2022年10月17日
呪いの部屋 (巣くうもの A)
何でも、Aが、もう1人学生時代の友人(Fとします)に誘われて、二人でB宅を訪問してきたそうです。
「何か」が今もいるのか、そして何よりBの子供は普通なのかどうかが知りたかったと。
最も帰って来た後の話を聞くと「……行くんじゃなかった……」と言っていましたが。
Aによると、Bは郊外のやや長閑なところに住んでいて、喜んで迎えてくれたそうです。
休日だったので、B夫と子供も居て挨拶したと言っていました。
そして結論から言って、やっぱり「何か」はBの中に居たそうです。
……しかも、A曰く「育ってた」と。
大きくなってたと言うか強くなってたと言うか、ハッキリしてきたと言うか。
「やっぱり形とか顔とか、そういう輪郭は見えないんだけどね。霧だとしたら『濃くなってた』、人影だとしたら『立体的になってた』って感じで。気配も強くなってて、撒き散らす匂いっていうか放射能みたいなものが増えた感じで、正直ぞっとした」
また、AとFが最寄り駅に降りたときから、街そのものが酷く嫌な感じが漂ってたそうです。
「みえるひと」でない、Fさえも落ち着かない様子で、
「……何だか変わった感じがするとこだね。子供が多いわりに静かだからかな? 少し早いけど、お店入るよりBの家いかない?」
と言うほどだったと。
Aは、Bの家に向かう間の短い道すがらに、霊的に酷く悪い状態のものを驚くほど大量に見たそうです。
酷い死に方をして浮かばれないんだ、と一目で判るのとか、性質の良くない動物霊とかかもうウヨウヨしていたと。
正味の霊だけじゃなくて怨念じみた空気の塊?みたいなものとか、物凄く古そうな嫌な気配とか、得体の知れないモノが寄ってきたりして、本気で恐かったそうです。
「街は邪念にまみれてるみたいで怖かった。1人だったら引き返してたと思う。でもFに礼の話とかして変だと思われたくなかったし、もう後ろに憑いてきちゃってるのもいたみたいだったから。Bの家に行けば何とかなる、と思って、そのまま行った」
それで急いでB宅に着くと、その中は相変わらず何も近寄れないらしく、B宅内はBの背負ってる『何か』の気配が充満している他は綺麗なもので、むしろホッとしたそうです。
「B夫もBの赤ちゃんも普通だったよ。ただ、そっち系について物凄く感受性がない人だった。元からいいものも悪いものも全然感じなくて、だからどっちの影響なんて受けなくて、一生『こっち』の現実の世界だけと関わって生きる人が、たまに居るんだよね。Bと一緒に暮らすなら、そうでないとダメだと思う。B夫も赤ちゃんも、守護霊が見えなかったから。守護霊もあの家に居られなくて、いなくなったんじゃないのかな」
……守護霊いないって、大丈夫なんだろうか。
2人がBと居ないときは守護霊が戻って来てるのか、とAに訊いてみましたが、そこは解らんとのことでした。
何はともあれ、久しぶりに会ったんで互いに近状報告したら、Bの趣味、と言うか階段好きも健在だったそうです。
そこそこ新しく、立地も良く広々として立派な部屋だったので、Fが褒めると、何とB宅は、札付きの瑕疵物件だったらしく……結構な頻度で住人が変わるせいで、大して古くもないのにB一家は10何番目かの住人だそうでした。中で事故や自殺が複数あり、他にも不幸があって出て行った住人がいたりして評判の部屋になってしまっていたため、家賃は破格の安置だったとか。
「不動屋さんも案内してくれたけどあんまり勧めてくれなかったしね〜。近所の人も知ってて、『本当に大丈夫?あのね、何かあったら無理に我慢しなで引越した方がいいよ。こんな話して悪いんだけど、その部屋、色んなことがありすぎるから…………気をつけてね』って心配されちゃったよ。でも、この人(B夫)そういうの全然気にしないし、私はむしろ幽霊がいるなら見てみたいし〜」
のほほんと笑いながらBは言ったそうでした。
「でも結局、そういうのって話ばっかだよね。うち、もう半年住んでるんだけど、全然なにもないよ。近所でも事故とか結構あるし、踏み切りではねられちゃった子供もいたし、気をつけなきゃ危ないのは同じなんだよね。偶然この部屋の人に集中したから、降ろいの部屋にされちゃったんだろうね」
……Fは「そうだよね」と頷いたそうですが、Aは顔が引きつるのをこらえるのがやっとだった、と言っていました。
A曰く。
おそらくその部屋は、本物の『呪いの部屋』だったんだと言う事でした。
何かのきっかけで悪いものの溜まり場になってしまう場所、というのがあるんだそうです。
霊的な位置関係とか、近くに沼や海があるとか、その方向で色々なことのせいで、悪いものを吸い寄せて溜め込んでしまうポイントができてしまうことがある、と。
「それが建物の中で気密性の高い部屋だったりすると、よけいに溜まったものが出てかなくなるの。そこに悪いものが溜まるから他の場所が綺麗でいられる、ってこともあるから。……そこにBが住み始めたんだよね、いきなり」
それは、つまり。
Aの表現したところでは
「町中のゴキブリとかムカデとかスズメバチとかを全部集め続けてきた害虫で一杯の小屋の真ん中で、不意に特大のバルサンをたきまくったようなもの」
だそうでした。そしてAは、こうも言っていました。
「Bのことが嫌いなんじゃないけど、2度とBの家にもあの辺りにも行かないと思う。……もっと散らばったりして落ち着いた状態になるまで、何年もかかりそうな様子だった」
Aの言葉では、B夫とBの子供は大丈夫だろうということでした。
一緒に暮らしてる限り、Bの「何か」の気配が色濃く染み付き続けるから、大概のものは避けていくし、そもそも霊的なものに害を受け難い性質だから、と。
現に、帰りにB夫が外出のついでに駅まで送ってくれた時は、道にたむろしてる悪いものはむしろ避けていたそうで。
……問題は、おそらく付近に住んでいる人だろう、と……何か、後味の悪い話になってしまいました。
呼んでくれた人、どうも。
後味悪くてすまん。
俺も何かスッキリしなくて、吐き出したかったんだ。
多分、Aもそうだと思う。
Aは「みえるひと」だけど、だからって漫画に出てくるスーパー霊能者みたいなことはできないんだと言ってました。
絶対に勝てない、何もできないと解ってるものには関わらないようにしてる、いちいち手を出してたら今まで生きのびていない、ともらしたのを聞いた記憶があります。
ただ、何も見えないのに危険は自動的に防がれるBは羨ましくないか、と重ねて尋ねた時は、重そうにハッキリと首を横に振っていました。
「絶対に、思わない。あんなモノ身体の中に住みつかれて自分で気づいていない、なんて死んでも嫌。上手く説明できないけど、結果として助けて貰ったことがあっても、アレは感覚が受け付けない」
とのことです。
普通の霊と何が違うのか、との質問に対する答えは
「情念がない」
でした。
「違和感について説明し難いけど、解りやすく言うとね。霊ってある意味で心がむき出しで存在しているようなものだから、人でも動物でも、必ず何か居ろ、っていうか想いが見えるんだよ。『生きたい』とか『苦しい』とか、シンプルなものでも。その情念に基づいて、こっちの世界で祟ったり守ったりするんだから。でもBのアレは、それが見えない。何か意思があって能動的に動いてるのは解るんだけど、その源になる想いが一貫して全く無い。Bの中から出てくる時も、Bの中に戻っていく時も、井戸から出てきたモノとぶつかった時でさえ、全くなかった。霊的なものとしては、絶対にありえないことなんだよ」
……本当に何なんだろうか?
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