2017年11月21日

拓馬篇前記−新人6

 男は大力会長の審査を経た。無事に才穎高校の採用試験にこぎつける。すでに大力のほうから大体の男の希望を学校へ伝えてあり、了解を得たという。なにからなにまで順調にいっていると男は感じた。だが油断はできない。男を試験の場へ案内する熟年の女教師は、男を怪訝なまなざしで出迎えてきた。彼女は教頭だという。
 教頭は短すぎる勤務期間を要求してきた男をあまり歓迎していない。開口一番で「裏に大力会長がいるからといって甘くは見ませんよ」と宣戦布告した。その言葉自体は男に異論がなかった。無能な人材を権力に屈して雇用することなど愚の骨頂。その害をこうむる子どもが哀れだ。
 男はにこやかに「承知のうえです」と答えた。内心、この女教師は自身の利益になりにくい存在だと判定する。教頭という地位の高さもあり、もしも校内では彼女の決定権が強いのならまずいことになる。男は不合格認定を食らってしまいそうだ。
(この人が面接官だったら、手強いだろうな)
 懸念を抱えたまま、空き教室にて筆記試験を受ける。問題内容は二種類。高校生が習う主要科目の試験と、社会人としての一般教養の試験。それぞれ持ち時間は三十分で解くという。はじめに高校の範囲の問題を解答し、のちに教養問題に取り組む。はじめの問題が解けたあと、教頭は男の答案を教卓で採点した。
 すべての筆記試験をやり終えたころには教頭の目つきが変化していた。「そこそこやりますね」といった微妙な感心を帯びているようだった。男の手応えはかなりあったので、彼女がそう思うはずだという思い込みの影響で見えただけかもしれない。
 次は面接だ。男は教頭の案内を受け、校長室へと向かった。道中、意外にも教頭が試験に無関係な雑談をする。
「新二年生には身内のパパラッチ被害のせいで転入する生徒がいます。デイルさんが採用されたあかつきには、この生徒の面倒も看ていただきたい所存です。覚悟はよろしいかしら」
 脅しのような忠告だ。しかし裏を返せば、男は才穎高校の教員たりうる人間だと教頭が認めたということでもある。そうでなくては採用後の話をしないだろう。男は「はい」とこころよく返事をした。
 その後は無言の移動がはじまる。上階から足音が響くのがよく聞こえた。男は近くの階段を見上げる。階段の踊り場には女子生徒がいた。彼女は長い黒髪を後頭部の高い位置に結わえている。その髪は女子が急停止すると大きく揺れた。
 女子生徒は目をみはり、男を射るように見つめる。彼女の視線には驚きと好奇が混じっていた。常識に当てはめてみると当然の反応だ。見知らぬ人間が、彼女らのテリトリーを闊歩しているのだから。しかしこの反応が生粋の初対面の人に対するものでないと、男は知っていた。
(少々、予定が狂ったか)
 彼女に既視感を与えぬよう、本採用後は微妙な変装をするつもりだった。今日、出会うのは想定外である。
 男はよそいきの表情をつくろう。女子に向けて頭を下げた。紳士的な会釈をやり終えてみれば、女子の真っ黒な頭頂部が見える。彼女は礼に応えてくれたのだ。その純朴さを男は気に入った。礼には礼を。恩には恩を。そういった礼儀の在り方が共有できる者を見ると、男は懐かしい思いで胸がいっぱいになる。
「デイルさん?」
 先導していた教頭が男に呼びかける。教頭の位置では階段にいる生徒を視認できない。男は仔細を述べず「なんでもありません」と教頭に言う。女子生徒のことは一旦きれいに忘れ、早歩きによって教頭との距離の差をちぢめた。
 教頭が校長室のドアをノックする。教頭はドアを開いたが入室しない。
「どうぞお入りください」
「教頭先生は?」
「わたくしは面接に参加いたしません。筆記試験の採点がありますので」
「そうでしたか。では採点のほど、よろしくお願いします」
 男は必要以上の喜色を浮かべないよう心掛けながら教頭に一礼する。男が校長室に入ると教頭は静かにドアを閉めた。
 室内には応接用のソファに一人の中年男性が座っている。ほかには誰もいない。その中年が立ち上がる。
「やあデイルさん! じつはあなたの面接をする教員がまだ来ていなくてね。それまで私と話さないかね」
 中年は楽しそうだ。仕事ぬきで男を客として歓迎するようである。男は彼が羽田校長であるとは誰にも説明を受けていないため、確認をとる。
「あの、失礼ですが……羽田校長先生でいらっしゃいますか?」
「ああ、失敬失敬。名乗っていませんでしたな。そうです、私が校長の羽田です」
 羽田校長は男を手招きする。彼の招聘に応じた男がソファの前に立った。すると校長は男の手を固く握る。
「いや〜、こんなにハンサムだとは予想外だ!」
 中年は有名人にでも会ったかのような、異様なはしゃぎようを見せた。

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