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2012年11月15日

十三月の翼・27(天使のしっぽ・二次創作作品)







 木曜日。隔週掲載、2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
 ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意。
 そして、例の如く1と2に分かれてますのでご注意を。
 それではコメントレス。


 秋かなさん

 やっと読めました(汗

 いつもありがとうございますm(_ _)m

 話の内容も大詰めにかかってきているのかそれぞれの行動が大胆になってきて、面白い感じです。
 如月もだいぶ大になり裕一がちょっとやばい状況になってきてどうなるのか心配です。
 しかし、今回のを読んで里香がこのことを知ってどうするのかという疑問も出てきて面白いです。


 そうですね。そろそろ予定している山場の一つ目です。さてはて、上手く話を繰れるかどうか・・・

 続きがんばってください

 はい〜。
 字数制限対策も確立できた事ですし、書きまくりますよ〜。そりゃもう、欲望の赴くままにwww



イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。

天使のしっぽChu(4) [DVD]

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             アナフィラキシー・ショック

 ハチ毒や食物、薬物等が原因で起こる、アレルギー反応の一つ。
 反応が原因物質の侵入から短時間(数分〜30分以内)で起こるため、即時反応型と呼ばれる急性アレルギーである。
 症状としてはじんましんや紅潮(皮膚が赤くなること)等の皮膚症状の他、呼吸困難、めまい、意識障害等の症状を伴う事もあり、血圧低下等の血液循環の異常が急激に現れれば、生命を脅かす危険な状態に陥る場合もある。


                        
                     ―失楽―

 
 その日からの数日は、まるで嵐の様に過ぎ去った。
 大人達が慌ただしく動く様を、悟郎はただ茫然と見つめていた。
 何をしているのかは分からなかった。
 ただ、その慌ただしさの中で、冬葉の祖父母と母親、東京の実家から駆け付けてきたという冬葉の父親が泣いているのを見た。
 大人が、それも男の人が声を上げて泣いているのを見るのは、それが初めてだった。
 最後の日、初めて来る建物の中、沢山の人が集まる中で、黒い着物を着た悟郎の母親が「お別れを言いなさい。」と言って悟郎を抱き上げた。
 抱き上げられた視線の先にあったのは、白い箱の中に横たわる冬葉の姿。
 白い着物を着て、薄っすらと化粧をほどこされた冬葉。
 大好きだった花に囲まれたその顔は、やっぱり眠っている様に穏やかだった。
 そっと手を伸ばしてその頬に触れると、柔らかな感触と一緒に氷の様な冷たさが伝わって、悟郎の背を震わせた。
 それから数刻後、悟郎は建物の煙突から白い煙が立ち上るのを夢でも見る様な面持ちで見ていた。
 傍らに寄り添った母親が、悟郎の小さな肩に手を置いた。
 「ほら、冬葉お姉ちゃんが天国へ行くよ。」
 ポツリと、囁く様にそう言った。
 ―天国に―
 その言葉は、ポッカリと穴の開いた悟郎の心に、乾土に染み込む水の様に染みていった。
  (そう。天国に行くの。)
 頭に甦る、冬葉の言葉。
 そう、冬葉は天国に行くのだ。
 草木に抱かれ、土に帰り、天国に行くのだ。
 あの時の、小鳥の様に。
 もう、あの優しい笑顔を見る事は出来ない。
 もう、あの温かい手を握る事は出来ない。
 もう、あの鈴の様な声を聞く事は出来ない。
 もう、川や林で一緒に遊ぶ事は出来ない。
 ―もう、会う事は、出来ない―
 胸の奥から、耐え難い何かが湧き上がってくる。
 それは、熱い涙となって。
 止まらない嗚咽となって。
 悟郎の内から溢れ出した。
 白い煙がたなびく青空の下、悟郎は声を上げて泣いた。


 その夜、精進落としのささやかな宴の中、悟郎は祭壇に飾られた冬葉の遺影を見つめていた。
 写真の中の冬葉は、悟郎と一緒に遊んでいた時の様に優しい微笑みを浮かべていた。
 泣き腫らし、赤くなった目をシパシパさせながら、悟郎はただ冬葉の写真を眺めていた。
 と、席に着いていた大人達の話し声が耳に入った。
 「・・・このままにはしておけんな。」
 「ああ、このままじゃ、また被害が出るかもしれん。」
 「ここはやっぱり業者に頼んで・・・」
 「・・・駆除してもらうか。」
 ぎょうしゃ?
 くじょ?
 幼い悟郎には、大人達の話の意味が良く分からなかった。
 ただ、「くじょ」という言葉が嫌な響きをもって耳に残った。

 
 それから数日の間、悟郎は部屋に閉じ篭っていた。
 自分が、冬葉との約束を破ってしまったという事。
 それがもたらした結果。
 どんなに後悔しても。
 どんなに懺悔しても。
 その罪に下された、罰の重さが。
 非情さが。
 悟郎の心を苛み、怯えさせ続けた。
 その様を彼の両親も、つるやの従業員達も、そして、遺された冬葉の親族達も、心より労わった。
 しかし、どんなに慰められようとも。
 どんなに諭されようとも。
 悟郎の心に刻まれた傷は、消える事がなかった。

 そんなある日、悟郎は両親に外に連れ出された。
 「ほら、見てごらん。」
 示された方向を見てみると、見慣れない車が山裾の道を走っていた。
 「正義の味方が、来てくれたよ。」
 「?」
 正義の味方とはどう言う事かと問うと、その母親はこう答えた。
 「あの人達は退治屋さん。悟郎や冬葉ちゃんを刺した蜂を、退治してくれるんだよ。」
 そう。彼らは人を殺傷した蜂達を危険視した大人達が手配した、駆除業者だった。
 悟郎は愕然とした。
 あれは、トウハ達のせいではない。
 冬葉との約束を破った、自分が悪いのだ。
 話を聞いた悟郎は、思わず家を飛び出していた。
 驚いた両親が呼び止める声が聞こえたが、構っている暇はなかった。
 止めなければ。
 あの人達に言わなければならない。
 トウハ達は悪くないのだと。
 悪いのは、自分なのだと。
 悟郎は走った。
 必死で走った。
 しかし、子供の足で車に追いつく事など出来る筈もない。
 走っても、走っても、彼らの乗った車は見えなかった。
 そして、彼がようやくその場に着いた時、事はもう始まっていた。


 そこでは、宇宙飛行士の様な格好をした人達が、スプレーでトウハ達の巣穴に白い煙を吹き込んでいた。
 ヴゥーン ヴゥウン
 巣の周りにはすでに無数の蜂達が転がり、断末魔の様に翅を震わせている。
 「ハチ駆除作業中」の看板の前で立ちすくむ悟郎の前で、宇宙飛行士達は黙々と作業を進めていく。
 蜂達は自分達の王国を守ろうと、宇宙飛行士達の周りを飛び交い、齧り付き、剣を突き立てようとするが、分厚い防護服に阻まれ、それもままならない。
 逆にスプレーから出る煙で次々に落とされ、地面で絶命のダンスを踊る。
 やがて、蜂達の抵抗がなくなると、宇宙飛行士達は無防備になった巣穴にスコップを突き立てた。
 見る見る削られていく、木の根元。
 やがて、そこには大きな穴が穿たれ、その中から大きな土色の塊が掘り出される。
 宇宙飛行士がそれにスコップを差し込むと、それはあっけなく割れ、中からポロポロと白いものがこぼれ落ちた。
 力なく地面で蠢くそれを踏み潰しながら、宇宙飛行士達は壊れた土色の塊を持っていた袋の中に放り込んだ。

 
 悟郎は、その一部始終を見ていた。
 止める事も。
 邪魔する事も出来ずに。
 ただ、茫然と見つめていた。
 ―と、その手に何かの違和感が走る。
 手を持ち上げてみると、そこには6本の足を必死に突っ張る黒い姿。
 小さな身体を震わせて、助けを求める様にしがみつく、琥珀色の目をした小さな蜂。
 ―トウハ―
 煙を浴びたのだろう。細かく痙攣するその様は、彼女の命が今にも消えようとしている事を如実に表していた。
 それでも悟郎は、彼女を掴み抱こうともう片方の手を伸ばす。
 しかしその時、彼の目にトウハの腹部が映った。
 鋭い曲線を描き、キュウと細まるシルエット。
 その先端から、黒いものが見え隠れしていた。
 ・・・それは、彼女が彼女の種たる証の一つ。
 彼女が、己の王国を護るために与えられた一振りの刃。
 それが、悟郎の手の上で冷たい光を放っていた。
 それを見た瞬間、悟郎の背筋を怖気が走る。
 フラッシュバックする、“あの日”の光景。
 唸りを上げて蠢く、黒い雲。
 それから感じた、圧倒的な敵意。
 肌を貫く、焼け付く様な痛み。
 そして、動かなくなった冬葉の、人形の様な顔―。
 自分を刺した刃。
 冬葉を、殺した刃。
 その時、果たしてその切っ先が、何に対して向けられていたのかは分からない。
 今際の際の苦しみから、苦しい息のいきみから、偶然に鞘から晒されただけかもしれない。
 けれど。
 けれど―
 今の悟郎にとって、トウハの毒針(それ)は違う事無く、忌むべきもの。
 ・・・それは、条件ではなく反射。
 ・・・理性ではなく、本能。
 「―――っ!!」
 次の瞬間、悟郎は手の上のトウハを払い飛ばしていた。
 小さく、軽い身体は塵の様に宙に舞い―
 側を流れていた川へと、落ちた。
 悟郎の目の前で、小さな身体は水に流され、飲まれ、消えていく。
 我に帰った彼は、急いで川の中へと降りた。
 初秋の空気にさらされ、冷たくなった川の水が靴の中に入るのも構わず、悟郎は川の中を探し回った。
 川辺に生えた草の陰を。
 流木の下の淀みを。
 だけど、どこをどれだけ探しても。
 どれだけ大きな声で叫んでも。
 あの澄んだ翅音が、それに答える事はなかった。

 ―こうしてその日、悟郎は二人目の友人を失った。


 コト・・・
 悟郎が、空になったコーヒーの缶を傍らに置く。
 「・・・・・・。」
 誰も、何も言わなかった。
 いや、言えなかった。
 しばしの間、続く沈黙。
 やがて、ランが絞り出す様な声で訊ねる。
 「・・・ご主人様は、その時の事を・・・?」
 「ああ・・・忘れてたんだ・・・。」
 深い息を吐きながら、悟郎はそう答えた。

 
 ・・・記憶は、冬葉と自分が写った写真を見つけたその時から、堰を切ったように溢れ出していた。
 突然の、記憶の氾濫。
 それに戸惑いながらも、悟郎はその記憶を見つめる。
 鈴の音の様な冬葉の笑い声。
 空気を刻む様なトウハの翅音。
 その全てが、まるで昨日の事の様に、心の中に蘇っていく。
 大量の記憶の奔流に翻弄されながら、悟郎は戦慄いた。
 こんなにも大事な記憶を。
 こんなにも重い思い出を。
 どうして自分は忘れていたのか。
 どうして今まで思い返す事が出来なかったのか。
 混乱。
 動揺。
 そして、恐怖。 
 たまらず、悟郎は部屋を飛び出していた。

 
 向かった先は、父と母の元。
 「あら、悟郎?」
 「どうしたんだ?そんな怖い顔して。」
 訝しがる両親に、悟郎は件の写真をつきつけた。
 それを見た両親の顔が、いっせいに強張る。
 「ご、悟郎・・・。」
 「お前、どこでこれを・・・!?」
 「やっぱり、知ってるんだね・・・。この娘の・・・冬葉お姉ちゃんの事を!!」
 悟郎はその勢いのまま、両親を問い詰めた。
 「教えて・・・。どうして、どうして僕は忘れていたの!?この事を!!お姉ちゃんの事を!!一体・・・一体この時、僕に何があったの!?」 
 「悟郎・・・。」
 問いかけてくる息子の真剣な眼差しに、何かを察したのだろうか。両親は互いに頷き合うと、ポツリポツリと話し出した。

 あの日、トウハが川の流れに消えたその日、下半身をずぶ濡れにして帰ってきた悟郎は、そのまま高熱を出して寝込んでしまったのだという。
 最初は皆、冷たい水に浸かったために風邪でもひいたのだろうと思っていた。
 しかし、二日経っても、三日経っても、その熱は下がらなかった。
 医者に診せても、原因は分からなかった。
 大事をとって入院させられたが、それでも熱は下がらなかった。
 咳をするでもなく。
 他の不調を訴えるでもなく。
 ただ、熱ばかりが続く。
 その間、悟郎は懇々と眠り続けた。
 四日。
 そして五日。
 栄養補給の点滴を受けながら、悟郎は眠り続けた。
 そして、七日目―
 熱は、唐突に下がった。
 目を覚ました悟郎は、昨日までの事が嘘であったかの様に元気に振る舞った。
 両親はホッと胸を撫で下ろしたが、それと同時に奇妙な事に気がついた。
 目を覚ました悟郎は、記憶が欠けていたのだ。
 彼は、この夏の事。否、正確に言えば冬葉と過ごした日々の事を、まるでなかったかの様に忘れていた。
 至急検査が行われたが、記憶障害につながる様な疾患は何処にも見つからなかった。
 そして、悟郎の両親は一つの決断をした。
 冬葉に関する出来事は、幼い悟郎にとってあまりにも重過ぎる。
 もしこの事を覚えていれば、それは一生の傷となって悟郎を苛むだろう。
 ならばいっその事、悟郎の人生から冬葉の事を消してしまおう。
 一度決めてしまえば、今回の悟郎の異常も、天の為した采配の様に思われた。
 悟郎の両親はその旨を冬葉の親族に伝え、了解を得た。
 悟郎が検査入院している間に、彼の周りから冬葉の痕跡を徹底的に消した。
 冬葉の親族に渡せるものは全て渡し、そうでないものは心の痛みを堪えながら処分した。
 冬葉の親族は悟郎の家との係わりを絶ち、旅館の従業員達も口裏を合わせた。
 そうして全ては終わり、悟郎が帰ってきた時、彼の人生から冬葉という少女の存在は完全に消えていた。
 ―押入れの隅に落ちた、たった一枚の写真を残して―

 
 全てを聞き終わった後、部屋に戻った悟郎は畳に倒れ込んだ。
 両親を責めるつもりはなかった。
 彼らは、幼い自分を心から気遣い、それ故にその様な手段を選んだ。
 そう。全ては自分のため。
 いや、そもそも悟郎自身がその事を望んでいたのかもしれない。
 一週間にわたる原因不明の発熱も、それに伴う記憶の欠如も、あまりにも大きな負担から自身の心を護ろうとする、自己防衛反応だったのだろう。
 だけど。
 だけど―
 一度開けられたパンドラの箱は、二度と閉まる事はない。
 目を瞑れば、ありありと浮かぶ、あの頃の風景。
 夏の日差しの中で、優しく笑う冬葉の顔。
 澄んだ空気の中、軽やかに舞うトウハの姿。
 耳を澄ませば、彼女の鈴の様な笑い声が、彼女の透き通った翅音が、直ぐそこで聞こえる様だった。
 ツウ・・・
 悟郎の頬を、温かい滴が伝う。
 ポッカリと空いた心の箱の中、彼女達の声が響いては消えていく。
 人は、それを罪とは呼ばないかもしれない。
 幼さが故の過ちと、咎めはしないかもしれない。
 実際、誰も悟郎を責めはしなかった。
 父も、母も、仲居達も。そして冬葉の祖父母や、両親でさえも。
 でも。
 でも、それならば。
 そのために失われた彼女達の命は、どうなるのだろう。
 彼女達が手に入れる筈だった未来は、誰が贖うというのだろう。
 ―忘れては、いけなかったのだ。
 自分は。
 せめて自分だけは、
 それを傷として持ち、咎の証と抱き続けなければならなかったのだ。
 なのに、自分は逃げた。
 逃げてしまった。
 その罪の重さに怯え、その咎の大きさを恐れて。
 忘却という逃げ道を見つけ、そこに逃げてしまった。
 幼さなど、関係はない。
 罪は、咎は、確かにそこに在り、そして在り続けたのだから。
 そして今、それは帰ってきた。
 途方もなく、大きな代償として。
 自分だけでなく、自分に関わる者全てを巻き込む程の災禍となって。
 怖かった。
 どうしようもなく、怖かった。
 逃げ出したい程に。
 だけど。
 だけど―
 悟郎はゆっくり身を起こすと、グイッと顔を拭う。
 逃げはしない。
 今度こそ。
 向き合おう。
 罪に。己が咎に。
 今の自分は、あの頃の自分ではない。
 冬葉の細い腕に抱かれ、守られてばかりいた自分ではない。
 悟郎は、自分の服の裏を返す。
 そこには、万感の想いをこめて縫い付けられた数多のお守り。
 そう、今の自分には守りたい者達がいる。
 守らなければならない娘達がいる。
 あの時、冬葉がしてくれた様に。
 この腕の中で、守りたい娘達がいる。
 だから、
 今度は、逃げない。
 その娘達のために。
 その娘達との未来のために。
 そして。
 そして―
 もし、叶うならば“彼女”のために―。
 悟郎は、ギュッと拳を握った。


                                     続く
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