こんばんは。土斑猫です。
今回の更新は「霊使い達の黄昏」33話。
どうぞ、お付き合いくださいませ。
―26―
ギィンッ
静まり返った空間に、鋭い音が響きわたる。
ダンッ
「ぐぅっ!!」
重い剣撃に、ダルクの身体が宙を舞う。
そのまま背後の壁に叩きつけられ、彼はえづく様に息を吐き出した。
「ダルク!?」
悲鳴の様な声を上げるライナ。
そこへ、ウゾウゾと蠢く触手が毒蛇の群れの様に襲いかかる。
『ライナ!!危ない!!』
戦闘形態に進化したハッピー・ラヴァーが、額から熱線を放つ。
ジュウ・・・
吐き気を催す様な臭いとともに、数本の触手が焼け縮れる。
しかし、
じゅうらぁああああ・・・
触手の主―ガストクラーケは何の反応も見せず、さらに触手を繰り出してくる。
「・・・無駄ヨ・・・。」
ダルクを弾き飛ばした邪竜―リヴァイアニマが、その風体に似合わない声で言う。
「“ソレ”ノ媒体ハ、私ノ身体うつわダケ。何ヲシタ所デ、何ノ痛痒モナイワ・・・。」
「傷つけられてるのは、貴女の身体なのですよ!!何も思わないのですか!?」
絡みかかる触手を必死に打ち払いながら、ライナはリヴァイアニマの中のエミリアに向かって叫ぶ。
けれど、返ってくるのは淡々とした言葉だけ。
「・・・ソンナ事、ドンナ意味ガアルノ?意識ト別レタ身体。ソレハ、モウタダノ”物”・・・。執着スル意味ナンテ、アリハシナイワ。」
その声は、どうしようもない諦観と自嘲に満ちていた。
「言うだけ無駄だ。ライナ・・・。」
杖を支えに立ち上がりながら、ダルクが言う。
「こいつら、揃ってイカれてる。話も常識も、通じやしない。」
その言葉に、リヴァイアニマの口がギリ・・・と軋む。
そこから響くのは、先とは違う声。
「オ前ハ物分リガイイミタイダナ・・・?ソウサ。俺達ヲ黙ラセタイナラ、言葉ジャナク力デネジ伏セロ。モットモ・・・」
少年の声とともに、金色の瞳がキュウと細まる。
「ソレガ出来タ所デ、りちゅあノ教義ガ正シイ事ヲ証明スル事ニシカナラナイケドナ・・・。」
「・・・・・・。」
ダルクには、返す言葉がない。
ただ悔しげに歯噛みするしか、術はなかった。
じゅうらぁあああああっ
怖気を走らせる叫びとともに、無数の触手を蠢かせてガストクラーケが襲いかかる。
「くっ!!」
掴みかかる触手をかいくぐりながら、ライナは地面に手を叩きつける。
ヴォンッ
展開する、朱い魔法陣。
罠魔法(トラップ・スペル)。
しかし―
バチバチバチッ
不可視の力が弾け、魔法陣が崩壊する。
「強制キャンセル!?」
呻くライナ。
と、
「・・・無駄ヨ・・・。」
リヴァイアニマの中から聞こえる、エミリアの声。
「サッキ、結界ヲ張ッタ・・・。罠魔法(トラップ・スペル)ハ、使エナイワ・・・。」
「!!」
その言葉に目を剥くライナ。
「まさか・・・貴女も、結界師・・・!?」
「・・・・・・。」
沈黙で肯定する、リヴァイアニマ。
「ぎゅぽぽぽぽ・・・」
響く笑い声。
一歩離れた場所で戦況を見ていたソウルオーガが、嘲る様に笑っていた。
「言ッタデアロ?最早、りちゅあ二弱点ハナイト・・・。」
その顔をゲラゲラと歪ませながら、妖魚の王は言う。
「コノ力ヲ持ッテ、我ラハ潜ミシ深淵ヨリ這イ出ル。ソシテ、世ノ全テノ力ヲ手二入レルノヨ。コノ地ハ、ソノ足掛カリトナル。」
ビシャリと湿った足音を立て、ガストクラーケに追い込まれたライナに近づく。
「オ前達ハ、ソノ門出ノ祝イノ贄ヨ。」
「く・・・」
壁を背にしたライナが呻く。
「栄誉ト知ルガイイ。りちゅあノ糧トナレル事ヲ・・・。」
音もなく上がった腕が、ヌラリとライナに迫る。
「ライナ!!」
それを見たダルクが駆け出そうとするが、リヴァイアニマの刃に阻まれる。
「退け!!」
叫ぶが、リヴァイアニマは動かない。
「モウ、諦メロ。抗エバ苦シミガ伸ビルダケダ・・・。」
「くっ!!D(ディー)!!」
『ハイ!!』
ダルクの声に答え、ダーク・ナポレオンが宙を走る。
その目が光り、ソウルオーガの腕に向かって光線を放つ。
しかし、ギュルルと舞った触手がそれを阻む。
ジュウ・・・
光線に炙られた触手が煙を上げてちぢけるが、ガストクラーケは意にも介さない。
次の瞬間には、伸び上がった別の触手が彼女を叩き落としていた。
「ああ!!」
「D(ディー)ちゃん!!」
叫ぶダルクとライナ。
囲む魔性達が、それぞれの意で目を細める。
「コノ期二及ンデ、尚ソノ様ナ雑魚ヲ気ニスルカ。」
「ダカラ言ッタロ・・・。抗エバ、仲間ノ苦シム様ヲ見続ケル事二ナル・・・」
言いながら、リヴァイアニマが手にした刃を振り上げる。
「サア、大人シク受ケ入レロ!!」
ビュッ
重い音とともに振り下ろされる刃。
「くっ!!」
咄嗟に杖を掲げるダルク。
しかし、受けきれない。
重い刃が、杖ごとダルクの肩口に押し込まれる。
「ダルク!!」
悲鳴を上げるライナ。
一瞬の間。
そして、真っ赤な飛沫が散った。
ドサァッ
重い音と共に、鮮やかな朱が地面に咲く。
朱は鮮血。そして、朱い髪。
「「・・・・・・!!」」
それを見たライナとダルクの顔が凍りつく。
地に倒れた少女。
間違える筈もない。
それは、ヒータだった。
その肩口からは止めどなく血が溢れ、地面を染めていく。
リヴァイアニマの刃がダルクの身を裂く瞬間、彼女が両者の間に割って入った。
刃はヒータの肩を裂き、ダルクの身を逸れていた。
「誰ダ!?」
「コノ人達ノ、仲間・・・?」
「ホゥ?」
リヴァイアニマの言葉に、ソウルオーガが気を取られたその瞬間―
ジャジャッ
何かがガストクラーケと彼の間をすり抜け、ライナの身体を触手の檻から救い出した。
『ご無事か!?ライナ殿!!』
「吉君!?」
自分の襟を咥える稲荷火に、ライナは一時驚きの声を上げる。
しかし、その意識はすぐに倒れ伏す友人の元へと向けられる。
「ヒータちゃん!!」
「待テ!!動クナ・・・」
駆け寄ってくるライナの動きを制そうとするリヴァイアニマ。
しかし、
「どけぇ!!」
ドズゥッ
怒号とともに、彼らの身体を重い衝撃が襲う。
「がはっ!?」
もんどりうって転がる巨体。
「コ・・・コノ・・・!!」
こみ上げた胃液とともに声を吐き出し、起き上がる。
見れば、当の相手はライナとともに倒れた少女―ヒータの傍らに傅いていた。
「ヒータちゃん!!ヒータちゃん!!」
「おい、しっかりしろ!!」
ヒータに向かって、必死に呼びかける二人。
しかし、返事はない。
肩の傷は深く、流れ出る血が止まらない。
ただでさえ、先の戦いで受けたダメージは軽くはない。
そこにこれだけの深手を受ければどうなるか。
答えは明白だった。
『すみませぬ!!しばし、おどきを!!』
二人の間に割って入った稲荷火が、ヒータの傷に尾の炎を押し付けた。
ジュウ・・・
辺りに立ち込める、肉の焼ける臭い。
ヒータの口から、苦しげな息が漏れる。
息を呑むライナとダルク。
しばしの間。
やがて、稲荷火はゆっくりと尾を離す。
火の中から現れた傷。
それは、血こそ止まっていたものの、痛々しく焼けただれていた。
稲荷火が、ハァと息をつく。
『これで、当面は大丈夫でしょう。しかし・・・』
皆まで聞く必要はなかった。
黙り込む、ライナとダルク。
その様を見ていたソウルオーガが嘲る。
「くぽぽ、ソウ嘆クナ。然シタル間モナク、輪廻ノ際デ会エヨウ・・・。」
言いながら、近づこうとしたその時。
「・・・黙れ・・・。」
「・・・五月蝿いです・・・。」
暗く沈んだ声が、唱和する。
そこに篭る、異様な鬼気。
リチュア達の、動きが止まる。
ユラリ・・・
幽鬼の様に立ち上がる、ライナとダルク。
「ム・・・?」
周囲に満ちる、重苦しい気配。
それに気づいたソウルオーガが、眉をひそめる。
『ライナ殿!?ダルク殿!?』
何かを察した稲荷火が叫ぶ。
しかし、その声も今の二人には届かない。
「・・・傷つけたな・・・。」
「・・・傷つけましたね・・・。」
「仲間を・・・。」
「友達を・・・。」
チャリ・・・
チャリ・・・
奇妙な音が、辺りに響く。
「こんなにも・・・」
「たくさん・・・」
それが、二人の手首に架せられた鎖が揺れる音と気づくのに、しばしの時間がかかった。
「・・・許さない・・・。」
「・・・許さない・・・。」
まるで、意識が同化したかの様に同調する声。
チャリ・・・
チャリ・・・
鎖が鳴る。
「ナ・・・何・・・?」
「コレハ、一体・・・?」
その異様に気づいたリヴァイアニマが、上ずった声を上げる。
もっとも、それが震えている事に気づいていたかは定かではないけれど。
「主ラ、ドケ!!」
唐突に響く怒号。
リヴァイアニマを押し退けたソウルオーガが、闇色に濁った水球を投げつける。
しかし、
ジャララララララッ
鎖が踊る。
半メートルにも足らなかった筈のそれが、まるで蛇(くちなわ)の様に宙を走っていた。
ザシャアッ
放たれた水球はそれに断ち割られ、無残に弾け散る。
「ヌゥ!?」
呻くソウルオーガ。
彼の本能が告げていた。
何かが、危ういと。
「がすとくらーけ!!」
背後の海魔に向かって叫ぶ。
じゅうらぁあああああああっ
湿った咆哮とともに、ガストクラーケが『輪廻狂典(フレネーゾ・ウトピオ)』をライナ達に吹き付ける。
けれど、無駄。
狂輪の紫煙も、うねる鎖にかき消される。
ス・・・
ライナが、左手を上げる。
それに、ダルクが右手に重ねる。
ジャカカカカカッ
重なり合った手を束ねる様に、鎖が巻きつく。
ゾリッゾリリッ
鈍い音。
鋼の鎖が、肌を削る。
瞬く間に、赤く染まっていく二人の腕。
飛び散る鮮血が、ライナとダルクの顔を飾っていく。
微動だにする事なく、佇む二人。
虚ろに沈んだ瞳。
それが、三体の魔を射抜く。
「言ったな・・・。」
「言いましたね・・・。」
昏い声が、響く。
「お前らを黙らせるなら、力でやれと・・・」
「いいでしょう・・・」
ポタリ・・・
ダラリと下がった鎖の端から、雫が滴る。
「望むなら・・・」
ポタリ・・・
「その通りに・・・」
ポタリ・・・
「お前らの、望む通りに・・・」
ポタッ・・・ポタッ・・・
「してあげましょう・・・。」
ボタタッ
雫は流れとなり、地面へと堕ちる。
見る見る地面に広がる、朱い溜り。
ダルクの血。
ライナの血。
闇の血。
光の血。
二つの色が、混じり合う。
見つめる魔達は、何もしない。
出来ない。
周囲に立ち込める、異様な空気がそれを許さない。
まずい。
まずい。
まずい。
本能が叫ぶ。
泣き喚く。
けれど。
身体は、動かない。
ドプ・・・ドプン・・・
溜りゆく、光と闇。
先に天から振り落ちた澱よりも、尚深い深淵。
例えて言うなら、それは・・・。
「何・・・ナノ?コレ・・・」
リヴァイアニマの中から漏れる、エミリアの声。
「出来ナイダロ・・・?何モ、出来ナイ筈ダロ・・・?」
続くアバンスの声も、震える。
「・・・儀式魔法(セレモニー・スペル)?融合術・・・?否、コレハ・・・」
ソウルオーガの脳内を、ある可能性が過ぎる。
しかし、微かに残った理性がそれを否定する。
有り得ない。
有り得るはずがない。
あれは・・・。
あの”召喚術”は・・・。
彼の理性が、今一度否定の言葉を叫ぼうとした時―
ドパァアアアアアッ
立ち上がる、朱。
交わる、光と闇。
その向こうで、”彼ら”が言う。
「許さない・・・。」
「絶対に・・・。」
「お前達は・・・」
「もう・・・」
消 え ろ 。
そして―
ゴパァッ
”混沌”が弾けた。
「ヌゥ!?」
目指す先から流れてきた気配に、ジェムナイト・ガネットは思わずその足を止めた。
それは、彼がその存在を得てから一度も感じた事のない気配。
昏く。
深く。
そして、虚ろ。
今まで満ちていた邪気を、容易く飲み下す。
「何だ・・・。これは・・・。」
本能が叫ぶ。
この先に、行ってはいけないと。
しかし。
彼が追い、そして護ると誓った少女。
彼女は、まさにその先にいる。
迷いは一瞬。
再び走り出そうとした、その時―
「ガネットさん!!」
横道から聞こえてきた声が、彼の足を止める。
見れば、自分に向かって駆けてくる小さな姿。
「ラズリーか!?」
「はい!!」
ガネットの呼びかけに、瑠璃の少女は息を整えながら頷く。
「サフィアの元にいたのでは、なかったのか?」
「そのサフィアさんに言われました。ガネットさんの元に行けと。」
「む、サフィアが?」
「はい。必ずや、私の力が必要になると。」
戦友の先見に、ガネットは苦笑する。
「ふ・・・。あいつめ・・・。」
しかし、綻んだ心はすぐに引き締まる。
「どうやら、向こうはただならぬ状況の様だ。それでも、来るか?」
ガネットの問いに、ラズリーは躊躇する事なく答える。
「はい!!私も、誇り高きジェムの騎士です!!」
「分かった!!行くぞ!!」
「はい!!」
そして、二人は再び地を蹴った。
「お、おお・・・」
歪んだ口から、上ずった声が漏れる。
それは、恐怖か感嘆か。彼自身にも分からない。
出来る事は、ただ一つ。震える視界で、その存在を凝視するだけ。
彼らの前に佇む、ライナとダルク。
その二人を護る様に、一つの人影が立っていた。
それは、漆黒の鎧を纏った戦士。
右手には大振りの剣。左手には重厚な盾。
目深に被った兜から覗く顔は闇に沈み、表情を伺う事は出来ない。
背丈は高いが、それでもリチュアの怪物達には及ばない。
しかし、その身から漂う気配は彼らのそれを遥かに凌駕していた。
彼―ソウルオーガは震える声で呟く。
「・・・開闢ノ・・・使者・・・。」
呼びかけとも取れるそれに、しかし答えは返らない。
”それ”はダラリと剣を下げたまま、ただ無言でそこにいる。
「『開闢ノ使者』・・・!?」
まとわりつく恐怖を払う様に、リヴァイアニマが口を開く。
「マサカ・・・有リ得ナイ・・・!!」
喋る呼気は、から風となり乾いた喉をヒュウヒュウと鳴らす。
と、その空気を切り裂いて声が響く。
「がすとくらーけ!!」
声の主は、ソウルオーガ。
「如何二”混沌”トハ言エ、所詮ハ存在アリシ者!!」
叫ぶ。
声を張り上げて。
まるで、何かにすがる様に。
「消シ去ッテヤ・・・」
声は、最後まで続かなかった。
ザスン
背後から響く、重い音。
「!!」
振り向いたその先にあったのは、真っ二つになって崩れ落ちるガストクラーケの姿。
「―オ・・オオ!?」
驚きの声を上げかけたその瞬間―
バキンッ
一時の間も置かず響く、絶望の音。
「・・・エ・・・?」
返した視線の先には、折れた刀を手に、呆然と立ち尽くすリヴァイアニマ。
その額から、ボトボトと落ちる黒い鮮血。
「ア・・・アァ・・・」
戦慄き、震える声。
「エミ・・・リ・・・」
「アバン・・・」
共に、言葉を最後まで紡ぐ事は叶わなかった。
ズシャア・・・
湿った音を立てて、リヴァイアニマだったものは地へと崩れた。
「・・・ぎゅぽ・・・ぎゅぽぽぽぽ・・・」
全てを見ていたソウルオーガが、乾いた笑いを上げる。
その視線の先には、影の様に佇む戦士の姿。
二体の怪物を断ち割った剣には、一寸の曇りも浮いていない。
キロリ・・・
兜の奥で、光が揺らめく。
ゾクリ
身を貫く悪寒に、ソウルオーガが後ずさろうとしたその時、
ユラリ・・・
それの姿はもう、彼の前にあった。
「ぎゅっ!?」
引き攣る様な、声が漏れる。
ボシュッ
咄嗟に放つ、濁毒の水球。
しかし、それは哀れな蟷螂の斧。
バシュッ
バシュッ
バシュッ
放ったそれは尽く叩き割られ、地へと散る。
彼の目には、その剣閃すらも捉える事は叶わない。
「ぎゅぽぽ・・・ぎゅぽ・・・ぽぽぽ・・・」
笑いが、止まらなかった。
恐怖があった。
絶望もあった。
だけど、それ以上に。
歓喜があった。
彼は、力を求めていた。
焦がれていた。
血族。
財産。
身体。
そして、魂。
力を得るがため、全てを捨てた。
捨てるものがなくなれば、他者から奪い、それを捧げた。
数多の血を捧げ。
数多の命を捧げ。
その代価として、力を求め続けた。
それでも、渇望は止まらなかった。
もっと。
もっと。もっと。
もっともっともっともっともっと。
無間地獄の様な渇きの中で、彼は足掻き続けた。
けれど。
だけど。
”それ”が今、目の前にあった。
圧倒的な。
絶対的な。
力。
その権化。
それを目の当たりにした喜びが、あらゆる”負”を凌駕した。
「素晴ラシイ・・・。」
彼は言う。
怨嗟でも。
負け惜しみでもなく。
心からの賛辞を込めて。
「繰ルカ・・・!!奏デルカ・・・!!」
視線を向ける。
”それ”に。
その向こうに立つ、二つの存在に。
「”コレ”ヲ・・・。”混沌”ノ、力ヲ!!」
彼女達は、何も言わない。
握り締めた手から、混沌の血を滴らせ。
彼を見ていた。
昏く、冷めた目で。
彼を見ていた。
「素晴ラシイ!!素晴ラシイゾ!!」
叫ぶ。
ただ、叫ぶ。
「見セテクレ!!モット、モット!!見セテクレ!!」
恐怖と言う恍惚の中。
満たされぬ渇きが、確かに癒されるのを感じながら。
「力ヲ!!ソノ真理ヲ!!」
ピクリ
”それ”が、初めて目に映る動きを見せた。
ゆっくりと、手にした剣が上がる。
「オオ・・・オオ・・・!!」
手を伸ばす。
まるで、神に救いを乞う様に。
そして、振り下ろされる混沌の剣。
ズシャアアアアアアアッ
響きわたる斬撃。
身体は、傷つかない。
その代わり―
バキャアァアアアッ
悲鳴を上げて、背後の空間が裂ける。
「オォ―――・・・」
傾ぐ身体。
開いた異空の裂け目が、彼を呑み込む。
抵抗も。
命乞いもなかった。
彼はただ、見つめていた。
全てをとして、己が求め続けたもの。
その形を。
その在り様を。
最期の最期まで、見つめていた。
耐え難き恍惚の中、彼は一言だけ呟いた。
「アリ ガ ト ウ・・・」
届いたのかは分からない。
そもそも、誰に向けたのかも分からない。
それでも、その一言だけを産み残し―
ガシャアァアアアアンッ
空間の、顎あぎとが閉じる。
そして、ソウルオーガ―シャドウと呼ばれた存在は消えた。
己が、望み見続けた想いの果てで。
永遠に―
続く
タグ:霊使い
斬られたァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
チッ、ダルクダラシネェ
ガネットがヒータを追い越して先に到着していればこんな事には……!
アウスとウィンが勅命を破壊していれば……
いや、ムストがジェムとエクシーズしていたら……!
ヒータァあぁぁぁ!死ぬな!!お前が求めた強さは、この程度じゃないはずだっ!!!