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2015年10月09日

霊使い達の黄昏・34




 ここらでちょっと箸休め。「黄昏」更新です。
 こちらもそろそろ、クライマックスですね。
 頑張りますです。
 まあもっとも、今回はあまりストーリー進まないんですがw


レラ.jpg
    

                     ―34―


 ハア・・・ハア・・・ハア・・・
 滅びの光に蝕まれる世界の中を、ウィンは必死に駆けていた。
 絶対たる絶望。
 それに立ち向かう者達。
 彼らの想いを、その背に負って。
 幾つ目かもしれない瓦礫の山を乗り越えた時―
 「ウィンちゃん!!」
 懐かしい声が、彼女の耳を打つ。
 半壊した小屋の影から出てきた姿を見て、ウィンは思わず声を上げる。
 「ライちゃん!!ダル君!!」
 互いに駆け寄る、友と友。
 「大丈夫!?怪我はない!?」
 「はい。ウィンちゃんは・・・?」
 「うん!!どうって事ないよ!!」
 「良かった・・・。」
 軽く包容を交わす二人。
 「おい、あまり和んでる暇はないぞ!!」
 少しだけ和らいだ心を、ダルクの声が引き締める。
 「念話は聞いた。”あれ”をやるんだな?」
 「うん。ジールギガス(あいつ)をやっつけるには、きっとそれしかないから!!」
 「そうか。なら―」
 次の瞬間、ライナとダルク、そしてその下僕達の身体が光に包まれる。
 憑依装着。
 光る羽衣をなびかせながら、ライナは言う。
 「ウィンちゃんは、ライナ達がお守りします!!」
 闇に煙る衣をたゆらせ、ダルクも言う。
 「だから、お前は進む事だけを考えろ!!」
 「ライちゃん・・・ダル君・・・。」
 一瞬交錯する、三人の瞳。
 ウィンが、大きく頷く。
 「分かった!!お願い!!」
 「合点です!!」
 「ああ!!」
 そして、三人は夜闇の中を走り出した。


 「さて・・・。」
 エリアは腰に手をやると、目の前に現れた少年を値踏みする様に見つめる。
 「どなたかしら?その格好、どう見てもリチュアなんですけど?」
 あからさまな懐疑を隠しもせず、エリアは少年―リチュア・アバンスに問いかける。
 「ああ。リチュア・アバンス。察しの通り、リチュアのメンバーだ。」
 下手な弁明は信頼を損ねるだけと心得ているのか、アバンスは淡々と事実を述べる。
 「あら、素直です事。で、そのリチュアが今更何のご用?」
 向けられる冷ややかな、しかし隙のない視線。
 それを前に、しかしアバンスは動じない。
 「用?用は、一つだけさ。」
 言葉と同時に、腰の剣を抜き放つ。
 「!!」
 身構えるエリア。その前で、剣が一閃。そして―
 バガァンッ
 エリアの脳天を狙う様に降ってきた瓦礫が、粉々に粉砕された。
 「・・・どういうつもり?」
 頭にかかった礫砂を払いながらもう一度、問う。
 「見ての通りさ。あんた達を守る事が、今の俺の目的だ。」
 「その心は?」
 アバンスの指が上がり、ジールギガスの方を指す。
 「俺の大事な奴が、あそこで”あれ”と戦ってる。その力になりたい。」
 「!」
 「今更、贖罪なんて虫の良い事は言いやしない。事が終われば、裁きも受ける。だけど、今だけはこの想いの為に動きたい。それじゃ、駄目か?」
 それを聞いたエリア。一瞬沈黙し、そして―
 「あ〜。そう言う事ね。」
 そう言って、スタスタと歩き出すとアバンスの横を無防備に通り過ぎる。
 「お、おい!?」
 「ほら。何ボサッとしてんのよ。こっちは急いでんの。置いてくわよ?」
 「お前・・・」
 目を丸くするアバンスに向かって、彼女は続ける。
 「言ったでしょ。大事な奴の力になりたいって。信用してあげるわ。その気持ち。」
 「・・・・・・。」
 「それ、分からないでもないしね。」
 そう言って、微笑むエリア。
 「・・・すまない。」
 そう呟くと、アバンスは彼女の後を追った。


 その頃、ヒータとアウスはアクアマリナが残した氷壁の影に身を潜めていた。
 「おい、大丈夫か?」
 ヒータが、座したまま魔法薬のボトルをあおるアウスを労わる。
 「ああ。お陰様で。だいぶ回復してきたよ・・・。」
 ボトルから口を離すと、アウスはハァ、と息をつく。
 「君達と違って、身体的なダメージを受けている訳じゃないからね。いつまでもへばってはいられないよ。」
 「そんな事言ってんじゃねぇよ・・・。」
 地面に散らばった魔法薬の空ビンを蹴飛ばしながら、ヒータは言う。
 「”アレ”の魔力消費は半端じゃねぇ。そんな状態でもつのかよ?」
 その問いに、アウスは少し考える様な素振りを見せて言った。
 「・・・うん。五分五分ってところかな・・・?」
 「・・・おい・・・。」
 「心配いらないよ。ウィン女史の想いは無駄にしない。もしもの時には、この命を魔力の底上げに・・・」
 「それが駄目だっつってんだよ!!」
 突然怒鳴られ、キョトンとするアウス。
 「お前のこった!!そう言うと思ったんだ!!これが合理的だからとか何とか言ってな!!」
 朱色の眼差しに睨まれたアウス。やれやれと言った感じで苦笑いをする。
 「君に見透かされるとはね・・・。これは、ますます焼きが回ったかな?」
 「お前、人を何だと思ってんだ。」
 腰を屈めながら視線をアウスに合わせると、そのおでこをビンッと弾く。
 「よしんばそれであのバケモンを倒せてもなぁ、お前がくたばっちまったらウィンにとっちゃ同じ事なんだよ!!」
 がなりつけながら、イラつくように自分の赤髪をガシガシやる。
 「全く、知恵が回るくせして、どうしてそういう事には気が回らねえかな!?」
 そんな級友を不思議そうに眺めながら、アウスは問う。
 「けどね、他に手は・・・」
 バシッ
 言いかけた手から、魔法薬のボトルがひったくられる。
 ポカンとするアウスの前で、ヒータが半分位残っていたそれを一気にあおる。
 「プハッ!!」
 大きな息をついで、グイッと口を拭う。
 「オレがやる。」
 「え?」
 「お前が足らない分は、オレが埋める。だから、妙な気起こすんじゃねぇぞ!?」
 「・・・・・・。」
 「わかったか!?」
 アウス、息がかかるくらいの距離まで顔を寄せてがなるヒータをしばし見つめ、そして―
 「フ・・・フフフ・・アハハハハ・・・」
 愉快そうに笑いだした。
 今度は、ヒータの方がキョトンとする。
 「な、何だよ!?急に!!オレ、何か変な事言ったか!?」
 ムッとした様子の彼女に向かって、アウスは言う。
 「いやいや。すまない。何の事はないよ。些か、神の選択を呪っていただけさ。」
 「ハ?」
 「何で、ボクと君は同性に生まれたのかな?」
 「ハイ?」
 「ボクが・・・もしくは君が男性なら、間違いなく口説く所なんだけどね?」
 「・・・ハァ!?」
 一瞬、言葉の意が脳に浸透しかねる。
 ジックリと間をおいてそして―
 「バッ!!バババ馬鹿野郎!!何トチ狂った事言ってやがんだ!?」
 顔を染めながらテンパるヒータ。
 それを見たアウスが、ニッと笑む。
 久々の、小悪魔スマイルである。
 「おや?面白い反応だね。ひょっとして、君も乗り気かい?」
 「え?あ、いや、これはだな・・・!!」
 「そう言えば、巷では”こういうの”を指す言葉があったね?確か、何か花の名になぞらえて・・・」
 言いながら伸ばす手。
 細い指が、ヒータの顎をツツ・・・、となぞる。
 「な・・・な・・・!?!?」
 「どうせ、いつかは通る道だ。そこらの有象無象に散らさせるくらいなら、いっそこの場でボクが・・・」
 艶のこもった声で囁くと、アウスは硬直しているヒータの口に顔を寄せ―

 「アホか――――!!!」
 「ブッ!?」

 唐突に響いた叫びとともに、飛んできた靴がヒータの顔面を強打した。
 ちなみに、アウスはちゃっかり避けている。
 「この非常時に何やってんのよ!?あんた達は!?」
 そんながなり声と共に、肩をいからせながら近づいて来たのはエリア。
 「やあ、エリア女史。無事で何よりだよ。」
 「何よりじゃないわよ!!人が死ぬ思いして駆けつけたってのに!!」
 言いながら靴を拾うと、それでヒータの頭をペシペシする。
 「何、何処ぞの薄い本みたいな真似してるかな!?この脳天お花畑は!?」
 「ちょっと待てよ!!何でオレばっかり!!元はと言えばアウスが・・・」
 「そうですー!!」
 そこへ割り込んで来る声。
 「もうちょっと待ってれば、リリィで耽美な世界が垣間見れ・・・」
 「・・・リリィって何?」
 「知らなくていい!!」
 「あら、遅いご到着ね。」
 反対側の瓦礫を乗り越えてきたウィン達に向かって、エリアが言う。
 「ああ、遅れて悪かった・・・。けど・・・」
 エリアから一歩下がった所にいるアバンスを見て、目を険しくするダルク。
 ライナも、真顔に戻って彼を見つめる。
 「どっかで、見たお顔ですね・・・。」
 「この期に及んで、まだ邪魔するつもりか・・・?」
 杖を構える二人。
 しかし―
 「はい。ストーップ。」
 三人の間に、エリアが割って入る。
 「エリアちゃん?」
 「そいつは・・・」
 「言いたい事は分かってるわ。でも、無問題。」
 「けど・・・」
 「あたしが、こいつに背を預けてる。それで十分でしょ?」
 そう言って胸を張るエリア。
 「今は、くだんない事で時間食ってる場合じゃない。OK?」
 一拍の間。
 そして―
 「・・・それもそうか。」
 「ですね。」
 あっさりと構えを解くライナとダルク。
 拍子抜けしたのは、アバンスの方。
 「・・・それで、いいのか?」
 「まあ、全面的にという訳ではないですが・・・。」
 「それどころじゃないのも、確かだしな。」
 「・・・すまない・・・」
 そんな二人に、アバンスは静かに頭を下げた。


 「さあ、時間がないわ。さっさとやるわよ。」
 「うん。このままじゃ、お父様達も持たない。」
 「そうだね。早く始めて、早く終わらせよう。」
 「あのデカ物の喚き声も、いい加減耳障りだしな。」
 それぞれの言葉と共に、集う四人。
 「・・・皆、半端な負荷じゃない。覚悟はいいかい?」
 皆を見回し、問うアウス。
 「何を今更。」
 フフンと鼻を鳴らすエリア。
 「お父様達の苦難に比べたら・・・」
 表情を引き締めるウィン。
 「胸糞悪いもんも見飽きたしな・・・。」
 巨人の鏡が魂を喰らう様を想起し、怒りを顕にするヒータ。
 「・・・何をする気だ・・・?」
 怪訝な顔をするアバンスに、ライナが答える。
 「必殺技です。」
 「必殺技?」
 ますます訳が分からないと言った体のアバンス。
 「黙って見てろ。」
 ダルクが言う。
 「すぐに、分かる。」
 その声音に何かを感じ取ったのか、沈黙するアバンス。
 その三人が見守る前で、ウィン、エリア、ヒータ、アウスの四人が円陣を組む。
 それぞれが杖を正眼に構え、瞑想する様に目を閉じる。
 そして―
 「鎮め地精 万刻刻みし真理の黄土 不変の礎 座して抱け」 
 「清め水精 万里を流れる真理の蒼水 永久なる浄成 舞いてせせらげ」
 「猛れ火精 万物焦がす真理の紅火(くれび)無限の再生 逆巻き燃やせ」
 「踊れ風精 万世を旅する真理の緑風 絶えなき調律 奏で歌えよ」
 一斉に始まる唱和。
 ヴォン
 同時に、四人を中心に巨大な魔法陣が広がる。
 「これは!?」
 見た事のない、四彩の魔法陣。
 アバンスが当惑の声をあげる。
 「言ったでしょう?必殺技だって。」
 「あいつら最大の、そして最後の、奥の手だ。」
 呟く様に言うライナとダルク。
 そんな彼らを抱き込みながら、世界はゆっくりと四色に染まりいく。


 「・・・温かい・・・。」
 地に横たわるウィンダが呟く。
 「分かるか・・・?ラズリー。」
 「はい・・・。世界が、歌っています・・・。」
 ひびけた鎧を支えながら、大地の騎士達はそれを感じる。
 「ああ・・・。ここに、いるんだね・・・。」
 瓦礫にもたれるリーズの頬を、一筋の雫が流れる。
 「おじさん・・・。おばさん・・・。」
 優しい光が、静かにその頬を拭った。
 「・・・わたしを・・・わたし達を、受け入れてくれるの・・・?」
 ボロボロになった身体を水たまりに揺らしながら、エミリアは言う。
 「・・・気付かなかった・・・。”あなた達”は、こんなにも・・・」
 振り絞る様に掲げた手の中で、降り注ぐ光が踊った。
 「おお・・・」
 光の中、佇むムストの周りに子供達が集まる。」
 「ムスト様・・・。これは、何?」
 「とても、優しくて・・・温かい・・・。」
 ムストは腰を屈め、子供達を抱きしめる。
 「お前達・・・どうか、覚えておいてくれ・・・。」
 温かい雫が、子供達の顔に落ちる。
 「これが、大地の意思・・・。風の、声だ・・・。」
 滅びの光の中で、ウィンダールは見る。
 天と地を染める四色の光。
 その中に立つ、愛しき者の姿を。
 「ウィン・・・。」
 微かに、微笑む。
 そして、彼の意思は光に溶ける。
 その瞬間、四色の柱が天を貫いた。


 グゴォオオオオオオオッ
 目の前を染めるそれに、滅びの魔神は初めて驚愕の声を上げる。
 遠雷の如く響く咆哮の中で、それでも少女達は凛と立つ。
 「てめぇ!!」
 「いつまでも調子こいてんじゃないわよ!!」
 「奢るのも、ここまでだよ。」
 「お父様、お姉ちゃん、そして、皆の想い!!」

 「「「「無駄にはしない!!」」」」

 頭(こうべ)を合わせる、四霊の杖。
 輝く魔法陣。
 四つの声が、その名を結ぶ。

 「「「「『四霊彩華(エレメンタルバースト)』!!」」」」

 瞬間、世界の意思が鉄槌となって降り下った。


 ゴォオオオルァアアアッ
 天から己に向かって振り落ちてくる、四彩の光柱。
 それを見上げ、ジールギガスは雄叫びを上げる。
 シュウウウウウ
 その胸の鏡に収束する力。
 そして―
 ゴバァッ
 滅びの黒光が、それまでにない密度をもって放たれる。
 落ちくる光。
 猛昇る光。
 ドォオオオオオオオオオンッ 
 二つの光が、互いを喰い合う龍の如くぶつかり合う。
 無限たる命の光。
 絶対たる滅びの光。
 相反する二つの力は拮抗し、互いを呑み込もうと唸り吠える。
 その圧力の凄まじさ。
 術者たる少女達の身体が、悲鳴を上げる。
 「く・・・ぁ・・・」
 「やろ・・・う、往生際が・・・悪ぃんだよ・・・!!」
 「どう・・・せ・・引く気は・・・ないだろうけど・・・ね・・・」
 「しつっ・・・こい、男は・・・キラ、イ・・よ・・・!!」
 血が滲む程に歯を食いしばり、震える足に力を込める。
 汗でぬめる手で必死に杖を掴み、骨が軋む痛みに耐える。
 続く膠着。
 しかし、かかる負荷は次第に少女達の方に傾き始める。
 当然かもしれない。
 如何に複数人とは言え、所詮は限りある人間(ひと)の身。
 他者の魂を喰らい、無限の糧とする魔神相手は分が悪い。
 そして―
 「くっ!!」
 「アウス!?」
 「アーちゃん!?」
 アウスが膝を屈した。
 「・・・やっぱり・・・足りない、か・・・」
 想定の範囲内。
 「・・・それなら・・・」
 先に言っていた事を、成すまで。
 杖を持つ手に、もう一度力を込める。
 生命力の、魔力への変換を始めようとしたその時―
 ガシッ
 横から伸びた手が、つえを掴む彼女の手を包んだ。
 「・・・だから・・・馬鹿な真似、すんじゃねぇよ・・・!!」
 「!!、ヒータ女史・・・!!」
 「言ったろ・・・足りない分は、オレが持つって・・・」
 言葉と同時に、アウスの方へと流れ込み始める魔力。
 「く・・・!!」
 苦しげに歪むヒータの顔。
 「よしてくれ!!そんな事をしたら、今度は君が・・・」
 「・・・この非常時に、屁理屈こねるな・・・!!」
 今度は、反対側から伸びてきた手がアウスの方を掴んだ。
 「!!、ダルク氏・・・!!」
 「・・・僕だけじゃないぞ・・・」
 同時にアウスの頭に乗る、柔らかい感触。
 『お嬢。たまには頼りにしてーな。こんなん時の為の、使い魔やろ?』
 「デヴィ・・・」
 『如何程ノ助ケ二ナレルカハ、分カリマセンガ・・・。』
 デーモン・ビーバーとD・ナポレオンも、彼女に寄り添いながら言う。
 「・・・魔力の不足分は、僕達が補う。お前は魔力の属性変換にだけ集中しろ・・・。」
 「・・・ありがとう・・・」
 軽く目を閉じてそう言うと、アウスは再び立ち上がる。
 「ここまでしてもらっては、やるしかないね!!」
 その言葉に呼応する様に、地霊の杖に確かな光が戻った。


 『見せ場をとられたな。主。』
 「みてーだな・・・。」
 ヒータの肩で、きつね火が笑う。
 「で、お前は何してんだ?」
 『訊くのかい?』
 「いや・・・。ありがとよ・・・。」
 そう微笑んで、ヒータはきつね火の頭を撫でた。


 「・・・ライちゃん・・・」
 「ニャハハ。最後のイイところを、ウィンちゃん達だけに持って行かれる訳にはいきませんからね―。」
 『そうだよ。ウィン。いいとこ取りはなしだよ。』
 『トモダチは、いつだって一緒じゃなきゃ。』
 自分の手を握るライナの手。
 寄り添うプチリュウとハッピー・ラヴァー。
 魔力とともに伝わる温もりに、ほんの少し、安らぎの息をつく。
 そして、ウィンの足は再び大地を掴んだ。


 「・・・お前の使い魔は、来ないのか?」
 問いかけるアバンスに、エリアはつまらなそうに鼻を鳴らす。
 「あの子には、ちょっと役目を持ってもらってるから。」
 「役目?」
 「ええ。エリアルってゆーおバカを見てもらってんのよ。」
 「!!、エリアルを!?あいつ、生きてるのか!?」
 驚くアバンスに、エリアは不思議そうな顔をする。
 「当たり前でしょが。何で死なさなきゃなんないのよ?」
 「・・・すまない・・・。」
 「あんた、謝ってばっかりね。」
 ククッと笑うエリアに、アバンスは問う。
 「寂しくは、ないのか?」
 「何で寂しいの?心は繋がってる。十分よ。」
 「・・・・・・。」
 「あんたも、そうじゃないの?」
 「!!」
 「分かるわよ。あんたも同じだものね。」
 エリアの言葉に、アバンスは苦笑する。
 「・・・敵わないな・・・。」
 「そうよ。あたしに敵うやつなんていないの。だから、あんなブッキーな化物なんて、ちょちょいと片付けちゃうわ。」
 「その割には、顔色が悪いみたいだけどな?」
 「ちょっと、ガス欠気味なだけよ。でも、もう無問題。」
 ガシッ
 エリアの手が、アバンスの腕を掴む。
 「丁度、替えのボンベが来たからね。」
 「おい・・・」
 「そのつもりで来たんでしょ?」
 アバンス、少し困り顔。
 「まあ、そりゃそうなんだが・・・」
 「なら、働きなさい。馬車馬の様にね。」
 心持ちゲッソリしながら、アバンスは言う。
 「・・・お前、実はエリアルよりタチ悪いだろ・・・?」
 「さーて。どーだか?」
 そして、エリアは汗まみれの顔で綺麗に笑った。


 グゥオォオ・・・!!
 ジールギガスは狼狽していた。
 たった今まで、確かに圧倒していた筈の”それ”が勢いを増してきていた。
 ジリ ジリ
 押されている。
 その事実を、屈辱と共に受け止める。
 しかし、滅びの王たる矜持と狂気は消えはしない。
 ゴォオオオオオオオッ
 鏡から迸る光が、勢いを増す。
 それが、落ちる光柱を再び押し返そうとしたその時―
 ピシンッ
 微かに響く音。
 鏡の端に、一筋の亀裂が走っていた。
 それは、ウィンダール達が、そしてエミリア達がその身を賭してつけた傷。
 ピキキキキ・・・
 亀裂は瞬く間に広がり、そして―
 パキンッ
 欠けおちる。
 同時に、滅びの光に生じる一筋の欠影。
 それはまさに、堤防に開いた一つの穴。
 ―見逃す、筈がなかった―
 「みんな!!」
 「おぅ!!」
 「行くわよ!!」
 「うん!!」
 吠える少女達。
 それに答え、世界が、精霊達が猛る。
 勢いをます四彩の光。
 砕け、押しつぶされる滅びの光。
 ゴゥオァアアアアアッ!!
 叫ぶジールギガス。けれど、勢いは止まらない。
 吠える。
 猛る。
 世界が。
 生命(いのち)が。
 そして―

 滅びの魔神が、四彩の光の中に呑まれて消えた。



                                   続く
タグ:霊使い
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