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2015年03月17日

霊使い達の黄昏・28




 ・・・ううむ。いかん。
 忙しいやら、体調不良やらでブログの更新がままならん・・・。
 なんとかせねば・・・。
 という訳で、取り敢えず「霊使い達の黄昏」、28話公開です。
 ちょっと短いけれど、勘弁してね。




たゆる想いは黄昏に集う.jpg





                      ―28―


 暗い曇天の下に、鈍色の鱗がキラキラと散る。
 それはほんの少し宙を舞うと、地に伏した少女の身に降り積もる。
 その様はまるで、力尽きたその身をを悼む様に見えた。
 【・・・終わったな・・・。】
 ”彼”の中のジゴバイトが言う。
 【うん・・・。】
 答える少女の意識は、何処か悲しげに響く。
 【エリアル・・・】
 呼びかける。
 【何がアンタを歪ませたのかは知らないけど、アンタのやった事は許されない。だから・・・】
 彼女の意思に従って、”彼”が屈む。
 無骨な指が、横たわるエリアルの口についた血を拭う。
 【今は、眠りなさい。目が覚めたら、思いっきり怒鳴り飛ばしてやるから・・・。】
 それは、歪んでしまったかつての同胞に送る精一杯の想いだった。


 「「・・・どうやら、決まった様だな。」」
 「うん・・・。」
 アクアマリナの言葉に、アウスが頷く。
 「「これで、残るは・・・」」
 「・・・・・・。」
 二人は揃って空を仰ぐ。
 その視線の先。
 羽ばたき蠢く、無数の妖魚。
 切れ間さえない闇の中、一条の光の様に若葉色の風が舞った。


 「・・・勝負、あったみたいだね・・・。」
 傷だらけの腕で杖を構えながら、ウィンは目の前のヴァニティにそう語りかける。
 「・・・ふむ。」
 黒衣から覗く手を顎に当てながら、ヴァニティは辺りを見回す。
 「確かに、こちらの駒はあの有様。シャドウ達も、音沙汰がないところを見るとやられた様だな・・・。全く、不甲斐ない事だ・・・。」
 そう言って、ため息をつく。
 「物分りがいいね・・・。なら、早くこの子達つれて村から出てって!!」
 迫るウィン。
 しかし、ヴァニティは酷薄な笑みでそれに返す。
 「ふ・・・。見え透いた虚勢はよせ。手がないのは、お前も同じだろう?先刻から防御にだけ回っているのは何故だ?」
 かけられた言葉に、表情を固めるウィン。
 「憑依開放(その術)、どうやら高めるのは防御力だけの様だな。守りだけ固めた所で戦況が揺るがないのは、お前の仲間が証明済みだろう。」
 言いながら見下げる先には、こちらを見上げるアクアマリナ達の姿。
 「・・・そう思う・・・?」
 呟く様に、ウィンが言う。
 「憑依開放(これ)が防御に特化するのは、霊使い(この)状態の時だけだよ・・・。憑依装着すれば、この魔力磁場は攻撃力に変換される・・・。そうすれば、アンタなんか・・・!!」
 「ならば、何故それをしない?」
 「!!」
 笑うヴァニティ。
 漆黒の瞳が、見透かす様にウィンを射抜く。
 「分かっているぞ。お前は、自分の下僕達を気遣っているのだろう?」
 「う・・・」
 「お前がその状態でいる限り、接する下僕達もその魔力磁場によって守られる。しかし、それを解けばそいつらは瞬く間にキラーの餌食だ。」
 キィ・・・
 『く・・・』
 悔しげな声を上げる、ウィング・イーグルとプチリュウ。
 「難儀な事だな。仲間など、戦いにおいては足枷以外のなにものでもないだろうに。」
 嘲る彼を、ウィンは強い眼差しで睨みつける。
 「そんな事ない!!仲間がいるから、わたし達は頑張れる!!守るべき人達がいるから、わたし達は強くなれるんだ!!」
 「詭弁だな。」
 ウィンの叫びを、ヴァニティは一蹴する。
 「それほど言うのなら・・・」
 そう言いながら、黒衣の術者は両手を広げる。
 その背後で、展開する妖鏡の魔法陣が怪しく光る。
 そして―
 ザワ・・・ザワザワザワ・・・
 「――――っ!?」
 場の皆が、思わず息を呑む。
 輝く魔法陣が吐き出したのは、先の何十倍にも及ぶ数のキラーの群れ。
 ボトボトと溢れる妖魚達は、次々とその大鰭を広げて舞い上がる。
 そのままウィン達に襲いかかると思いきや、群れを成したそれは別の方向へと向かい始めた。
 「え!?」
 『こいつら、何を!?』
 呆気にとられる皆の前で、キラー達の群れは渦を巻く様に流れいく。
 その方向に気づいたアウスが叫ぶ。
 「まさか、療養所を!?」
 「「何!?」」
 【ちょ、何よそれ!!】
 真っ青になったウィンが声を張り上げる。
 「何するの!?相手はわたし達でしょう!?」
 「それは、そっちの勝手な思い込みだろう?」
 能面の様に白い顔が、楽しげに歪む。
 「相手の弱点、弱みを狙うは兵法の初歩の初歩。」
 せせら笑いながら、彼は言う。
 「さあ、お決まりの選択だ。」
 ウィンを指す、白い指。
 「その術を解いてもらおう。さもなくば、あそこにいる村人全てを喰い尽くす。」
 凍りつく、皆の顔。
 それを見て、ヴァニティは初めて声を上げて哂った。


 その頃、村の療養所では村人達が恐怖に震えていた。
 「何!?あのモンスター!?」
 「ものすごい数!!」
 「こっちに来るわ!!」
 狼狽える皆に、ムストが激を飛ばす。
 「皆、落ち着け!!女、子供、そして怪我人は建物の奥へ!!戦える者は武器をとれ!!この村は、ガスタ(我ら)の手で守るのだ!!」
 「おお!!」
 「風の民(ガスタ)の名にかけて、もう醜態は晒さん!!」
 口々に言いながら、武器を手に取る男達。
 陣を組む彼ら目指して、迫り来るキラー達。
 と、気味の悪い声が皆の耳を打つ。
 「クププププ・・・。無駄な事を・・・。」
 皆の目が、振り向く。
 声の主は、ヴィジョン・リチュア。
 鎖で雁字搦めにされた彼は、その顔を歪ませながら言う。
 「あの数のキラーを前に、烏合の貴方達に何が出来るというのです?」
 「ぬ・・・。」
 「無理、無駄、無謀!!千切り、裂かれ、喰われる!!最後の一人、血の一滴まで、我らがリチュアの糧となる!!それが、ガスタ(貴方達)の変わらぬ宿命!!」
 タガの外れた様に響く哄笑が、村人達を蝕んでいく。
 踏みとどまろうとする、彼らの心。
 それを喰い崩す様に、ヴィジョンの声が鳴る。
 「クパパパパパッ!!さあ、焼き付けなさい!!今のこの情景を!!それが貴方達にとっての・・・モガッ!?」
 唐突に途切れる、その言葉。
 見れば、大きく開いたその口に、これまた大きなパンがポクリとハマっていた。
 「モ・・・モガ、モゴ・・・」
 「みっともないなぁ。男の軽口なんて、吐くだけ空気の無駄だよ。」
 「厶、ムガゴ・・・ムガガ!?」
 「ほら、くだらない事喚く口はこれかこれかこれか!?」
 ボタボタボタ
 雪崩る様に降るパンの山が、見る見るヴィジョンの口に積もる。
 「モゲガ―――ッ!!!」
 無数のパンに気道を塞がれたヴィジョン。
 哀れ、成す術なく白目を剥いて沈黙する。
 「ああ、やっと静かになった。」
 泡を吹いてピクピクしているヴィジョンを見下ろし、”彼女”はフンスと腰に手をやる。
 と、そんな彼女の後ろから現れる影が一つ。
 「おいおい。抵抗出来ない者に、あまり無茶をするな。」
 諌める”彼”と、肩を竦める”彼女”。
 その姿を見た村人達から、歓声が上がる。
 「お主達・・・」
 感極まった様に息を漏らすムスト。
 そんな彼に向かって、”彼”は微笑みながら声をかける。
 「すまない。苦労をかけてしまった。後は、私達に任せてくれ。」
 「そんな事はいい。いいのだ。それよりも、あの娘が・・・ウィンが・・・。」
 「分かってます。ムスト様。」
 そう言って、”彼女”は空を仰ぐ。
 「風が、全てを見せてくれました。・・・強く、なったんですね。あの娘・・・。」
 「・・・!!」
 ムストが無言で頷いた、その時、
 「来たぞー!!」
 誰かが、叫ぶ声が聞こえた。
 見れば、療養所の上空を覆ったキラーの群れが、今まさに雪崩落ちてこようとしている所だった。
 凛とした声で、”彼”が言う。
 「行くぞ!!ウィンダ!!」
 ”彼女”が答える。
 「はい!!お父上!!」
 同時に天を突く、二本の神杖。
 舞い上がる、緑翠の翼。
 そして―
 「「神化降霊(カムイ・エク)!!」」
 ゴバァッ
 輪唱する言葉とともに立ち上がる、二条の風柱。
 清く、けれど強く吹き荒ぶ。
 悲鳴を上げる妖魚達。
 神の嵐はそれを片端から呑み込み、撃ち散らしていった。


 「何!?」
 ヴァニティの顔が、初めて色を変える。
 見れば、療養所を襲う筈のキラーの群れが突然吹き上がった暴風に次々と蹴散らされていく。
 風は巨蛇の様にうねり、渦巻き、荒びながらこちらに向かって来る。
 「あれは・・・まさか・・・!?」
 呟くウィンの髪を、風が揺らす。
 身を抱く、その感覚。
 見上げるその前で、風の道が弾けた。
 空を覆う、鳳の翼。
 夢でも見るかの様に、呟く。
 「・・・『イグルス』に、『ガルドス』・・・。それじゃあ!!」
 彼女の言葉に答える様に、声が降る。
 「そうだよ!!ウィン!!」
 「久しいな。旅の目的は、果たしたか?」
 緑翠の翼の上から覗く顔。
 ウィンの顔が、喜びに咲く。
 「お父様!!ウィンダお姉ちゃん!!」
 場所の問題さえなければ、今すぐにでも飛びつきそうな勢い。
 「治ったんだね!?」
 かけられる言葉に、ウィンダが微笑む。
 「貴女のおかげ。頑張ったね。」
 満開の華の様に綻びた顔で、ウィンは頷く。
 「来るぞ!!ウィンダ!!」
 再会に踊る二人の心を、ウィンダールの声が引き締める。
 見れば、ヴァニティの展開する魔法陣から新たなキラーが湧き出していた。
 「ガスタの賢者と巫女か・・・。大人しく寝ていれば良いものを・・・。」
 憎々しげに呟くヴァニティに向かって、ウィンダールは笑う。
 「悪いな。黙って大人しくしていられるほど、人間が出来ていないものでね。」
 「ほざけ!!」
 ヴァニティの叫びに応じる様に、キラー達が襲いかかる。
 「行くぞ!!イグルス!!」
 「ガルドス、お願い!!」
 キィイイイイイッ
 ピィルルルルルルルッ
 主達の思いに答え、二羽の神鳥は雄叫びを上げる。
 「『神の渦(カムイ・モレウ)』!!」
 「『嵐の刃(ルヤンぺ・マキリ)』!!」
 ゴブァッ
 キシュシュッ
 羽ばたく緑の双翼。
 嵐の渦がキラー達を呑み込み、風の刃が叩き落とす。
 見る見るその数を減じていくキラー達。
 「お父様!!お姉ちゃん!!」
 妖魚の群れを相手に風神の如き奮闘を見せる二人に、思わずウィンが身を乗り出したその時―
 「!!」
 ウィンダールとウィンダ。二人の視線が、ウィンを見た。
 その意図を、彼女は瞬時に悟る。
 「小賢しい・・・!!」
 風に弾かれて飛んできたキラーを片手で叩き落としながら、ヴァニティは言う。
 「いくら足掻こうと、王宮の勅命(エンペラーズ・トレアニー)がある限り、貴様らは片翼をもがれた鳥も同然!!いずれは疲れ果て、この物量に圧し潰されるが関の山よ!!」
 「そうかな?」
 不敵に笑むウィンダール。
 次の瞬間、ヴァニティに向かって突っ込む。
 鋭く突き出された杖が、朱い光を纏う。
 「貫け!!『ガスタの風塵(ガスタ・ヌプル)』!!」
 「罠魔法(トラップ・スペル)か!?」
 咄嗟に対滅罠(カウンター・トラップ)の発動を試みるヴァニティ。
 しかし―
 「何!?」
 展開しかけた術式が、杖が散らす朱い燐光に触れた途端崩壊する。
 「強制キャンセルだと!?」
 「どうだ?自分のお株を奪われた気分は。」
 交錯する、二人の言葉。
 そして―
 ドズゥッ
 「グハァッ!?」
 薄い唇から飛び散る鮮血。
 ウィンダールの杖が、ヴァニティの腹部に抉り混んでいた。
 グラリ
 たまらず体勢を崩す。
 その視界の隅に、朱い魔法陣を展開する少女の姿が映る。
 「――っ!!させぬ!!」
 咄嗟に一匹のキラーを差し向ける。
 けれど。
 「大気に宿りし偉大なる御霊!!我が祈りに答え、其が意思を示せ!!」
 清く響くは、巫女の詠唱。
 鮮やかな円を描く、蛍緑の光。
 使えないはずの、通常魔法(ノーマル・スペル)。
 次の瞬間、
 「『ガスタの交信(ガスタ・ハウ)』!!」
 ピシャアァアンッ
 天を降る、一条の光。
 雷神の一撃が、ウィンに迫るキラーを粉砕する。
 (王宮の勅命(エンペラーズ・トレアニー)までもか!?)
 光の風塵の中、沈黙する封呪の結界。
 歯噛みする、ヴァニティ。
 賢者と巫女が叫ぶ。
 「ウィン!!」
 「今よ!!」
 それに答える様に、ウィンは杖を振り下ろす。
 渾身の、想いと力を込めて。 
 「いっけぇえええええ!!『砂塵の大竜巻(ダスト・トルネード)』!!」
 ゴバァアアアアアアアアッ
 猛り立つ、破術の旋風。
 その威力に、禁呪の結界が悲鳴を上げる。
 「おのれぇえええええええっ!!」
 虚しく木霊する叫び。
 杖を振り抜くウィンダール。
 薙ぎ払われた黒衣の術師が、血反吐を散らしながら地に落ちる。
 同時に、吹き荒ぶ風の中で『王宮の勅命(エンペラーズ・トレアニー)』が微塵と散った。



                                    続く
タグ:霊使い
この記事へのコメント
「仲間など、戦いにおいては足枷以外のなにものでもない」
……間違いなく社長のファンのようだ。

あれは何だ!
鳥か! 飛行機か! いや、あれは……
鳥に乗ったおっさんだ!!
やはり、ヴァニティ<おっさん>にはウィンダール<おっさん>で対抗するのが上策か。

ヤタッ!ウィンダールとウィンダがついに長い眠りから目覚めたぞ!
民の蜂起、強力な味方の復活、集結する戦士たち……
こうなると次回あたりにラスボスが出てきて一話でやっつけるんですね!!
ただ今モイ君が光の速さで参上宙なので次回の更新は数十年後か………

Q.王宮の勅命発動中にガスタの風塵を発動してガスタの賢者ウィンダールの攻撃宣言時にガスタの交信を発動することができますか?
A.マジレスは受け付けません。
Posted by zaru-gu at 2015年03月30日 21:42
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