2022年05月10日
危険な好奇心10
さっそく、明日の放課後、裏山に二人で行く事になった。
明日の放課後、裏山に行く。その話が纏まり、俺達は家に帰ろうとしたが、『中年女』が何処に潜伏しているのか解らない為、俺達は恐ろしく遠回りした。
通常なら20分で帰れるところを二時間かけて帰った。
家に着いて俺はすぐに慎に電話をした
『家とかバレてないかな?今夜きたらどーしよ!』
などなど。俺は自分で自分がこれほどチキンとは思わなかった。
名前がバレ、小屋に『淳呪殺』と彫られた淳が精神的に病んでいるのが理解できた。
慎は『大丈夫、そんなすぐにバレないよ!』と俺に言ってくれた。
この時俺は思った。普段対等に話しているつもりだったが、慎はまるで俺の兄のような存在だと。
もちろんその日の夜は眠れなかった。
わずかな物音に脅え、目を閉じれば、あのニヤッと笑う中年女の顔がまぶたの裏に焼き付いていた。
朝が来て、学校に行き、授業を受け、放課後、午前3時半。
俺と慎は裏山の入口まで来た。
俺は山に入るのを躊躇した。『中年女』『変わり果てたハッピーとタッチ』『無数の釘』
頭の中をグルグル鮮やかに『あの夜の出来事』が甦ってくる。
俺は慎に様子を伺った。慎は黙って山を見つめていた。慎も怖いのだろう。
『やっぱ、入るの怖いな…』
と言ってくれ!と俺は内心願っていた。
俺はズボンからインスタントカメラを取り出し、右手に握ると、俺の期待を裏切り
『よし。』
と小さく呟き、山に入るとすぐさま走り出した。
俺はその後ろ姿に引っ張られるように走りだした。
慎は振り返らずに走り続ける。
俺は必死で慎を追った。一人になるのが怖かったから必死で追った。
今思えば慎も怖かったのだろう。怖いからこそ周りを見ずに走ったのだろう。
『あの場所』が、徐々に近づいてくる。
思い出したくもないのに『あの夜』の出来事を鮮明に思い出し、心に『恐怖』が広がり出した。
恐怖で足がすくみだした時、『あの場所』に着いた。そう、『中年女が釘を打っていた場所』『中年女がハッピー、タッチを殺した場所』『中年女に引きずり倒された場所』
【中年女と出会ってしまった場所】
俺は急に誰かに見られているような気がして周りを見渡した。いや、『誰かに』では無い、中年女に見られているような気がした。
山特有の『静寂』と自分自身の心に広がった『恐怖』がシンクロし、足が震えだす。
立ち止まる俺を気にかける様子無く、慎はあの木に近づきだした。
何かに気付き、慎はしゃがみ込んだ。
『ハッピー…』
その言葉に俺は足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。
ハッピーは既に土の一部になりつつあった。頭蓋骨をあらわにし、その中心に少し錆びた釘が刺さったままだった。
俺は釘を抜いてやろうとすると、慎が『待って!』と言い、写真を一枚撮った。
慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わずに俺は再び釘を抜こうとした。
頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、頭蓋骨の中から見たことの無い、多数の虫がザザッと一斉に出てきた。
『うわっ!』
俺は慌てて手を引っ込め、立ち上がった。
ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。それどころか、吐き気が襲って来てえずいた。
慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。
俺はあの夜、ハッピーを見殺しにし、又、ハッピーを見殺しにした。
俺は最高に弱く、最低な人間だ。
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