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2016年01月07日

聖徒の煉獄

宣教師の素直な物言いと素敵な笑顔に安心し彼を村に招き入れる。
やがて心を許した村人達は、宣教師にあるお願いをした。

村では顔の美醜が全ての価値だった。美しい者は貴族のように
振る舞い醜い者は奴隷のような扱いを受けていた。醜い者達は
宣教師に「助けて欲しい」と泣きながらすがりついた。

素敵な笑顔の宣教師が醜い者達に手をかざす。すると、彼等の
顔が変化した。それは素敵な笑顔の宣教師と瓜二つの顔だった。
驚く村人達の顔を次々と宣教師は自分の顔と同じにしていった。

そして村人達は全て同じ顔になった。男も女も子供も老人も全て
宣教師と同じ、素敵な笑顔を持った顔になった。彼等は泣くこと
も怒ることもなくなり、虚ろな笑顔で村は埋め尽くされていった。
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2016年01月06日

処女の咎

昔々、ある所に仲の良い三人の少女がいました。
政略結婚が当然で、女性が自由に生きるのは難しい時代でした。
けれど三人の少女は「共に純潔を守りましょう」と誓いました。

少女の一人は豊かな金髪の華やかで美しい娘でした。
彼女は長い髪を切り、亡き兄の代わりに隊を率いて戦地に赴き
信頼する従者の男に背を預け立派に戦い、戦死を遂げました。

少女の一人は黒髪の涼やかで麗しい娘でした。
本を愛した彼女は貧しい家の青年と想いを交わすもどうあっても
報われぬと知り、二人で海に身を投げ入れ戻らぬ人となりました。

最後の一人は、亜麻色の髪をした愛らしい娘でした。
他の二人がとうに誓いを破り純潔を失っていたなど露知らず
死するまで頑なに純潔を守り通し、1人で老いて病死しました。

2016年01月05日

雷王

むかしむかし、荒廃した大地に雷鳴轟く荒れた空が続く、まるで
地獄のような領地がありました。領主は次々に変わり、領民は
飢えと天からの落雷に命を落とし続けていました。

ある日若き勇猛な領主が現れ、この地を開拓し豊かな土地に
すると誓いをたてました。領民はみな疲れきっていたので
若き領主を誰も信じず、あざ笑う者さえいました。

若き領主は鍛冶屋に白銀の剣を作らせ、処女の娘達に
三日三晩祈りを捧げさせると、雷鳴と吹き荒ぶ嵐の中、
小高い丘で剣を掲げ地面に突き刺しました。

轟音と稲光が続く嵐の晩の翌朝、初めてその地は晴れました。
小高い丘に領主の姿はなく、一本の果実の木が生えていました。
白銀の剣を幹に包み込んだ木は、時々ごろごろと鳴るそうです。

2016年01月04日

高潔なる飾剣

私が仕える王子が守るべき国は、彼が王になる前に
それはひどい戦争で滅びてしまいました。
あろうことか裏切り者がいたのです。

私が仕えた王子は健やかに成長し、強く美しい青年となりました。
再び国を再興すべく決起し、見事目的を果たし王となったのです。
それはもう素晴らしい国でした。

けれどその国も既に滅びて地図にも載っておりません。
王も国が滅びる時に逝ってしまわれました。

こちらがあの方が生涯手放さなかった形見の飾剣でございます。
ああ、王が終ぞ私を疑う事なく逝ってしまわれたのが心残りです。
どこにでもある他愛のないお話でございます、お恥ずかしい。

2016年01月03日

千年樹の歌声

旅のお方、この村に来たのならあの歌を聞いて行くといいよ。
気のいいオカミと気立ても見た目も良い娘が出迎えてくれるさ。
料理も酒もなかなかのもんだ。

旅のお方、あの店で一番素晴らしいのは娘の歌さ。
娘の歌声を聞けば世の中にある嫌なことは忘れられる。
娘はもう一人いるんだけどね、二人の歌を聞けたら本望さ。

おや旅のお方、随分と久しぶりじゃないか。
またあの娘達に会ってきたのかい?
あんたも好きだねえ、もう何十年と前の話じゃないか。

旅のお方、あの店の娘達の姿が変わらないのが不思議なのかい?
あれは娘達が産んだ子供が成長したのさ、分かるだろう……?
そうに決まっている、何十年と変わらないなんてありえないさ。

2016年01月02日

断罪の咆哮

彼は罪を犯した。
続く飢饉に増加の一途を辿る徴税、行方をくらました両親。
やせ衰え行く弟妹達のために彼は罪を犯した。

彼は手に入れたパンと牛乳を5人の弟妹に分け与えた。
幼い弟妹に全てを与え、彼はパンも牛乳も一切口にしなかった。
少しでも味わいたいとずっと咀嚼し続ける弟妹を眺めていた。

彼は罪を犯した。
やがて彼が豪商からパンと牛乳を盗んだことが露見したが、
断罪されたのは盗んだものを口にした幼い弟妹達だった。

幼い弟妹達は首と胴が汚く分断され路上に転がっていた。
鞭打たれた体で一命を取り留めた彼は、あばらが浮き上がる
弟妹のやせ衰えた体を眺め、やがて声なき声をあげたのだった。

2016年01月01日

ゼロの剣

生まれた時から何も無かった。
だからゼロの名を持たされた。

自分が生きている価値を見いだせなかった。
祈る神がいるのであれば、殺す気でいた。

命を奪う時も何も感じなかった。
罪とか罰とか考える気にすらならなかった。

私は子供のように待ち望んでいた。
この生命が奪われる、その瞬間を。

2015年05月08日

悲しみの棘

「…クイタイ」
ホブゴブリンの彼は、いつもどおり指導者の手伝いをすることにした。大抵は雑用をすることで食欲は満たされていたが、この日は何をすることもなく食べ物をあてがわれた。明晩人間の村落を襲うということだったが、さておき食欲は満たされた。

果たして彼らは攻め込んだ。彼らが襲った村落の人間は必死で抵抗し、戦いは激化した。熾烈な殺し合いの最中、彼は井戸に落ちてしまった。何とか上れそうであったが、彼は井戸の底で禍々しい形状の鎌を見つけた。それは歪んだ付与魔術師の失敗作であった。

この鎌は相手に勝ちたいという欲求が増幅される、というように作られた筈だった。だが、実際にはさまざまな欲求が抑えられなくなる呪われた鎌であり、使われなくなっていた。鎌を手にした彼は、井戸から出ると、膨れ上がった食欲と殺戮の衝動のままに、人間を屠っていった。

鎌の呪いは凄まじく、人間が目の前からいなくなると、彼は他のゴブリン達に襲いかかっていった。しかし、同族を殺し尽くすも満たされず、ついに彼は自身に刃を向けるに至った残された鎌は、死体が地に還る頃、美しいエルフに拾われたという。

2015年05月07日

不浄なる斧

汚れた魂の魔術師により、火トカゲが封じ込められた斧。持つ者の心に他者への憎悪を囁きかけ、狂気へと駆り立てる。

この斧を手に入れたこそ泥は、その力で瞬く間に近隣の峠を制し、大きな山賊団の首領となった。

この斧を手に入れた小姓は、比類なき武勇で手柄を得て、大きな騎士団の千人隊長となった。

ただし、山賊団の首領も、騎士団の千人隊長も、最後は敵味方構わずに殺戮を行い、自らの部下に殺されたという。

2015年05月06日

処刑台の記憶

“斧”は考えていた……。「私は…幾人の首を刎ねただろう」悪人、反逆者、革命家、政治家……中には全く罪のない人間もいた…。もう何も覚えていない。ただ一人、あの男……いや、男というには早い、あの少年を除いて…。

その少年は、断頭台に頭を置いても全く動じる気配がなかった。どんな屈強な男でも卑劣な悪人でも死を目前にすると、わずかな希望や行き場のない絶望が精神を支配する。それは刎ねる瞬間、わが刀身から直接伝わってくるのだ。

しかし!彼は他の誰とも違った!彼の精神はただ希望が溢れていた。それは狂信的に心酔する者の持つ偽りの希望ではなく、彼自身が望み、悟り、己が意志でこの場にいるということ!彼の、その清らかな精神は物言わぬこの私が叫びたくなる程であった。

彼の刑は執行された……。処刑を見に来た多くの群衆の中に、隠れながら涙する若者達がいた。その涙の意味は、私にはわからぬ。ただ、彼の希望と、そして未来は、若者の涙と共に語り継がれる……。それだけは私にも確実にわかった。

2015年05月05日

赤の旋風

ふと声が聞こえたような気がし目が覚めた。耳元で悪魔のような囁き声が聞こえた。まだ足りない。まだ足りないんだ。間違いなく、その斧から囁くように声が聞こえた。

その日から魔術師は何かに憑依されたかのような顔つきに変貌していった。その面影はかつて王国を恐怖に震え上がらせたあの義賊を思わせた。

斧の中で時を、ひたすら時を待っていた義賊は、力を解放していった。さすがに魔術師も必死に抑えようとした。しかしついに義賊は魔術師の精神を乗っ取ってしまった。

外見は高名な魔術師であるが故に王宮の貴族達は、魔術師の行いを止めることはしなかった。王国は無惨な終焉を迎えた。しかし、魔術師は生きている…。

2015年05月04日

ユーリックの斧

命を刈り取る死神への供物を捧げ、自らの延命を祈ったある王が、若き美丈夫の首を落とす神器として造らせたこの斧は、実に数百人の生贄の血を啜っている。正に死神の振るう武器といっても良いだろう。

毎月の祭事において王は、二人の生贄を選出した。一人に斧を振るわせもう一人の首を刎ねるのだ。そして翌月には、生き残った方の生贄を、新たに選んだ生贄に殺させる。この祭事は王の存命中絶えることなく続けられ、王は百五十年を生きたと伝えられている。

最後の月。生け贄に選ばれた二人の男は互いに親友同士だった。泣きながら親友を殺めた男は、王に向かって言い放つ。我が命、自ら死神に捧げ、友と黄泉路を逝こう…。男の首を落とした斧は祭壇に突き刺さり、何者も引き抜くことは叶わなかった。生きすぎた王は壮絶な最期を遂げた。

その斧はユーリックの手に渡った。斧はまた、死神への供物を、生贄を欲しているのだろうか。繰り返される流血の連鎖は、断ち切ることは叶わぬのだろうか。それを知るのは死神のみであろう。

2015年05月03日

折れた鉄塊

かつて世界で最も大きな剣と称され見る者をその迫力で圧倒していた雄姿は見る影もなく、剣というにはあまりにも惨めな塊に変わり果てていた。

剣が健在でいた時代。以前の持ち主は、この剣をとても人の力では扱えない代物までに鍛え上げ、それでもまだ何かに取り憑かれるように、刀身に使える素材を探し集めた。躯から鎧を剥ぎ取り、武器を奪い骨をも抜き出しては、打ち合せ剣の一部としていた。

次第に剣は斑に色を変え、剣先に行くほど赤黒く伸びていく。その相反する色は、まるで隠り世と現世の境にも見えた。ある時、子供をさらい生きたまま製錬し剣に打ち込んだが、決して交わることはなく、赤黒い鉄はすべて砕け散ってしまった。

剣は再び比類なき巨体を誇示させるために新たな刀身と、その身を鍛えられる者を探し続けているらしい。

2015年05月02日

ザンポの斧

小さな農村のはずれの小屋に、一匹のネズミと暮らす男がいた。男は醜い容姿の持ち主で、その不気味さから、村中で疎まれていたが、心根のやさしい男だった。時として村の子供から石を投げられることがあっても、常に笑顔を絶やすことはなかった。

どうにかして不気味な男を追い出そうとした村人達は、男の飼っているネズミが穀物を荒らしたと因縁をつけ、男のネズミを捕まえ、首を切り落として殺してしまった。

ただ一人の友人を亡くした男は正気を失った。人とも思えぬ雄叫びをあげながら、手にした斧で、老人から子供まで村人全員の首を刎ねてまわり、首の山を築き上げた。そして最後に首を一つ足すように、そこで自らの首を刎ねて絶命した。

首の山から発見された凶器の斧は、村人の血を吸った金属の部分が真っ赤に染まっていた。後にこの斧の持ち主となる封印騎士団のザンポは、この斧で獲物を切り裂く瞬間の感触に、自分の失った味覚の幻影を見ていたのだろうか。

2015年05月01日

封斧・破天の鼓動

かの地に武具の名匠あり。
神に弄ばれる世界を憂い
神の力に打ち勝つ武具を
生み出すことを決意す。

神に抗うは、封印の力。
封印の力、即ち女神の力。
名匠は女神の力を武具に封入す。

かの女神は、
御使いにより内に卵を秘める
女の力を以て災厄を封じる術を
授かったという伝説の女神。
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