・・・やってしまった・・・。
こんなにも放置してしまったのは、初めてだ・・・orz
と言う訳で、すいません。
多忙のあまり、先月はほとんど更新出来ませんでした。
とりあえず一つの山場は超えたので、今月からは幾ばくかペースを戻せればと思います。
とにかく、今年は忙しいの一言に尽きるので、また同様な事が起きるかもしれませんが、どうぞ見捨てないでください。
いや、ホント(泣)
という訳で、久々のSS更新。
黄昏・31話です。
―32―
グゥルァアアアアアッ
曇天が立ち込める黄昏に、魔王の咆哮が響き渡る。
怯える大気が鼓膜を揺らす度、例え様もない怖気が身体を走る。
ともすれば、恐怖に止まりそうになる思考。
それを必死に奮い立たせ、ウィンダはガルドスを駆る。
「そこ!!」
ジールギガスの死角に回り、烈風の一撃を放つ。
風が唸り、巨人の青銅の肌を揺らす。
しかし、それは幾ばくのダメージも与えるに至らない。
ジールギガスが、ゆっくりと振り返る。
ウィンダを捉える赤眼。
昏い光が灯るその中に見える、底知れぬ餓欲。
それが伝える意思はただ一つ。
―喰い尽くす―
身体に走る震えを抑えながら、ウィンダは思う。
「絶対に、ここで止めなくちゃ・・・」
さもなくば。
さもなくばこの怪物は。
全てを喰い尽くしてしまう。
この村を。
この地を。
そして、世界の全てを。
グオオ・・・
餌食を掴まんと伸びる四腕。
それを掻い潜り、再び放つ風激。
炸裂する波動。
無傷。
それでも。
「あの子達が、あんなに頑張ってるのよ・・・!!」
脳裏を過ぎる、彼女達の姿。
自分が伏せる間、村を、人々を守り続けた少女達。
「臆病風なんかに・・・」
彼女達への想いが、力へと変わる。
ガルドスの翼の中に集束する暴風。
それは巨大な風の珠となり、轟々と唸りを上げる。
「吹かれてられるか!!」
叫びと共に放たれる風弾。
絶対たる大気の暴威が、ジールギガスを襲う。
しかし―
カッ
風が青銅の肌をえぐる寸前、放たれる魔光。
貫かれた風弾が、一瞬にして消滅する。
「!!」
歯噛みする暇もあるや、大きく乱れる気流。
ジールギガスの魔光は、あらゆる存在を”否定”する。
その光の軌道上にある大気も、例外ではない。
光が通った後の大気は消滅し、一瞬真空状態と化す。
そこに周囲の大気が流れ込み、狂った気流を生み出す。
それが、風の道を読み、戦いの術とするガスタの六感を弄ぶ。
「く・・・つぁ・・・」
正気を失った風に翻弄されるガルドス。
乱れる風が、視覚と聴覚を塞ぐ。
そして―
「ウィンダ!!危ない!!」
ようやく耳に届いたそれが、命友であるリーズの声と気付いた瞬間、
ガシィッ
「あぅっ!?」
大気を引き裂いて現れた青銅の手が、体勢を崩していたガルドスを鷲掴みにした。
メキッメキメキッ
強大な圧力に、ガルドスの身体が悲鳴を上げる。
「ウィンダ!!」
「まずい!!」
それを見て駆け付ける、イグルスとスフィアード。
「放せ!!この化け物!!」
「腕に攻撃を集中させろ!!」
言葉とともに、無数の風爆がジールギガスの腕を被う。
しかし、魔王の巨腕は微塵とも揺らがない。
「お父上・・・!!!駄目!!・・・固まったら、奴の、思う壷・・・!!」
身体がひしゃげる苦痛の中で、ウィンダは必死に声を上げる。
「バカ!!そんな事言ってる場合か!!」
「力を抜くな!!押し返せ!!」
攻撃を続けながら、懸命の呼びかけを続けるウィンダールとスフィアード。
それを愉悦の目で眺めながら、ジールギガスはゆっくりと腕に力を込めていく。
「あ・・・ぐ、ぁ・・・」
ウィンダの意識が遠のきかけたその時―
ザァ・・・
不意に吹き渡る、緑色の光。
「・・・え・・・?」
光が吹き抜けた瞬間、全身の痛みが溶ける様に消えていく。
それだけではない。
身体の内に、感じた事のない力がみなぎってくる。
そして、それはウィンダだけではなかった。
「な、なんなのさ!?これ!?」
空を吹き通る光の風。満ちる力に、スフィアードは訳が分からないと言った体で言う。
「これは・・・『勇者の風(オロチョン・レラ)』!?」
ウィンダールが何かを悟ったその時、
「長!!巫女様!!リーズ姉ちゃん!!」
響く呼び声。
「!!」
「あれは!?」
澱んだ大気を蹴散らすように吹き届く、深緑の風。
イグルスとスフィアードの前に、緑の燐光を散らしながら舞い来るは新たなダイガスタ。
―『ダイガスタ・ファルコス』―
その翼が羽ばたく度、緑の光は風となって空を染める。
「カ、カムイ!!あんた、一体・・・!?」
「話は後だ!!今は巫女様を!!」
そう言うと、ファルコスがいっぱいに翼を広げる。
優しく、眩く輝く光。
「巫女様!!受け取って!!」
ザァッ
羽ばたき下ろされた翼から、降り注ぐ光風。
ガルドスの身体に、更なる力が満ちる。
霞みかけたウィンダの目に、戻る輝き。
そして、それは溢れる粒子を浴びたイグルス達も同じ事。
湧き出る力に、ウィンダールとスフィアードが拳を握る。
「これなら!!」
「いける!!」
雄叫びとともに、二人の風撃がジールギガスの腕を挟撃する。
メシィッ
軋みを上げる巨腕。
ジールギガスの口から、初めて苦痛の声が漏れる。
「巫女様!!」
「ウィンダ!!」
「今だ!!」
重なる三人の声。
それに答える様に、ウィンダが吼える。
「こっんのぉおおおおおっ!!!」
渾身の力を込めて翼を広げるガルドス。
バキィッ
異音とともに弾ける拳。
開いた指の中から飛び立つ神鳥。
「お返しよ!!」
離れ際に放つ一撃。
頬を打たれたジールギガスの首が、微かに揺れた。
「「・・・見たか?」」
「「ああ。」」
始終を目の当たりにした二体の騎士が頷き合う。
「「どうやら、迷いを抜けたらしいな。少年・・・。」」
カムイの姿を見とめた蒼の騎士、アクアマリナが呟く。
「「ガスタの民に力を与えるか・・・。まさに”希望”だな。」」
そう言って、感嘆の息を吐くルビーズ。
「「我らも、遅れを取る訳にはいくまい。」」
「「さればこそ!!」」
そして彼らは再び地を蹴る。
眼前に迫る巨人の足。
それに向かって叩きつけられる、紅と蒼の輝線。
ガガガッ
岩を削る様な音が響き、青銅の肌に紫色の跡が刻まれる。
「「やはり!!」」
「「相応の力をもっての物理攻撃ならば・・・」」
「「「「通る!!」」」」
腕の痺れに確かな手応えを感じながら、二人の騎士は刃を振るう。
ガガッ
ガキッ
ザガァッ
撃音とともに増える傷。
薄皮一枚程度のダメージ。
しかし、それは確実にジールギガスの注意を引く。
グゥウウウ・・・
苛立たしげに漏れる呼気。
巨蛇の如き尾がピクリと動く。
そして―
ゴウッ
横薙ぎに振られた尾が、地を削りながら二人を襲う。
「「ぬ!?」」
「「来るか!!」」
身構える二人。
迫る尾。
強大な力が、二人をまとめてはじき飛ばそうとしたその時―
【水霊衝波(アクヴォ・インプルソ)!!】
ザバァアアアアアアッ
声とともに押し寄せた水波が、迫る尾を受け止める。
「「何!?」」
「「これは!?」」
驚きと共に向けられた視線の先。
そこにいたのは、杖を構えた魚人の姫。
【早く回避を!!長くはもたない!!】
彼女の言葉に、我に返る二人。
咄嗟に、身を翻す。
ゴゥッ
一瞬の後、阻む水壁を破り散らした尾が、二人のいた場所を通り過ぎる。
咄嗟の危機を回避した騎士達は、その隙をもたらした本人へと向き直る。
「「・・・貴殿は・・・」」
「「・・・ガスタではない・・・。その姿・・・」」
鎧の奥の双眸が細まる。
「「・・・リチュアとお見受けするが?」」
「「如何なる所存か?」」
鋭い視線が、彼女―『イビリチュア・メロウガイスト』を見つめる。
まるで、その真意を見透かそうとする様に。
【・・・大丈夫。この娘に悪意はありません。】
不意に、声が響いた。
それに、アクアマリナが反応する。
「「その声・・・。カーム殿か!?」」
【はい。】
メロウガイストの中の、カームの魂が応える。
【魂魄同調(オーバーレイ)をして分かりました。エミリア(この娘)は、私達に敵するつもりはありません。】
「「・・・・・・。」」
返ってくるのは、沈黙。
【信じてください!!この娘は・・・】
【・・・信じてもらえないのは、当たり前・・・。】
カームの声を遮り、エミリアの声が響く。
【わたしが・・・リチュア(わたし達)がした事は、許されない事・・・。どんな理由があろうと、絶対に・・・!!】
「「・・・・・・。」」
【その罪は、わたしが担う。リチュアの一員として。その教主の娘として。だけど・・・だけど・・・!!】
声が、涙に咽る様に震える。
【お願い!!今は、今この時だけは信じて。ジールギガス(あれ)を・・・ノエリア(母)の罪を止めるために!!】
「「・・・・・・。」」
「「・・・・・・。」」
二人の騎士は、沈黙したまま。
【お二方!!】
カームの声が、もう一度訴えようとしたその時、
「「了解した。」」
アクアマリナが頷いた。
【!!】
メロウガイストが、ハッと顔を上げる。
「「その心根、信ずるに値すると見た。」」
ルビーズも言う。
「「我らの背、貴殿に預けよう。」」
【信じて、くれるの・・・?】
震える瞳で見つめるメロウガイストを、二人の騎士は真っ直ぐに見つめる。
「「カーム殿なら、分かっておられる筈。」」
「「ジェム(我ら)は、正しき事を見誤らない。」」
ルビーズが、刃を返した戦斧をメロウガイストに向ける。
「「認めよう。貴殿を、新たな我らの盟友として。」」
【・・・ありがとう・・・】
エミリアの声で、メロウガイストが言う。
スっと持ち上がる杖。
そして、
カチィンッ
絆と誓いを結ぶ様に、戦斧と杖が打ち合った。
・・・彼に、明確な思考はない。
そんなものは遥か過去、一度滅ぼされたその時に消え失せた。
今、その内を満たすのは際限なく渦巻く憎悪と破壊欲。そして、飢餓。
喰いたい。
喰いたい。
喰い尽くしたい。
かつて、インヴェルズ(絶対捕食者)として万物を蹂躙した邪悪な本能。
それだけが、今の彼の原動力。
獲物は、掃いて捨てるほどに在る。
足元の村に。
その奥に。
その向こうに広がる大地に。
そして、ずっとずっと向こうの、世界に。
衝動の赴くままに飽食しようとした彼を、しかし邪魔する者達がいた。
周りを飛び交う、翠の羽虫達。
足元を駆け回る、甲羅を被った地虫。
自分にとって木っ端にすら足らないそれらが、しつこく纏わりついては彼の邪魔をした。
それらが蠢く度に、皮膚をチクチクとした刺激が走る。
幾ばくの疼痛にもならない。
しかし、不快だった。
酷く、不快だった。
飛び交い、跳ね回るそれらが発する気配。
それが、彼を苛立たせる。
本能を逆撫でする嫌悪感。
勇気。
絆。
想い。
そして、光。
失った、記憶が疼く。
かつて、”それ”に屈した屈辱が。
かつて、”それ”に斃された痛みが。
”それ”に、怯えた憎悪が。
彼の内で渦を巻く。
ゴ ォ ア ァ ア ア ア
響く咆哮。
大気が。
大地が。
恐怖に怯え、揺れる。
瞬間、負の意思が破滅の光となってほとばしる。
ジュバァアアアアアアッ
ジールギガスの胸から、一際昏く眩い光が迸る。
「むぅ!?」
「きゃあっ!!」
幾条にも迸る閃光。
「うわぁ!!」
すぐ脇を通り過ぎた閃光に、ダイガスタ・ファルコスが体勢を崩す。
「カムイ!!」
思わず呼びかける。
それが、彼女の隙になった。
一筋の閃光が、スフィアードを捉える。
「くっ!!」
回避する間はない。
咄嗟に展開する、風の鏡(レラ・シトゥキ)。
しかし、意味はない。
魔性の光は触れた瞬間にそれを消し去り、スフィアードを直撃する。
「うわぁああああっ!!」
悲鳴と共に吹っ飛ばされる、身体。
「姉ちゃん!!」
「駄目だ!!間に合わない!!」
思わず近づこうとするファルコスを、ウィンダールが制する。
「でも!!」
「この位置!!行けば、お前もやられる!!」
「!!」
厳しい声音に、カムイは言葉に詰まる。
「忘れるな!!我らの役目を!!今の我らは盾だ!!”彼女達”のために一分一秒でも多く時間を稼ぐ!!お前達も、それは承知の筈!!」
「・・・・・・!!」
唇を噛み締めるカムイ。
それを力づける様に、ウィンダールは言う。
「心配するな!!リーズは死んでいない!!シンクロ体(我々)には一度の猶予がある!!一時の感情に流されて愚を踏めば、それこそ彼女の想いに反する事だ!!」
「・・・くっ!!」
かけられる言葉に、ファルコスは何かを振り切る様に旋回する。
それを見届けると、ウィンダールもイグルスの舵を切る。その顔に、深い苦痛の色を浮かべて。
その間に、リーズは地べたに叩きつけられていた。
刹那、風を繰って衝撃を和らげたものの、全身を走る痛みに身動きが出来ない。
シンクロはジールギガスの魔光によって無効化され、分離したスフィアがコロコロと足元を転がる。
霞む目で見上げると、再び輝き始める魔神の鏡が目に入った。
このままでは、第二撃が自分を直撃するだろう。
「・・・まずいかね・・・?こりゃ・・・。」
声にならない声で呟きながら、身を動かそうと試みる。
しかし、叶わない。
魔神の鏡が、輝きを増す。
そして―
カァッ
滅びの閃光が、彼女に襲いかかった。
「!!」
なす術なく、目を閉じる。
その時、
ヒュンッ
空気を切る音とともに、飛んできた何かが光を遮った。
途端―
バシィッ
リーズに迫っていた閃光が、弾き返される。
「え!?」
驚くリーズの目の前で、クルクルと舞った儀水鏡が燐光を散らしながら塵と散った。
「今のは・・・」
「おい!!あんた!!」
背後から聞こえた声に振り返る。
そこには、瓦礫の影から身を乗り出した銀髪の少年の姿。
彼は瓦礫の山を駆け下りると、リーズの腕を掴む。
「ボウっとするな!!早くこっちへ!!」
「だ、誰だよ!?アンタ!!」
自分の身体を担ぎ上げる少年に問うが、返ってくるのは苛立たしげな声。
「そんな事、今はどうでもいい!!とにかく隠れろ!!足手まといになりたいか!?」
「え、あ、でも・・・」
「うるさい!!」
リーズの当惑をねじ伏せると、少年―アバンスは彼女を手近な瓦礫の影へと引っ張り込んだ。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
戦禍の音が響き合う中、ウィンは懸命に駆けていた。
絶え間なく流れる血。
跳ねる度に悲鳴をあげる傷。
ともすれば、絶えそうになる呼吸。
戦いで消耗した身体。
それに鞭打ち、彼女は走り続けていた。
視界の隅。
破壊の限りを尽くす魔神。
それに立ち向かう、皆の姿。
幾度も弾かれ、傷つき、それでも臆する事なく、また立ち上がる。
その想いが、今の彼女を突き動かす。
今の自分が担うもの。
それは、皆の”希望”。
それを成すために。
それを掴むために。
皆は戦っている。
その全てを、”彼女達”に託して。
だから、ウィンは走る。
”その場”を目指して。
カッ
視界の半分が、昏く染まる。
魔神の胸から放たれた光が迫る。
それが彼女を呑み込む瞬間、飛び出した影が間に割り込む。
昏い光の中、消えゆく真紅の騎士の姿。
それと引き換えに、光の帯は立ち消える。
ウィンは立ち止まらない。
許されない。
それは、彼の意思を無下にする事。
だから、彼女は止まらない。
汗と共に頬を伝う滴。
それを拭いながら、ただ走る。
再び、視界を光が被う。
迫る悪寒の中、一瞬懐かしい温もりが身を包む。
目の前を一枚、翠の羽が舞って消えた。
続く
タグ:霊使い
重傷者が多いようですね。めー氏ならアウスの指示で村の外に待機してるはずです。ガスタの村で携帯の電波が届くかは怪しいところですが。