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蘇る銀狼

 やっとこさひとつの壁を乗り越えた気分です。
 なんだか大層な出だしですが、他人様から見れば中身は大したことではありません。

 私は、大好きにも関わらず、根強く抱いていたCharlie Richに対する「ある思い」を克服したのでした。


Behind Closed Doors
Carlie Rich

1. Behind Closed Doors
2. If You Wouldn't Be My Lady
3. You Never Really Wanted Me
4. A Sunday Kind of Woman
5. Peace on You Listen
6. The Most Beautiful Girl
7. I Take It on Home Listen
8. 'Til I Can't Take It Anymroe
9. We Love Each Other
10. I'm Not Going Hungry
11. Nothing in the World (To Do with Me)
12. Mama, Take Me Home [*]
13. Ruby, You're Warm [*]
14. Papa Was a Good Man [*]
15. I've Got Mine [#][*]
 

 すみません。
 繰り返しますが、大したことではありません。

 持って回った言い方をしている中身は、ごく単純なことです。

 私は、チャーリー・リッチが大好きですが、そのキャリアの全てが好きと言う訳ではなく、限定的でした。
 具体的には、50年代と60年代のサン・レコードとハイ・レコード時代が、もう愛おしさで胸が一杯になるほど好きなのですが、その他の時代はいまいち好きになれなかったのでした。

 これは、食わず嫌いな面が多分にあり、いつか克服する試みをしたいと思っていました。
 
 私のトラウマ、というか悪い印象として刷り込まれていることがあります。
 それは、私が初めてカントリーを系統的に聴いた、コロンビア系列のカントリーのコンピ・シリーズに関連します。
 ほぼ年代順に組まれたそのシリーズは、カントリーのサウンドの歩みを大別して、CD各1枚ごとに編成したものでした。

 黄金時代、ホンキートンク、ナッシュビル・サウンド、アメリカーナ、ニュー・トラディションといったテーマのくくりでコンパイルされていたのです。

 チャーリー・リッチは、このうちナッシュビル・サウンド編に収録されていました。
 この流れで聴いたことが、現在まで続く、私のリッチに対する後ろ向きな姿勢の原因となりました。

 この時聴いたのは、The Most Beautiful GirlBehind Closed Doorsではなかったかと思います。
 まさに、今回のアルバムの中心曲ですね。

 私は、カントリーを初めて系統的に聴いたとき、30年代から40年代の名曲の魅力を知りました。
 その素晴らしい作品たちに心底ほだされたのです。
 とりわけ、30年代の名作群が私の心に強く印象づけられたのでした。

 また一方、ニュー・トラディション(新伝統派)という、30年代の黄金時代や60年代のコースト・カントリーを現代に蘇らせたスタイルも、私を興奮させるに充分なものがありました。

 そんな中聴いた、ナッシュビル・サウンド編は、私にはあまりにも商業主義的なサウンドに聴こえたのです。
 ナッシュビル・サウンドは、ロックンロールの嵐が吹き荒れ、壊滅的打撃を受けたカントリーが、起死回生として打ち出した、ポップスと限りなくクロスオーバーしたサウンドでした。

 主として、RCAのチェット・アトキンスの主導により作られた、イージー・リスニング的なサウンドで、当時はロックッンロールへのカントリーの逆襲ともいうべきもので、多くの保守的なリスナーに受け入れられたのでした。

 振り返って聴くと、これといった個性がないサウンドのように感じますが、当時はロック・サウンドの流行に憤懣やるかたない思いを持っていた人々に、大いに溜飲を下げさせたのでした。

 こういったサウンドや、ビジネス・スタイルへのアンチテーゼとして、オースティンのレッド・ネック・ロックは生まれてきたのだと思います。

 ともかく、最初に聴いた状況がよくなかった、ただそれだけのことを言いたくて、くだくだと書いてしまいました。

 チャーリー・リッチのサンやハイ(ディアブロ)などの音源に大感激しながらも、70年代以降の作品に後ろ向きな印象を持ったきっかけです。

 その後、いくどか聴こうと思いましたが、つい最近まで逡巡し続けていたのです。
 それには、もうひとつの理由もありまのす。
 実は、後年の吹き込みが好みじゃないというだけではなかったのです。

 私は、サンとハイの間に位置するスマッシュ時代の音源も、いまいちピンと来なかったのでした。
 このため、私は呪文のように小声で言い続けてきたのです。

 チャーリー・リッチ大好き、ただしサン時代とハイ時代限定…と。

 そんな私の心が氷解し始め、今回思い切ってトライしたのには、ふたつの理由があると思います
 
 ひとつは、YouTubeです。
 YouTubeは、文字情報の検索にはない、ダイレクトな情報の供給を容易にしてくれました。
 ここでいくつか聴いた、リッチの70年代以降のパフォーマンスに心を動かされたのでした。

 そして、もうひとつは、私が年齢を重ねたことでしょう。
 かつては拒否していた音楽のいくつかを、近年の私は素直に聴くことができるようになりました。
 カントリーについても、同様の微妙な変化が私のなかで生まれていったのだと思います。

 さて、くどくどと書き連ねてきましたが、今回のアルバムは、いくつものレーベルを渡り歩きながら、商業的成功と無縁だったリッチが、初めて成功を手にした時期のものです。

 ビリー・シェリルが制作したこのアルバムは、No.1ヒットを収録し、アルバムとして、またボーカリストとしても多くの賞を受け、リッチは、まさに人生の絶頂期を迎えました。
 このアルバムは、73年にエピックからリリースされました

 ここでは、別のアルバムからの追加曲数曲と、未発表1曲を含む内容になっています。
 
 今の私には、この音楽は「あり」です。
 かつて、ジョニー・キャッシュが、サム・フィリップスに求めて叶えられなかった、流麗なストリングスがバックに流れています。
 このあたりが、以前はなんとも受け入れがたいもでしたが、いまの私にはさほど気にならなくなりました。

 これはひよりでしょうか。

 私は思いたいのです。
 リッチが深く静かに保持し続けていたソウルに、現在の私は、表面のサウンドに捕らわれることなく聴くことができるようになったのだと…。

 サンやハイのサウンドが好きなのは不変です。
 しかし、ここでのリッチの音楽は、全否定する根拠など全くないと思うようになりました。

 そういう思いで聴くと、ここにも確かに、リッチの根源的な魅力を聴きとることができるのでした。
 私の頑固な先入観は、数十年を経て、やっとときほぐすことが出来たようです。

 私は今、彼のキャリアをもっと掘り下げていきたいと、素直に思いだしています。 




A Sunday Kind of Womanです。




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チャーリー・リッチのこの1枚


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