はい。みなさん、こんばんは。
「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。
例によってヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意。
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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―狂姫―
「くふふふふふふ、あはは、アハハハハハッ!!」
世闇の中、壊れた笑い声が響き渡る。
生きとし生けるもの、全ての怖気を誘う様な哄笑。
その出処に、皆の視線が集まる。
四肢を束縛されたトウハが、口を裂けんばかりに開いて笑っていた。
「な、何だよ!?何が可笑しいのさ!?」
そこから感じる、あからさまな狂気。
それに背を粟立てながら、ツバサが訊ねる。
しかし―
「アハ、アハハハハ、ご主人様、ご主人様が、言ってくれた!!わたしの事、わたしの事、守るって、守るって言ってくれた!!」
その問いに、答えはない。
ただ。
ただ。
トウハは嗤うだけ。
嬉しげに。
楽しげに。
狂おしげに。
ケタケタと。
ケラケラと。
「アハハハハハッ!!アハッ!!アハハハハハアハハハハハハハハッ!!」
目を細め。
喉を逸らし。
歪な形に口を歪め。
「ご主人様が!!ご主人様が!!ご主人様が!!ご主人様が!!ご主人様!!ご主人様!!ご主人様!!ご主人様!!ご主人様!!ご主人様!!ご主人様!!」
壊れた様に。
崩れた様に。
切れた様に。
繰り返される、言葉。
その狂態に、皆は―ユキさえも―ただ、ただ息を呑む。
「トウ・・・ハ・・・?」
そんな中、微かに響く悟郎の声。
戸惑う様に。
怯える様に。
振り絞る様に。
そんな声に反応したのか、笑い声がピタリと止まる。
カクン
上向いていた顔が、糸の切れた人形の様に下に落ちる。
悟郎へと向けられる、虚ろな瞳の焦点
その周りにいる、他の誰も、もうその視界には入らない。
ユキも。
ナナも。
アカネでさえも。
もう、見ていない。
見て、いない。
見るのは悟郎だけ。
映すのは悟郎だけ。
悟郎だけ。
悟郎だけ。
三日月に歪んだ口が、言葉を紡ぐ。
「ご主人様・・・」
冷たく濁った、言葉を紡ぐ。
「待っててね・・・。そこにいてね・・・。今すぐ・・・今すぐ行くから・・・。」
言葉とともに、その手がスゥッと上がる。
束縛された、手。
動かない、手。
それが上がる。
口元へ。
歪に歪んだ、三日月へ。
大きく開く口。
鋭く光る、牙。
そして―
「!!、何を―」
何かを察した、悟郎の制止の声も届かない。
ガシュウッ
闇の中、目にも鮮やかに飛び散る、朱い飛沫。
その牙が、白い肌へと食い込んでいた。
ブチッ ブチブチブチッ
鈍い音とともに引き裂かれていく、肌。
「――いやぁっ!!」
モモが、堪らず両手で顔を覆う。
「トウハ姉ちゃんっ!!」
ナナが思わず、悲鳴を上げる。
他の皆は、ただ茫然とその様を見つめるばかり。
幾つもの視線が注がれる中、トウハはゆっくりと口を手から離す。
引き裂かれた傷口から溢れ出す、真っ赤な血。
ツゥッと肌を滑ったそれが、手に、足に絡む枷を濡らす。
―ユキの神気を凝縮して造られた枷は、真正なる光の存在。
彼の地の霧の凝縮体であるトウハの血は、純正たる闇の存在。
決して相容れない、二つの存在。
“それ”が“それ”に触れる事。
それは、温めたコップに冷水を注ぐ事に等しい。
つまり―
ビキンッ
辺りに響く、鈍い音。
そして―
バキャァアァアアアンッ
激しい音とともに、枷が弾け飛ぶ。
飛び散る、破片。
光り散る、断末魔。
その眩さに、皆が一瞬、視界を覆われる。
そして、その一拍後、皆が見るものは―
ボタッ ボタタッ
滴り落ちる、大量の血。
めくれた皮膚。
その隙間から覗く、紅いもの。
枷の破裂に巻き込まれ、ズタズタになった手足。
痛みのためだろうか。
それとも出血のためだろうか。
白い肌をさらに蒼白にして。
その身体を震わせて。
朱い瞳に涙を溜めて。
それでも、ゆっくりと立ち上がるトウハの姿。
ズキンッ
走る激痛。
傾ぐ身体。
しかしそれでも、ボロキレの様になった足は健気に身体を支える。
「アハハ、すっきりした。」
白い顔に飛び散った血を舌で拭い、トウハは凄絶に微笑んだ。
・・・その場の誰もが、言葉を失っていた。
その凄惨な光景に。
その異質なる狂気に。
その深淵たる闇に。
光を信じ。
光を愛し。
光しか知らぬ天使達は。
その行為の意味を理解出来ず。
皆が、言葉を失っていた。
「う・・・うぐぅっ!?」
何人かが、口を押さえてえづく。
また気を失う者がいなかったのが、せめてもの幸いか。
それでも何とか皆が正気を保つ中、震える声で呟く者が一人。
「何よ・・・?」
声を発したのは、ミカ。
「何なのよ・・・?あんた・・・」
戦慄く声が、言葉を紡ぐ。
「分かんない・・・」
せめて、言葉をつなげようと。
「何で・・・」
目の前の、“それ”に。
理解出来ない、“それ”に。
届かない、“それ”に。
叫びを、放つ。
「何で、そこまですんのよぉ!?」
それは、皆の思い。
違う事ない、皆の思い。
しかし、
ギロォッ
瞬間、トウハの瞳がミカを、否、皆を射抜く。
一瞬、確かに止まる、皆の呼吸。
そして―
「それを・・・訊くの・・・?」
トウハが答える。
そして、問う。
「・・・訊くの・・・?」
闇が。
悪魔が。
光に。
天使に。
答える。
問う。
「守護天使(あんた達)が、訊くの!?」
「―――!!」
何の飾りも、虚勢もなく放たれた言葉。
それは確かに、天使(彼女)達の心をえぐった。
しかし―
「・・・それで、どうするつもりですか?」
皆が動揺する中、それでもあくまで冷静にユキは言う。
「束縛を解いた所で、貴女にはもう魔力はほとんど残っていない筈・・・。それに加えて、その深手。そんな態で、メガミ(私)とわたり合うつもりですか?」
「・・・・・・。」
「諦めなさい。どんなに頑張った所で、あなたはもう、手詰まりの筈です。」
その言葉に、トウハは自分の手を見る。
己の牙と、枷の爆発によってズタズタになった、小さな手。
白から朱に染まったそれをしげしげと見つめると、
「・・・ククク、そうだね・・・。」
そう言って、ダランと腕を投げ出す。
ビチャアッ
血に塗れた手から散った鮮血が、地面に落ちて湿った音を立てる。
ボタボタボタッ
滴る朱が、地を汚す様に朱い模様を描いていく。
朱色の奈落から、溢れだし続ける命の流漏。
それに構う事なく、ユラユラと身を揺らす。
「確かに・・・わたしには、もう無理かなぁ・・・」
そう言って、ハァ、と大きく息を吐く。
ボタリ
一際大きな血塊が落ちて、朱い花を咲かせる。
「な・・・何よ、それ・・・。散々脅かしといて・・・やっぱり、打ち止めって事?」
ミカが、顔を強張らせながら言う。
「・・・うん・・・。もう、無理・・・。」
一瞬の躊躇もなく、返される言葉。
ポタポタ・・・ポタ・・・
流れる血。
濡れていく大地。
それを見下ろしながら揺れる、朱い瞳。
と、
「・・・あ〜あ、いつから、こうなっちゃたのかなぁ・・・?」
唐突にこぼれる、そんな言葉。
「・・・え?」
ポカンとする皆。トウハは続ける。
「・・・話は、簡単だったんだよ・・・」
ブツブツと。
「大事なのは、ご主人様・・・、欲しいのは、ご主人様・・・、望むのは、ご主人様・・・」
独り言の様に。
「それだけでいい・・・。その事だけで、いい・・・。考えるのは、それだけ・・・。」
うわ言の様に。
「ナナとかさ・・・アカネちゃんとかさ・・・」
夢にたゆたう様に。
「そんな余計な事、考えなきゃ良かったんだ・・・。」
ポタリ・・・
ポタリ・・・
血が落ちる。
朱が弾く。
地が濡れる。
「あなた・・・何を言って・・・?」
今にも千切れ落ちそうな手足。
そんな姿になってまで、なお消えない狂気の気配。
それに青ざめながら、アユミは問う。
「分からない・・・?」
トウハが微笑む。
綺麗に。
朗らかに。
ケタリケタリと。
狂姫が笑う。
「わたしはね、ご主人様が欲しいの・・・。ご主人様だけが欲しいの・・・。それだけでいいの・・・。」
目を染める、朱。
空気に漂う、朱。
地を濡らす、朱。
赤。
紅。
朱。
「だから、ねえ・・・。」
語りかける。
天使に。
自分の願いを阻む者達に。
汚らわしげに。
憎々しげに。
そして、愛しげに。
「みんな、さぁ・・・。」
朱い瞳がゆっくりと上向く。
ゆっくりと、映す。
ユキを。
ミカを。
アユミを。
ランを。
ツバサを。
クルミを。
アカネを。
ミドリを。
タマミを。
モモを。
ナナを。
ルルを。
一人ずつ。
一人ずつ。
その瞳の中に、納めていく。
まるで、焼き付ける様に。
まるで、名残を惜しむ様に。
「もう・・・。」
それに気づいたのは、誰だったか。
それは朱。
真っ赤な、朱。
少女の身から溢れた、命の雫。
それが、地を濡らしていた。
綺麗に。
綺麗な。
”文様”を、描いて―
そう。
それは陣。
滴る血で描かれた。
朱色の魔法陣。
その事に気づいた、誰かが叫ぶ
だけど、その叫びは喉に張り付き、形を成さない。
代わりに。
代わりの様に。
彼女が紡ぐ。
最後に一言。
たった、一言。
「―消えてよ―」
途端―
ゴバァアアアアアアアアッ
奈落の扉が、開いた。
朱い文様が弾け、朱い飛沫が辺りに舞う。
ズザザザザザザザザザザザザザッ
「なっ!?」
「きゃああああああっ!!」
「わぁああああああっ!!」
血で描かれた、小さな朱円。
そこから物理法則を無視して現れる、何か。
それに皆が、ユキさえもが驚きの声を上げる。
ザザザザザザザザザザザザザザッ
凄まじい音を立てて、何かが地を滑る。
そして―
ガキャッ
ゴシャッ ゴシャアァアアアッ
あちこちから響く鈍い音。
公園の遊具や植木が巻き込まれ、破砕されていく。
巻き起こる土煙。
弾け飛ぶ土砂。
千切れ舞う破片。
硬い石片が。
鋭い鉄片が。
嵐の様に飛び散っては、少女達の肌をかすめる。
ある者は為す術なく地面にしゃがみ込み、またある者は互いに互いを抱き締めあう。
何人かが、咄嗟に悟郎にしがみ付く。
しかし、それが守護天使としての使命感からなのか、それとも恐怖からのものなのかは、本人達にも分からない。
ザザザッ
メキッ
バキキキキッ
「アハッ!!アハハッ!!アハハハハハハッ!!」
荒れ狂う、質量の暴威。
その中に響き渡る、悪魔(トウハ)の哄笑。
壊れた音の中で、壊れた様に響く声。
凶樂に彩られた、狂気の歌。
それが、クワンクワンと割れ鐘の様に鼓膜を嬲る。
目を開ける事など、とうにままならない。
奪われる視覚。
麻痺する聴覚。
見えない。
聞こえない。
けれど、分かる。
気配だけで、分かる。
何かが。
何かが、自分達を取り囲む様に走っている。
それは、あまりにも圧倒的な存在感。
疑問を言葉にする事すら出来ず、ただただその“存在”に翻弄される。
バキッ バキキッ
メキャッ
グシュッ ゴシャッ
「アハハッ!!ハハッ!!ハハハハハッ!!」
響き渡る凶音。
奏でられる禍歌。
これ以上続けば、気が狂う。
誰もがそう思い始めたその矢先―
ズズ・・・ズズズ・・・
音の質が変わる。
長く尾を引く、不気味な地鳴り。
それを残して、鳴り止む凶奏。
一拍の間。
そして、
カシャ・・・
カシャカシャ・・・
カシャカシャカシャ・・・
カシャカシャ カシャカシャカシャカシャ・・・
カシャカシャ カシャカシャカシャカシャ・・・
耳鳴りから開放された耳朶に聞こえてきたのは、そんな異音。
前から。
後から。
右から。
左から。
街のあちこちから聞こえてくる様に感じる、その音。
辺りを覆う異様な気配に耐えかね、何人かがそっと目を開ける。
真っ先に視界に入って来たのは、凛と立つユキの背中。
あの凄まじい暴威の中でも、皆を守るために一人立ち、状況を把握し続けていたのだろう。
その後姿に感じる、確かな信頼と頼もしさ。
けど。
だけど。
気付く。
気付いてしまう。
その肩が。
頼もしい肩が。
拠り所である肩が。
微かに震えている事に。
何か、見てはいけないものを見てしまった気がして、思わず目を逸らす。
逸らした視線。
それが、見慣れないものを映す。
最初は、倒れた木かと思った。
けれど、その考えはすぐに払拭される。
この公園に、こんな太い木はなかった。
こんな、節くれだった木はなかった。
こんな、月明かりにてらてらと気味悪く光る木はなかった。
そして何より。
ドクドクと脈動する様に動く木など、ある筈もなかった。
カシャカシャ・・・
カシャカシャ・・・
その、木ではない木から生えた無数の枝。
それが、騒めく様に動いている。
蠢いている。
カシャカシャ・・・
カシャカシャ・・・
停止する思考。
ただ、眼球だけが動く。
ゆっくりと、動く。
移りゆく視線。
”それ”をなぞる様に。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
けれど、終わりは来ない。
どこまで行っても、”それ”の終わりは視界に入ってこない。
やがて、自分の視線がユキのそれと重なる事に気付く。
彼女は、上を見ていた。
その白雪の様な肌を、さらに蒼白にして。
その目は、上を見ていた。
なぞる視線も、上へと向かう。
上へ。
上へ。
首が痛くなる程の、上の先。
そこに、“それ”はあった。
夜天の中に、奇妙な形の影を浮かべ。
満ちる夜闇を、切り取る様に背に負って。
ユラユラ、ユラユラと揺れていた。
高く高く、鎌首をもたげたその姿。
蛇?
否、違う。
あれは。
あれはもっと。
もっと、おぞましいもの。
いや、そんな。
まさか。
まさか。
こんなモノが、存在(いる)はずがない。
存在(い)て、いいはずがない。
思考が混乱する。
理性が、全力でそれを否定しようと足掻く。
と、その時―
それを見越した様に、“それ”がゆっくりと頭を下げた。
まるで忘我での逃避を、己と言う現実に縫いつけようとするかの様に。
カチカチ・・・
カチカチ・・・
近づいてくる、固いものを打ち鳴らす音。
カチカチ・・・
カチカチ・・・
音が近づくと共に、光が見える。
月の光とは違う。
壊れた金色。
毒々しい、瞬き。
爛々と。
爛々と。
こちらを照らす、二つの輝き。
それが、物欲しげに自分達を見つめる複眼だと理解した時―
今度こそ、少女達は声にならない悲鳴を上げた。
「アハハハハ!!アハ!!アハハハハ!!」
トウハは笑っていた。
皆が悲鳴を上げる中、真っ赤な口を歪に開けて。
その白い喉を、艶かしく逸らして。
トウハは、笑う。
ケタケタ。
ケタケタ。
ただ笑う。
「終わり!!終わり!!もう、終わり!!」
叫ぶ声。
揺れる身体。
飛び散る、朱い珠。
乱れ踊る、白の髪。
「アハハハハハハ!!死んじゃえ!!死んじゃえ!!皆、死んじゃえ!!」
荒ぶ狂気のままに。
壊れた心のままに。
ケタケタ。
ケタケタ。
狂姫(きょうき)が、歌う―
―町は、沈黙に包まれている。
―町は、暗闇に包まれている。
トウハが町全体にかけた眠りの魔法、『まどろめる病(ヒュプノス・シンドローム)』は、悟郎達のいる公園の一部を除いて、まだ解除されてはいなかった。
それは、ユキが今回の戦いが人間の目に触れることを嫌った為。
万が一にも、興味を引かれて迷い込んできた一般人が巻き込まれる事を恐れたが故。
結果的には、それがこの街に住む人々全ての幸運となった。
何故なら、そのために彼らは“それ”を見ずにすむのだから。
何故なら、そのために彼らは“それ”を知らずにすむのだから。
そもそも、なぜ人は眠るのか。
それは、闇を避けるため。
闇(そこ)に潜む“それ”を見ない為。
闇(そこ)に潜む“彼ら”を知らずにすます為。
“それ”見ると言う事は。
“彼ら”を知ると言う事は。
人が、人として壊れる事。
人が、人としていれなくなる事。
だから、人は眠る。
闇を、拒絶する為に。
闇を、知らずにいる為に。
人が、人としてある為に。
それが、眠りの理。
遠い昔に忘れられた、儚い理。
しかし、眠りは今宵、久方ぶりにその役目を果たす。
闇の、深淵。
紅く濁った、月の光。
狂姫(きょうき)の、歌。
蠢く、“彼”の朱い顎(あぎと)。
そう。
人は、眠ればいいのだ。
ただ、安らかに。
ただ、昏々と。
目覚める事なく―
“魔”の鳴く夜は、震えながらー
続く
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