終わり!!
「霊使い達の黄昏」、これにて終幕でございます。
長いこと書いてたので、感慨深いものがありますね。
もっとも、これから最初の方を改訂版と差し替えたり、サイドストーリーを書いたりといった事があるわけですが。
とにかく長いお付き合い、本当にありがとうございました。
ー37ー
瞼を射す光が、ウィンの意識を覚醒させた。
ゆっくりと、目を開ける。
飛び込んでくるのは、懐かしい天井の景。
身体を起こすと、開け放していた窓を通ってきた風が下ろした髪を揺らす。
目を巡らせば、遠い山の丘陵を生まれたばかりの太陽が朱に染めている。
故郷の朝の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、ウィンは大きく伸びをする。
窓の外で、さえずる小鳥達の声が聞こえる。
・・・”その日”の、訪れだった。
「ほら、ウィン。支度は終わったの?もう、皆待ってるわよ。」
「ふふぁい!!もうふほひもって!!」
急かす姉の声に、口いっぱいにパンを詰め込みながら答える。
「もう。そんなに欲張って。パンなんて、何処でも食べられるでしょう?」
「ん、んぐ!!だって・・・」
口を塞ぐパンを、温かいオハウ(煮込み汁。具沢山のスープ)で流し込む。
プハッ
大きく息をつくと、ウィンは満面の笑みを浮かべる。
「やっぱりね、違うの。向こうで売ってるのと、お姉ちゃんが焼いたのとじゃ。」
「ウィン・・・。」
「それに、今度いつ食べれるか分からないし・・・」
そう言って、エヘヘ、と笑う。
その瞬間―
ガバッ
「んぎゅ!?」
思いっきり、抱き締められた。
「何言ってるかな?この娘は・・・。」
ウィンの頭を優しく撫でながら、ウィンダは言う。
「好きな時に、食べに来たらいいじゃない。ここは、貴女の家なのよ・・・。」
「お姉ちゃん・・・。」
「いつでも、帰っておいで・・・。私も、お父上も、必ずここで待ってるから・・・。」
「・・・うん・・・。」
そして、ウィンはその温もりを力いっぱい抱きしめ返した。
広場に着くと、他のメンバーはもう集っていた。
見送る為に集まった村人達に囲まれる中、少女達は思い思いの相手と話をしている。
「傷の方は、もうよろしいのですか?」
「ああ。あの後しっかり手当してもらったからな。もうピンピンだぜ。」
心配そうに問いかけてくるラズリーに、ヒータは笑顔で返す。
「まあ、一番ヤバイ時に助けてくれたのはお前だけどな。」
そう言うと、ヒョイと腰を屈めてラズリーに顔を付き合わせる。
「ありがとよ。」
ニコリと笑むヒータ。
「い・・・いえ。そんな・・・」
顔を赤らめてはにかむラズリー。
それを横目で見ながら、ガネットはきつね火に向かって苦笑する。
「貴殿の姫は、なかなか”その道”の才がある様だな。」
『ああ、自覚と”その気”がないのが救いかな?』
「違いない。」
そして、二人(?)は声を上げて笑った。
「貴女には命を救われた。改めて礼を言わせて貰う。」
「それはお互い様じゃないか。頭を上げてくれ。」
うやうやしく頭を下げるサフィアに、困った様に言うアウス。
「いや。此の身に受けた恩義、礼を失する訳にはいかない。」
「いや、だから・・・」
その様を傍で見ていたデーモン・ビーバー。
感心した様に息をつく。
『はあ。あのお嬢があんなんなるとはなぁ・・・。』
「あの嬢ちゃん、普段はそんなにすごいのか?」
問いかけるエメラルに頷く、デーモン・ビーバー。
『はあ、そらもう。すごいゆうか心の臓に悪いゆうか・・・。とにかく、気の休まらん方でんのや。』
「へえ。そんな風には見えないがなぁ・・・。」
『そやから、わても驚いてまんのや。何やろな。普段、あないな扱いされるの慣れておらんからかな?』
しばし、オロオロするアウスを眺めていたデーモン・ビーバー。
ふと、思いついた様に手を打つ。
『そうや!!わてもこれからあないな態度でいれば・・・』
彼が目を輝かせかけた途端、
(デヴィ・・・)
『わひぃ!?』
どこからともなく、響く声。
デーモン・ビーバー、固まる。
(あまり調子に乗らない事を勧めておくよ・・・?)
抑揚のない、淡々とした声。
それが、余計に恐怖を煽る。
『は・・・はひ・・・』
直立不動の姿勢で敬礼する、デーモン・ビーバー。
「・・・なるほど。こりゃ、おっかねぇや・・・。」
デーモン・ビーバーの羽にくっついているダニポン。
それを見止めながら、エメラルは軽く身震いした。
エリアとギゴバイトの前には、二人の人影が立っていた。
大きい影はリーズ。小さい影はカムイ。
「ほら、まだしっかり謝ってないんだろ?ちゃんとケジメつけな。」
リーズがそう言って促すが、言うべき言葉が見つからないのだろう。
カムイは、黙ってうつむいている。
「悪いね。どうにも、女々しくて・・・」
申し訳なさそうに言うリーズ。
ギゴバイトが、苦笑いしながら応じる。
『気にしなくていいよ。そいつとは、もう話はついてるし。エリアにも、ちゃんと伝えたよ。』
「けどさ・・・」
と、エリアがヒョイと身を屈めた。
青い視線が、カムイのそれと合わさる。
驚いて身を引くカムイ。
そんな彼に向かって、エリアの手が伸びる。
そして、
グニャッ
「ふぎゃ!?」
口の両側を掴まれ、思わず声を上げる。
「まったく。何しけた顔してるのかしら!!」
そんな事を言いながら、エリアはグニグニとカムイの顔を弄りまわす。
「こんな腑抜けに殺されかけたなんて、七代先まで残る恥辱だわ!!」
グニグニ
グニグニ
リーズ、ぽかん。
ギゴバイト、オロオロ。
「んが!!ふが!!い、いい加減にしろ!!」
堪らずエリアの手を振り払うカムイ。
「ふん。やっと顔を上げたわね。」
赤くなった頬を押さえながら、涙目で自分を睨みつけるカムイ。
そんな彼を見て、エリアはフフンと笑う。
「いい顔出来るじゃない。そうでなくちゃ。」
そして、改めて視線をカムイに合わせる。
底意地の悪かった顔が、優しく澄んだ笑みへと変わる。
「・・・あんた、エリアルを殺さないでくれたんだって?」
「え・・・あ・・・」
突然の言葉に、戸惑うカムイ。
エリアは、構わずに続ける。
「ありがと。あいつの罪は、死んで終わらせるにはちょっと重すぎるからね。」
「・・・・・・。」
「大丈夫。あいつにはしっかりと分からせて、償わせるわ。だから・・・」
エリアの手が上がり、カムイの頭をクシャリと撫でる。
「あんたは、前に進みなさい。」
「!!」
「ジールギガス(あの化け物)相手に張り合ったんでしょ?その気概があれば、何だって超えられるわよ。」
向けられる笑みは、どこまでも優しい。
「きっと、いい男になるわ。そうしたら・・・」
ひょいと、視線を隣に向ける。
「この娘くらい、ものに出来るかもよ?」
「はぁ?」
「あんた、何言ってんだ?」
同時に目を丸くする、カムイとリーズ。
エリアはケタケタと笑う。
「はは、ま〜だ早いか。この手の話は。」
言いながら、立ち上がるエリア。
「ま、せいぜい頑張んなさい。次に会うの、楽しみにしてるからね。」
「あんた・・・」
「返事は!?」
「は、はい!!」
そう答え、力強く頷くカムイ。
「よし!」
そしてエリアは、綺麗に、とても綺麗に微笑んだ。
「行ってしまうのね〜」
「もう少し、ゆっくりしていってもらってもいいのだが・・・」
カームとムストが、ライナとダルクに向かって名残惜しそうに言う。
「う〜ん、そうもいかないのです〜。」
「・・・もう、休暇願いの期日が切れるんだ。ついてない・・・。」
溜息をつくダルク。その横で、ふと真顔になるライナ。
「・・・それに、やらなきゃならない事があります。」
「・・・モイ君とやらを、探しにいくのだな?」
ムストの問いに、ライナは頷く。
彼女の友人の一人、モイスチャー星人のモイ。
彼は、先の戦いにおいてイビリチュア・ガストクラーケの輪廻狂典(フレネーゾ・ウトピオ)によって何処ともしれぬ場所へと消されてしまっていた。
「シャドウ(あの人)は言っていました・・・。死んだ訳ではないと。それなら・・・」
ライナの瞳が、キッと前を向く。
「また、会えるのです!」
その様子を見たムストが、感嘆の息をつく。
「強いな・・・。」
「貴方達も、ついていくの〜?」
カームに聞かれ、ダルクやD・ナポレオン、ハッピー・ラヴァーが溜息つきつき答える。
「・・・ほっとく訳にもいかないだろ・・・?」
『アノ通リノ方デスカラ・・・』
『目が離せないからね〜。』
「大変ね〜。」
「・・・まったく、ついてないよ・・・。」
『『だヨね〜〜www』』
そう言って疲れた様に笑うダルク達に、カームもニコニコと笑い返した。
「とにかく、何か手伝える事があれば言ってくれ。ガスタの民は助力を惜しまぬだろう。」
「ありがとうなのです。」
そう言って、ライナはムストに頭を下げた。
「みんな〜、ごめ〜ん!!」
大きなリュックを背負ったウィンが、息せき切って走ってくる。
「遅いわよ!!ウィン!!」
「あんまり待たせっと、おいてくぞ・・・って何だよ!?その大荷物は!?」
「えへへ〜、これはね・・・。」
目を丸くする皆に、ウィンはリュックの中身を見せる。
「・・・はぁ・・・?」
「なんですか?これ。」
リュックの中には、無数のパンがみっちりと詰まっていた。
「お姉ちゃん特製のクルミパン。とっても美味しいんだよ。」
「いや、だからってな。お前・・・」
「君は実に馬鹿だなぁ。いくら美味しくったって、そんなにあったら食べきる前にカビてしまうじゃないか。」
アウスの指摘に、ハッとするウィン。
「そ、そうか!!じゃあ、早く食べないと!!」
そう言って、リュックからパンを取り出すと猛然と頬張り始める。
「お、おい!!何もここで・・・ムガッ!?」
止めようとしたヒータの口に押し込まれる、パン。
「ほらほら、皆も食べて!!」
言いながら、次々と皆の口にパンを詰め込んでいくウィン。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
迫るウィンに慌てるエリア。
あわや彼女もその毒牙にかかろうとしたその時、
「こら!!ウィン!!」
飛んできた声に、ウィンの動きがビクリと止まる。
「は、はい〜。」
ギギギ
軋む様な音を立てて振り返るウィン。
振り向いた先に立っていたのは、ウィンダール。
「まったく。お前ときたら、落ち着きがないのは相変わらずだな。」
言いながら近づいてくる、ウィンダール。
「その爛漫さがお前の良い所だが、友人に迷惑をかけるのは感心しないぞ。」
「ふ・・・ふぁい。」
しょげかえるウィン。
と、その頭を温かい感触が包む。
「もっとも、ウィン(お前)がウィン(お前)のままでいてくれた事は、喜ばしいがな。」
ウィンの頭を撫でながら笑む、ウィンダール。
「お父様・・・。」
「此度の事、誇らしかったぞ。」
クシャクシャと愛しむ、大きな手。
その感覚に、ウィンはしばし身を委ねる。
「暇が出来たなら、いつでも戻ってこい。俺達は、必ずここにいる。」
かけられる言葉に、はにかむウィン。
「それ、お姉ちゃんにも言われたよ?」
「ん?そうか?」
「うん。」
そして、父と子は愛しく笑いあった。
「おいで!!うぃっちん!!」
ザァアアアアアッ
沸き起こる風と共に現れる、ウィング・イーグル。
他のメンバーも、各々に飛行能力を持つしもべを召喚する(ちなみに、その手のしもべのいない者は相乗りである。)
「うぃっちん。また、お願いね。」
言いながらウィング・イーグルの背に上がるウィン。
ウィング・イーグルは、短く鳴いてそれに答える。
「皆、準備はいい?」
「おう。」
「OKよ。」
「こっちもオーケーなのです。」
「・・・ああ・・・。」
「頼むよ。」
皆の言葉に、頷くウィン。
そして―
「それじゃ、行くよ!!」
その声を合図に、羽ばたく翼達。
見る見る上昇を始める視界。
集まっていた村人達が、口々に呼びかける。
「ありがとうー!!」
「また来てねー!!」
「待ってるからなー!!」
それらに笑顔で答えながら、少女達は南に向かって舵を切る。
大きく羽ばたく翼。
視界が、後方に向かって流れ始める。
ウィンが、何かを振り切る様に目を拭ったその時―
「ウィンー!!」
後方から響く声。
振り向くと、そこには宙を舞う四つの姿。
ファルコスに乗ったカムイが声を張り上げる。
「ありがとなー!!」
「気をつけて行くんだよー!!」
杖にまたがったスフィアードも叫ぶ。
そして、最後にガルドスの上からウィンダが。
「いってらっしゃーい!!」
彼女らの後ろでは、羽ばたくイグルスと微笑むウィンダールの姿。
一瞬込み上げる何かを抑え、ウィンは満面の笑みで返す。
「いってきまーす!!」
その声は、遠い空に響いて溶けた。
その日の夕方。
魔法使いの里は、魔法専門学校。
暮れゆく斜光の中、寮の前には何かを待つドリアードの姿。
「そろそろですかね。」
誰ともなく呟く言葉。
と、それに答える様に遠くの空にいくつかの影が見え始める。
それらは見る見る大きくなると、寮の上でしばし旋回して降り立った。
背を屈める大鳥。その背から、人影が一つ飛び降りる。
”彼女”に向かって、微笑みながらドリアードが言う。
「おかえりなさい。」
「ただいま!!」
それに向かって、ウィンは満面の笑顔で答えた。
終わり
タグ:霊使い
しかし、このところ出てくる料理ネタに関しては少々出しすぎな感じがありますな。このままでは次回作あたりでOCG抜きの本格食通小説が誕生してしまう。いかに素晴らしい食文化の紹介といえども元々の主旨を踏まえた上でひーたんの作った味噌汁が飲みたい。
さて、大冒険を終えた霊使いたちですが、これからも大変ですね。とりあえずウィンにはチューナー探しに奔走してもらいましょうか。エリアはエリアルの事もあって、またひと波乱あるかもしれませんがリチュアとの一件が片付いたのでまずは一息、しかし爬虫類との恋愛物語は数々の試練を彼女に与えるでしょう。風水師もいるぞ!
ヒータはラヴァルの事もあって強くなるその思いはますます強固なものになったでしょう。これからも修羅の道を歩んで行きそうですが、でも本当は家庭に入って欲しいなー。(ボルケーノ?そんな奴はいない)
今回の一件で最も成長したのはアウスかもしれないですね。地霊使いの弱い所が見えたのはかなり意味のあることでした。でも、サフィアとの仲は発展しません。将来的には魔法学校の先生になって学園を乗っ取って世界征服を始めると思います。
ライナはモイ君をさがさないといけないです。まあ、50年もかからないんじゃないかな。
闇は光と共にあるでしょう。
でも、6人の霊使いが最初にやらなければならないことは今回の事件のことをレポートにまとめてドリアード先生に提出することです。
というわけで本当にお疲れ様でした。改訂版はヒマを見て読むことにするとして、この話はめでたしめでたし、かな?ただ一つ心残りはひーたんの作ったパンケーキが食べ(ry