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2013年11月29日

霊使い達の黄昏・22



 こんばんわ。土斑猫です。
 大分遅れてしまってすいません。その分少々長いですがw
 と言う訳で、「霊使い達の黄昏」22話を掲載します。



たゆる想いは黄昏に集う.jpg


 

 

                     ―22―


 「ピア!!」
 エリアの声に答えて、『スピア・シャーク』が空を走る。
 千切れたマインドオーガスの足を跳ね飛ばし、落ちるウィンを背に受けて、そのまま主の元へ向かう。
 「グッジョブ!!」
 尻尾を振るスピア・シャークをそう労うと、エリアはその召喚を解く。
 トサン
 スピア・シャークの姿が消え、乗っていたウィンの身体が地に落ちる。
 「んきゅ!?」
 放り出されたウィンが、踏み潰されたアマガエルみたいな声を上げる。
 「ほら、ちょっとアンタ、しっかりしなさいよ!!」
 朦朧としている彼女の頭を持ち上げると、その頬をペチペチと打つ。
 「う、ううん・・・?」
 虚ろだった目の焦点が、ゆっくりと合っていく。
 やがて、翠色の瞳がパッチリと開いて―
 「あ・・・」
 「うん?」
 カチリと合う、翠と碧の視線。
 しばしの間。
 そして、
 「エーちゃん!!」
 ドスゥッ
 「グフゥッ!?」
 腹部に強烈なタックルを受けたエリアの口から、苦悶の呻きが漏れる。
 「ゲホ・・・ちょ・・・アンタ、何す・・・」
 抗議の声を上げようとするエリア。しかし、その声は、出かけた所で止まる。
 「エーちゃん・・・。エーちゃん・・・良かったよぅ・・・。」
 自分の身に顔をうずめ、身体を震わせるウィン。
 「・・・・・・。」
 その様にエリアはしばし手を彷徨わせた後、右手でポンポンとウィンの頭を叩く。
 「バッカね。何泣いてんのよ。このあたしが、そんな簡単に死ぬわけないでしょ。」
 そう言いながら、若葉色の髪をクシャクシャと撫でる。
 ―と、
 「・・・あんた・・・」
 「あん?」
 後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには呆然とした表情でこちらを見つめる少年の姿。
 その身を戦慄かせながら、カムイはエリアを凝視する。
 「・・・生きて、たのか・・・?」
 拙く言葉を紡ぐその顔には、目の前の現実を信じられないと言った色が濃い。
 そんな彼を、エリアはジト目で見返す。
 「何よ?アンタもあたしが死んだと思ってた訳?失礼ね。ドイツもコイツも、勝手に人を殺さないでくれる?」
 「だって・・・だって、オレは、あんたを・・・」
 「は?あー、そうね。あれ、アンタだっけ?」
 返ってきたその言葉に、カムイはビクリと身をすくめる。
 「痛かったわよー。ほら、ここ見てごらんなさい。」
 そう言って、頭に巻かれた包帯を指差す。
 「・・・・・・!!」
 それを直視出来ず、目を逸らすカムイ。
 「これのお返しは、キッチリさせてもらうからね?」
 「・・・・・・。」
 「エーちゃん・・・。」
 カムイは俯いて沈黙し、ウィンは不安げに二人を見つめる。
 「だから・・・」
 エリアはおもむろに懐に手を差し込むと、何かを引っ張り出した。
 そして、小刻みに震えるそれをカムイに向かって差し出した。
 「え・・・?」
 差し出されたそれを、カムイはポカンと見つめる。
 エリアの手の上にあるもの。
 それはプルプルと小刻みに震える、翠色の羽の鳥。
 「ファルコ・・・!?」
 カムイの呟きに答える様に、ガスタ・ファルコは小さく「クゥ」と鳴いた。
 「アンタの相棒でしょ?しっかり守りなさい。」
 「連帯で責任とってもらわなくちゃいけないんだから。」
 そんな事を言いながら、カムイにファルコを押し付け、一言。
 「そん時まで、しっかり生きてなさい。」
 「!!」
 かけられた言葉に、カムイはハッと顔を上げる。
 見つめたエリアの顔は、優しく、優しく微笑んでいた。
 「あ・・・」
 思わず喉から漏れる、声にならない声。
 そんなカムイに笑いかけるエリア。
 そして―
 「でも、その前に・・・」
 青い髪が、シャラリと翻る。
 「この一番のバカの、目を覚ましてやらないとね!!」
 そう言って振り返った先には、立ち尽くす銀鎧の巨獣の姿。
 その前に、彼女は凛と立ちはだかった。


 バチャアッ
 地に叩きつけられた水球が、飛沫となって飛び散る。
 ジュウワァアアアア
 水球の弾けた地面が、抉られた様に溶け落ちた。
 「オウ、惜シイ惜シイ。」
 笑いを含んだ声が、黄昏に沈み始めた村中に響く。
 「ハァッ!!ハァ・・・ハァッ!!」
 ソウルオーガの攻撃から転がって逃れたライナが、身を起こしながら体勢を立て直す。
 ―と、
 ザシュアッ
 「うぁっ!!」
 背後から、聞こえる何かを切り裂く様な音と弟の悲鳴。
 「!!、ダルク!?」
 思わず振り返ったその身に、飛んで来たダルクの身体がぶつかる。
 「んきゃう!?」
 「き、気をつけろ!!馬鹿!!」
 「ば、馬鹿とは何ですか!?ぶつかってきたのはそっちでしょう!?」
 ギャアギャアと言い合う二人。
 そこへ―
 ギャルルルルッ
 唸りを上げて襲いかかる触手の群れ。
 「うわっ!?」
 「きゃあっ!!」
 『『危なイ!!』』
 触手が二人に巻き付く寸前、ハッピー・ラヴァーとD・ナポレオンがその目とハートから光を放つ。
 螺旋を描く様に空を走ったそれは、二色の燐光を散らして触手を弾いた。
 「ジュルア・・・!!」
 触手の主、ガストクラーケが短く声を上げて後退する。
 『御二人共、シッカリシテクダサイ!!』
 『内輪もめしてる場合じゃないよ!!』
 「う・・・」
 「す、すいません・・・。」
 使い魔達に怒鳴られ、バツが悪そうに押し黙るダルクとライナ。
 「足掻クナヨ。ソウスレバ、痛ミモ苦シミモ無ク、黄泉路ヲ一緒二行ケル・・・。」
 そんな二人に向かってかけられる、場違いな程に静かな言葉。
 少年と少女の声が重なった、奇妙な声。
 その声を裂けた口から放ちながら、紺色の邪竜が手にした刃を揺らす。
 「ソウヨ。セメテモ安ラカ二、送ッテアゲルカラ・・・。」
 ダルクを弾き飛ばした剣に映る邪竜の四眼。それが、潤むかの様に光を放つ。 
 と、割り込んでくるのは昏くくぐもった声。
 「マア待テ。『りう゛ぁいあにま』。コノ者達ハ良イ資源贄二仕上ゲネバナラン。ソノ為ニハ、ソノ身二、心二、苦悶ヤ憎悪ヲ存分二溜メ込マセル必要ガアル。」
 「しゃどう・・・。」
 「貴方ハ、マダソンナ事ヲ・・・」
 「ソレガ、りちゅあ我ラノ存在意義デアロ?」
 反論しようとする邪竜の声を、魚面の巨人は嘲りを込めた言葉で遮る。
 「イイ加減、悟ル事ジャ。コレガ主ラ二許サレタ、唯一無二ノ生キル術トナ。」
 「・・・・・・。」
 反する言葉はない。
 邪竜―『イビリチュア・リヴァイアニマ』は、ユラリとその刃を上げる。
 「悪イナ・・・。」
 「セメテト、思ッタノダケド・・・。」
 手にした剣が、零れる涙の様に光を落とす。
 「あなた達は・・・」
  ”彼ら”の様子に、戸惑いを覚えるライナ。
 「惑わされるな!!」
 そんな彼女の背を、ダルクの声が叱咤する。
 「そいつらの真意がどこにあれ、今倒さなきゃいけない相手である事に変わりはないんだぞ!!気をしっかりもて!!」
 「――っ!!は、はいです!!」
 我に帰った様にそう叫ぶと、ライナはダルクと使い魔達に呼びかける。
 「『団結の力(フォース・オブ・コネクト)』を使うです!!皆、力を貸して!!」
 『ハ、ハイ!!』
 『了解!!』
 「ちっ・・・。僕のカラーじゃないけど、他に手はなさそうだな・・・。」
 それぞれの表情を浮かべながら、頷くメンバー。
 「行きます!!」
 ライナがそう言って、杖を構える。
 杖に灯る光。
 しかし―
 「オゥオゥ。ソウ言エバ、オ主ニハ”ソレ”ガアッタノウ。怖イモノジャ。」
 何処かおどけた調子で、ソウルオーガが言う。
 「・・・怖いんですか?」
 構えを崩さぬまま、ライナが尋ねる。
 「オゥ。怖イ怖イ。”アレ”ハ、手二負エヌ。」
 「それなら・・・」
 「ジャカラ・・・」
 「引いてください」と言おうとしたライナの声を、ソウルオーガが遮る。
 「”ソレ”ハ、控エテモラオウ。」
 ゾワッ
 その言葉が響いた瞬間、ガスタの村が真っ赤な光に包まれた。


 ”彼”は混乱していた。
 悲願は、今一歩で果たされる所だった。
 この身を満たす、昏く冷たい想い。
 悲しみ。
 絶望。
 憤怒。
 怨嗟。
 憎悪。
 狂おしい。
 狂おしい程に胸を焼く、それらの想い。
 その痛みを。
 その苦しみを。
 ようやく、吐き出せる所だったのだ。
 ようやく、癒せる所だったのだ。
 しかし、それはまたもや阻まれた。
 またか。
 また、邪魔をするのか。
 暗闇に満ちた心に沸き起こる、昏い怒り。
 新たに現れた邪魔者。
 それを排除しろと、歪んだ本能が叫ぶ。
 狂気の焔を灯した目が、その姿を追う。
 そして、視界がそれを捉えた瞬間―
 ” 彼”の時間は動きを止めた。


 最初に視界に入ったのは、青い髪だった。
 清冽に流れる清水の様な、青く長い髪。
 止まる鼓動。
 硬直する身体。
 放とうとしていた破壊の水閃が、喉の奥でその滾りを絶やす。
 髪の主は、”彼”が壊そうとしていたモノに向かって何か語りかけている様だった。
 その姿を、”彼”は凝視する。
 華奢で、か細い、少女の身体。
 自分がその気になれば、それは一撃で木っ端の如く砕け散るものだろう。
 そのつもりであった。
 そうするべきであった。
 己にその機会をくれた者達に答えるために。
 己の主の命に殉ずるために。
 そして何より、己の悲願の成就のために。
 全ての障害を排除し。
 愛しく呪うその者を壊し。
 その痕跡の全てを抹消する。
 其がためだけに、今の自分は存在している筈だった。
 けれど。
 だけど。
 その意に反し、身体は動かない。
 何かが。
 まるで、その内で別の誰かが押しとどめている様に。
 身体が。
 心が。
 動かなかった。
 やがて、話を終えたのか、青髪の少女が立ち上がる。
 シャラリと流れる、長い青の束。
 それが、バサリと翻る。
 同時に舞い散る、甘い香り。
 ”彼”の心臓が、再び跳ねる。
 そして、舞い踊る髪の向こうから、”彼女”の顔が現れる。
 それを見た時。
 その碧い瞳に射抜かれた時。
 そして―
 「何やってんのよ!?このバカギゴ!!」
 『―――ッ!!』

 清らかに流れる水音を思わせる、澄んだ声音。
 それに耳朶を打たれた時。
 ”彼”の全ての機能は、今度こそ完全にその動きを止めた。


 「止まった・・・?」
 目の前の巨体が、その動きを止めた。
 それを見たカームが、ポツリと呟く。
 「届いたのか・・・?あの娘の声が・・・。」
 その隣のエメラルは、何かの奇跡でも見る様にその光景を凝視する。
 と、
 「・・・精霊使いボク達にとって、しもべとの繋がりは絶対だ・・・。」
 横から響いてきた声に、思わず二人は振り向く。
 そこには、栗色の髪に眼鏡をかけた少女が一人。
 「例え、その絆が絶たれたとしても、魂の奥底では繋がり続けている。そういうものなんだよ。」
 その手が、己の肩に止まる小獣の頭を愛しげに撫でる。
 「・・・まして、”あの二人”なら尚更ね。」
 そう言って、少女はカーム達に向かって近づいてくる。
 「あ、あの〜。どちら様ですか〜?」
 問いかけるカームに向かって、少女はペコリと一礼をする。
 「初めまして。ボクはアウス。地霊使いのアウス。この節は、同輩がお世話になりました。」
 「あら〜、これはこれは。ご丁寧にどうも〜。」
 「霊使い・・・?って事は、あの姉ちゃん達の・・・?」
 丁寧にお辞儀をし返すカームの横で、エメラルが言う。
 「そう言う事だ。エメラル。」
 そんな言葉とともに、アウスの後ろから現れる蒼銀の騎士。
 「サフィアじゃねえか!!無事だったのか!?」
 「ああ、彼女の御陰で、命拾いした。」
 そう言いながら、ジェムナイト・サフィアはアウスの方を見る。
 「ふ〜ん。そういう訳か。ありがとよ。姉ちゃん。」
 「感謝してもらう筋じゃないよ。こっちにはこっちで、打算もある。今この場を収めるには、君達の力が必要だ。」
 エメラルの謝辞をそっけなく流すと、アウスはエリア達の方を見る。
 「は、こりゃえらくハッキリした姉ちゃんだ。」
 苦笑するエメラル。そんな彼に構わず、アウスは言葉を続ける。
 「ギガ・ガガギゴ(彼)はエリア(彼女)に任せよう。ボク達は・・・」
 眼鏡の奥の眼差しが、鋭く光る。
 「”もう片方”を叩く。」
 その視線の先で、もう一匹の魔が雄叫びを上げた。


 「きゃあぁあああああっ!!痛イ!!痛イ!!痛ィイイイイッ!!!」
 耳をつんざく様に甲高い叫び声。
 震える身体と共に千切れた節足が揺れ、その断面からビチャビチャとどす黒い体液が溢れ出る。
 「チクショウ!!チクショウ!!ヨクモ・・・ヨクモ!!」
 有脚の妖魚―イビリチュア・マインドオーガスは、そこだけは変わらない少女の目に涙をためながらその視線を巡らせる。
 ギョロリと蠢く魚妖の双眼は、すぐにその視界に求める者を映し込む。
 馬鹿の様に呆け立つ下僕。
 その前に立ちはだかっている、一人の少女。
 「テメェカ・・・!!」
 その花弁の様な口からは思えもしない、濁った声が呻く様に漏れ出す。
 「殺シテヤル!!」
 そう雄叫びを上げると、マインドオーガスは少女に向かって突進した。


 「おっと、こいつはいけねぇ!!」
 その様を見たエメラルが、言う。
 「暇はない。力を貸してもらうぞ。エメラル!!」
 「分かった!!」
 サフィアの言葉に、全てを理解したかの様に答えるエメラル。
 「ち、ちょっと待ってください〜。」
 それを聞いたカームが、慌てた様な声を出す。
 「エメラルさん、さっきのダメージが抜けてないじゃないですか〜。そんな身体で無理しちゃあ〜。」
 しかし、そんな彼女の訴えに、エメラルは笑って返す。
 「なぁに。心配いらねぇよ。こちとら、”こっち”が本業なんだ。かえって、元気になるってもんさ。」
 「え?」
 ポカンとするカームの前で、サフィアとエメラルが拳を打ち合わせる。
 「「『宝騎錬成(ジェムナイト・フュージョン)』!!」」
 唱和される言葉。そして―
 ボゥッ
 眩い光が閃き、二人の姿が碧い光球に包まれた。


 「死ィネェエエエエエエ!!」
 怒りと憎悪の赴くまま、マインドオーガスが少女―エリアに向かって躍りかかる。
 鋭い脚が、その身体を貫かんと突き出されたその時―
 ギュンッ
 ガキィイイイイイッ
 突如飛来した碧色の光球が、その脚を受け止めた。
 「ナッ・・・!?」
 「「想い人達の邂逅を邪魔するなど・・・」」
 光の中から響く声。
 紺色のマントが、光粉を散らして翻る。
 「「無粋たるにも、程があろう!!」」
 突き立てる脚の先に現れるのは、真円の刃盾。
 深碧の宝石に飾られたその表面には、一筋の傷さえもついていない。
 「ナ、何ヨ!?アンタ!!」
 「「『アクアマリナ』・・・」」
  狼狽するマインドオーガスに向かって、厳かに”彼”は答える。 
 「「『ジェムナイト・アクアマリナ』!!勇敢たる想いを守る、藍玉の騎士なり!!」」
 言葉とともに、振り抜かれる刃盾。
 碧い軌跡が、妖魚の脚を弾き返す。
 ギャキキキキィッ
 「クァッ!?」
 その勢いに抗しきれず、後退するマインドオーガス。
 「一体何ダッテノヨ!?次カラ次ヘト!!」
 もはや悲鳴に近い声で、マインドオーガスは叫んだ。


 「あれは・・・魂魄同調(エクシーズ)・・・?」
 妖魚の前に立ちはだかるアクアマリナの勇姿を見て、カームは呆然と呟く。
 そんな彼女に向かって、アウスが言う。
 「違うよ。あれは『宝騎錬成(ジェムナイト・フュージョン)』。ジェムナイト彼らが生まれつきその身に宿す、固有能力(パーソナル・エフェクト)だ。」
 「パーソナル・・・エフェクト?」
 「ジェムナイトは個にして全。全にして個。あれは、彼らが彼らたる意味。正義の名の元に想いを一つにする、ジェムナイトの魂の力さ・・・。」
 「は・・・はぁ・・・?」
 分かった様な分からない様な顔をしているカームを残して、アウスは一歩、前に出る。
 「・・・守りは彼が固めてくれる。後は、ボクの役目だ・・・。」
 バサバサ
 その肩から、デーモン・ビーバーが羽音も高く飛び立った。


 「チクショウ!!コノ!!コノ!!」
 辺りに、マインドオーガスの苛立ちの声が喚き散らされる。
 彼女は槍撃の様な脚の攻撃を嵐の様に放っていたが、その全てはアクアマリナの刃盾によって弾き返される。
 「クソゥ・・・!!ソレナラ・・・!!」
 ザクザクッ
 5本の脚が蠢き、次々と地面に突き刺さる。
 己が身体を固定した妖魚の口がガパリと開き、その奥に青白い炎が燃え立つ。
 「コレデ、ドウダァ!?」
 ゴバァッ
 無数の歯牙の並ぶ洞穴から溢れ出す、青白い砲炎。
 それが渦を巻いて、アクアマリナの姿を飲み込む。
 会心の笑みを浮かべるマインドオーガス。しかし―
 「「破ぁっ!!」」
 気合一閃。
 それだけで、青い炎は千々となって弾け飛ぶ。
 その中から現れるアクアマリナ。
 碧色の鎧には、焦げ跡どころか一点の曇りすら浮いてはいない。
 手にしていたマントをバサリと払うと、残っていた炎の残滓が星屑の様に散って消えた。
 「「無駄な事だ・・・。」」
 マントを羽織り直しながら、彼は言う。
 「「かような汚れた炎では、我が聖鎧に傷一つとて付ける事は敵わぬ。」」
 凛と言い切る言葉。
 マインドオーガスはただただ、歯噛みする。
 「チクショウ・・・。チョット、ぎてぃ!!アンタイツマデツッ立ッテンノヨ!?コッチ来テ、手伝イナサイヨ!!」
 歯牙の軋む間から、怨嗟の様に響く声。
 しかし、それは届かない。
 その声を受け取るべき相手は、目の前の少女を凝視したまま。
 微塵とも、動かない。
 「ぎてぃ!!」
 もう一度、切羽詰った様な声で叫ぶ。
 しかし、結果は同じ。
 「「諦めよ。互いの心を通じぬ主従など、所詮その様なものだ。」」
 諭す様に、淡々と告げるアクアマリナ。
 「ク・・・!!」
 悔しげに歯噛みするマインドオーガス。
 ―と、
 「―・・・地帝の鉄槌 巨神の咆哮 大地を走るは地精の怒り・・・―」
 「――!?」
 不意に聞こえてきた”それ”が、マインドオーガスの背筋に悪寒を走らせる。
 振り返ると、いつの間に近づいたのか。栗色の髪の少女が彼女の背後で杖を構え、呪を唱えていた。
 その言の綴りが、彼女に不吉な予感を走らせる。
 「アンタ・・・何ヤッテンノヨ・・・。」
 戦慄く声でかける問い。
 しかし、少女―アウスは答えず、呪を唱え続ける。
 「何ヤッテンノカッテ、訊イテルジャナイ!!」
 激昂し、その脚を横凪に振るう。
 鉄棍の様な脚が、アウスの身体をなぎ払う。
 しかし―
 ボフンッ
 その身体は一瞬小さな子羊へと姿を変え、そして掻き消える。
 「・・・ナ・・・何、コレ・・・!?」
 「―其を持って 汝を飲み下さん―」
 「――!!」
 強ばる身体の後ろから、呪を結ぶ声が響く。
 震えながら振り向くと、そこには掻き消えたそれと違わぬ姿が幽鬼の様に立っていた。
 「『贖罪の供物(スケープ・ゴート)』だよ。知らないのかい。」
 「ア・・・アンタ・・・。」
 「その濁った目じゃ、分かる筈もないか・・・。」
 「ナ・・・何ヲ・・・」
 瞬間、マインドオーガスの真下に展開する魔法陣。
 「ヒッ!?」
 引き攣る様な声が、細い喉から漏れる。 
 「悪いけど、君には消えてもらう。」
 冷淡に告げるアウス。
 「チョ・・・チョット・・・」
 「”彼”の開放には、君の存在は邪魔なんでね。」
 「マ・・・待ッテヨ・・・」
 「悪いけど、ボクは他の皆ほど優しくないんだ。」
 白魚の様な指がユラリと上がり、マインドオーガスを指差す。
 「待ッテェエエエッ!!」
 懇願の声も、彼女には届かない。
 最後の言葉は、酷くあっさり紡がれた。
 「―地砕き(アース・クラッシュ)―」
 途端―
 ゴシャアァアアアッ
 マインドオーガスの下の地面が、幾つにもひび割れる。
 ガクンッ
 「キャ・・・キャアァアアアアアッ」
 響く悲鳴。
 マインドオーガスの巨体が、割れ千切れた地面へと沈み込んでいく。
 「イヤ!!イヤァアアアアアッ」
 己の下に開いた奈落から逃れようと、渾身の力で抵抗する。しかし、もがけばもがくほど、割れた大地はその身体を呑み込んでいく。
 「助ケテ!!助ケテェ、う゛ぁにてぃいいい!!」
 堕ちゆく恐怖と絶望の中で、彼女は”彼”の名を呼んだ。
 

 ・・・続く戦乱。
 その命のせめぎ合いを眼下に眺めながら、リチュア・ヴァニティは静かに佇んでいた。
 今、彼の耳には二つの声が届いている。
 (―怖イ怖イ。”アレ”ハ、手二負エヌ―)
 (―助ケテェ、う゛ぁにてぃいいい!!―)
 耳の中に響く同胞の声に、彼は姦しそうに眉根を動かす。
 「・・・いつも威勢がいいわりには、いざとなったらすぐ人を頼る。全く、身分のいい事だ・・・。」
 その顔には、窮地にある仲間達への想いなど微塵も浮かびはしない。
 それでも、漆黒の双眼を細めながら彼はゆっくりとその右手を上げる。
 「・・・まぁ、これもノエリア様のためか・・・。」
 そんな言葉と共に、白い右手が印を結ぶ。
 そして―
 「・・・結・・・。」
 薄い唇が、そう呟いた瞬間―
 ゾワッ
 ガスタの村を、真っ赤な光が覆い包んだ。


 ―異変は、すぐに現れた。
 「な、何だ!?」
 周囲を包む赤光と、同時に身体を覆う奇妙な束縛感。
 ダルクが戸惑いの声を上げるその傍らで、ライナはもっと重大な異変に気づいていた。
 その視線の先にあるのは、たった今団結の力(フォース・オブ・コネクト)を発動させたばかりの杖。
 その輝きが、目の前で満ちる赤光に溶け入る様に消えていく。
 「・・・魔法が・・・発動しない・・・!?」
 その言葉に、前に立つソウルオーガがニヤリと顔を歪める。
 しかし、それに気づく余裕も今はない。
 消えゆく魔法の残滓を見つめながら、彼女はただ愕然と立ち尽くしていた。


 一方、異変は、アウス達のいる場所でも起こっていた。
 「これは・・・!?」
 さしものアウスも、驚きにその目を見開く。
 地にのたうつ魚妖を、今まさに呑み込もうとしていた地面の亀裂。
 それが、満ちる赤い光の中でみるみるうちに塞がっていく。
 「魔法が・・・強制キャンセルされている・・・?」
 突然の異変に驚きつつも、アウスの頭脳は冷静に状況を分析する。
 そして、出た答えは―
 「まさか・・・『王宮の勅命(エンペラーズ・トレアニー)』・・・!?」
 ・・・上空の杖の上。その言葉が聞こえた様に、黒衣の結界師はその丹精な顔に酷薄な笑みを浮かべた。

 
                                    続く

タグ:霊使い
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