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2015年04月10日
戒めの塔
この槍の元の所持者は、物腰が柔らかで、礼儀正しく、清潔な性格であったが、己のある性格を恥じ、人を避け、弟たちと森で密やかに暮らしていた。
しかし、ある時、世界を恐怖に陥れた帝国軍に家を襲撃され、弟達を皆殺しにされたその者は、深い悲しみのうちに自害を果たそうとしたが、それもできず、その時近くにいた妖精と契約をしてしまう。
契約者となり、その代償に己の視覚を奪われたその者は、世界を恐怖から救う為、立ち上がり帝国軍との戦いに身を投じていった。
救世主とともに、世界を恐怖から救ったその者だったが、幼き同性を狂気的に愛おしく感じてしまう愚かな性癖は直らず、今も己を恥じ、ひっそりと暮らしている。
しかし、ある時、世界を恐怖に陥れた帝国軍に家を襲撃され、弟達を皆殺しにされたその者は、深い悲しみのうちに自害を果たそうとしたが、それもできず、その時近くにいた妖精と契約をしてしまう。
契約者となり、その代償に己の視覚を奪われたその者は、世界を恐怖から救う為、立ち上がり帝国軍との戦いに身を投じていった。
救世主とともに、世界を恐怖から救ったその者だったが、幼き同性を狂気的に愛おしく感じてしまう愚かな性癖は直らず、今も己を恥じ、ひっそりと暮らしている。
2015年04月09日
皇帝の槍
皇帝たる資格を問う、神性を持つ槍。覇者たることを望む戦士達の間を渡り歩くといわれている。今は昔、天下に覇を唱えんとする一人の武者が、槍を手にした。
槍は武者に問う。「覇者たるものが有する、武の役割とは何か?」武者は答えることができなかった。武者は槍の力を持って一国を興したが、国は十年と数えぬうちに亡びた。
国が亡びた際、一人の将が槍を持って落ち延びた。将がいくら逃げようとも追手がそれを赦さなかった。やがて将が追手に囲まれ、死を覚悟した時、槍は将に同じ問いをかける。将は静かに答えた。「武の役割は七つ、ひとつは…」
将が答え終わらぬうちに、槍は将の体を雷で纏い、追手を撃ち払った。…その後、将は一代にして大帝国を築き、国は千年の後にもその栄華を誇ったという。
槍は武者に問う。「覇者たるものが有する、武の役割とは何か?」武者は答えることができなかった。武者は槍の力を持って一国を興したが、国は十年と数えぬうちに亡びた。
国が亡びた際、一人の将が槍を持って落ち延びた。将がいくら逃げようとも追手がそれを赦さなかった。やがて将が追手に囲まれ、死を覚悟した時、槍は将に同じ問いをかける。将は静かに答えた。「武の役割は七つ、ひとつは…」
将が答え終わらぬうちに、槍は将の体を雷で纏い、追手を撃ち払った。…その後、将は一代にして大帝国を築き、国は千年の後にもその栄華を誇ったという。
2015年04月08日
霞切り
ある小さな村のほとりに小さな池があった。この池は愛し合う少年と少女が離れる際に流した涙からできたという。村にはその残された少年が住んでおり、もう一度少女に会いたいと強く願いつづけていた。
ある時その池に宿る神が少年のもとに現れ、賭けを持ちかけた。遙か北西にそびえる山にしか咲かない露草を持ち帰ることができれば少女を連れ戻すと。すぐに旅立った少年は幾たびの困難の末、北西の霞がかる山の中にある村をみつける。その村には離れた少女がいた。
少年と少女は涙を流し再会を喜んだ。小さな川が流れる小さな村で、離れていた時を取り戻すかのように二人は一日中語りつづけ、結婚することを誓う。少年は願いがかなったことにやすらかな笑みを浮かべる。しかしそれは深い霧の中で見た幻影であり、少年はまもなく息絶えた。
またここにひとつかなわぬ恋がうまれたことに神は涙を流した。この槍はその涙をこの武器に込め、俗世での二人の幸せを願ったものだという。
ある時その池に宿る神が少年のもとに現れ、賭けを持ちかけた。遙か北西にそびえる山にしか咲かない露草を持ち帰ることができれば少女を連れ戻すと。すぐに旅立った少年は幾たびの困難の末、北西の霞がかる山の中にある村をみつける。その村には離れた少女がいた。
少年と少女は涙を流し再会を喜んだ。小さな川が流れる小さな村で、離れていた時を取り戻すかのように二人は一日中語りつづけ、結婚することを誓う。少年は願いがかなったことにやすらかな笑みを浮かべる。しかしそれは深い霧の中で見た幻影であり、少年はまもなく息絶えた。
またここにひとつかなわぬ恋がうまれたことに神は涙を流した。この槍はその涙をこの武器に込め、俗世での二人の幸せを願ったものだという。
2015年04月07日
背理の鎌
皆に慕われている若者がいた。川や谷を飛び回る若者は風を操ることができたらしい。そんな明るく元気な若者にもひとつ気になっている事があった。
数年経ち父親が他界した。若者はとても悲しんだ。だが父が亡くなる前に若者にある一言を残した。それは若者が昔から気にしていた、自分からは口にしなかった母親のことだったのだ。
「この地図の場所へ行きなさい」そう言い残した父親から託された鎌と地図を手に取り、何かに誘われるよう地図が示す場所を目指した。どれぐらい時間が経ったであろう。森を抜け、海を越え、山を翔けてきた若者はすでに歩く気力もない。ふとひとつの村が若者の目に入った。
長と呼ばれる者が迎えてくれた。この鎌は村の物らしい、そして逢わせたい人がいると言った。綺麗な女性が入ってきて、若者は一目見て自分の母親だと感じた。若者はその後母親と幸せに暮らしながら、風の精霊と人間の仲を取り持ち共存が始まった。以後その鎌が使われることはなかったという。
数年経ち父親が他界した。若者はとても悲しんだ。だが父が亡くなる前に若者にある一言を残した。それは若者が昔から気にしていた、自分からは口にしなかった母親のことだったのだ。
「この地図の場所へ行きなさい」そう言い残した父親から託された鎌と地図を手に取り、何かに誘われるよう地図が示す場所を目指した。どれぐらい時間が経ったであろう。森を抜け、海を越え、山を翔けてきた若者はすでに歩く気力もない。ふとひとつの村が若者の目に入った。
長と呼ばれる者が迎えてくれた。この鎌は村の物らしい、そして逢わせたい人がいると言った。綺麗な女性が入ってきて、若者は一目見て自分の母親だと感じた。若者はその後母親と幸せに暮らしながら、風の精霊と人間の仲を取り持ち共存が始まった。以後その鎌が使われることはなかったという。
2015年04月06日
血族の紋章
ある国に大変仲の良い二人の王子がいた。兄は剛の武術を学び、弟は柔の武術を学んでいた。二人は互いの技を高め合うべく、稽古を重ねた。
二人の王子は、その師に質問した。剛の武術と柔の武術、どちらがより優れているのか?と。師は二人に一本の槍を差し出した。
良い槍は、硬く鋭い槍先と、柳のようにしなる柄を備えておる。剛と柔ふたつを競うのではなく、合わせて統べるのだ。と老いた師は語った。
その後、師は老衰により他界した。師が残した槍は、師の亡骸と共に墓へ埋葬し、王子達は生涯互いを支えあって生きると亡き老師に誓った。その後、国は大いに栄えたという。
二人の王子は、その師に質問した。剛の武術と柔の武術、どちらがより優れているのか?と。師は二人に一本の槍を差し出した。
良い槍は、硬く鋭い槍先と、柳のようにしなる柄を備えておる。剛と柔ふたつを競うのではなく、合わせて統べるのだ。と老いた師は語った。
その後、師は老衰により他界した。師が残した槍は、師の亡骸と共に墓へ埋葬し、王子達は生涯互いを支えあって生きると亡き老師に誓った。その後、国は大いに栄えたという。
2015年04月05日
王位簒奪者の槍
長き戦いの末、ついに男は王の心臓に槍を突き刺した。絶命する王。歓声と共に革命軍が、一気に城へなだれ込む。これで…この国は悪政から解き放たれ平和になるだろう。男の顔に、笑みがこぼれた。だが…それもすぐに消えた…。
最後の戦い…どうも腑に落ちない。なぜ王は抵抗せずに死んだのだ。いや、それどころか自ら命を捧げた様子にも見えた…。あれが…国民に悪政を強いてきた王の姿だろうか。悩む彼の元に仲間から王の間に来るように連絡を受ける。
仲間と共に王の間に向かう男。そこには…何者かに拘束されていた姫の姿があった…。そして…姫の口から驚くべき真実を知る…。姫は、長い間、隣国の者に人質に捕られていたのだ。王は脅され続けていた。姫の目から涙がこぼれる…。
男はその場で姫の命を奪った…。確かに王は、娘のために、仕方なく悪政を強いてきたのかもしれない。だが今、必要なのは真実ではない。苦しみ虐げられた国民が立ち上がり憎き王を討つという“真実”のみ。真実は闇の中……男は王となった。
最後の戦い…どうも腑に落ちない。なぜ王は抵抗せずに死んだのだ。いや、それどころか自ら命を捧げた様子にも見えた…。あれが…国民に悪政を強いてきた王の姿だろうか。悩む彼の元に仲間から王の間に来るように連絡を受ける。
仲間と共に王の間に向かう男。そこには…何者かに拘束されていた姫の姿があった…。そして…姫の口から驚くべき真実を知る…。姫は、長い間、隣国の者に人質に捕られていたのだ。王は脅され続けていた。姫の目から涙がこぼれる…。
男はその場で姫の命を奪った…。確かに王は、娘のために、仕方なく悪政を強いてきたのかもしれない。だが今、必要なのは真実ではない。苦しみ虐げられた国民が立ち上がり憎き王を討つという“真実”のみ。真実は闇の中……男は王となった。
2015年04月04日
ハンチの槍
西の城下町の彫金屋の主人は、貴族の甲冑の装飾を手がけるほどの腕の持ち主だったが、仕事場へは誰も出入りさせず、夜になると妻にも内緒で外出する変わり者だった。不審に思った妻が後をつけていったが、村はずれの墓地までくると、見失ってしまった。
ある晩、妻が墓地に先回りして隠れていると、彫金屋がやってきて、埋葬直後の墓を掘り返し始めた。あまりのことに妻は気が動転し、その場から逃げ出したが、彫金屋が帰ってくる頃を見計らって、仕事場を確かめることにした。
妻が目にしたのは、豪華な甲冑や装飾品で着飾った無数のミイラ達と、無邪気にはしゃぐ夫だった。彫金屋は墓をあばいては遺体を仕事場に持ち帰り、自ら仕立てた細工の装飾品を身につけさせて楽しんでいたのだった。
妻は嘆き絶望し、彫金屋に飛びかかり、一体のミイラが手にした槍に、自分の体ごと倒れこんだ。後日、甲冑で着飾った大量のミイラに囲まれるように、一本の槍で貫かれた男女の遺体が発見された。この見事な細工の槍が、後にハンチの手に渡った。
ある晩、妻が墓地に先回りして隠れていると、彫金屋がやってきて、埋葬直後の墓を掘り返し始めた。あまりのことに妻は気が動転し、その場から逃げ出したが、彫金屋が帰ってくる頃を見計らって、仕事場を確かめることにした。
妻が目にしたのは、豪華な甲冑や装飾品で着飾った無数のミイラ達と、無邪気にはしゃぐ夫だった。彫金屋は墓をあばいては遺体を仕事場に持ち帰り、自ら仕立てた細工の装飾品を身につけさせて楽しんでいたのだった。
妻は嘆き絶望し、彫金屋に飛びかかり、一体のミイラが手にした槍に、自分の体ごと倒れこんだ。後日、甲冑で着飾った大量のミイラに囲まれるように、一本の槍で貫かれた男女の遺体が発見された。この見事な細工の槍が、後にハンチの手に渡った。
2015年04月03日
鷹羽根の槍
雨の日に目が覚めた。見上げると、自分がさっきまでいた巣と兄弟達が見える。どうも落っこちたらしい。狭い巣だったのでこうなるのは目に見えていたが…。体が濡れて冷えてきた。生まれて二ヶ月短い人生。「こんなもんか…」諦めかけたその時、親鷹が帰ってきた。彼らはちらりとこっちを見たがすぐに兄弟達の方に向き、兄弟達に餌を与えだす。
かわいく鳴いたが見向きもしない。「いよいよだ」と思ったその時目の前に閃光その後に轟音、木が燃える。木に落雷したらしい。もちろんその上には兄弟達がいる巣がある。「逃げなければ」必死でバタバタと羽を動かす。何とかその場を離れ振り返ると「巣」自体が炎に包まれていた。巣の兄弟達の全身は赤く染まり雨の暗闇を照らす。
人生、次の瞬間がどうなるかわからない、後ろから気配を感じる。振り返ると「ヒト」の姿が。雷の音に驚きやってきた。「ヒト」は俺を抱き上げた。それが「ヒト」との運命的な出会い。一年も経つと俺は立派な鷹なり、いつも「ヒト」の腕の上にいた。「ヒト」は独り者で年は五十を越えていた。あくまでも想像だが「ヒト」は大酒飲みで貧乏だった。
「ヒト」とは二年を共にした。別れはあっさりしたもので俺は「酒代」と交換に売られると同時に俺の一生はあっけなく終わる。売られた俺はあっという間に潰され肉塊となり胃袋へ。羽は「槍」の飾りに。俺の羽をあしらっただけの平凡な槍はそこそこの高値で売られたそうだ「鷹羽根の槍」と名付けられて。くだらない。俺の人生で作った槍。実に滑稽だ。
かわいく鳴いたが見向きもしない。「いよいよだ」と思ったその時目の前に閃光その後に轟音、木が燃える。木に落雷したらしい。もちろんその上には兄弟達がいる巣がある。「逃げなければ」必死でバタバタと羽を動かす。何とかその場を離れ振り返ると「巣」自体が炎に包まれていた。巣の兄弟達の全身は赤く染まり雨の暗闇を照らす。
人生、次の瞬間がどうなるかわからない、後ろから気配を感じる。振り返ると「ヒト」の姿が。雷の音に驚きやってきた。「ヒト」は俺を抱き上げた。それが「ヒト」との運命的な出会い。一年も経つと俺は立派な鷹なり、いつも「ヒト」の腕の上にいた。「ヒト」は独り者で年は五十を越えていた。あくまでも想像だが「ヒト」は大酒飲みで貧乏だった。
「ヒト」とは二年を共にした。別れはあっさりしたもので俺は「酒代」と交換に売られると同時に俺の一生はあっけなく終わる。売られた俺はあっという間に潰され肉塊となり胃袋へ。羽は「槍」の飾りに。俺の羽をあしらっただけの平凡な槍はそこそこの高値で売られたそうだ「鷹羽根の槍」と名付けられて。くだらない。俺の人生で作った槍。実に滑稽だ。
2015年04月02日
封槍・破天の円舞
かの地に武具の名匠あり。
神に弄ばれる世界を憂い
神の力に打ち勝つ武具を
生み出すことを決意す。
神に抗うは、封印の力。
封印の力、即ち女神の力。
名匠は女神の力を武具に封入す。
かの女神は、
高潔なる騎士、決意を秘めし女神。
優しき女神。
宿るは「光」、金色の力
闇を照らす聖なる力。
神に弄ばれる世界を憂い
神の力に打ち勝つ武具を
生み出すことを決意す。
神に抗うは、封印の力。
封印の力、即ち女神の力。
名匠は女神の力を武具に封入す。
かの女神は、
高潔なる騎士、決意を秘めし女神。
優しき女神。
宿るは「光」、金色の力
闇を照らす聖なる力。
2015年04月01日
エリスの槍
高潔な人格と勇壮な武勇でその名を轟かせ、双刀の金獅子と呼ばれた男がいた。その無双の武人が若き頃、技を磨き合った女騎士の愛槍が、この槍である。女騎士が戦に出る時、必ずこの槍を手にしたという。それは、双刀の金獅子が彼女に贈った物だったからであろうか。
ある戦で女騎士は決断を迫られる。眼前に迫りくる敵軍。背後には寒村。撤退命令を無視して彼女は最後まで留まり、数多の敵兵を迎え撃った。しかし…女騎士は討ち死に、亡骸はきざみ晒され、寒村は焼かれ、軍紀違反者の汚名を着せられた。
双刀の金獅子は敵陣へと切り込み、彼女の亡骸と愛槍を奪い返した。永遠に失った愛しき人の最期の決断と意志を、後の世に正しく継ぐべく男は誓う。彼女のように、真に人々を守る騎士となることを。そして、真に人々を守る騎士を育てることを。
今、槍はエリスの手にある。二人の騎士の想いが込められた槍。彼女は何を思い、誰の為にそれを振るうのだろうか。託された願いを、注がれた意志を、エリスが受け継ぐ日が来ると、亡き騎士達は優しく見守っているに違いない。
ある戦で女騎士は決断を迫られる。眼前に迫りくる敵軍。背後には寒村。撤退命令を無視して彼女は最後まで留まり、数多の敵兵を迎え撃った。しかし…女騎士は討ち死に、亡骸はきざみ晒され、寒村は焼かれ、軍紀違反者の汚名を着せられた。
双刀の金獅子は敵陣へと切り込み、彼女の亡骸と愛槍を奪い返した。永遠に失った愛しき人の最期の決断と意志を、後の世に正しく継ぐべく男は誓う。彼女のように、真に人々を守る騎士となることを。そして、真に人々を守る騎士を育てることを。
今、槍はエリスの手にある。二人の騎士の想いが込められた槍。彼女は何を思い、誰の為にそれを振るうのだろうか。託された願いを、注がれた意志を、エリスが受け継ぐ日が来ると、亡き騎士達は優しく見守っているに違いない。
2015年03月12日
知識の杖
その魔術師には語り合える友が一人もいなかった。別に魔術師が、人間嫌いだったわけではない。少し知識をひけらかす癖があったが根は悪い人間ではなかった。だが、彼と交流を持った人達は、次第に彼の元から去っていった…。
ある日、魔術師に原因不明の病が発症する。熱は上がり続け、動悸も激しく、手足は痛み、眩暈も起こりまともに歩けない。自らに魔法を施したが、全く効果も見られず…。傍らにあった愛用の杖を手に、魔術師は村の薬屋に向かった。
ようやくのことで薬屋に辿り着く。そして、自分の症状を説明した。『今、我が身におけるさまざまな症状は常人が知り得る定義の範疇をすでに逸脱し、尚且つ我が 研究結果をも超えた驚愕なる事実、つまり……』薬屋は首を傾げた……。
結局、話が通じず薬を貰えなかった魔術師はそのまま息絶えた……。大事なことは、詰め込んだ知識を、ただ垂れ流すことではなく、万人にわかる言葉で伝えること。それに気づけば、ただの食当たりで彼も死ぬことはなかっただろう…。
ある日、魔術師に原因不明の病が発症する。熱は上がり続け、動悸も激しく、手足は痛み、眩暈も起こりまともに歩けない。自らに魔法を施したが、全く効果も見られず…。傍らにあった愛用の杖を手に、魔術師は村の薬屋に向かった。
ようやくのことで薬屋に辿り着く。そして、自分の症状を説明した。『今、我が身におけるさまざまな症状は常人が知り得る定義の範疇をすでに逸脱し、尚且つ我が 研究結果をも超えた驚愕なる事実、つまり……』薬屋は首を傾げた……。
結局、話が通じず薬を貰えなかった魔術師はそのまま息絶えた……。大事なことは、詰め込んだ知識を、ただ垂れ流すことではなく、万人にわかる言葉で伝えること。それに気づけば、ただの食当たりで彼も死ぬことはなかっただろう…。
2015年03月11日
痩躯の魔術師
痩躯の魔術師の骨と皮で作られている杖。魔術師は多くの弟子を抱える高名な人物であった。魔術師は老い、自らの後継者を弟子の中に求めた。
弟子の中に、鷹のように鋭い目を持ち、類希なる魔の才を持つ青年がいた。魔術師は青年を後継者と定め、持てるすべての術を伝授した。青年は半年と経たぬ内にすべての術を極めた。魔術師は大いに喜び、隠居の時まで青年に弟子の指導を手伝わせた。
青年は指導のかたわらに次々と新しい術を生み出していった。やがて、弟子達は魔術師よりも青年から術を学ぶようになった。魔術師は自らの世代が去ったことを悟り、青年に後事を託そうとした。しかし、青年は丁寧に申し出を断った。青年は旅に出、更なる術を求めるのだという。
その言葉を聞いた途端、魔術師は秘めていたすべての感情が爆発した。…妬み、嫉み、愛おしみ…魔術師は知りうる最凶の呪を青年にかけたが、魔術師を遥かに超えた青年は、簡単に呪をはね返した。魔術師は全身の肉と臓物が溶け、腐敗した血と共に吐き散らして絶命した。…骨と皮だけを残して。
弟子の中に、鷹のように鋭い目を持ち、類希なる魔の才を持つ青年がいた。魔術師は青年を後継者と定め、持てるすべての術を伝授した。青年は半年と経たぬ内にすべての術を極めた。魔術師は大いに喜び、隠居の時まで青年に弟子の指導を手伝わせた。
青年は指導のかたわらに次々と新しい術を生み出していった。やがて、弟子達は魔術師よりも青年から術を学ぶようになった。魔術師は自らの世代が去ったことを悟り、青年に後事を託そうとした。しかし、青年は丁寧に申し出を断った。青年は旅に出、更なる術を求めるのだという。
その言葉を聞いた途端、魔術師は秘めていたすべての感情が爆発した。…妬み、嫉み、愛おしみ…魔術師は知りうる最凶の呪を青年にかけたが、魔術師を遥かに超えた青年は、簡単に呪をはね返した。魔術師は全身の肉と臓物が溶け、腐敗した血と共に吐き散らして絶命した。…骨と皮だけを残して。
2015年03月10日
聖石の杖
この杖に嵌められている石は稀代の魔術の才能を持っていた少年の魂を宿している。彼は平穏に人間として生きていくことに満足せず、より高みを目指し全魔力をもって自ら石化し、その存在を永遠のものとした。
ある時彼は自分を手にした元老が美しい女性であることを知った。彼は彼女をたいそう気に入った。だが、月日は流れ彼女は老い、死んでいった。彼の気に入っていた街並みも家も好んだ木々の色彩も年が重ねられる毎にその姿を変えていき、やがて不毛の時代が訪れ、彼は悲しみに包まれた。
彼は人々の幸せを見守ることができるのと同じくその幸せがもろくも崩れ去ることも、そしてその繰り返される悲しみもずっと見続けなければならないのだ。そして、すでに石と化した彼にはそれに手を差し伸べることもできず一人、泣き続けなければならない。
永久を求めた結果の苦しみからいつ、少年は解放されるのか。永久の中で永遠に刻まれていく時間は、彼を癒してくれるのだろうか。あるいは、あなたが彼を眩しい光へと導いてくれるなら。
ある時彼は自分を手にした元老が美しい女性であることを知った。彼は彼女をたいそう気に入った。だが、月日は流れ彼女は老い、死んでいった。彼の気に入っていた街並みも家も好んだ木々の色彩も年が重ねられる毎にその姿を変えていき、やがて不毛の時代が訪れ、彼は悲しみに包まれた。
彼は人々の幸せを見守ることができるのと同じくその幸せがもろくも崩れ去ることも、そしてその繰り返される悲しみもずっと見続けなければならないのだ。そして、すでに石と化した彼にはそれに手を差し伸べることもできず一人、泣き続けなければならない。
永久を求めた結果の苦しみからいつ、少年は解放されるのか。永久の中で永遠に刻まれていく時間は、彼を癒してくれるのだろうか。あるいは、あなたが彼を眩しい光へと導いてくれるなら。
2015年03月09日
賢者の意志
ある名もなき寒村に、北の島国より司祭が訪れた。千里を見通す大賢者と呼ばれた彼も、この遠方の地ではただの旅人でしかなかった。
しかし彼らは、遠くからやってきた司祭を歓迎し、手厚くもてなした。村人の心遣いに心打たれた司祭は、お礼として、一振りの杖を贈った。
奇跡の力を秘めたこの杖で、今より豊かな生活を送ってほしい。司祭の贈り物を喜ぶ村人を見ながら、司祭は村に幸せが満ちることを祈った。
しかし村人達は、腰の悪い旅人にあっさりと杖を譲ってしまった。それを聞いた司祭は、村人達がすでに幸福であったことを悟った。
しかし彼らは、遠くからやってきた司祭を歓迎し、手厚くもてなした。村人の心遣いに心打たれた司祭は、お礼として、一振りの杖を贈った。
奇跡の力を秘めたこの杖で、今より豊かな生活を送ってほしい。司祭の贈り物を喜ぶ村人を見ながら、司祭は村に幸せが満ちることを祈った。
しかし村人達は、腰の悪い旅人にあっさりと杖を譲ってしまった。それを聞いた司祭は、村人達がすでに幸福であったことを悟った。
2015年03月08日
夢桜
遥か東の国に精霊と契約し、悪霊と戦う術師を王とする一族がいた。王は普段から滅多に姿を見せず、霊の災いが激しくなると、長期にり国に戻らぬため、王の顔も知ら民も少なくはなかった。
そんな民の中に錫杖を持って敵を薙ぐ諸国にも名高き女兵士がいた。ある年の桜の咲く時期の祭で、その女兵士が錫杖による演武を王の前で披露することになった。王も女兵士もお互いを知ってはいたが、姿を見るのは初めてであった。
二人はお互い一目で魅かれた。王は初めて出会うその女兵士に、女兵士は初めて出会う王に。女兵士は代々伝わる錫杖の先端の輪を刃に換え、より一層王に尽くした。王もまた民のために術を尽くして悪霊と対峙した。
"しかし、悪霊の災いは激化する。町や村はことごとく滅び、一族の都も遂に落ちることとなってしまう。女兵士と王は、最後まで抵抗したが、明朝荒れ果てた宮殿には女兵士の錫杖のみが残されていた。錫杖には短い詩が彫られていた。
離れども ともに逢い見ん 夢桜"
そんな民の中に錫杖を持って敵を薙ぐ諸国にも名高き女兵士がいた。ある年の桜の咲く時期の祭で、その女兵士が錫杖による演武を王の前で披露することになった。王も女兵士もお互いを知ってはいたが、姿を見るのは初めてであった。
二人はお互い一目で魅かれた。王は初めて出会うその女兵士に、女兵士は初めて出会う王に。女兵士は代々伝わる錫杖の先端の輪を刃に換え、より一層王に尽くした。王もまた民のために術を尽くして悪霊と対峙した。
"しかし、悪霊の災いは激化する。町や村はことごとく滅び、一族の都も遂に落ちることとなってしまう。女兵士と王は、最後まで抵抗したが、明朝荒れ果てた宮殿には女兵士の錫杖のみが残されていた。錫杖には短い詩が彫られていた。
離れども ともに逢い見ん 夢桜"