がよくわからないでやっていたことらしい。その目的は司令塔に聞くほかに手立てはなさそうだ。少女に命令をくだす者──そのことに拓馬の意識が向いたとき、とある疑念が再燃する。
(赤毛とは『シド先生が犯人だ』って話をしたけど……確認はとってないな)
拓馬は確実に少女が知っている質問をしかける。
「お前に指示だしてる仲間って、先生なのか?」
少女は答えない。そのへんは口止めされているのだろうか。
「もうだいたいわかってんだ。言ってくれてもよくないか?」
「いっちゃだめっていわれてる」
「マジメなやつだな……」
彼女の実直さはかの英語教師と似通っている。その態度が暫定的な返答としておき、拓馬たちは二階の空き教室に着いた。拓馬は教室の後方の床にリュックサックを置く。
「この上にそいつの頭がのるように、寝かせてくれるか」
ヤマダを運んできた者は床に両膝をつき、そっとヤマダをおろした。
「手伝ってくれて、ありがとうな」
拓馬は感謝ついでに、さらなる依頼をする。
「なぁ、こいつを見ててくれないか?」
「どうして?」
「俺はキツネを捜しにいく。そのためにあそこから蜘蛛を追いだしたんだしな」
「できない」
意外にも少女がきっぱり断る。
「もうじき、シズカがくる。わたしは会っちゃいけない」
「人間じゃないからって、シズカさんは誰彼かまわず倒す人じゃないぞ」
少女はすっくと立ち、なにもいわずに教室を飛び出した。その動作が俊敏だったために、拓馬が引き止める隙はなかった。
(そんなにシズカさんって、人以外には危険な存在なのか?)
赤毛もシズカを忌避していた。あちらは裏であくどいことをしていそうなので、シズカに成敗される事態は理解できる。しかし少女のほうはいまひとつ、シズカが打倒すべき意義を見いだせなかった。
遠ざかる足音を聞きながら、拓馬は幼馴染を見る。
(どうするかな……)
教室で時間をつぶすか、単独で行動するか。どちらが最善なのか決めかね、ひとまず適当な椅子に座って、考えることにした。
拓馬たちが階段をのぼりきる直前、ヤマダが仲間に引き入れた武者の霊が前方へ行く。彼は下向きに矢を弓につがえていた。臨戦態勢のようだ。
(見えてなくても、わかるのか)
武者はすでに異形の気配を捕捉している。その証に、武者は二階廊下へ出るとすぐさま矢を放った。奇怪な音が響く。蜘蛛のうなり声だろうか。音が止むのを待たずに武者は二本目の矢を撃った。武者は自発的に健闘する。その様子に拓馬の胸がおどる。
「本当にやっつけてくれそうだな」
拓馬がヤマダに同意を求めたところ、彼女は両手をひざにつき、つらそうに立っている。
「どうした? 調子がわるいのか」
「いきなり、体が重くなってきて……」
「やせ我慢してたんじゃないか?」
ヤマダは拓馬の足を引っ張るまいと、無理をしていたのかもしれない。なにせ彼女は少女の異形に活力をうばわれていた。その回復が未完全なのだと拓馬は推しはかった。
「ううん、急に、だよ」
「そうか? とりあえず、ここの蜘蛛を退散させたら休むか」
蜘蛛退治をすぐに放棄してもよいのだが、武者を止める方法がわからなかった。そのため拓馬は物陰から人外の闘争を見守った。
当初は武者の優勢に見えた。だが蜘蛛がねばり、糸を武者の体にまきつけて、弓攻撃を妨害する。身動きの取れにくくなった武者は跳び、窓へぶつかる──と思いきや窓をすり抜けた。糸でつながっていた蜘蛛もつられて外へ行く。二体の人外は落下せず、すっと掻き消えていった。
(いなくなった?)
拓馬はあわてて窓に駆け寄る。地面にも宙にも、彼らの姿はない。ひょっとしたらこの窓なら外に出られるのだろうか。そんな淡い期待から窓を開ける。外へ手を出そうとするも、見えない壁に押し返された。
(窓の外は行けないのか?)
一階は中庭に出られるため、おそらく一階の窓ならこんな妨害はされない。二階以上の高さになると、出入りが禁じられるようだ。
(なんであいつらだけ……?)
人外たちのみが忽然と消えたことに拓馬は釈然としなかった。だが目下の目的は狐の捜索である。狐捜しをはばむ障害がなくなったいま、やるべきことはひとつだ。
「とにかく、順番に教室を──」
見ていく、と拓馬が言いかけた。振り返るとヤマダの姿がない。視線を下へずらしてみると、彼女は階段上で突っ伏していた。段の角が彼女の頬に当たっている。
「おいおい、そんなとこで寝るな!」
倒れるなら床にしとけ、と小言を言いながら、拓馬は介抱しにむかった。以前ジュンがノブにやっていた、意識不明者を運ぶ方法にならう。まずはヤマダの体を仰向きにする。脇の下へ自分の腕を通して彼女に腕組みをさせ、その両腕を持って二階へ引き上げる。彼女が背負うリュックサックを下ろし、上半身を壁に寄りかからせた。
(ここで休ませて、いいのか?)
安全な場所へ移りたいが、どこが適切な休憩場所だか判断しようがなかった。通常、体調不良の者は保健室で休むものだ。しかし保健室とて異形がいつ出現するか知れたものではない。
(ヘタにうろつくのも危険だしな……)
人ひとりを運びながらの移動は体力を消耗する。そのうえ、襲撃を受けた際の逃走にも支障が出る。おまけに場所を移動すればするほど、異形との遭遇率も高まるだろう。むやみな移動は避けるべきだ。危険がせまるまでは待機するのが賢明だと拓馬は考えた。
いつでもうごけるよう、拓馬はヤマダのリュックサックを背負った。横から、上から、下から異形が現れないかと周囲に気を配る。
視界による警戒を続けて数分が経つ。まだなにも起きない。この後もあたりに平穏が続くようなら、ねむる女子を置いて狐捜索に行けるが──
(でも目をはなした隙をつかれるってこと、きっとあるよなぁ)
異形は神出鬼没。ものの数秒であっても、連中は無抵抗な人間に接近できるはずだ。
(ムチャする意味はないな……)
拓馬はおとなしく待機を続けた。
拓馬自身にも若干の睡魔がにじり寄ってきたころ、足音が聞こえた。人のようだ。その根拠は三つ。異形は足を鳴らさない。幽霊は地に足をつけて歩かなかった。赤毛は飛行で移動する。となると、それ以外の人、あるいは人型の異形だ。
(さっきの女の子なら、いいんだが)
現状、男のほうがくると抵抗すらできずにやられる。拓馬は自分たちに協力的な少女の到来に期待を寄せた。
足音の出所は連絡通路。拓馬が通路へ一点集中すると、銀髪の少女を発見した。シド及び大男でないことを拓馬はよろこんだ。
少女は拓馬のもとにくる。ねむるヤマダを見て、不思議そうに拓馬の顔をのぞく。
「こんなところにヤマダをいさせていいの?」
「安全な場所がどこだかわかんねーんだ。お前、知ってるか?」
「はじめに、ここへきたときにいたとこ。あそこがいいよ」
「追試をやる予定だった教室のことか?」
「うん、むこうのすみのへや。あそこはいちばん境《さかい》がうすくなってて、外をこわがる仲間はちかよらない」
「俺らが最初にいた教室が安全なのか……」
言われてみれば、拓馬たちが気絶している間は何者にもおそわれなかった。それが黒い異形たちにとっての不可侵な領域ゆえか。
「それに、シズカはあのへやにくる。使いがそこからきてた」
安全圏かつシズカとの合流場所──とくれば絶好の休憩場所だ。
「それを早く教えてくれよ!」
拓馬は明朗に言い、ヤマダを横抱きで持ち上げた。シドのように軽々とはいかないが、空き教室までは持ちこたえられる。一気に駆け抜けようとしたものの、少女が「わたしがもとうか?」とたずねてきた。
「え……お前が、こいつを?」
「うん」
エリーは拓馬と同じ持ち方でヤマダを抱えた。そのさまはシドと同じく、重さを苦にしない屈強さがある。拓馬はちょっとした敗北感を覚える。
「お前たちはみんな力持ちなのか?」
「たぶん、そう」
こともなげに答えられてしまった。少女は先天的な能力の優秀さを誇る様子なく歩きだした。拓馬も空き教室へ移動を開始する。少女のとなりで歩く最中、ヤマダが倒れた原因について少女にたずねてみる。
「武者の霊を連れて蜘蛛を追っ払ったら、ヤマダが倒れちまったんだ。なんでだろうな」
「しえき、してたから、かな」
「なんだ、その『しえき』って。はたらかせるっていう意味の『使役』か?」
「そう。シズカのつかいとおなじ」
シズカに例えられると拓馬は納得がいった。シズカも、自身の活力と引き換えに異界の獣を呼び出し、活動させている。その関係を構築する術を、ヤマダが意識せずに行なっていた、ということになる。
「あの武者も……ヤマダの力をつかって、蜘蛛と戦ったのか」
「そう。それに、わたしがヤマダから力をとってたせいもあるかも」
その見解は拓馬もうすうす勘付いていた。ふと、なぜ少女がヤマダの力を欲したのか気になりはじめる。
「そういえば、なんでお前は人から力を吸い取ろうとしてた?」
「おはなし、するため……」
「本当に、それだけか?」
会話だけなら黒い化け物の状態でもできはしていた。発話がスムーズにいかない不便さはあっただろうが、会話が成立しないほどではなかったと拓馬は思う。
「化け物の姿でもしゃべれただろ?」
「うん……」
「お前が人に化ける目的……俺らと話をすること以外にもあったんじゃないか?」
「わかんない。そうしろっていわれた」
「お前が人に化けると、いいことがあるのか?」
「たぶん、そう」
少女自身がよくわからないでやっていたことらしい。その目的は司令塔に聞くほかに手立てはなさそうだ。少女に命令をくだす者──そのことに拓馬の意識が向いたとき、とある疑念が再燃する。
(赤毛とは『シド先生が犯人だ』って話をしたけど……確認はとってないな)
拓馬は確実に少女が知っている質問をしかける。
「お前に指示だしてる仲間って、先生なのか?」
少女は答えない。そのへんは口止めされているのだろうか。
「もうだいたいわかってんだ。言ってくれてもよくないか?」
「いっちゃだめっていわれてる」
「マジメなやつだな……」
彼女の実直さはかの英語教師と似通っている。その態度が暫定的な返答としておき、拓馬たちは二階の空き教室に着いた。拓馬は教室の後方の床にリュックサックを置く。
「この上にそいつの頭がのるように、寝かせてくれるか」
ヤマダを運んできた者は床に両膝をつき、そっとヤマダをおろした。
「手伝ってくれて、ありがとうな」
拓馬は感謝ついでに、さらなる依頼をする。
「なぁ、こいつを見ててくれないか?」
「どうして?」
「俺はキツネを捜しにいく。そのためにあそこから蜘蛛を追いだしたんだしな」
「できない」
意外にも少女がきっぱり断る。
「もうじき、シズカがくる。わたしは会っちゃいけない」
「人間じゃないからって、シズカさんは誰彼かまわず倒す人じゃないぞ」
少女はすっくと立ち、なにもいわずに教室を飛び出した。その動作が俊敏だったために、拓馬が引き止める隙はなかった。
(そんなにシズカさんって、人以外には危険な存在なのか?)
赤毛もシズカを忌避していた。あちらは裏であくどいことをしていそうなので、シズカに成敗される事態は理解できる。しかし少女のほうはいまひとつ、シズカが打倒すべき意義を見いだせなかった。
遠ざかる足音を聞きながら、拓馬は幼馴染を見る。
(どうするかな……)
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