こんばんは・・・。土斑猫です・・・。
やっと・・・やっと、形に出来た・・・。
お待たせしました。「霊使い達の黄昏」40話掲載です。
文量は少ないですが・・・(汗)
次回は出来るだけ早めに載せられる様にしますんで、どうぞご勘弁くださいませませ・・・(>人<;)
―33―
「キャアアアアアッ!!」
耳に響く悲鳴。
目の前で、細身の身体が地面に叩きつけられる。
力尽きた様に地に広がる、若葉色の髪。
それを見た瞬間、気管が引きつる様な音を立てる。
「お姉ちゃん!!」
思わず駆け寄ろうとする。
しかし、
「来るな!!」
苦しい息の下から放たれた、厳しい声音がその足を遮る。
傷ついた身を細い腕で支えながら、彼女は妹に向かって言う。
「足を止めちゃ駄目!!走りなさい!!」
「でも・・・!!」
「何のために、皆が命をかけてると思ってるの!?」
苦しい息の下から放たれる叱咤に、身が竦む。
「分かるでしょ!?分かるなら、行きなさい!!一族(ガスタ)のために!!世界のために!!そして、私達のために!!」
「――!!」
瞬間、若葉色の結び髪が踵を返す。
拍子に散った雫が、微かに頬を濡らす。
遠ざかっていく後ろ姿。
それが視界の向こうに消えるのを見届けると、ウィンダの意識はゆっくりと闇に堕ちた。
「「ぐぅあぁあ!!」」
【ああッ!!】
目の前をかすめる、滅びの邪光。
彼女をかばった騎士の姿が、昏い眩きの中に消える。
【く・・・!!】
悔しげに唇を噛んだその時、胸を飾る鏡が震える。
(無事か!?エミリア!!)
幼い頃から、聞き慣れた声。
竦みかけた心が、静かに凪いでいく。
【ええ・・・。”彼ら”が守ってくれたから。】
再び唇を噛みながら、碧の騎士が消えた先を見つめる。
上級ジェムナイトは、二つの魂を持つ融合体。
その存在を否定されたとしても、元の肉体が魂の受け皿となる。
―無事な、筈―
その事を信じながら、彼女―イビリチュア・メロウガイストは杖を構え直す。
再び震える、鏡。
”彼”の声が響く。
(無茶するな!!今援護に行く!!)
気遣う声。
伝わる、想い。
同時に、感じる視線。
委ねたくなる、衝動。
けれど、寸での所で振り払う。
【来ないで!!】
(え!?)
【私には構わないで!!貴方は、”あの娘”達や倒された人達の援護を!!】
(けど、それじゃあ・・・!!)
【忘れたの!?】
抱きしめようとする温もりを、振り払う。
【私達がここに立つのは、犯した罪を償うため!!私達がここに在るのは、絡む呪いを断ち切るため!!】
(エミリア・・・)
【だから、守って!!私ではなく、私達の未来を紡ぐ者達を!!】
叫ぶ様に言って、胸の鏡を引きちぎる。
放り投げられる鏡。
クルクルと宙を舞う鏡。
次の瞬間、視界を覆う昏い輝き。
バチィッ
視界の向こうを走る朱髪の少女。
それを呑み込もうとした光が、投げた鏡に弾かれる。
少女の姿が、瓦礫の向こうに消える。
見届けた様に、役目を果たした鏡は消えてゆく。
もう、自分の声は届かない。そして、”彼”の声も届かない。
けど、それでいい。
今の自分達は、己の為にあるのではない。
まして、リチュアの為でもありはしない。
初めて。
そう。初めて。
世界の為に、在れるのだから。
光の中に、立てるのだから。
ふと、感じる視線。
見上げれば、見下ろす赤眼とかち合う焦点。
”それ”は、哂っていた。
彼女達の無力さを。
卑小さを。
そして、愚かさを。
見下し。
睥睨し。
嘲笑っていた。
【・・・哂うのね・・・。】
彼女は言う。
【私達を、哂うのね・・・。】
輪廻を巡る様に、記憶が回る。
【でしょうね・・・。あなたにとって、”私達”は玩具・・・。勝手に踊って、勝手に壊れて、それでも喜劇を演じ続ける、滑稽な自動人形(オートマタ)・・・。ずっと、ずっと、そうだった・・・。けど・・・!!】
ブンッ
振りかぶる、杖。
その先端に、灯る青い光。
【それも、ここで終わらせる!!】
見下ろす巨躯の中心にも、光が灯る。
昏い、昏い、奈落の光。
自分の。
リチュア(自分達)という存在。
その根源。
そして、絶対たる至高。
意思とは裏腹に、心が竦む。
畏怖という鎖。それに縛られ、強張る身体。
―呑まれる―
心が、悲鳴を上げるその瞬間―
【・・・怯えないで。】
【!!】
穏やかな声が、その心を抱き締める。
【・・・大丈夫。貴女の想いは、わたしが受け止める。】
それは、優しい。どこまでも優しい、風の歌。
【だから、一人で負わないで。一人で、泣かないで・・・】
【・・・・・・】
【忘れないで。今の貴女は一人じゃない事を・・・】
崩れかけた心が、凪いでいく。
抱き締める気配。
それに、そっと意識を伸ばす。
つながる、想いと想い。
【・・・ありがとう・・・。】
呟いて、目を見開く。
視界を覆うのは、奈落の光。
けれど、心はもう揺るがない。
【・・・不思議ね。もう、何も怖くない。】
その口元に、浮かぶ笑み。
光の向こうに見える赤眼。
それにむかって、語りかける。
【哂うなら、笑えばいい。見下すなら、そうしなさい。だけど・・・】
ヴゥン
萎えかけていた杖の光が、再び輝く。
【見下すだけの目に、先の世界は映らない!!】
放たれる、滅びの光。
つながる意識を、握り合う。
【滅びしか知らない者が、未来を得るなんて出来はしない!!】
振り下ろす、杖。
青い光が、刃となって飛ぶ。
【哂いなさい。そして、知りなさい。己という存在の脆さを。滅びという名の城の、砂上なる様を!!】
迫る奈落を、青い閃光が切り裂く。
燕(つばくろ)の様に飛んだそれは、ジールギガスの鏡へと当たって弾ける。
ピシッ
微かに響く音。
耳に届く筈もない、か細い泣き声。
けれど、確信を持って”彼女達”は、上を向く。
その先にある、確かな明日を見据えて。
雪崩込む、昏き光の奔流。
それに呑まれる瞬間まで、その瞳が逸らされる事はなかった。
「・・・エミリア・・・!!」
メロウガイストの姿が光の中に消える様を、離れた瓦礫の上から見たアバンス。
ギリッ
悔しげに唇を噛む。
広がる鉄錆の味は、気付け薬替わり。
次の瞬間には揺れるマントを翻し、瓦礫の山を駆け下りる。
嘆く暇も。
憤る暇も。
今はない。
ただ。
今はただ。
彼女の託した想いをつなぐ為。
彼は、宵闇の中を駆け抜けた。
いつしか、”それ”に対峙するのは彼らだけになっていた。
「巫女様・・・」
視界の下で、光に呑まれた彼女。
その身を案ずる声が、虚しく夜闇に溶けていく。
「気を逸らすな。カムイ。」
かけられる声に、目を向ける。
そこにはいつの間に浮かんだのか、昏い空を朱に染める赤い月。
そして、それを背に負って佇む”彼”の姿。
「長・・・」
「忘れたか?今の我々の役目を・・・。」
抑揚のない声音で、ウィンダールは言う。
「でも・・・!!」
口元まで出かかった言葉。
それを、カムイは呑み込む
闇の向こう、苦しげに唇を噛み締めるウィンダールの横顔が見えた。
そう。
心が揺るがない筈がない。
けれど、今の自分達の両肩には一族の、否、世界の存亡がかかっている。
その重さを、自分達は分け合い、背負った。
皆はただ果てていくのではない。
その代価の様に、身に負う重さを先にある光への架け橋と変えていく。
そう。
一人、一欠片。
確かに、組み上げて。
ならば。
自分も。
自分達も。
この背に負うそれを。
確かに、継がなければならない。
断ち切れる迷い。
恐れ。
ためらい。
カムイの、ダイガスタ・ファルコスの身体が淡い光に包まれる。
早春の野を駆ける、若葉香る光の風。
『勇者の風(オロチョン・レラ)』。
それを纏ったファルコス。そしてイグルスの身体が、新緑の輝きを放つ。
グゥウウウウ・・・
その輝きを煙がる様に、魔人―ジールギガスが上を向く。
「カムイ。」
「はい。」
上向いた魔鏡に、昏い光が灯る。
「行くぞ!!」
「はい!!」
二羽の巨鳥が、煌きながら空を裂く。
二条の輝きは絡み合い、一本の流星となって駆け下る。
ゴォオァアアアアッ
響く咆哮。
迎え撃つように、ジールギガスの魔鏡が光砲を放つ。
ぶつかり合う、聖風の煌きと滅びの光。
拮抗は一瞬。
滅びの魔光は、瞬く間に翠の煌風を蝕み始める。
しかし、彼らは怯まない。
恐れない。
「オォオオオオオオオッ!!」
「ワァアアアアアアアッ!!」
雄叫びをあげながら、翠の流星は進む。
滅びに喰われながら。
けれど、確実に。
その身を斬り込む様に、突き進む。
もう少し。
あと少し。
その切っ先が魔鏡に届いた瞬間。
バシュウ・・・
最後の灯火が消える様に、翠の流星は消え散った。
けれど。
遠のく意識と視界の中、カムイは見た。
昏い光の向こう。
小さく欠け落ちる魔鏡。
そして―
ボッ
勝ち誇る魔神の前に、天を突く様に立ち上がった四色の光を。
「てめぇ!!」
声が響く。
「いつまでも調子こいてんじゃないわよ!!」
凛と。
「奢るのも、ここまでだよ。」
気高く。
「お父様、お姉ちゃん、そして、皆の想い!!」
力強く。
「「「「無駄にはしない!!」」」」
彼女達は猛る。
カツンッ
頭(こうべ)を合わせる、四彩の杖。
そこから広がる、巨大な魔法陣。
四人の少女達が、声を揃え張り上げる。
「「「「『四霊彩華(エレメンタルバースト)』!!」」」」
四色の輝きに彩られる世界。
それをしかとその目に収め、カムイは安らかに瞳を閉じた。
続く
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まだ光と闇がいるのでもうひと山ありそうですね。