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2015年10月21日

霊使い達の黄昏・36




 おひさ。またしばし間が空いてしまいました。あともうちょっとで修羅場が抜けるので、そこを過ぎたら通常運転に戻れると思います。
 で、こっちも終盤。「黄昏」、今回を入れてあと2話で終わりです。もうひと踏ん張り。
 なお、今回の話で使った歌。初音ミクの歌で、だいすけPさん作曲の曲。その名もずばり「Rera」です。”レラ”とは勿論、アイヌ語で”風”を意味する単語です。
 ニコ動で初見して以来、自分の中ではガスタのテーマソングになっていますw
 こちらにリンクを貼っておくので、興味あらばどうぞ→
 劇中のウィンダの舞いも、これを見ていただければイメージしやすいかも。



レラ.jpg
                 

                     ―36―
 
 
 彼女は見ていた。
 己の手下(てか)達の行く様も。
 魔神(ジールギガス)の崩れゆく様も。
 そして、リチュアの崩壊も。


 彼女の周り。
 何もない。
 誰もいない。
 けれど、彼女の表情は変わらない。
 薄く笑みを浮かべたまま、目の前の暗闇を見つめている。
 ―と、
 ス・・・
 無音で上がる手。
 それが向けられた先で―
 ボウッ
 唐突に、緑色の魔法陣が現れる。
 詠唱破棄。
 グニャリ
 一拍の間の後、魔法陣の中の空間が歪む。
 グニャリ
 グニャリ
 歪み果てるその先。
 開くのは、現世(ここ)ではない世界。
 ―『次元融合(コラプス・スクエア)』―
 現世と、そうでない世界をつなぐ禁呪。
 並みの術師では、魔力磁場の構築すらも困難な代物。
 それを息の一つも乱さずに成すと、彼女は崩れた空間に向かって手招きする。
 途端―
 ズルッ ベチャッ
 湿った音を立て、そこから何かがまろび出る。
 ゴチュ・・・グチュル・・・
 おぞましく蠢きながら、身を起こすそれ。
 顕になる姿。
 知るものが見れば、息を飲んだに違いない。
 複数の目を持つ、蜥蜴の様な顔。
 湿った鱗に覆われた、身体。
 そして、それを包む鰭を模した法衣。
 そう。
 その姿は紛う事なく。
 『シャドウ・リチュア』そのもの。
 ズル・・・ピチャ・・・
 混沌の剣によって次元の狭間に堕とされた筈の身体を引きずり、彼は彼女へと這いよる。
 ゴボゴボ・・・
 膨らんだ喉が、溺れる様な音を立てる。
 やがて、粘液に濡れた口が開き、声が零れる。
 「カノタッワオ?」
 それは、以前の彼とは、否、世に在するあらゆる生物のそれとは異なる言語。
 しかし、それを向けられた彼女は平然とそれに答える。
 「ムウ。」
 「カタエキモズレグ?」
 「ヨノモイナイガフ。アア。」
 彼女の口から漏れる言葉も、同じもの。
 不協和音の声音が、闇の中に静かに木霊する。
 「ルスウド、ハデ?」
 小首を傾げる、”シャドウだったもの”。
 それに向かって、彼女はただ淡々と言葉を放つ。
 「ウロムネ。」
 「カノルムネ?」
 「ダウソ。」
 メキッ
 静寂の中に響く、異音。
 いつしか、彼女の身体が変貌を始めていた。
 「ルムネ、ニエユ。ウヨレサザトニリカヒキヨツ、モテイガアラクイ。イルワガレガナノキトハマイ、ラヤウド。」
 メキ・・・バキ・・・ゴキ・・・
 白い皮膚がめくれ上がり、現れるのは黒い鋼殻。
 細い身体を突き破り、伸び開くのは異形の翼。
 その身が裂ける度、鮮血がしぶき滴るが、その顔には微塵の苦悶も浮かばない。
 「ドホレド?」
 変わりゆく彼女に向かって、”シャドウだったもの”は問う。
 「ンネクャヒ。」
 「エユニナ?」
 「ルイテッイガシホ。」
 黒に覆われた己が手。
 それを慣らす様に蠢かしながら、”彼女だったもの”は笑む。
 「ウオナカハイモオノラレワ、ソコキトノソ。ルズンヘトヘミヤハリノヨ、バレスサ。」
 ニタリ
 ニタリ
 笑みを向け合う、二体の異形。
 「ウロムネ、ハデ・・・。」
 ギシリ・・・
 硬い鋼殻を軋ませ、”彼女だったもの”が立ち上がる。
 ギシリギシリと鳴きながら、空虚となった部屋を進む。
 向かう先は虚無の中に浮かぶ、儀水鏡。
 「リムネトヒノンホ、ラナンネクャヒ・・・。」
 後を追う様に、”シャドウだったもの”も鏡に向かう。
 「ラカダノタイテッマヲキトナカルハ、ハレワレワ・・・。」
 「ウソ・・・。」
 ズルリ・・・
 その身体が、昏い鏡面に沈み行く。
 「モンマクイ・・・。モンセクイ・・・。」
 「ウヨミヲメユ、デマキトノソ・・・。」
 「ヲメユノイカセルナウコウス、ノズルェヴ・・・。」
 トプン
 そして、二つの影は鏡の中の闇へと溶ける。

 ―後に残るは、昏く揺らめく鏡が一枚―


 チチ・・・チチチチチ
 耳元で響く声が、微睡んでいた意識を捕まえた。
 引き寄せられる様に、ゆっくりと目を開く。
 飛び込んできたのは、こちらを覗き込む竜の顔。
 『ああ、良かった!!目、覚めたんだね!!』
 その声に驚いたのか、ベッドの頭にたむろっていたスクイレル達が慌てて散っていく。
 『ウィン、大丈夫?どっか、痛かったりしない?気分悪くない?お腹空かない?』
 「だ、大丈夫だよ。ぷっちん。」
 怒涛の様に質問を速射する相方の頭を撫でると、ウィンは視線を巡らす。
 見覚えのある天井。
 微かな薬の匂い。
 村の、療養所だ。
 「・・・どれくらい、寝てたのかな・・・?」
 労わる様に見つめてくるプチリュウに訪ねる。
 「まる二日。心配したんだよ?全然目を覚まさないからさ。」
 「そっか・・・。ごめんね。」
 そういって、もう一度頭を撫でる。
 キュウ、と甘える様な声をあげる相方に微笑みかけると、ウィンはゆっくりと身体を起こした。
 「ん・・・」
 長い睡眠のせいで強ばった身体が軋む。
 だが、他に特にこれと言った不調はない。
 もっとも、身体のあちこちが包帯でグルグル巻になってはいたが。
 「よぅ。目、覚めたか?」
 飛んできたのは、聴き慣れた声。
 視線を上げると、自分と同じように包帯を巻かれたヒータがベッドであぐらをかいていた。
 「あんたが最後よ。まったく、こんな時まで寝ぼすけなんだから。」
 隣を見れば、上半身を起こしたエリアが呆れた様に頬杖をついていた。
 「ヒーちゃん!エーちゃん!皆、無事だったんだね!?」
 「見ての通りさ。」
 本を読んでいたアウスが、眼鏡を直しながら言う。
 「『四霊彩歌(エレメンタルバースト)』で消耗した所に、シンクロ召喚なんてしたからね。倒れるのも当然さ。」
 「せんせーがダイジョブとはいってくれてたんですけどね。しんぱいなものはしんぱいなのです。でも、これでひとあんしん、です!!」
 いつもの口調に戻ったライナも、嬉しそうに言う。
 「心配・・・って言えば、ダル君は?」
 他のメンバーが揃う中、一番仲間を気遣いそうなダルクだけがいなかった。
 「ああ、あいつは・・・」
 「彼なら別室よ。」
 ヒータの声を遮りながら入ってきたのは、ウィンダだった。
 「お姉ちゃん!」
 「男女七歳にして席を同じうせずってね。年頃の女の子が、やすやすと男の子に気を許しちゃだめよ?」
 その言葉に、ウィンが憤慨する。
 「酷いよ!!お姉ちゃん!!ダル君はそんな子じゃ・・・」
 「ないわねぇ。アレは・・・。」
 そう言って、溜息をつくウィンダ。
 「へ?」
 ポカンとするウィンに、笑いながらヒータが教える。
 「アイツも、もともとは同じ部屋だったんだよ。それが、オレらの手当てとか着替えとか、その他諸々目の前でやられちゃたまらんて言って、別室に移してもらったんだと。」
 「別に、カーテン引いてやるんだから無問題なのにねぇ。」
 「今更、恥ずかしがる様な仲でもないだろうにね。」
 「むかしはいっしょにおフロにはいったりしたですのに・・・。」
 などと、ほかの面子も好き勝手な事を言って笑う。
 「全く。折角外に出たのだから、婿殿の一人も咥えてくるかと思えば、これじゃあまだまだ望み薄ねぇ・・・。」
 などと言いつつ、その顔は妙に嬉しそうなウィンダ。
 「・・・お姉ちゃん、自分の事完全に棚に上げてるよね・・・。」
 ジト目で睨むウィン。
 けれど、ウィンダは何処吹く風。
 上機嫌に、花瓶に水を注いだりしている。
 「あ、でも・・・」
 思い出した様に言うライナ。
 「ウィンちゃんには、”ふうくん”がいたですよね?」
 途端―
 メギョン
 変な音がした。
 見れば、ウィンダの手の中の花。それが哀れ、握り潰されてひしゃげている。
 「ラ、ライちゃん!!」
 ウィンが真っ赤な顔で抗議しようとしたその時、
 ガシィッ
 猛禽のそれの様に伸びた手が、彼女の肩をガッチリと掴んだ。
 「みゃっ!?」
 驚いて声を上げるウィン。
 「・・・ウィンちゃん・・・?『ふう君』って、どなたなのかな・・・?」
 手の主、ウィンダが地の底から湧き上がる様な声で言う。
 「だ、誰って、友達だよ!!向こうで出来た・・・」
 「・・・友達・・・?」
 ブンブンと頷くウィン。
 しかし、姉は納得しない。
 「それなら、何でそんなに真っ赤になってるのかな〜?」
 「え?いや、それは・・・」
 「正直に答えなさい・・・。ふう君って、だ〜れ?」
 「・・・はい・・・。」
 結局、洗いざらい白状させられた。


 「ほう・・・。『暴風小僧』の風君・・・ねえ・・・。」
 翠色の瞳を昏く光らせながら、ウィンダが呟く。
 「この娘ったら、しっかり色気づいてるじゃないの・・・。このっ!このっ!!」
 両手でウィンの頬を掴み、グニグニと引っ張る。
 「い・・・いひゃい!!いひゃい!!」
 痛がるウィンを、ひたすら嬲るウィンダ。
 その様をチラ見しながら、部屋の隅に集まった面々がボソボソと言い合う。
 「・・・おい。何か行動がさっきと矛盾してねーか?」
 「こっちの方が本心だろうね。表向きは歓迎すれど、本心では可愛い妹を取られたくないんだろうさ。」
 「・・・地味に歪んでるわね・・・。」
 「はて・・・?きもちがよくわかるような・・・?」
 そんな会話が聞こえているのかいないのか、ウィンは渾身の力をもって姉の魔手を振りほどく。
 「もう!!やめてよ!!」
 「あら、いいじゃない。もう少し遊ばせてよ。」
 本気とも、冗談とも取れない口調で笑うウィンダ。
 「もう・・・。子供の頃からすぐ玩具扱いするんだから・・・。」
 ブツブツ言いながら、赤くなった頬を撫でさするウィン。
 「で、用はなあに?」
 「あら?よく他に用があるって分かったわね。」
 「なかったら怒るよ!!」
 プリプリとむくれるウィンを前に、ケラケラと笑うウィンダ。
 「・・・すごいネーちゃんだな・・・。」
 「見事な鞭さばきね・・・。あのマイペース娘が、完全に手玉だわ・・・。」
 「ふむ。少しご教授願おうかな?」
 「アウスちゃん、もうそっちのほうのしんかはやめてくださいなのです・・・。」
 「そっちの皆さんー。」
 「「「は、はい!?」」」
 急に話をふられ、思わず気を付けする三人(アウスは当然の如く通常運転。)。
 「貴女達も、是非参加してね?」
 「へ・・・?参加?」
 「なんのことでしょう?」
 「あら?聞いてなかった?」
 ポカンとする一同に、ウィンダが小首を傾げる。
 「今晩、村の皆が集まって宴を開くの。それのお呼びかけ。」
 「宴?」
 「いいの?よそ者(あたし達)なんかが混じっちゃって。」
 エリアの問いに、ウィンダは答える。
 「何言ってるのよ。主賓は貴女達よ。来てくれないと、盛り上がらないわ。」
 そう言って、ウィンダはニコリと笑んだ。


 やがて日が暮れると、村の入口近くの広場に人々が集まりだした。
 厄災の爪痕はまだ生々しかったが、ある程度の瓦礫は片付けられている。
 その中心に薪が組まれ、火が灯される。
 始めこそ小さかったそれは、みるみる大きくなって夜空を明るく染めた。
 事は、厳粛な雰囲気の中始まった。
 村人は皆、焚き火の向こう側に座して目を閉じる。
 前列に座して黙するのはウィンダール。
 その反対側に進み出るのはムスト。
 彼は火に向かって頭を垂れると、厳かな声で何事かを唱え始めた。
 土地の言語なのだろう。意味こそ分からなかったが、それが祈りである事は容易に分かった。
 祈りの合間合間に、横に傅いたカームの持つ器から何やら砂の様なものをつかみ出し火の中に放る。
 瞬間、パッと明るさを増す炎。
 香の類なのだろう。炎が燃え上がる度、不思議な香りが辺りを流れた。
 ムストの後ろ。丁度、村人達と対面する位置に席を設けられた霊使い一同。
 想像していたものとは違うその雰囲気に、些か戸惑う。
 「な・・・何か、空気重くねえか・・・?」
 「・・・確かに、宴って雰囲気じゃないな・・・。」
 ヒソヒソと言い合う皆に、ウィンが言う。
 「静かに・・・。今してるのは、送霊の儀式だから。」
 「そうれい?」
 「ああ、なるほど。今回の事で亡くなった人達を・・・」
 「うん。この炎が起こす風に乗せて、天に送るの・・・。」
 そして、ウィンはまた目を閉じる。
 他の皆も、それに倣って目を閉じた。


 炎が燃える。
 明々と。
 炎々と。
 その身に纏う送り風。
 それに数多の御霊を乗せて。
 彼らの行くべき導を照らし。
 燃える。
 燃える。
 炎が、燃える。


 やがて、神官(ムスト)の祈りが終わると、宴が始まった。
 次々と料理が運ばれ、皆には酒が振舞われ始める。
 それまで厳かだった空気は次第に解れ、場には人々の喧騒や笑い声が響いてきた。
 ウィン達も膝を崩すと、目の前に置かれた料理や飲み物に手を伸ばす。
 土着の料理なのだろう。見慣れないものが多い。
 けれど、独特ながらも滋味のあるそれらは十分に皆の舌を楽しませた。
 

 「これ、なあに?何か、生魚の切り身みたいに見えるんだけど・・・。」
 平皿に並べられた赤い身をつまみながら、エリアが訊く。
 「”ルイベ”だよ。魚の身を凍らせてスライスしたの。」
 「・・・食べられるの・・・?」
 「大丈夫。凍らせてあるから、危ない寄生虫とかはいなくなってる。このソースつけて食べてみて。」
 不安そうなエリアに、小皿を差し出しながらウィンが進める。
 小皿の中には、赤味がかった黒い液体が怪しく揺らめいている。
 それを切り身につけ、恐る恐る口に運ぶ。
 シャク
 冷たく心地よい歯ざわりとともに口内に広がる、脂がのった魚の甘い味。それが、しょっぱ味の強いソースと絶妙に絡まる。
 「あ・・・、美味しい・・・。」
 「でしょ?」
 エリアの言葉に、ウィンは嬉しそうに微笑んだ。


 「これ、何て言うんだ?」
 ヒータは、見慣れない魚料理に興味を持っていた。
 野菜といっしょに蒸し焼きにされたらしいそれを口に入れると、素朴であまじょっぱい、香ばしい味が口中を喜ばせる。
 「これはね〜、”チャンチャン”って言うのよ〜。」
 皆の杯に酒を継ぎにやってきたカームが説明する。
 「塗ってあるソースは?」
 「お豆を発酵させて作ったものよ〜。”おミソ”って言うの。それを、お酒でといで塗ってあるの〜。」
 「へえ。変わってるけど、美味いな。」
 「あら〜。ありがとう〜。」
 喜ぶカーム。
 「・・・少し、貰っていこうかな?」
 そんな事を考えながら、ヒータはもう一口頬張った。


 「あんた、随分いけるじゃないか。」
 アウスの杯に酒を注ぎながら、リーズが言う。
 それをスルリと空けて、アウスは笑む。
 「地属性だからね。底なしだよ。地面にどんなに水を注いでも、染み込んでしまうだろう?」
 「上手い事言うねぇ。」
 「美味いのはこのお酒だよ。米類から作ったらしいけど、癖がなくて水みたいにスルスル飲める。」
 「ありがたいね。ここらの湿地帯で育つ米で作った地酒だよ。好きなだけ、飲んどくれ。」
 「ありがとう。」
 そう言って、アウスはまた杯を空にした。


 「そういえば、リチュアのみなさんがどうなったかききましたか?」
 料理をつつきながら、隣のダルクに問うライナ。
 「・・・ああ・・・。」
 杯の酒を舐めながら、ダルクは言う。
 「・・・下っ端連中は、皆まとめて先生が連れてったよ。そのまま都(エンディミオン)まで行って、官憲につき出すそうだ。相応の裁きを受けるんじゃないか・・・?」
 「そうですか・・・。ちゃんと、こうせいできるといいんですけど。」
 三下達の何処か憎めない顔を思い浮かべながら、ライナは呟く。
 「・・・あまり他人事でもないぞ。例のエリアルとか言うエリアのそっくりさんだけどな・・・」
 「む・・・。」
 思わず息を呑むライナ。
 エリアルは今回の惨劇の張本人。
 生半可な処罰では、ガスタの民達は納得しないだろう。
 「・・・先生が直々に、”再教育”するとさ・・・。」
 「・・・え゛・・・?」
 思わず、引きつる。
 「・・・”どうやら、エリアのやつがギゴを通して先生に頼み込んだらしいな・・・。」
 心底気の毒そうに言うダルクに向かって、ライナは些か青ざめながら問う。
 「あの・・・、それでみなさんなっとくされたんですか・・・?」
 「・・・当然、受け入れられないって言う連中は多かったさ・・・。けど・・・」
 「?」
 「・・・そう言う連中集めて、先生が”しっかりと”説得したんだそうだ・・・。」
 結果。
 説明を受けた面々は、一様にドリアードの提案を受け入れた。
 曰く、”楽に死なせるよりよっぽどいい”との事らしい。
 「・・・じごくですね・・・。」
 「・・・地獄だな・・・。」
 背筋を走る悪寒を振り払う様に、二人はそろって杯を空けた。
 「となると、のこるのは・・・」
 「”あいつら”だな・・・」
 呟いて、ダルクは村の外に広がる夜闇を見つめた。


 その頃、村を遠く見下ろす高台に彼らはいた。
 「・・・明るいわね・・・。」
 「ああ。あの様子なら、大丈夫そうだ。」
 村の明かりを愛しげに見下ろすエミリアに、アバンスは微笑みながら言う。
 「まさか、見逃してもらえるとは思わなかったけど・・・。」
 「”彼ら”には感謝しなきゃな・・・。」
 最後の戦いの後、処罰を受ける筈だったエミリアとアバンス。
 しかし、彼らの救済を願う者達がいた。
 エミリアと魂魄同調(オーバーレイ)したカーム。そして、そのエクシーズ体であるメロウガイストと戦いを共にしたジェムナイト達。
 彼らはエミリアとアバンスの心が清浄である事を説き、罪を贖う為の猶予を与える事をウィンダールに進言した。
 そしてしばしの思考の後、ウィンダールは判断を下した。
 彼らが、リチュアの一員として犯した罪は軽くはない。
 それは、一時の苦痛をもって贖えるものでもない。
 故に、彼らには枷を架す。
 その一生を、犯した罪と共に生き、贖罪に費やす事を。
 風は如何なる所でも吹き渡る。
 もし、彼らが再び道を外せば、風はその事をガスタの民に伝えよう。
 その時こそは、如何なる慈悲もなく、その命を断つと。
 そして、エミリアとアバンスは放逐された。
 その罪と、枷の証を負うたまま。
 「・・・光が、恋しいか?」
 村の明かりに見入るエミリアに、アバンスは問う。
 「そうね。恋しくないと言えば、嘘になる。でも、それは許されない事・・・。」
 そう言って、エミリアは己の首を撫でる。
 そこに刻まれたのは、ガスタの紋章を象ったタトゥー。
 見れば、アバンスの首にも同じものがある。
 それこそが、彼らに架せられた枷。
 風の呪が込められたそれは、彼らが道を踏み外した時、真空の刃となって首を裂くのだと言う。
 死神の鎌とも言えるそれを、愛しげに撫でながらエミリアは言う。
 「行きましょう。わたし達の罪は、許された訳ではないのだから。」
 「・・・ああ。」
 そして二人は踵を返す。その先に淀む、闇の中へと。
 「・・・まずは、どうする?」
 「母様を、解放する。”奴ら”の呪縛から。」
 「・・・易くは、ないぞ?」
 「分かってる。でも、それをしなければわたし達は前に進む事は出来ない。」
 「・・・そうだな。」
 深い闇の中で触れ合う、互いの手。
 指を絡む様に、しっかりと握り締める。
 「・・・そばに、いてね・・・。」
 「ああ。決して、放さない・・・。」
 そして二人の姿は、深い夜闇の中へと消えていった。


 宴は、一番の盛り上がりどころに入っていた。
 皆程よく酒が回り、場は温かい談笑に満ちていた。
 ウィンも、久方ぶりの故郷本来の様子を、穏やかな思いで見つめていた。
 と、
 〜♪〜♪♪〜
 何処からともなく響いてくる音色。
 幾人かの村人が、楽器を奏で始めていた。
 そして、流れ始める歌声。
 カームの声だった。
 「お・・・」
 「へえ・・・」
 「きれいなこえ・・・」
 霊使い達が、その歌に心奪われようとしたその時―。
 シャラン
 涼やかな鈴の音と共に、燃える炎の前に進み出る者が一人。
 「あ・・・お姉ちゃん・・・。」
 思わず呼びかける妹に、彼女は微笑みかける。
 ささやかに着飾られた衣装。
 薄らと施された化粧。
 決して艶ではないが、野に咲く花の様に清楚な美しさ。
 その様相に、皆が溜息を漏らす。
 そして― 
 シャラン
 彼女は曲に合わせてステップを踏むと、軽やかに舞い始めた。
 シャラン
 シャラン
 シャララン
 細い身体がしなやかに舞う度、手に持った鈴が優しくテンポを刻む。
 いつしか雑談の声は消え、場に座す皆がその歌と舞いに酔い始める。
 それは、霊使い達も同じ事。 
 「すてき・・・」
 「これは、いいものだね。」
 他のメンバーは勿論、アウスまでもがその目を年相応の少女の様に輝かせる。
 と、
 「綺麗だけど、何て歌ってんのか分かんねーのが残念だなぁ。」
 場の雰囲気に障らない様に、囁く様な声でヒータが言った。
 確かに。
 件の歌は土着の言語らしき言葉で象られ、霊使い達には内容を理解する事は叶わなかった。
 ウィンが言う。
 「それなら、わたしが訳してあげる。」
 そして、彼女は調べに合わせて小さな、とても小さな声で紡ぎ出した。
 それは、カームに比べれば稚拙。
 けれど、確かな希望に満ちた歌声。
 少女たちは、静かに耳を澄ます。


 ―流れ行く雲はなぜか 悲しみの旋律を奏でる―
 ―逃げることも出来ない 戻ることも出来ない―
 ―信じられるのは太陽と 風の道しるべ―


 それは、風とともに旅する命の歌。


 ―今歩き出す 風の行方に身を任せ―
 ―果てし無き道を―


 流れる調べ。
 少女達は奏でる。
 生きる厳しさと、尊さと、その先にある希望を。


 ―大地を踏みしめ―
 ―輝きに消える獣道―
 ―はるか遠く―
 

 穏やかな静寂。
 流れる歌、と鈴の音。

 
 ―私を待っているのは―
 ―きっと光の大地―

 
 少女達は歌う。
 生命の導。
 いつかたどり着く、その果てを。


 ―私を待っているのは―
 ―きっと輝ける世界―


 風が吹く。
 肌に冷たく。
 けれど優しく。
 旅する生命を、導くために。


 吹きゆく風に見守られ、ささやかな幸福は更けていく。


 巡る。
 巡る。
 生命が、巡る。



                                   続く
タグ:霊使い
この記事へのコメント
 今回の話を読んで、さっそく検索してみた。

 「魚介類の料理の一種。冷凍保存した魚を凍ったままで味わう。北海道の郷土料理として有名である。」

 鮭おいしいよね!この間テレビで見たんだけど、日本には魚といえば鮭ばかり食べている不思議な地域があるらしい。なにそれ普通でしょや。

 で、聴きましたよ。だいすけPさんの「Rera」。こ、これはすごい……神調教なんて言葉初めて知ったけど、まさにその通りだな。いったいどのあたりがボカロなんだ?

 しかし「ふう君」を連れてこなくて良かった。リチュア・キラーの餌食になっていたのはウィンをかばった彼だったかもしれない。他にも危ないシーンはアレとかコレとかソレとかたくさんあったので、彼の生存は絶望的か。そして、死に際に彼が発動した特殊能力により召喚された神鳥シムルグによって霊使い達はピンチを脱し、なんやかんやで彼の死を乗りこえたウィンは、ふう君のため、里を守るため、そして何より自分自身のために再び立ち上がるのであった……

 「裁判長、被告は反省しているようですし保護観察が妥当かと!」なんて、前回を読み終わったあたりで思ってたけど、ちょっとやりすぎた感が否めない。再教育プログラムは機密事項が多いので、先生が説明した内容は一部に過ぎません。

 というわけで、本格食通回でした。
Posted by zaru-gu at 2015年10月22日 22:04
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