経済的に自立するまで、お金に困ったとか、ひもじい思いをしたことは一度もない。
就職した後も仕事は安定していたし、日本を離れた今も生活は困っていない。
まだ小学生だった頃、隣席の男子生徒がいつもある子に向かって「下流家庭」と言っていた。
当時のあたしは『下流』の意味を知らなくて、隣席の男子生徒にどういうことかきいたのだが、
あの子の家庭が本当に貧困かどうかは、あたしには当然わかるはずがなかった。
いつも隣席の男子に「下流家庭」と言われていた子は、いつも怒って「違う!」と言っていた。
しかし、今になって考えてみればあの子の家は決して裕福ではなかったことがわかる。
小学生の頃に、長期休暇の宿題で『親の仕事に就いて調べて掲示物をつくる』というものがあった。
あたしは父親の仕事に就いて調査し、そのことを8つ切り画用紙にまとめた。
その時に、ふと『下流家庭』という言葉が気になって、その子の掲示物を見たことを覚えている。
『ぼくのお父さんはスリッパ工場で、スリッパをつくっています』と書かれていた。
別に工場勤務が低所得ということではないし、当時は当然そんなこと思うはずもない。
でも、今だからわかるのは、雇用形態がどうだったのか−−あの子の持ち物や洋服を思い返してみると、
なぜ『下流家庭』と言われていたか、かわいそうだけど納得できてしまった……
この子はクラスで特別目立つわけではないし、普通にみんなに馴染んでいた。
あたしもこの子に対して、この件以外では一切印象は残っていないのだけど、
数年前に、たまたま地元でこの子に似た男性を見かけたことがあったので思い出した。
その子は、もう30歳になろうというのに、小学生のような違和感しかない服装をしていた。
いくらダサいと言っても、白いハイソックスにジャージの短パン、
靴流通センターで買ったようなノーブランドのスニーカーを合わせることは、考えられない。
でも、その子はそんな服装をしていたので、あたしには強烈に印象に残ってしまった。
ちらっと見かけただけだから、その彼がどうしているのかは知らない。
失礼ではあるけど、あの異質な服装から考えると、どうしても『普通』に過ごしているとは思えない。
別に不審な行動をしていたわけでもないけど、どうしてもあの違和感ある服装が、気になるのだ。
外見だけで判断するのは良くないことも、重々承知している。
ただ、本当にファッションについて無頓着なだけで、
仕事の時は制服着用で、いたって真面目に働いているかもしれない。
でも、あの小学生のような洋服の組み合わせには、少し恐怖を感じてしまったことも事実。
とは言え、一同級生として彼にはもちろん幸せでいてほしいと思う。
彼自身が俺は幸せだ、と思えているのであれば、それでいい。
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