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2012年09月25日

霊使い達の黄昏・2

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 どうも。土斑猫です。
 今回の作品は、前作の「宿題」シリーズに比べて、全般的にシリアス路線になる予定です。
 さて、上手く話を繰れるかどうか、どうぞしばしお付き合いくださいませ。

 それではコメントレス。


 なかなかいい性格をしているキャラですねwww
 
 あはは、その反応が欲しかった(その2)
 はい、いい性格してますよ〜。いろんな意味でwww


 今回はより一層何故こんなにも溺愛しているのか疑問の雲が膨らんでいます。

 まあ、それはおいおい・・・。

 若干里香が押され気味なのでこの後の展開が楽しみです。
 続きがんばってください。


 原作ではいなかった、同世代で里香の双璧に立つキャラを目指してます。
 はてさて、どうなる事やらwww

 

                         ―2―


 ビュウゥウウウウウウッ
 鋭い音を立てて、幾つもの雲が後方へと流れ去っていく。
 果てしなく続く雲海の中、ウイング・イーグルに乗ったウィンは一直線に北の方向へ進んでいた。
 「ウイッチン、無理しないで、だけどなるべく急いで!!」
 難しい主の注文に、それでもどうにか答えようとウイング・イーグルはその巨翼を羽ばたかせる。
 そうして、数時間も進んだだろうか。
 異常に気付いたのは、ウィンの懐に潜り込んでいたプチリュウだった。
 『ウィン、何だか、風がおかしい!!』
 「うん・・・風が、泣いてる・・・!!」
 ウィンもそう言って頷く。
 先まで澄んでいた筈の空気は、いつしかどんよりと濁り、まるで渦を巻く様に澱んできていた。
 「・・・何、これ!?」
 言った瞬間、
 「う・・・ゴホッゴホッ!!」
 唐突に咳き込み出すウィン。
 『ウィン・・・息が・・・苦しい!!』
 プチリュウも、ウィンの懐の中で苦しげに身をよじる。
 ウイング・イーグルの羽ばたきにも乱れが生じていた。
 その身体が大きく右に、左にと揺らいだと思った瞬間―
 カハッ
 「きゃあ!!」
 ウイング・イーグルが大きく息を吐いたかと思うと、たちまち失速し、墜落を始める。
 どうやら、気を失ったらしい。
 「・・・だ、駄目・・・!!」
 彼の身を守るため、朦朧とする意識の中でウィンはウイング・イーグルの召喚を解く。
 目端でウイング・イーグルの姿が消えるのを見届けると、胸の中のプチリュウをギュッと抱き締める。
 もはや、為す術はない。
 (・・・ごめん、皆・・・!!)
 目を瞑り、その身が地へとぶつかるその時を待つ。
 しかし―
 「あんた、馬鹿ぁ!?」
 そんな声とともに、落ちていた身体がガクンと止まる。
 「・・・え・・・?」
 ぼやける視界で見上げると、そこには自分の襟首を掴む鉤爪と固そうな甲羅。そして巨大な翼手をもったモンスターの姿。
 そのモンスターの肩越しに、誰かがこちらを覗き込んでいる。そして、それを見とめるのを最後にウィンの意識は闇に落ちた。



 「えーん。えーん。えーん。」
 ・・・それは、一体いつの頃の記憶だろう。
 そこでは、幼い自分が大声を上げて泣いていた。
 「どうしたの?ウィン。」
 近くでガルドと戯れていた“彼女”が、急いで駆けつけてくる。
 「噛まれたぁ・・・」
 自分はそう言って、赤い血が滲む人差し指を差し出す。
 「あれあれ。ちょっと待ってて。」
 “彼女”はそう言うと、血の滲む人差し指にそっと口をつける。
 しばしの間。
 やがて、“彼女”は傷口から吸い出した血を、ペッと吐き出す。
 「一体、どうしたの?」
 指先の傷に、細く裂いた布を巻きながら“彼女”が訊いてくる。
 「この子達がぁ・・・」
 自分の周りでは、警戒に尾を膨らませたスクイレル達が全身の毛を逆立てて唸っている。
 それを見た“彼女”が、苦笑いをする。
 「あー、また無理強いして使役しようとしたでしょう?」
 「う・・・」
 図星。
 この頃の自分はモンスターの気持ちを読む事が出来ず、どんな場合でも力押しで事を進める事しか出来なかった。
 「いつも言ってるでしょう。モンスター達を使役するには、力で押し通すだけじゃ駄目。例え最初はそうだったとしても、最後に大事なのは、心と心を通わせること・・・。」
 そう言うと、彼女はいきり立つスクイレルにそっと手を伸ばす。
 「おいで・・・。」
 その言葉に誘われる様に、サワリと優しい風が吹く。と、その風に身を撫でられたスクイレル達から緊張が消えていく。警戒心で自分の身体より太く膨らんでいた尾も、見る見る元の太さに戻っていく。
 「おいで・・・。」
 もう一度、“彼女”が言う。
 キキッ
 短くそう鳴いて、スクイレルが“彼女”の腕を駆け上る。
 「わぁ・・・。」
 羨望の眼差しで見つめる自分の前で、“彼女”は自分の肩のスクイレルの喉をくすぐりながら微笑んだ。
 「いい?ウィン・・・。」
 “彼女”が言う。
 優しい・・・いつもと同じ、優しい、歌う様な声。
 「風の声を聞くの。風を感じて、心を風に放ちなさい。そうすれば、風が全てを繋いでくれるわ・・・。」
 「・・・わたしにも、出来る・・・?」
 不安げに問う自分に、でも彼女は自信たっぷりといった態で頷く。
 「出来るわよ。何てったって、貴女は賢者ウィンダールの娘にして、このウィンダの妹なんだから。」
 その言葉が、萎れかけていた心に新風を送る。
 「うん!!」
 満面の笑みを浮かべて頷く自分。
 それを見て、“彼女”は優しく、とても優しく、微笑んだ。


 ・・・それは、遠い記憶。
 もういつの頃かも思い出せない、遠い遠い頃の記憶。
 だけど、大切な記憶。
 いつまで経っても色褪せない、大事な大事な、あの日の記憶・・・。


 ・・・目を覚ましてまず視界に入ったのは、心配そうに覗き込んでくるプチリュウの顔だった。
 『ウィン!!ああ、良かった!!気がついたんだね!!』
 「・・・ぷっちん・・・あれ・・・?あたし達、何で・・・」
 事態が飲み込めないウィンに抱きつきながら、プチリュウが尻尾で右手を指す。
 『それはね・・・』
 「あら、やっと目ぇ覚めたのね?」
 「――!?」
 プチリュウの言葉を遮った声に、ウィンは思わず飛び起きた。
 飛び起きた視線のその先で、長い青色の髪が風に踊る。
 「エ、エーちゃん!?どうしてここに!?」
 ウィンが寝ていたのは、平原に突き出した崖の上。
 その崖の縁に、エリアが立って下を見下ろしていた。
 「ふん。どっかの猪突猛進馬鹿をほっとくと、事がどうなるか分からないからね!!心配だから“コイツ”でついて来たのよ。」
 そう言って、傍らに座している“それ”の甲羅をコンコンと叩く。
 そこにいたのは、固そうな甲羅に身を包み、その中から大きな翼手を伸ばした奇妙なモンスター。
 空飛ぶ奇亀。『タートル・バード』。エリア彼女の手持ちの中で、唯一飛行が可能なしもべ。
 「そんで来てみたら、案の定。あんたのお仲間がぶっ倒れてんのよ。あんた自身だって危ないって、何で頭回んないのかしら?このお馬鹿!!」
 近づいてきたエリアが、ウィンの頭をペシペシと叩く。
 「う・・・。」
 返す言葉もないウィン。
 「とにかく、もう少し休んどきなさい。少しは馬鹿が良くなるようにね。」
 そう言うと、エリアはまた崖の縁までいって座り込んでしまう。
 「馬鹿馬鹿って・・・。エーちゃんに言われる筋合いないもん・・・。」
 『そんな事言っちゃ駄目だよ。ウィン。』
 ふくれ顔でブツブツ言うウィンを、プチリュウが諌める。
 『どうして、ぼく達がこの風の中で平気になってると思うの?』
 「え・・・?」
 言われて見れば、先程まで身体を蝕んでいた脱力感と息苦しさがウソの様に消えていた。
 目を閉じ、風を読む。
 相変わらず風は濁り、澱んだままだ。
 「何で・・・?」
 その問いに、プチリュウが答える。 
 『エリアさんがね、『明鏡止水の心(ハート・オブ・クリスタル)』をかけてくれたんだよ。ぼく達二人にね。』
 「・・・!!」
 ウィンは、慌てて自分の身体を確かめる。確かに、淡い水色の光が彼女とプチリュウの身体を包んでいた。
 『大変だったんだよ。こんな高位魔法、2回連続で使ったりしたから。負担が酷くて、ついさっきまでエリアさんも寝込んでたんだから。』
 それを聞いたウィンは、思わずエリアを見る。
 「・・・勘違いしないでよね。これから大事に取り組むのに、病人の足手まといはごめんだからよ。」
 言いながら、髪に着いた土埃が気になるのか、しきりに髪をこすっている。
 「エーちゃん・・・。」
 「いいから、もう少し横んなってなさい!!大変なのは、これからなんだから!!」
 「でも・・・!!」
 「シャラップ!!」
 事を急くウィンの言葉を、エリアが一括する。
 「言ったでしょ!?大変なのはこれから!!今大事なのは、“そん時”に備えて体調を万全にしておく事!!違う!?」
 「う・・・。」
 返す言葉に詰まるウィン。
 と、その視線がエリアの横顔を捉える。
 ・・・真剣な顔だった。怖いほどに。
 彼女が臨む崖下。そこには、惨事の場であるミストバレー湿地帯と、ガスタの村が見えている筈である。
 それを、エリアはこの上なく厳しい瞳で見つめていた。
 ウィンは思う。
 彼女は、何故ここに来たのだろう。
 ウィン自分が心配だから来たのだと言う、その言葉自体に嘘はないだろう。
 いつもはその自己中心的な性格ばかりが目立つ彼女だが、その実、仲間内の義理に堅い事は周知の事実である。
 しかし―
 それだけではない様な気がした。
 眼下の光景を見つめる、その瞳。
 ひょっとしたら、彼女も何かを背負っているのだろうか。
 ここに住まう一族や家族を想う自分の様に、彼女も何かを背負ってここまで来たのかもしれない。
 そう思い至った時、ウィンは波立っていた心が静かに凪いで行くのを感じた。
 この大事に、得体の知れない敵に、立ち向かうのは自分だけではない。ここにもう一人、同じ志をもった友がいる。
 その事は、憤りと不安にひび割れかけていたウィンの心を、確かに癒していた。
 「分かった!?分かったなら、大人しく寝てなさい!!」
 エリアが、また言う。
 「・・・うん。」
 ウィンは今度は素直にそう言うと、もう一度その身を柔らかい草の上に横たえた。


 「様子、どうだった?」
 『ちょ・・・ちょっと待って・・・ちょっと、休ませて・・・』
 岩の上に座って問いかけるエリアに、そう答えるのは、汗だくになって仰向けに寝っころがるギゴバイト。
 エリアの命に従い、そこら一帯を走り回って様子を調べてきたばかりである。
 「だらしないわね。たかだか3、4時間走り回ったくらいで。それでもアタシのパートナー?」
 そう言いながらも、エリアは荷物から引っ張り出したブルーポーションをギゴバイトに渡す。
 それをンクンクと飲み干すと、ギゴバイトはようやっと一息をつく。
 『そうは言うけどさ、大変だったんだよ。この辺り、ぬかるみが多くて足場悪くてさぁ、もうつまずいてばっかり。』
 ブルーポーションの回復効果が効いてきたのか、むっくりと起き上がるギゴバイト。
 「当たり前じゃない。湿地帯だもの。で、どうだった?」
 『酷いもんだよ。草木はボロボロに枯れてるし、風属性モンスターの死骸がゴロゴロ転がってる。出来ればウィンさんには見せたくないなぁ・・・。」
 エリアの問いに顔をしかめながら、ギゴバイトは頭を振る。しかし、
 「・・・覚悟は出来てるよ。」
 不意に後ろから飛んできた声に、驚いて振り返る。
 そこには、プチリュウを従え、杖を携えたウィンの姿。
 「・・・もういいの?」
 「うん。」
 問いかけるエリアに、ウィンはそう言って頷く。
 「そう。じゃあ行こうか。タルト!」
 主の声に答えて、傍らに控えていたタートル・バードが、ググッと身を屈める。
 「乗りなさい。」
 「あ、いいよ。二人も乗せたら、その子が大変でしょ?あたしはあたしのしもべでいく・・・」
 「お馬鹿!!」
 「ひゃん!?」
 いきなり怒鳴られ、首をすくめるウィン。
 「さっきので、懲りてない訳?いい、今この辺りを覆ってる風はね、風属性あんた達には致命的な毒性を持ってるのよ。あんたがいくら新しいしもべを出したって、それが風属性である限り、片っ端から侵されてぶっ倒れるのがオチなの!!」
 「うぅ・・・。」
 「分かった?分かったなら黙って乗る!!心配ないわよ。タルト(この子)、女の子が二人乗っかったくらいでバテるほど、やわじゃないわ。それとも・・・」
 先にタートル・バードの甲羅に乗ったエリアが、ニヤリと笑う。
 「あんた、そんな事心配しなきゃならないくらい、目方重い訳?」
 「・・・んな!?」
 「あははは、そりゃそうよねぇ。日頃からあんだけ馬鹿食いしてりゃ、体重も馬鹿にならなくなるわよねぇ?」
 その言葉に、見る見る真っ赤になるウィン。
 「そんな事ないもん!!あたし、太ってないもん!!」
 「あら、そう?なら、乗って御覧なさいよ。」
 「うん!!」
 そう言って、目の前の甲羅に飛び乗る。
 飛び乗られたタートル・バード。当然の様に平然としている。
 「ほらね!!」
 「・・・みたいね。」
 胸を張るウィンに微笑むと、エリアはタートル・バードの頭に向き直る。
 「タルト、お願い!!」
 ゴォアァアア!!
 主の声に一声吠えると、タートル・バードは崖から宙へと身を躍らせる。
 巨大な翼手が上昇気流を掴み、その巨体を高空へと舞い上げる。
 「このまま、あんたの村まで行くからね!?」
 「うん!!」
 二人の少女を乗せたタートル・バードは、その舵を目指す場所、ガスタの村へと切った。

 
 村への道程は、ギゴバイトの危惧したとおり、ウィンにとっては辛いものとなった。
 眼下に広がるのは、何処まで行っても無残に荒れ果てた大地。元は豊かな命あふれる場所だったであろうそこは、いまや死の地と化していた。
 草木は枯れ果て、モンスターの死骸があちこちに転がっている。
 その有様を苦々しげに見ていたエリアが、ちらりと後ろを見る。
 ウィンは泣いていた。
 胸元をギュウと握りしめ、歯を食いしばり、声も立てず。けれど、あふれる涙を止める術はなく。
 ・・・かけるべき言葉はない。
 エリアはただ目を伏せ、気づかないふりをした。

 
 そうやって進む事数十分、彼女達の目の前に村らしきものが見え始めた。
 「・・・あれが、あんたの村?」
 エリアの問いに、ウィンが頷く。
 「うん。あたしの・・・ガスタの村だよ。」
 「そう。じゃあ、降りるわよ。」
 エリアの命に従い、タートル・バードが村の中に向かって降下を始めたその時―
 ザバァアアアアッ
 「きゃあっ!?」
 「な、なになに!?」
 突然地面から立ち昇った水流が、皆の行く手を遮る。
 タートル・バードはそれを突破しようとするが、触れた瞬間にそれは水流は硬化し、タートル・バードを弾き返してしまう。
 「何なのよ!!これ!?」
 訳がわからないと言った態でエリアが叫んだその時、
 「何者か!?」
 下から、鋭い声がかけられる。
 見れば、村の入り口を守る様に、一つの人影が立っていた。
 その身体は白銀の鎧に包まれ、蒼く光る宝石に飾られている。まるで、中世の騎士を彷彿とさせる姿だ。
 そして、件の水流はその騎士の両手から吹き上がっていた。
 「何者か!?」
 騎士が、再び叫ぶ。
 「今、この地は変事の惨禍にある。この村に用向きあらば、そなたらの素性を示されよ。さもなくば、害意あるものとみなし、排除の対象とさせていただく!!」
 慇懃だが、激しい口調。
 「何よ、あいつ!!」
 苛立つエリアに向かって、ウィンが囁く。
 「エーちゃん、あの人、『ジェムナイト』だ。あの人の前に降りて。」
 「でも・・・」
 「大丈夫、悪い人じゃないよ。」
 ウィンの言葉に、エリアはタートル・バードに降りるよう促す。
 それに従い、タートル・バードは『ジェムナイト』と呼ばれた騎士の前へと舞い降りた。
 「拝聴、感謝する。」
 手からの水流を止めた騎士が、そう言いながら近付いてくる。
 タートル・バードから降りる、エリア達。
 「では、改めてお訊きしたい。そなたらは何者か?今、この村に如何なる用向きか?」
 その言葉に、エリアが苛立つ様に答える。
 「ちょっとアンタ。人に名前訊く時には、自分から名乗るのが筋ってもんでしょう?そういうの、慇懃無礼って言うのよ!!」
 「む!これは失敬!!」
 騎士はそう言うと、ビシッと左手を後ろに回し、右手を前に構えてお辞儀をする。
 「小生、現在この村の警護を担っている『ジェムナイト・サフィア』と申す者。以後、お見知り置きのほどを。」
 「え?あ、ああ、ア、アタシはエリア。水霊使いよ。よ、よろしくね・・・。」
 嫌味で言った言葉を大真面目に返されて、エリアは慌てて頭を下げる。
 「あたしはウィン。風霊使いです。」
 『僕、ギゴバイトのギゴ。この娘達の使い魔やってます。』
 『ぼく、プチリュウのぷっちん。右に同じく。』
 続けて頭を下げるウィンに、ギゴバイト達もならう。
 「了解致した。それでエリア殿にウィン殿。双方、此方にはどの様な用向きで?」
 サフィアの問いに、ウィンが身を乗り出す。
 「わたし、この村の出身なんです!!それが、大変な事になってるって知って・・・。お願いです!!村に入れてください。」
 その言葉に、サフィアの目がキラリと光る。
 「ウィン・・・?もしやウィンダール氏の・・・!?」
 「はい!!そうです!!ガスタの賢者、ウィンダールの娘です!!父は、皆は無事なんですか!?」
 今にもすがりついてきそうな勢いのウィンを、サフィアが制する。
 「待たれよ。それを証明するものは?」
 冷静に、悪く言えば冷徹にかけられたその言葉に、エリアが食ってかかる。
 「何よあんた!?この後に及んでまだ疑う気!?この娘がどんな気持ちでここまで来たか知りもしないで・・・」
 「いいんだよ。エーちゃん。」
 憤るエリアを、ウィンが遮る。
 「この人は、ガスタ(ここ)を護るって役目を責任もってこなしてくれているだけ・・・」
 そう言いながら、ウィンは懐からメダルの様なものを取り出す。
 「これを・・・」
 風車の様な紋章が刻まれたそれを、サフィアに渡すウィン。
 「む・・・。確かにこれはガスタの紋章。」
 サフィアはメダルをウィンに返すと、改めて頭を下げる。
 「数々のご無礼、申し訳ない。そなたの素性、確かに確認した。どうぞ、入られよ。」
 そう言って、サフィアは初めて道をあける。
 急いで中に入るウィン。
 サフィアはそのまま、エリア達も促す。
 「あら?アタシらはいいわけ?」
 嫌味たっぷりの口調で訊ねるエリアに、サフィアは微笑んで(そんな風に見えた)答える。
 「ウィン(この方)が心を許し、ウィン(この方)のために憤る事ができる貴女が、悪しき者である筈もなかろう。その使い魔たる方々も然り。どうぞ、共々に。」
 「え?あ、そ、そう?それじゃ・・・」
 些か赤顔しながら、ウィンに続くエリア達。
 「ウィン殿・・・」
 「はい?」
 「良い友を、持たれてる様だな。」
 その言葉に、ウィンはここに来て初めての笑顔で答えた。
 「はい!!」

 
 「ラズリー!!」
 サフィアが、村の中に向かって声をかける。
 「ハイハーイ!!」
 その呼びかけに応えて、村の中から小柄な影がかけて来る。
 現れたのは、少女の様な姿をしたジェムナイト。
 その鎧を飾る宝玉の色は、瑠璃色である。
 「何ですか?サフィアさん。」
 「客人だ。ウィンダール氏の御令嬢と、その友人の方だそうだ。療養所へと案内して差し上げて欲しい。」
 「はい。」
 サフィアに向かってそう答えると、ラズリーと呼ばれたジェムナイトは
 エリアとウィンに向き直りペコリとお辞儀をする。
 「わたし、『ジェムナイト・ラズリー』と言います。良くしてくださいね。」
 「あら、アンタは良い感じね。いいわ。良くしてあげる。」
 これでもかというくらいの、上から目線のエリア。
 ポカンとするラズリーに、「ア、アハハ、あたし、ウィン。よろしくね。」などと言って場を取り繕うウィンなのだった。


 「それで、皆は無事なの?」
 人気のない村の中を歩きながら、ウィンがラズリーに訊ねる。
 その問いに、ラズリーは顔を伏せながら心苦しそうに答える。
 「ご無事とは、言い難いです・・・。」
 その答えに、ウィンの顔が青ざめる。
 「村の使いのコドルから、ジェムナイト(わたし達)が知らせを受けたのは昨日の真夜中ですが、その時にはもう村の方ほぼ全員が毒に侵された状態でした。」
 その時の様子を思い出す様に、ラズリーが宙を仰ぐ。
 「わたし達も手を尽くしましたが、何せ原因も分からない事で・・・。ただ、汚染された空気から皆さんを隔離するのが精一杯でした・・・。」
 「・・・一体、何があったの・・・?」 
 唇を噛み締めるウィン。
 と、それまで黙って歩いていたエリアの口が動く。
 「・・・『猛毒の風(カンタレラ・ブリーズ)』・・・。」
 「・・・え?」
 囁く様に紡がれたその言葉に、ウィンの足が止まる。
 「・・・風属性をもった生物に対して、致命的な毒を孕んだ風を流す、永続魔法(エターナル・スペル)・・・。」
 表情の消えた、能面の様な顔で、エリアは淡々と語る。
 「・・・そんな術、あたし知らないよ・・・?」
 戸惑う様に言う、ウィン。
 「当たり前よ。一般に知られてる術じゃない。僻地のある一族だけに伝わる、秘術だもの・・・。」
 「・・・エーちゃん、何でそんな事・・・」
 ウィンが問おうとしたその時―
 「お二方、どうしました?着きましたよ。」
 ラズリーの声が響いた。



                                      続く
タグ:霊使い
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