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2015年04月30日

霊使い達の黄昏・31




 31話目。
 最後の戦いに向けて、戦士達は集います。


 
レラ.jpg


                     ―31―


 曇天を貫く様にそびえ立つ、異形の巨影。
 それに向かって、五つの影が走る。
 空を駆るは三体のダイガスタ。
 地を駆けるは二体のジェムナイト。
 先頭に立つはダイガスタ・イグルス。
 その背のウィンダールが叫ぶ。
 「皆!!固まらず、散開して攻めるぞ!!個々の負担は増えるが、一撃で全滅させられる愚は犯せない!!出来うる限り、時間を稼ぐ!!」
 「はい!!」
 「あいよ!!」
 「「了解!!」」
 「「承知した!!」」
 それに従い、バッと散らばる皆。
 見下ろす赤眼が、胡乱げに細まる。
 その視線を避けながら、ウィンダールが号令を放つ。
 「攻撃を!!」
 それに答える様に、皆が一斉に攻撃を放つ。
 風が唸り。
 氷が弾け。
 炎が吼える。
 ジールギガスの巨体を、瞬く間に爆煙が覆った。


 「・・・始まったわね・・・。」
 瓦礫の影から事態を確認したエリアが呟く。
 「じゃあ、あたしも行くから・・・。」
 そう言って、向ける視線の先にはジゴバイトの姿。
 「ギゴ、”そいつら”の事お願いね。」
 『ああ、分かった。』
 頷く彼の頬に、エリアが手を添える。
 『死ぬなよ。エリア。』
 「当たり前じゃない。これからなんだからね。あたし達は。だから・・・」
 優しい声音が、鈴の様にジゴバイトの耳をくすぐる。
 「貴方も、死なないで・・・。」
 『大丈夫。もう、あんな思いはさせない。』
 微笑み合う二人。
 互いの口が、そっと触れ合う。
 そして、エリアは踵を返す。
 最後に叫ぶ言葉は――
 「”あんた達”も、しっかり生きてなさいよ!!言いたい事、沢山あるんだからねー!!」
 そう言い残し、水霊の少女は走り出す。
 見る見る遠ざかる、後ろ姿。
 それを見送ると、ジゴバイトは後ろを振り返った。
 そこには、今だ昏倒したままのエリアル。
 そして、人形の様な瞳で彼女を見下ろすカムイの姿があった。


 そこには、あの時見たのと寸分違わない姿があった。
 魔女の様な衣装。
 青い髪。
 幼さと妖艶さを合わせる、少女の顔。
 そして、その身から漂う邪悪な気配。
 そう。邪悪だった。
 今なら、手に取る様に分かる。
 自分が殺し、自分を助けた少女とは全く違う。
 冷たく爛れた、氷塊の如き気配。
 どうして、気づく事が出来なかったのか。
 療養所の中で。
 広場の中心で。
 あの、黄昏の中で。
 気付くチャンスなど、いくらでもあった筈なのに。
 (お前の目は、どこまで曇っちまったんだ?)
 リーズの声が、脳裏に響く。
 そう。曇っていたのだ。
 悲しみに覆われて。
 憎しみに侵されて。
 青い空の色すら、見分けられぬ程に。
 けど。
 だけど。
 今は違う。
 今、目の前にいるのは。
 紛う事なき、毒禍の魔女。
 許し得ぬ、両親の仇。
 カムイの拳が、ギリリと軋みを上げる。
 『どうした?』
 「!!」
 不意に響いた声が、カムイを我に返した。
 思わず向けた視線の先に、”彼”がいた。
 自分が奪おうとしたもの。
 自分が奪ったもの。
 その、答え。
 『殺さないのか?』
 ”彼”が言う。
 「え・・・?」
 言葉は、続けてかけられる。
 『止めたりは、しないぞ。』
 「・・・な・・・!?」
 思わぬ言葉に、呆気にとられる。
 「な・・・何を・・・?」
 『聞こえなかったのか?止めないと言ったんだ。』
 自分を見つめる、金色の瞳。
 憤怒ではない。
 憎悪でもない。
 悲しげで、けれども何かを達観した様な眼差し。
 それが、カムイを戸惑わせる。
 『僕に、それを止める資格はない。』
 瓦礫の向こうで、また大気が弾ける。
 周囲を一瞬照らし出す爆炎。
 その中に浮かぶ影。
 影が言う。
 『僕は、憎しみに呑まれた。それに、流された。』
 声が響く。
 悔恨でも。
 嫌悪でもなく。
 ただ、淡々と。
 『流されるままに、お前を殺し、ガスタを滅ぼそうとした。』
 一瞬の筈の時は、まだ終わらない。
 ”彼”は続ける。
 『奪われた怒りを、悲しみを、奪う事で癒そうとした。』
 口が、カラカラに乾いていた。
 それを癒そうと喉を鳴らすが、唾液は一滴も出なかった。
 『・・・お前と、同じだ。』
 そう。
 そこにいるのは、自分だった。
 形が違うだけの、自分だった。
 だから、喘ぐ。
 ”彼”の。
 もう一人の自分を、慰する為に。
 「違う・・・。」
 『何が?』
 「お前は、オレとは違う・・・。」
 『何が、違う?』
 「だって、お前はオレが堕としたんだ!!リチュア(あいつら)が、狂わせたんだ!!お前に、罪なんて・・・」
 『”罪”だよ。』
 自慰の言葉を、断罪の一言が切って捨てる。
 心臓が、ビクリと震え上がる。
 『僕は、自分の意思で堕ちたんだ。自分の意思で、狂ったんだ。お前のした事も、リチュアがした事も、それを成すためのきっかけでしかなかった。』
 「・・・・・・。」
 言葉が続かなかった。
 彼は。
 もう一人の自分は。
 強かった。
 立ち竦む程に、強かった。
 『だから、僕は止めない。お前が仇を討つのも、それは確かな権利だから。』
 ゴクリ
 もう一度、喉を鳴らす。
 逸らす様に下ろした視線。
 そこに映るのは、無防備に横たわる少女の姿。
 カムイは、その喉を見やる。
 白く、細い喉。
 それは、まるで繊細な氷細工の様で。
 手をかけて。
 力を込めれば。
 容易に。
 砕く事が、出来るだろう。
 幼くか細い、自分の腕でも。
 握り締めた手の中に蘇る、感覚。
 抱きしめる腕から抜けていく、力。
 遠ざかっていく、声。
 増していく、身体の重み。
 二度と戻らない、温もり。
 胸の内に、燻るものがある。
 それは、絶望と後悔にすり潰され、小さくこそなったけれど。
 今も、間違いなく滾り続けている。
 冷たい。
 冷たい。
 冷たい、焔。
 憎悪。
 それが、叫ぶ。
 仇を。
 仇を。
 母の仇を。
 父の仇を。
 仇を、討てと。
 握り締めていた、手が開く。
 まるで、獲物を掴み殺す猛禽の様に。
 腕を、伸ばす。
 そこにある、少女の首に向けて。
 ”彼”は、何も言わない。
 ただ、金色の目でカムイを見つめる。
 ゆっくりと。
 ゆっくりと。
 けど、確実に。
 近づいていく、手。
 そして、その爪が白い首にかかろうとしたその瞬間―
 ピィ
 一声の、風が吹いた。
 「!!」
 思わず向ける視線。
 そこに、”彼”がいた。
 ―『ガスタ・ファルコ』―
 神託によって選ばれた、運命の輩。
 ともに空を駆け、未来を夢見た命友。
 そして、憎しみに己を失った自分に寄り添い続けた、もう一人の家族。
 琥珀色の眼差しが、自分を映す。
 どこまでも、澄み渡った瞳。
 どこまでも、優しい輝き。
 その輝きが、心の中の何かを呼び起こす。
 それは、この世でもっとも尊きもの。
 それは、この世でもっとも気高きもの。
 そう。
 それは・・・。
 「父さん・・・母さん・・・」
 それは、両親の眼差し。
 愛しき者を、守る強さ。
 慈しむ者を、抱く優しさ。
 かつての自分が、求む高みと望んだもの。
 琥珀の双眸。
 その向こうに。
 「そうか・・・。」
 風が吹く。
 全ての汚れを、さらい行くかの様に。
 そよぐ大気。
 その中で、手を伸ばす。
 「こんな近くに、いたんだね・・・。」
 吹き渡る風の中、微笑む二人の姿が見えた。


 見上げるジゴバイトの身体を、緑の羽風が包む。
 舞い上がる”彼ら”に向かって、彼は言う。
 『行くのか?』
 「ああ。」
 頼もしい相棒の背に乗ったカムイが頷く。
 「エリアル(そいつ)の事、頼むな。言いたい事は、山ほどあるから。」
 『そりゃ、僕も同じだ。』
 「だよな。」
 旧来の友の様に、笑い合う二人。
 『なら、生きろよ。しっかりとな。』
 「言わずとも!!」
 そして、カムイは天を仰ぐ。
 「行くぞ!!ファルコス!!」
 ピィロロロロロロロッ
 誇りを取り戻した主の命に、若き神鳥は猛り吼える。
 彼らの目に映るは、滅びへと立ち向かう尊ぶべき先達達の姿。
 その背を追い、希望の翼、『ダイガスタ・ファルコス』は力強く羽ばたいた。


 「あれは・・・ファルコス!!」
 ウィンダール達の後を追う様に飛び立つその姿を見て、カームは思わず声を上げた。
 「振り切ったのね・・・。迷いを・・・」
 沸き起こる喜び。
 しかし、その一方でどうしようもないもどかしさが彼女を包む。
 「皆が、戦っている・・・。なのに、私は・・・」
 先の一戦で、彼女が受けたダメージは軽くない。
 身体は、今だ言う事を聞かない。
 例え戦線に出た所で、足でまといにしかならない。
 それは、理解している。
 けれども、心はそれを許さない。
 皆の力が必要とされるこの時に、そうある事が叶わない。
 「くぅ・・・。」
 カームが、悔しげに唇を噛んだその時―
 「・・・”力”が、欲しい・・・?」
 「!!」
 不意に背後からかけられた問いに、振り向くカーム。
 いつの間に近づいてきたのか。
 二つの人影が、彼女の背後に立っていた。
 一人は少女。ウェーヴのかかった、長い緋色の髪。
 一人は少年。燃え立つ炎の光を反して光る、白銀の髪。
 「力が欲しいなら、私達を使って。」
 戸惑うカームに、少女が言う。
 「貴女達は・・・?」
 見覚えのない顔。
 その姿に、視線を走らせる。
 魚の鰭を模した様な意匠の、特徴的なマントやローブ。
 それが、ある答えをカームに悟らせる。
 「――っ!!”リチュア”!!」
 目に敵意を灯らせ、身構えるカーム。
 反射的に、少年が腰の剣に手を伸ばす。
 その手を、少女の手が押さえた。
 「待って!!もう、ガスタ(貴女達)と戦うつもりはないの!!」
 少女―『リチュア・エミリア』は、必死の顔でそう叫んだ。


 ―目覚めた時、一番初めに目に入ったのは自分を見下ろす少女の顔だった。
 幼い頃から、見慣れた顔。
 その瞳が、涙に濡れていた。
 落ちる滴が、頬を濡らす。
 「アバンス・・・。」
 少女が、名を呼ぶ。
 「エミ・・・リア・・・?」
 名を呼び返しながら、身を起こす。
 ズキリ
 頭を襲う鈍痛。
 傾いだ身体を、エミリアが支える。
 その時、気付く。
 自分を抱く少女の身体に、確かな質感と体温がある事を。
 「エミリア・・・お前、身体が・・・!?」
 彼女が頷く。
 「気づいたら、元に戻ってた。きっと、混沌の力が儀水鏡の呪縛を断ったんだと思う・・・。」
 「そうか・・・。そうか!!」
 考えるよりも早く、身体が動く。
 エミリアを抱き締めるアバンス。
 抵抗する事も、赤面する事もなく、それを受け止めるエミリア。
 しばしの間、少女と少年はお互いの存在を確かめ合う。
 しかし―
 グゥルァアアアアアアアアアッ
 響き渡る咆哮が、その慈しみの刻を絶つ。
 振り向いた二人の視界に映ったもの。
 それは、天を突く程に巨大な四椀の巨人の姿。
 「あれは・・・!!」
 「ジールギガス!!」
 戦慄に顔を引きつらせる二人。
 「母さん・・・。あんなものまで・・・!!」
 「まずい!!逃げるぞ!!」
 立ち上がり、エミリアの腕を引こうとするアバンス。
 しかし、少女の身体は動かない。
 「エミリア・・・?」
 彼女の目は、真っ直ぐに巨人(ジールギガス)を見つめていた。
 「戦ってる・・・。」
 「え・・・?」
 呟く声に示される様に、それを見る。
 巨人(ジールギガス)の周囲を舞い飛ぶ、翡翠の鳥影。
 その翼が閃く度、青銅の身体に小さな爆発が起きる。
 「あれは・・・」
 「ガスタの連中か!?」
 目を見開いて見入るエミリアの横で、アバンスが歯噛みする。
 「馬鹿な・・・。敵う訳ないだろ・・・。餌食にされるだけだ・・・。」
 そして、彼はもう一度少女の腕を引く。
 「行こう!!エミリア!!このままじゃ、巻き込まれる!!」
 けれど―
 「駄目!!」
 エミリアは叫び、その手を振り払う。
 「エミリア!?」
 「あれは・・・、この地で起こった事は、リチュア(私達)の罪!!せめて、私達が贖わなくちゃ!!」
 その言葉に、アバンスは声を荒げる。
 「馬鹿言え!!折角取り戻した命なんだぞ!!それをまた捨てるつもりか!?」
 しかし、エミリアは動かない。
 「エミリア・・・。」
 「お願い・・・。アバンス。私が、こうして命を取り戻したのは、きっとこの為・・・。」
 「・・・・・・。」
 「リチュア(私達)が・・・いいえ、母さんが弄んだ命を、この身で償う為・・・」
 アバンスの手を、エミリアの手が包む。
 「これ以上、続けちゃいけない・・・。これ以上、重ねちゃいけない・・・。だから、だから・・・!!」
 濡れた瞳が、アバンスを見つめる。
 その奥に灯る光を、アバンスは見る。
 そして―
 「・・・分かったよ・・・。」
 溜息をつく様に、彼は言う。
 「アバンス・・・。」
 華の様に綻ぶ、エミリアの顔。
 「ただし!!」
 釘を刺す様な声が飛ぶ。
 「行くなら、俺も一緒だ。」
 「ええ!?」
 目を丸くする彼女に、アバンスは言う。
 「何だ!?自分は散々我侭言っといて、人には来るなとか言わないだろうな!?」
 「で、でも・・・。」
 「俺は、”あの時”お前を守れなかった。だから・・・」
 ガシッ
 アバンスの両手が、エミリアの肩を掴む。
 「二度と同じ愚は犯さない。」
 「アバンス・・・」
 「守らせてくれ!!今度こそ、お前を!!」
 エミリアを見つめる、白銀の瞳。
 少しの間、それを見つめ返すと彼女ははにかむ様に頷いた。
 それを見て、微笑むアバンス。
 そして、彼女達は立ち上がる。
 「よし!!」
 「行こう!!」
 手を取り合い、駆け出す二人。
 その姿は、瞬く間に新たな戦地へと消えていった。


 「・・・それを、信じろと言うの・・・?」
 戦火の中、対峙するガスタとリチュア。
 杖を構えたまま、問うカーム。
 「虫のいい話だという事は、分かってる!!」
 そんな彼女に向かって、エミリアは言う。
 「でも、お願い!!今だけは・・・今この時だけは信じて!!」
 届くかどうかも知れない言葉を、説きかける。
 「もう・・・もう、これ以上、母さんに・・・リチュア(皆)の罪を重ねさせる事は出来ないの!!」
 「・・・勝手な理屈ね・・・。」
 「!?」
 エミリアの懇願を、カームは冷淡に切って捨てる。
 「母親に、仲間に罪を重ねさせたくない?それなら、すでに犯した罪はどうなるの?」
 翠緑の瞳が、冷たくエミリアを貫く。
 「死んだガスタ(わたし達)の仲間は?遺された人達はどうなの?その中には、貴女の言う母親と引き裂かれた子供達だっているのよ?」
 「そ・・・それは・・・」
 返す言葉を探すエミリア。
 けれどそんなもの、ある道理もない。
 「さあ、答えて。」
 カームが詰め寄る。
 「貴女はどうやって、罪を贖うつもり?」
 一歩、近づく。
 思わず後ずさるエミリア。
 逃がさぬとばかりに、カームも動く。
 「さあ・・・。」
 また、一歩。
 そして、一歩。
 カームが、ガスタが問う。
 「さあ!!」
 「待ってくれ!!」
 「「――――っ!?」」
 突如響いた声に、二人が視線を返す。
 「アバンス!?」
 エミリアが、悲鳴の様な声を上げる。
 二人が視線を向けた先。
 そこにあったのは、手にした剣で今まさに己の首を切り裂こうとするアバンスの姿だった。
 冷たい刃を頚の動脈に当てながら、彼は呆れた様に笑う。
 「元に戻っても、相変わらず馬鹿だな。お前。そんな読めた問いの答えくらい、ちゃんと用意しておけよ。」
 そして、彼はその言葉をカームに向ける。
 「あんたの言う通りだな。」
 臆する事なく、己の罪を認める。
 「リチュア(俺達)のやった事を見返れば、当然の言葉だ。でも・・・」
 白銀の視線が、エミリアを示す。
 「そいつの事だけは、信じてやってくれないか?その想いがまやかしかどうか、ガスタ(あんた達)なら分かる筈だ・・・。」
 「・・・・・・。」
 自分を見つめるカームに、微笑むアバンス。
 「リチュアの罪は、全部俺が持っていく。だから・・・」
 剣の柄を握る手に、力がこもる。
 「頼む!!」
 引かれる刃。
 エミリアが、悲鳴を上げる。
 次の瞬間―
 カンッ
 響き渡る、甲高い音。
 「――――っ!!」
 痺れる手を押さえたアバンスが、声にならない呻きを上げる。
 「アバンス!!」
 駆け寄るエミリア。
 「・・・そんな事は、もうたくさん・・・。」
 小さく響く、溜息の音。
 剣を弾いた杖を下ろしながら、カームは言う。
 「己の真理を示したいのなら、命ではなく魂で示しなさい。」
 言葉とともに、白い手が上がる。
 それが向けられるのは、エミリア。
 「貴女達の真の想い、見定めさせてもらうわ。」
 差し出された手を見つめるエミリア。
 やがて、ゆっくりと頷くと己の手を上げる。
 「エミリア・・・。」
 呼びかけるアバンスに、微笑むエミリア。
 「・・・待っててね。必ず、帰ってくるから。」
 「ああ・・・。」
 アバンスもまた、微笑み返す。
 「俺も、必ず誓いを果たすよ・・・。」
 己の想いを確かめ合う二人。
 その瞳の中に、確かな真実を認めながらカームは言う。
 「・・・行きましょう。」
 「・・・はい。」
 近づく、カームとエミリアの手。
 二人の指先が、求め合う様に触れて―
 ―魂魄同調(オーバーレイ)―
 ピシャン
 光と共に散る、澄んだ飛沫。
 見上げるアバンスの前で、しなやかな身体が跳ねる。
 その身に刻まれた儀水鏡が光り、ガスタの紋章が彼を見下ろす。
 「・・・死なさないからな・・・。」
 【ええ・・・。】
 【もう、誰も・・・。】
 頷き合う、三つの魂。
 そして―
 パシャンッ
 青い尾鰭で宙を蹴り、『イビリチュア・メロウガイスト』は天へと舞った。



                                  続く
タグ:霊使い
この記事へのコメント
復活のカムイ!ガスタの希望、立つ!彼の戦いはまさに今始まったのだ!

言いたい事は、山ほどあると言ったな。すでにエンディングの必要会話イベントは大漁だぞ。

エミリアとアバンスが生還か……今度、改訂版読も。
Posted by zaru-gu at 2015年05月01日 23:10
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