こんばんは。土斑猫です。
「霊使い達の黄昏」29話、掲載します。
で、実は現在pixivの方にもこの作品を投下しているのですが、その際の見直しで結構な修正部分が生じています。
ですので、いずれそちらのバージョンとこちらのバージョンを差し替えようと思っています。
取り敢えずは、話そのものが完結してからの話になりますが。
その際はおって連絡いたします。
ではでは。
―29―
堕ちゆく視界の中、崩壊していく紅い結界。
それに自分達の謀略の瓦解を重ねながら、それでも足掻く様に彼は叫んだ。
「喰いつくせ!!キラー共ぉ!!」
その声に反応する様に、残っていたキラー達が再び蠢き始める。
しかし―
「もう―」
「無駄だ!!」
凛とした声と共に、緑翠の神鳥が舞い踊る。
羽ばたく羽に。
巻き起こる風に。
キラー達は次々と叩き落とされ、地べたを這う。
リチュア・キラーの脅威はその物量。
圧倒的な数で覆い込み、押し潰し、喰らい尽くす。
しかし、それは逆に言えばあくまで数に頼った単純な戦術しか取れない事を意味する。
キラー一体一体は、あくまで貧弱な低レベルモンスターでしかない。
頼みの綱の数が減じれば、その弱点は容易に顕になる。
その物量を支えていたヴァニティが討たれた今、頼みの召喚術はすでにその効果を失っている。
供給源を絶たれたキラー達に、最早勝機など在る道理はなかった。
せめてもの道連れにと、疲弊したウィンやアウス、今だ身動きの取れないカームやスフィアードへと殺到する。
しかし、それも窮鼠のひと噛みにすらなりえない。
彼女達を守るため、2体のダイガスタやガガギゴ、アクアマリナが立ち塞がる。
成す術なく、右往左往するキラー達。
そして、そこに最後のダメ押しが突き刺さる。
「『雷鳴(サンダー・ハウル)』!!」
「『黒の宝珠(ブラック・コア)』!!」
「『炎の飛礫(ファイヤー・ボール)』!!」
次々と響く声と共に、三色の色が空を彩る。
雷(いかづち)に撃たれ、闇に呑まれ、炎に焼かれ。
バタバタと堕ちるキラー達。
そして―
「「『焦熱の閃(ブレイズ・シュトローム)』!!」」
紅蓮を纏った戦斧が渦を巻き、残ったキラー達をまとめて叩き落とした。
「「む!?」」
「これは!?」
驚いた面々が視線を向けた先には、4つの人影。
「・・・やあ、遅いじゃないか・・・。」
「ライちゃん!!ダル君!!ヒーちゃん!!」
「「貴殿か。ルビーズ。」」
各々が、それぞれの形で喜びを伝える。
受ける面々も、それぞれの顔で安堵の息をつく。
「「うむ。待たせたな。」」
「ふぅえええ、まにあったですぅ〜。」
「・・・って言うか、もうカタついてたっぽいぞ・・・。ついてない・・・。」
「皆無事・・・みてぇだな。とりあえず。」
駆け寄ってくるヒータ達。
迎えるウィンやアウス。
空では、二羽のダイガスタが舞っている。
地では、落ちたキラー達が力無く蠢いている。
魔魚は滅び、神鳥は蘇る。
それはそのまま、二つの勢力に訪れた結末。
村を包んでいた妖気は消え、いつしか穏やかな風が戻り始めていた。
「あ〜、ウィンちゃん〜!!ごぶじでよかったですぅ〜!!」
地に降り立ったウィンに、ライナが半泣きで抱きつく。
「く、苦しいよ。ライちゃんってば。」
口ではそう言いながら、ウィンはその身をしっかりと抱きとめる。
傷だらけの顔を突き合わせ、笑い合う二人。
その横では、ヒータがへたりこんでいるアウスに声をかける。
「よお、大丈夫か?」
「おかげさまで・・・。見ての通りの有様さ。」
「珍しいな。お前のそんな様見れるなんて。長生きはしてみるもんだねぇ。」
意地悪く笑うヒータ。
けれど、アウスも同類の笑みを浮かべながら言う。
「”死に損ねてみる”の間違いじゃないのかい?」
「あん?」
言われて、アウスの指が示す先を見る。
それが指すのは、自分の胸元。そこには、塞がったばかりの大きな傷跡が一つ。
もっとも、アウスが指しているのはそこではない。
地肌に傷がついているという事は、当然そこを覆っていた衣服も同程度に裂けている訳で・・・。
元々露出の多かった衣装はますます生地が減り、無理やり絞り上げた残りのそれを胸の辺りで縛っている。
半身を露に晒したそれは、ほとんどビキニの水着である。
「随分と、扇情的な格好をしているじゃないか。男子諸君には些か毒じゃないかな?」
その指摘に、薄く頬を染めながらヒータは言う。
「しょうがねえだろ?場合が場合で、着替えを調達する暇なんてなかったんだから。」
膨れるヒータに向かって、アウスはくっくっと笑った。
「・・・お前、エリアか・・・?」
【あ〜、うん。そうみたいね。一応・・・。】
唖然とした顔で見上げてくるダルクを前に、ガガギゴの中の”彼女”はポリポリと頭をかきながら答える。
「・・・何か、随分と大事(おおごと)になってる様に見えるんだが・・・」
【大事っちゃあ、大事ねぇ・・・。】
「・・・取り敢えず、元に戻ったらどうだ・・・?」
ダルクの提案に、しかし彼女”達”は首を捻る。
【そうは言ってもねぇ・・・。戻り方が分かんないのよね。これ。】
「・・・落ち着いてる場合か・・・。」
顔を引きつらせるダルク。
けれど、”彼女”はあくまで平然と答える。
【あたしは別に構わないんだけど。このまんまで。】
「はあ!?」
【だって、何かいい感じなんだもん。これ。ギゴとの一体感がたまんないって言うか。】
「あのな・・・。」
何げに赤面ものの発言をする”彼女”に、米神を抑える。
『あのさ・・・』
『アナタハ・・・』
『それで・・・』
『宜しいのか?』
『ギゴはん。』
集まって来た他の使い魔達も、ガガギゴの中の”彼”に向かって尋ねる。
【え?あ、いや、それは・・・】
しどろもどろで答える”彼”の声。
と、
【もちろん、無問題よねー!!】
【むぎゅー!?く、苦しいって!!エリア!!】
聞こえてくる、そんなやり取り。
『・・・なんか・・・』
『オ超エ二ナラレタ様デスネ・・・。』
『何と申すか、その・・・』
『色々と・・・。』
『仲良きことは美しきかな・・・でっか・・・?』
そして、使い魔達はダルクと一緒に米神を抑えるのだった。
「ウィンダちゃん〜。ウィンちゃんの所には行かないの〜?」
ガルドスから降りたウィンダに介抱されていたカームが、彼女に向かって訊ねる。
「うん・・・。何て言うか、入って行き辛いかな?あの中には・・・。」
ウィンと彼女の周りの輪を見ながら、ウィンダは少し寂しそうに答える。
「あの娘はもう、ガスタの加護を受けるだけの娘じゃない・・・。新しい絆を結んだ、立派な一人の術師・・・。」
羨望するかの様に細まる、緑の瞳。
「保護者はもう、一線を退かなくちゃね・・・。」
「ウィンダちゃん・・・。」
ニコリと笑うその目尻に、光る滴が一つ。
カームは黙って手を伸ばし、そっとそれを拭った。
「大事はないか?リーズ。」
そう言いながら、手を差し伸べるウィンダール。
「・・・すいません。長・・・。『疾風』の名をいただいておきながら、ザマァない・・・。」
彼の手を借りながら身を起こしたリーズが、申し訳なさそうに顔を伏せる。
そんな彼女に向かって、ウィンダールは穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「何を言う。私達が臥せっている間、お前は十二分に役目を果たしてくれた。その名に恥じる事は、何もない。」
「長・・・。」
「・・・そうだよ・・・。」
割り込んできた声に、二人が視線を向ける。
そこには、力無く佇む少年の姿。
「カムイ・・・。」
リーズが、呟く様にその名を呼ぶ。
「姉ちゃんは、オレを守ってくれた・・・。必死に村を、守ろうとした。恥じる事なんてない・・・。だけど・・・だけど!!」
ギリリ・・・
小さな手が、白くなる程に握り込まれる。
「・・・オレは、違う・・・」
血の気の失せた唇が、うわ言を言う様にパクパクと言の葉を紡ぐ。
「・・・オレは間違った・・・。怒って、自分を忘れて・・・憎んで・・・目を曇らせて・・・。風の声を聞かずに・・・関係ない人を傷つけて・・・殺しかけて・・・しまいには、ファルコの羽まで汚してしまった・・・。」
クゥ・・・
彼の足元で、ガスタ・ファルコが悲しげに喉を鳴らす。
「もう・・・オレに『ダイガスタ』を駆る資格なんて・・・ない!!」
ガバリ
カムイが、ウィンダールの足元に両手を付く。
「長・・・!!お願いです!!どうか・・・どうかオレから、ダイガスタを奪ってください・・・!!」
「カムイ、何を・・・!?」
驚くリーズを制すると、ウィンダールはカムイの前に膝を下ろす。
「・・・すまない。」
「・・・え・・・?」
思わぬ言葉に、顔を上げる。
自分を真っ直ぐに見つめる、ウィンダールの眼差しと目があった。
戸惑うカムイに向かって、ウィンダールは言う。
「私は、お前の・・・お前達の両親を救えなかった。その事がお前の眼を曇らせ、心を濁してしまった。」
「・・・!!」
心臓が跳ねた。
声は出ない。
代わりに、ヒュッと引きつる様な呼吸が漏れた。
ウィンダールは続ける。
「許しは乞わない。いかなる怒りも受け止めよう。その上で、お前に言いたい。」
一拍の間。
そして、風の長は言う。
「目を、逸らさないでくれ。」
「・・・え・・・?」
「確かに、お前は過ちを侵した。それは、許されるべきものではないかもしれない。だが、それから逃げないで欲しい。」
ウィンダールの右手が、カムイの頬を包む。
亡き父のそれにも似た温もりが、染みていく。
「此度の事で、お前は知った筈だ。奪われる、悲しみも。奪う、愚かしさも。」
「・・・・・・。」
頭を、身体を、数多の記憶と想いが巡る。
腕の中で冷たくなっていく、両親の身体。
エリアを突き落とした時の、醜悪な感触。
無くす事も、捨てる事も出来ない、心の傷。
「それを、受け止めろ。喜びも、悲しみも。光も、闇も。どちらか一方だけでは人は歪んでしまう。二つの想いを受け止め、受け入れた時、”ヒト”と言う生物は初めて”人間”という存在になれる。」
優しく、けれど強く。
語りかける言葉。
ヒビ欠けた心に慈雨の様に降り注ぐそれは、彼が賢者であるが故か。それとも、父であるが故か。
「喜びを知り、悲しみをしり、優しさを知り、憎しみを知ったお前は、必ずや正しき人間になれる。強い男になれる。そしてその先に―」
大きな手が、小さな手を握り締める。
「ガスタ(我ら)の希望は、あるのだから―」
「――――っ!!」
息を呑むカムイにもう一度微笑むと、ウィンダールは立ち上がる。
その瞬間―
ゴボァッ
腐り泡立つ様な音と共に、闇色の水柱が下り堕ちた。
周囲にいた皆の悲鳴が響く。
「長!!」
思わず、叫ぶ。
けれど、ウィンダールは微笑みを浮かべたまま。
「カムイ、今の言葉、すぐに呑み込めとは言わん。ただ、忘れないでいてくれ。」
そう言って、ウィンダールは踵を返すと闇の濁流へと進み始める。
遠ざかる背に、問いかける。
「長!!オレは・・・オレは、何をすればいいんですか!?」
その声に、ウィンダールの足が少しだけ止まる。
「そうだな・・・。まずは・・・」
振り返らずに、届ける言葉。
「思い出す事だな。今”そこ”で、お前を想っている友の事を。」
「え・・・?」
視線を向けたそこには、自分を見つめる澄んだ瞳。
「ファルコ・・・。」
クゥ・・・
数多の時を共にした友が、そこにいた。
「思い違うな。」
賢者は言う。
「ダイガスタは、まだお前を見限ってはいない。」
そして、彼は新たな戦場へと向かった。
・・・その声が、脳裏に響く。
(ヴァニティ・・・)
「・・・・・・。」
宵闇の深淵から。
(ヴァニティよ・・・。)
「・・・・・・」
降り積もる、澱の底から。
(終わりかえ・・・?)
「・・・・・・。」
その声が。
(座興はもう、終わりかえ・・・?)
「・・・・・・。」
甘く。
おぞましく。
(ヴァニティ・・・?)
脳漿を、犯す。
「・・・いえ・・・」
ゴボリ
気管に溜まった血漿が揺らぐ。
「いいえ・・・ノエリア様・・・」
ゴボリ
ゴボリ
溢れ出る紅。
構わずに、呪詛を紡ぐ。
「・・・終わりでは、ありませぬ・・・」
投げ出されていた手が、ピクリと蠢いた。
「何!?」
「こいつ、まだ!?」
皆の驚きの声が響く。
ウィンダールに討たれ、地に落ちていたヴァニティ。
彼が、幽鬼の様に起き上がっていた。
ボトボト ボト
低い呼吸音が鳴る度に、その口から大量の紅がこぼれ落ちる。
それを見たウィンダが叫ぶ。
「やめなさい!!それ以上無理をしたら、命に関わるわ!!」
けれど、その声はヴァニティには届かない。
彼の目はただ、虚ろに虚空を見つめる。
「・・・ノエリア様・・・」
ゴボゴボと泡音を鳴らしながら、言葉を放つ。
「・・・私の・・・私らの、最後の座興の”種”でございます・・・。どうぞ、お納めを・・・」
ズルリ
黒衣の中からまろび出る手。
異様に青白いそれが握るのは、ひと振りの小刀。
皆が、思わず身構える。
しかし、違う。
逆手に握られたそれが向く先は、霊使いでもなければガスタでもない。
それが向かうのは―
「――っ!!」
気がついたウィンダが叫ぶ。
「止め――っ!!」
言葉は、最後まで届かなかった。
ズリュッ
怖気の走る様な音とともに、真っ赤な闇が散る。
紅に染まった手。
握った小刀の先。抉りとったドクドクと動く真紅の塊を掲げ、彼は最後の呪詛を放つ。
「さあ、刮目せよ!!来(きた)る死の姿を!!逃れえぬ滅びの証を!!」
ゴボリ・・・
水が、蠢く音が響く。
重く、おぞましく、空が揺れる。
そこに己が願いの成就を悟り、彼は凄絶な笑みを浮かべる。
最後の力を振り絞り、望むは破滅の言の葉。
「顕現せよ!!最後のイビリチュア!!最凶の禁呪神よ!!」
雷鳴の様にすら聞こえるそれが響いた瞬間―
ゴブァッ
空から漆黒の水流が雪崩堕ちた。
異常は、リチュアの城でも起こっていた。
白い巨塔に並ぶ窓。
その全てから濁黒の水が溢れ出していた。
水は城の内部全てを満たし、そこに在る命の全てを呑み込んでいく。
「ひぃいいいいいー!!こぅれは、何でぃっすかぁー!?」
地下に流れ込む濁流の中で、コザッキーが悲鳴を上げていた。
「がぼががが!!ミィズ・ナッタリィアァ〜!!たっすけぇてくぅださぁいぃい〜!!」
彼の叫びを聞いているのかいないのか。リチュア・ナタリアは激流に身を晒しながら中空を見つめていた。
『・・・”奴”を、呼ぶのね。”ノエリア”・・・。』
その口から、いつもとは違った口調の声が漏れる。
『・・・何時になっても、何処へ行っても、”あの日”の”あの時”から、私達は同じ回廊を巡るだけ・・・。』
諦観した様な眼差しが、地下室の天井を、否、その先にいるであろう”彼女”を見つめる。
『・・・いいわ。これは、貴女の罪。けれど、私の罪。付き合ってあげる。何処までも・・・。何時までも・・・。でも・・・』
その瞳に一瞬、ある想いが浮かぶ。
『いい加減、”あの子達”は放してあげても、いいんじゃないかしら・・・。』
「ががぼがぼ・・・」
足元から聞こえた異音に、視線を下ろす。
見れば、頭まで黒水に呑まれたコザッキーが最期の力を振り絞って柱にしがみついている。
『・・・可哀想な人・・・。』
憐憫の篭った声音で、ナタリアは言う。
『でもね、私達の真意を知り、それでなお追従したのはあなた自身。その罪は、己で被るしかないわ・・・。』
半透明の身体が、音も無く動く。
もはや、声も出せないコザッキー。
その彼の真上で、ナタリアは腰から剣を抜く。
『これは、せめてもの贖罪・・・。』
鋭い刃先が、下を向く。
『楽に、お逝きなさい・・・。』
そして―
ズンッ
鈍い音が響き、黒い水が紅く染まる。
けれど、それも一瞬。
次の瞬間には、黒い渦がコザッキーとナタリアの姿を呑み込んでいた。
その頃、城の玉間も黒い水に満たされていた。
水の出処は、壁に飾られた巨大な儀水鏡。
それが、その鏡面を揺らしながら滝の様に黒水を吐き出していた。
その飛沫を浴びながら、ノエリアはいつも通りに玉座に座し、黒に侵食されていく世界を物憂げな視界で見つめていた。
「・・・ナタリア殿が、逝きましたようで・・・」
水音の向こうから聞こえた声に、チロリと視線を向ける。
そこには、座した姿のまま首まで水に浸かったディバイナーがいる。
「・・・その様じゃな・・・。」
返すのは、気のない返事。
ディバイナーは問いかける。
「幾度目でしょうな?この輪廻を巡るのは・・・」
「さてな。」
「後悔は、ございませぬか?」
些か、からかう様な声音。
けれど、禁呪の女王は揺るがない。
「可愛い手下(てか)の捧げ物ゆえな。無下にする訳にはいくまい?」
「左様で・・・。」
クックと笑う声が、水音に揺れる。
「ノエリア様・・・」
「何じゃ?」
「次の世でも、お使い申し上げます・・・。」
その言葉に、ノエリアの顔が初めて微かな笑みを浮かべる。
ディバイナーを満たす、満ち足りた想い。
そして彼もまた、黒い水面(みなも)の底へと沈んでいった。
下り落ちてきた闇色の水が、ヴァニティの身体を呑み込む。
その瞬間、例えようもない怖気が皆を襲う。
「何!?」
「これは・・・さっきと同じ・・・!?」
「ヴァニティ(あいつ)も怪物に!?」
口々に叫ぶライナ達。
しかし、それをアウスの声が否定する。
「違う!!さっきの様な異常な生命力の肥大化が感じられない!!」
「ど、どういう事だよ!?」
ヒータの問いに、青ざめながら彼女は答える。
「まさか・・・自身を儀式の生贄に・・・?」
「何!?」
皆が戦慄したその瞬間―
ジュバァッ
天から堕ちる水柱から漆黒の触手が伸び、皆に襲いかかる。
「「なっ!?」」
「危ない!!」
全員が、咄嗟に身をかわす。
【ギゴ!!エリアルを!!】
【分かった!!】
ガガギゴの腕が、倒れていたエリアルの身体を救い上げる。
獲物を失った触手はそのまま伸び進み、地でもがいていたキラー達を巻き込む。
いたる所で響く、キラー達の悲鳴。
『な・・・何だよ、これ・・・!!』
グジュ・・・グジュル・・・
黒い水が、キラー達を呑み込んでいく。
「全て喰い尽くすつもりか!?」
叫ぶウィンダール。
その前で、水柱が膨らみ始める。
太く。
丸く。
おぞましく。
まるで、何かを孕む様に。
闇色の水は、受胎していく。
声を出す者は、もういない。
誰もが成す術なく、その異様を見つめる。
そして―
唐突に―
何処からともなく―
”それ”が―
聞こえた。
「―いでよ。」
水の、動きが止まる。
「―『イビリチュア・ジールギガス』―」
瞬間、闇が弾けた。
続く
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