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ダーティー・ドッグ・ワルツ

 今回は、Swamp Pop Legendの一人、Warren StormのHuey P. Meaux関連の音源のコレクション、"King Of The Dance Halls 〜 Crazy Cajun Recordings"を聴き返します。
 本CDは、00年に英Edselからリリースされました。


King Of The Dance Halls
Crazy Cajun Recordings
Warren Storm

1. They Won't Let Me In (Wolfe)
2. Jack and Jill (Barry)
3. Daydreamin' (Cantrell, Claunch, Deckelman)
4. Four Dried Beans (Meaux)
5. I Walk Alone (Wilson)
6. Love Me Cherry (Gaines, Willis)
7. Honky Tonkin' (McClinton)
8. Mr. Cupid (Unidentified)
9. Rip It Up (Blackwell, Marascalco)
10. Love Rules the Heart (Thibodeaux)
11. Don't Fall in Love (Love)
12. The Gypsy (Reid)
13. Don't Let It End This Way (Ravett)
14. If You Really Want Me to, I'll Go (McClinton)
15. Tennesse Waltz (King, Stewart)
16. Just a Moment of Your Time (Lewing, Ozuna)
17. Stop and Think It over / Breaking up Is Hard to Do (Graffiano)(Bourgeois, Meaux)
18. The Rains Came (Meaux)
19. The Prisoner's Song (Massey)
20. Think It Over (Meaux)
21. Please Mr. Sandman (Meaux)
22. Blue Monday (Bartholomew, Domino)
23. But I Do (Gayton, Guidry)
24. Things Have Gone to Pieces (Payne)
25. Sometimes a Picker Just Can't Win (Unidentified)
26. King of the Dance Halls (Mayes, Romans)

 最初に通して音を聴いた印象ですが、後半の数曲が明らかに違う時期のものと感じますが、その他については70年代の音源かな、と大した根拠もなく考えました。
 それは、Huey Meauxが70年代後半以降、積極的に50s60sの彼のアイドルをレコーディングしていることを知っていたからです。

 しかし、ライナーを眺めたところ、Warren Stormについてはそんな簡単なストーリーではないようです。
 ライナーは、John BrovenがWarrenから聞き取った数回のインタビューをもとに構成されています。

 簡単にまとめてみるとこんな感じでしょうか。
 
 Warren Stormは、37年にLafayetteから20マイルほど南の町で生まれました。
 今年で75歳になるわけですね。

 58年から63年にかけて、J.D.Millerのもとでスタジオ・ドラマーとして修業したようです。
 この時期、ナッシュビルの綺羅星のようなスタジオ・エースと仕事をし、貴重な経験を積んでいます。
 ニューオリンズでも仕事をし、ドラムのメイン・インフルエンスはアール・パーマーだそうです。

 J.D. Miller発のExcello関連では、Slim Harpo、Lightnin' Slim、Lazy Lester、Lonesome Sundownら、スワンプ・ブルース・マンのバックを務めたようです。
 すごいメンツですね。

 そして、63年にHuey Meauxと契約します。
 ただ当時、Meauxがベースとなるスタジオを持っていなかったため、Miller時代以上に、様々なスタジオで録音に参加したようで、相当の数をこなし、誰が歌うのか知らずにリズム・トラックを録ることは普通にあったようです。

 Huey P. Meauxが、Jacksonにシュガーヒル・スタジオを持ったのは73年のことでした。
 最初は、ヒューストンではなく、ミシシッピのジャクソンにあったんですね。 

 本CDの収録曲では、"The Gypsy"が64年ナッシュビル録音、"Jack and Jill"、"Love Rules The Heart"がジャクソン録音らしいです。
 "The Gypsy"はSir Douglas Quintetもカバーしていました。

 予想に反して、60年代録音がかなりあって少し驚きました。

 その他の収録曲では、Delbert McClintonを2曲もやっているのが眼を惹きます。
 "If You Really Want Me to, I'll Go"は、やはりSir Douglas Quintetがやっています。

 しかし、今回私が一番注目したのは、"Tennessee Waltz"です。
 これは、ライナーによれば67年録音(Tear Drop)らしいのですが、驚くべきことにSam Cookeのバージョン(正確にはOtis Redding盤)を元にしたものになっているのです。
 このサザン・ソウル・スタイルの仕上げはほんとに驚きます。

 テネシー・ワルツといえば、Patti Pageのポピュラー盤が最も有名ですが、オリジナルはヒルビリー(又はウエスタン・スイング)のPee Wee King盤です。
 この州歌にもなった大有名曲は、当初はインストだったところ、歌詞がつけられて広く知られるようになっていきます。

 実は、ヒルビリーのCowboy Copas盤が47年に出され、それが最初のようですが、翌48年に作者のPee Wee King盤、そして50年にPatti Page盤が出て大ヒットします。
 一般的に原曲はPee Wee King、ヒット盤はPatti Pageとして知られています。
 そして、日本では江利チエミ盤ですね。

 パティ・ペイジ盤は、何といってもボーカルの多重録音が印象的でした。
 ビートルズ(とりわけポール)のダブル・トラックを連想しますよね。

 この曲は、あまりにも有名ですが、あえて内容を簡単に言いますと、恋人とダンスを踊っていると、古い友人に出会ったので紹介したところ、二人が恋に落ちてしまい、大切な恋人をとられてしまった。
 あの日流れていたテネシー・ワルツが忘れられない、くらいの歌です。

 この曲の歌詞は、ビル・モンローのケンタッキー・ワルツの影響下に書かれたと言われていて、ケンタッキー・ワルツが聴ける方は、試しに聴き比べてみると面白いと思います。(メロディは全く違います。)
 ケッタッキーでソフトに表現されている部分が、テネシーでは具体的な歌詞になったという感じです。 

 さて、テネシー・ワルツの歌詞は、歌手によって多少の違いがあります。
 基本的には、男性が歌うか女性が歌うかで違います。
 これはHerをHimに変えるという、よくあるパターンで、性別に特化した言葉がない英語では、ごく普通にあることです。

 それよりも、気になるのは出だしで、江利チエミ盤では、一般に知られている"I was dancin'"ではなく、"I was waltzin'"と歌っています。
 これは、カントリーのヒット盤、Paty Cline盤がそうで、江利チエミ盤(日本語まじり盤)を書いた作詞家がパッツィ・クラインが好きだったのかも、なんて思ったりします。
 (ただ、Pee Wee Kingも両方のパターンがあるようです。)  

 さて、サム・クックがテネシー・ワルツを発表したのは、アルバム"Ain't That Good News"で、64年ころだと思います。
 エイトビートのアレンジで、初めて聴いたときは、新鮮というよりフェイクせずにしっとりとバラードで歌えばいいのに、と思いました。
 その後、同じアレンジで、コパのライヴ盤でもやっていて、私はスタジオ盤よりも好きです。

 まず歌の視点ですが、サム盤では「introduced him 〜 (恋人を)彼に紹介した」としているので、男性の立場で歌っています。
 これは、Pee Wee King盤と同じですが、パティ・ペイジもパッツィ・クラインも当然女性視点です。

 また、原曲の「Only You Know 〜 あなたなら分かる」の部分は、パティ・ペイジ盤では「Now I Know 〜 今の私になら分かる」となっていて、大抵その歌詞が使われていると思いますが、サム盤は原曲どおり"Only You Know"です。
 
 でも、今回はそんな程度の話ではありません。

 歌詞の内容は、先述のとおりですが、さっと聴くと「悲しく辛い想い出」くらいのイメージです。
 ところが、サム盤には、原曲にはない歌詞があるのです。
 以下のとおりです。

That dirty dog stole my baby away from me Oh yeah
But I remember that night
And that beautiful Tennessee Waltz
Only you know Just how much, how much I lost Oh yeah
You know that I lost my, lost my baby
That night they kept on playin'
That beautiful
That wonderful
That marvelous
That glorious
That beautiful Tennessee Waltz

 実は、この歌詞を初めて意識したのは、柳ジョージ&レイニーウッド盤(80年:Woman and I...Old Fashioned Love Songs収録)でした。

 初めて聴いたときは、弾むような最高のアレンジに、心底驚いたことを覚えています。
 これが、サム・クックをお手本にしたものだと気づいたのはかなり経ってからでした。
 ("Good News"も"At Copa"もあまり聴いていませんでした。)
 昨年の訃報で一番ショックを受けたのは彼の訃報でした。

 歌詞に戻りましょう。
 まず、印象的なのは、締めの歌詞、"beautiful Tennessee Waltz"にいくまでにタメにタメることです。

 ザット・ビューティフル
 ザット・ワンダフル
 ザット・マーベラス
 ザット・グローリアス

 ときて、ようやく
 ザット・ビューティフル・テネシーワルツ

 と決めの歌詞へ到達するのでした。
 この部分は、何度聴いてもわくわくさせられます。

 さて、最初の印象はそうなんですが、実は何度も聴くうち、耳について離れない歌詞は他にもあることに気付きます。

 "dirty dog stole my baby away from me" です。
 「卑劣な犬が私から彼を盗んで逃げた」

 この歌詞からは、なんとも女性の怨念を感じますね。
 マイ・ベイビーなので、性別は特定できませんが、この言い回しの主は女性じゃないでしょうか?
 日本的な言い回しなら「この泥棒猫 !」なんて言葉を連想します。

 サムは男性視点で歌っているはずなので、私の感じ方が偏っているのでしょうか?
 
 しかし、何よりも気になるのは、この歌詞の出所です。
 アレンジはともかく、この歌詞は、サムのオリジナルなんでしょうか?
 気になります。
 もし、サムのオリジナルではなく、誰かのお手本があるのなら知りたいです。

 分かる範囲の時系列では、こんな感じでしょうか。

47年 Cowboy Copas
48年 Pee Wee king
50年 Patti Page
59年 Bobby Comstock (rock vir.のはしり。ただし歌詞は従来のもの。)

……この間にミッシング・リンクがあるのか? それともサムの独創?

64年 Sam Cooke (歌詞を追加。以下はSam盤の追加歌詞を準用。)
66年 Otis Redding (Sam盤をもとにテンポを落としている。)
67年 Warren Storm (Otis盤を意識している。)
76年? 柳ジョージ (アルバトロス"Take One"の客演。サム盤を意識したアレンジ)
80年 柳ジョージ&レイニーウッド (Woman and I...Old Fashioned Love Songs収録) 

 (補足) 
 柳ジョージは、レイニーウッドのデビュー前、アルバトロスというバンドにゲスト参加した音源が貴重です。
 ここでは、"Change Is Gonna Come"、"You're No Good"、"Tennessee Waltz"の3曲をやっていますが、"Tennessee Waltz"は、既にサムをお手本にやっていて、80年のレイニーウッド盤の原形です。





Tennessee Waltz by 柳ジョージ&レイニーウッド




Tennessee Waltz by Sam Cooke at the Copa









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