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2015年03月07日

ヤハの杖

ある国の大臣が、疑い深い王に逆賊の汚名を着せられ、処刑された。一族も皆処刑されたが、大臣の幼い息子を不憫に思った処刑人が、王に虚偽の報告をして逃がした。

美少年に成長した大臣の息子は、市場の商品を盗んでは売りさばく泥棒生活を送った。時には捕まって袋叩きにされることもあったが、王への復讐を夢想すると、苦痛すら甘美だった。やがて少年は貯めた金を賄賂として王宮に仕官した。

その中性的な美しさから、少年が王の目にとまり、寵愛を受けるようになるのには時間がかからなかった。ある夜、少年は本懐を遂げようと、父の形見である刃の仕込まれた杖を長衣に隠して、王の寝所に向かった。

しかし、少年の額から流れ落ちた汗を不審に思った王の警護に包囲されてしまう。杖で喉を突き、自刃した少年の目には、高笑いする王の姿があった。その美しさと引き換えに数奇な運命を歩んだ封印騎士団のヤハが、この美少年の杖を手にしたのは必然だったのかもしれない。
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2015年03月06日

北海の歌姫

北の港の 小さな酒場
綺麗な娘が 訪れた
透き通る肌 透き通る声
酒場の男は 皆惚れた
杖を片手に 身軽な姿
店主に一言 ここで歌うわ

娘に会おうと 男は集まり
ほどなく店は 賑わった
娘は歌った 美しい海
男は聴いた 美女の声
娘に恋した 男らだったが
返して一言 あなたじゃないわ

ひと月ほど経ち 娘の酒場に
旅する少年 やってきた
無垢な瞳に 端正な顔
何より笑顔が 魅力的
娘は悟った この人しかない
彼に一言 あなたに決めた

明くる日娘は 少年と消え
部屋に残った 杖・手紙
杖はお礼で 行き先は海
どうやら娘は 海の精
優しい男ら 笑顔で言った
それならそうと 言えばいいのに

2015年03月05日

不死鳥の囀り

かつて魔術が栄えた時代、戦いの動向は軍の魔術師が握っていた。魔術の効果には杖の力が関わっており、杖を巡って戦いが絶えなかった。特に、更なる昔、古代の付与魔術師により造りだされた杖には、失われた大魔術が封印されているものも多かった。

ある魔術師が遺跡から一本の杖を見つけ出した。彼の魔力自体はそれ程の力はなかったが、その杖の魔力は計り知れぬもので、彼はその杖の力で軍の要職に就き、一年も経つと将軍直属の魔術師となっていた。

彼の赴く戦いは負けを知らず、彼の発言力は次第に大きなものとなっていたが、事件は起こった。彼が杖を発見した遺跡から、全く同じ杖が何本も発見されたのだ。杖は各国に出回り、戦いは凄惨なものとなっていった。

杖の力で地位を得た彼は、自らの力を高める努力を怠っていた。戦いにおいて各国の魔術師は、修行の成果と杖の力を存分に発揮し、彼が赴いても勝てなくなっていった。年明けの人事で、年十回程であった参戦を、各地を転戦し、毎戦参加するよう言い渡された。既に彼は、ただの一兵士だった。彼の晩年はこうして始まった。

2015年03月04日

斉天の赤杖

かつて偉い僧侶が。聖典を受け取る為に、三人のお供と共に、
遥か西の国を目指し旅立った。

旅の途中、立ち寄った村には、施しを行い、またある時には、
人々を苦しめる魔物の退治なども行った。

お供の一人であった、この杖の所持者は、魔物退治を得意とし、
その強大な力で僧侶を守護しながら西の国を目指した。

遂に辿り着いた西の国で、聖典を受け取った僧侶は、お供のものに
感謝し、それぞれに相応しい“名”を贈ったという。

2015年03月03日

封杖・破天の詠歌

かの地に武具の名匠あり。
神に弄ばれる世界を憂い
神の力に打ち勝つ武具を
生み出すことを決意す。

神に抗うは、封印の力。
封印の力、即ち女神の力。
名匠は女神の力を武具に封入す。

かの女神は、
堕落した愛に生き因果に死した女神。
気高き女神。

宿るは「水」、青き恵みの力
命を宿す母なる力。

2015年03月02日

封印騎士団の呪杖

かつて、封印騎士団団長オローが健在だった頃、気炎の直轄区の守りを任され、火炎の賢者と呼ばれた魔道師がいた。

オロー団長の良き理解者でもあり、親友でもあったその魔導師は、気炎の地をその偉大なる魔力によって、清浄に保っていた。

しかし、オロー団長が敵の刃に倒れた後、次期団長との対立により封印騎士団を離れたその魔術師は、気炎の地にて、圧政に苦しむ人々の為に、尽力を注いだ。

飢えに苦しむ人々に食料を買い与える為、売れるものはすべて売り、己の魔力を引き出す為の武器さえも売り払い、最後には餓死したという。

2015年03月01日

マナの杖

今から十八年前……。少女は暗い森の中で佇んでいた…。母に捨てられた少女。母への想いは次第に歪み、狂気へと変貌する…。“神”は彼女の狂気に魅入り、媒介として世を制することを託した。そして…暗闇の中で赤く灯る瞳…

赤き瞳の少女は世界に混乱を招く。崩れゆく世界に心を癒される少女。しかし、その至福の時も、ある“男”の剣によって奪われる。世は治まり…男は少女を連れ贖罪の旅に出る。己の罪に背を背ける少女……だが男はそれを許さなかった。

ある日、男は突然に空を見上げた。男の瞳には激しい憎悪があった。いったい何があったのだろう…少女にはわからなかったが、隙を見せた男に隠し持っていた短剣を突き刺した。咄嗟に払われる幼き身体。次の瞬間少女は谷底へと消えていった……。

数年後…彼女は“赤い記憶”を失いとある貧しい村で暮らしていた。そこで彼女は、人々を苦しめ続ける封印騎士団の存在を知る。そして…皮肉にも嘗て世界を混乱に陥れた少女は世界を救うために杖を握る…。再び……封印崩壊のために……。

2015年02月19日

イウヴァルトの長剣

とある砂漠の牢獄……独房の中。一人の男が張り付けにされていた。愛するものを守るために戦い、そして破れ、己の未熟さを知る。男は今、絶望の淵に立っていた。思い出す彼女の笑顔……だが、その目に映るのは彼女の兄……。

意識が朦朧とし、死を覚悟した時、どこから入って来たのだろうか、一人の少女が目の前に立っていた。少女の目は宝石のような深紅の色。そして、可愛らしく微笑みながら、だが、大人とも子供ともわからぬ、奇妙な声でこう語った。

『俺に…俺にもっと力があれば…』その赤き目は男の心を見透かした。男の弱き心は、少女の僕となった。その先のことは……記憶にない……。朧げに覚えていることは愛する者が目の前で自らの命を絶ったこと…、そして”再生の卵”の前で……。

18年後……。男の長剣は、竜に育てられし少年の元へ渡る。その剣先は愛する者の兄“隻眼の男”に向けられ、傍らには大人になった“赤き目の少女”。紡がれた想いは複雑に絡まり、そして後世に語り継がれる……。

2015年02月18日

囚われの女神

遠い昔、少女が気づいたのは、とても暗く、とても狭く、息も出来ないくらい噎せ返る血の臭いの中だった。手、足、口、全ての自由が利かずただ、眼球だけで虚空の暗闇を見つめることしか出来なかった。

少女が最後に見た光は、人を糧として燃えさかる炎と、自分を絡め取る幾本もの手。その後は、闇の中で自分の体を何度も何度も、冷たい塊が貫く感覚だけが思い出せるすべてであった。「ワタシハ、……ナニ?」

突如として少女の闇は放たれた。眼前に広がるのは満天の星空、その星の輝きさえもまぶしかった。だが、体の自由までは戻ることがなく少女は自身を見ようと唯一動く目だけを必死に傾けた。その先にあったのは、手も足もわからず、血に満ちた肉の塊が鼓動と共に波打っていた。

少女は声のない悲鳴をあげる。それを凝視する黒い影が、少女の目から星空を隠す。そこには長い牙を持った魔物の顔が近づいてきていた。少女の肉塊と血が一瞬ざわめいた瞬間、それは鋭い刃となり魔物の顔を貫いていた。

2015年02月17日

護衛兵士の剣

聖人の護衛隊士達が所持していた剣。飾りのない質素な造りで、幾度となく戦闘をくぐり抜けてきたにも関わらず折れることはなかった。

聖人を護衛するのは14人の少年少女達。いずれも親に捨てられた孤児ばかりである。そんな子らと家族同然として聖人は共に生きてきた。

あるとき数十人の山賊に襲われた一行は、聖人を守るために決死の戦闘を行う。傷ついても何度も立ち上がり、聖人の乗る馬車を守り続ける。

やがて山賊と共に護衛隊士は全滅。救われた聖人はその働きに涙し、この剣を持った者が救われるよう願いを込めて祝福儀礼を施したのである。

2015年02月16日

連合兵士の剣

ある一族が守り続けてきた特殊な製法で鍛え上げられた剣。この製法の秘密を知るために、一族の娘が敵国のスパイだった愛する男を殺し、自らも命を絶ったと伝えられている。

その後も秘密は守られ続けたが、そのためには多大な代価を払わなければならなかった。一族は怪文書や密告を根拠に、製法を漏らそうとした疑いで、身内に対しても容赦のない拷問を行うようになったのだ。

拷問は凄惨を極め、溶かした鉄を口から流し込まれて命を落とす者や、拷問時のショックから精神を崩壊させる者が出た。

身内を信用できなくなっていった一族は、やがて殺し合い、間もなく系譜は絶えた。一族が守ろうとした剣の製法は、その望みどおり永遠の秘密となった。

2015年02月15日

人斬りの断末魔

俺はどうしてしまったのだろうか?
この剣を振るうたび、
切り裂いた首から血飛沫が飛び散るたび、
言いようのない歓喜がこみ上げてくるのだ。

真っ赤な血、街路を染める血。
俺の体を染める血。血、血。
その鮮烈な色が、両目に焼き付いて離れない。
血、血、血、血、血。

ジャパジャパと、パシャパシャと、血が吹き出る。
剣を振るい肉を斬り裂く。
温かな赤がすべてを染める。
血、血、血、血、血ぃ、血ぃぃい!

血ィィー!アガッ!アガイヂィィ!
血、血、血ぃ血ぃ血血ちちチヂヂチ
赤ァアガガッアガァ!アッガーァッ。

2015年02月14日

信義

遥か東の国の都に歌を詠むことで生計を立てている歌人がいた。自分の才能に限界を感じていたある時、質屋に飾られていた美しい刀を目にした。赤く輝く刀身に魅入られた歌人は、刀を購入し持ち帰る。

傍らに刀を置き、うとうとと寝入ると、夢枕に一匹の妖怪が現れ、歌人に取引を迫った。おまえの名をくれれば、万能の才を授けよう、と。

歌人は才を得る為に、自らの名を妖怪に与えた。契約どおり、歌人は優美な肢体と、卓越した才能を一夜にして手に入れた。

才の代わりに名を失った歌人は、次第に人の姿を失っていく。ついに妖怪と成り果てた歌人は、闇の中へと消えていった。後に残るは、名を得てさらに輝きを増した刀だけだった。

2015年02月13日

デボルポポル

むかしむかし、北のとある寒い国にデボとポポという、とても仲の良い姉妹の鍛冶屋が暮らしていました。いつものように二人が仕事に励んでいると、大慌てで村人が駆け込んで来ました。なんと!幼い頃に突然消えた母が見つかった知らせでした。

母“ボコ”は、山の梺にある巨大な氷塊の中に当時と変わらぬ若々しい姿で閉じ込められておりました。二人は力を振り絞って何度も氷塊を壊そうとしましたが、いくら火をくべようが、巨大な鎚で叩こうが、まったく壊れる気配はありません。

諦めかけた時、ポポが言いました。『お姉様……私達の鍛えた剣ならひょっとして……』デボは二人の愛と努力の結晶、傑作“デボルポポル”を母眠る氷塊へ!するとどうでしょう!二人の身体は氷の中の母に抱かれておりました。

『二人とも…大きくなって…。』母は氷塊の中で生きておりました。二人は嬉しくてずっと泣きました。そして、何日も語り合いました。二人が出ていく時、母は二人を引き止めませんでした。なぜなら姉妹は炎を扱う鍛冶屋だったからです。

2015年02月12日

貴正

その男は貴正を合戦の折、敵から奪い取ったのだと伝えられている。貴正をはいていたのは、みすぼらしい落武者であったという。

落武者の剣術は優れたものではなかったが、刀を合わせた途端、男の刀はたちまち折られてしまった。男は身を捨てる覚悟で臨み、貴正を肩口に受けながら、折れた刀を落武者の眉間に突き立てた。こうして男は貴正を手にいれた。

「肉を切らせて骨を断つ」男の覚悟に貴正が呼応したのか、貴正の切れ味は戦を経るごとに増していった。貴正を手に次々と武勲を挙げる男。そんなある日、男に鬼退治の勅命が下る。鬼の力は剛力無双、その肉体は金剛不壊と呼ばれた。

鬼との戦に臨む男。鬼の一撃が男に襲いかかる。だが、男も、貴正もそれを防ごうとはしない。男は半身の骨を砕かれた。が、次の瞬間には貴正が鬼の喉笛を貫く、骸となった鬼に男は吐き捨てた、「骨を断たせて命を断つ」と。男の死後も、貴正にはその魂が宿るという。
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