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2012年08月09日

十三月の翼・21(天使のしっぽ・二次創作作品)







 木曜日。隔週掲載、2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
 ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意



イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。

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 少女は、一人闇の中を歩いていた。
 そこは暗い、暗い、ほんの数歩先も見えないほどに暗い夜の森。
 足の踏み場もない程、鬱蒼と茂った木々の中を、少女は何の障りもないかの様にかい潜っていく。
 暗闇の中、時折何かを探るように目をつぶると、白い前髪がピクピクと動く。
 しばしの間。
 そしてー
 「・・・ああ、いたいた。」
 そう言って、傍に下がっていた木の枝を除ける。
 そこにあったのは、木の枝からぶら下がるバスケットボール程もある黄土色の塊。
 少女は指を伸ばすと、その塊をトントンとつつく。
 途端、
 ヴヴヴヴヴヴヴ・・・
 塊から響き出す、低く震える様な音。
 それを聞いた少女は怪しくほくそ笑むと、ささやく様に呟く。
 「さぁ、出ておいで・・・。」
 ヴヴヴヴヴ・・・
 その声に応える様に、何かが塊から次々と這い出してくる。
 ヴヴヴヴヴ・・・
 黄土色の塊から這い出してきたもの。それは、一匹一匹が人の親指程もある蜂の群れだった。
 蜂達は、自分達の城の平安を害された怒りに翅を震わし、次々と飛び立つ。
 瞬く間に、無数の蜂に取り囲まれる少女。
 しかし、少女は微塵も動じず薄笑みを浮かべたまま。
 と、その瞳が紅い光を放ち始める。
 ゆっりと、禍々しく、けれど鮮やかに、その紅は少女の瞳を彩っていく。
 暗い森の中、灯火の様に浮かぶ紅い光。
 やがて、その光は少女を取り囲む蜂達の眼球に、次々と映り込んで行く。
 ヴヴ・・・ヴヴヴ・・・
 ゆっくりと静まり始める、蜂達の羽音。
 そして数分の後ー
 そこには女王の様に、無数の蜂に傅かれる少女の姿があった。
 「良い子だね・・・。」
 そう言って、一匹の蜂を手に乗せると、もう片方の手を口元に運ぶ。
 カリッ
 鈍い音と共に、鋭い牙が人差し指の腹を噛み破る。
 みるみる膨れ上がる、紅い滴。
 少女はそれを、手の蜂に差し出す。
 クチクチ・・・クチュ・・・
 そんな音を立てて、蜂は少女の血を啜る。
 少女はその様を愛しげに眺めていたが、やがて蜂の止まった手を口元に寄せるとこう囁いた。
 「ね・・・分かったでしょ?探して来て・・・。」
 蜂は赤く濡れた口を拭うと、朱色に染まった複眼で頷いた。
 ヴゥ・・・ン
 低い羽音を立てて、蜂が飛び立つ。
 すると、周囲に傅いていた蜂達もそれに続いて一斉に飛び立つ。
 ヴゥウウウン・・・
 ヴゥウウウン・・・
 周囲を埋め尽くす、無数の羽音。
 「我らは群。されど壱・・・」
 少女はほくそ笑み、天を指差す。
 「さあ、 行きなさい!!」
 ヴゥァアアアアアアアッ
 その声に従う様に、無数の蜂は夜の闇の中へと散っていった。


                        
                     ―夜会―
 

 「さて、いよいよ時は迫れりよ!!」
 そう言って、ミカはビシィッと鞭を鳴らした。
 時は夜もふけた午後8時。
 場所は睦家その茶の間。
 守護天使全員が集まったそこで、軍服姿のミカが大きなホワイトボードを前に教鞭を振るっていた。
 「明後日にはご主人様が帰ってくるわ。そうしたらあのガキンチョ小悪魔がちょっかい出してくるのは必至!!」
 そう言って、ホワイトボードにチャカチャカと誰かの顔をかく。絵心のない事この上もなく、何処の誰なのかも判別出来ないが、それに矢印が付けられて、バカだのナマイキだのと書かれている辺りを見ると、多分件の少女なのだろう。
 「うしゃしゃしゃ、ミカねえさん、くすぐったいのれす!!」
 表面にペンを走らせられたホワイトボードが、そう言って身悶えする。
 どうやらこのホワイトボード、ミドリが化けているらしい。
 「コラ、ミドリ!!ホワイトボードは書かれるのが仕事なの!!大事な役なんだから、我慢しなさい!!」
 「は、はいなのれす・・・。」
 「よろしい!!・・・で、どこまで話したっけ?」
 「『悪魔がちょっかいを出してくる』までですわ。」
 小首をかしげるミカに、アユミが溜息をつきながら教える。
 「ああ、そうだったわね。つまり、そーいう訳だから、みんな、悪魔撃退のアイディア、どんどん出してちょうだい。」
 「うーん。そう言われてもなぁ・・・」
 ツバサが頭を捻る。
 「アタシ達、まだそいつに会ってもいないし。アイディアって言われてもなぁ・・・」
 「情報ふじゅーぶんなのー。」
 パリポリと煎餅なぞ齧りながらクルミが言う。
 「あーもう!!締まらないわねぇ。もっと緊張感を持ちなさいよ!!緊張感を!!」
 鞭を振り振り、ミカが檄を飛ばすが、皆どうも今一つ覇気がない。
 「ご主人様が里帰りしてもう五日ですからねえ。皆、ご主人様分が不足してるんじゃないですかぁ?」
 ぬるく冷ましたお茶を啜りながら、タマミが言う。
 「うー、ナナ、ご主人様に会いたいよー。」
 「るるたんもなんだぉー。」
 「モモ、寂しいです・・・。」
 しょぼくれる三人。
 「う・・・それ言うんだったら、ミカだって同じよぉ・・・。ああ、ご主人様ぁ・・・プリーズ・・・」
 そう言って、へなへなと崩れ落ちるミカ。
 「はぁ・・・これでは対策会議もへったくれもありませんわね・・・。」
 アユミが何度目かも知れない溜息をつく。
 と、そこでお茶を飲み終わったタマミがポンと手を打つ。
 「こういう時はあれですね。『敵を知り己を知らば百戦危うからず』。ね、アカネお姉ちゃん。」
 そう言って、視線をテーブルの隅でうつ向いているアカネに向ける。
 「アカネお姉ちゃん。アカネお姉ちゃんってば!!」
 タマミに呼びかけられ、アカネはハッとしたように顔をあげる。
 「え、あ、ああ、何?」
 「もう、どうしたんですか?ボーッとして。らしくないですよ?」
 「ご、ごめん。少し考え事してたから。」
 「もー、ミドリお姉ちゃんじゃないんですから。しっかりしてくださいよ。」
 「そうれすよー。アカネさん、ミドリさんみたいなアカネさんなんて、アカネさんらしくないのれすー。」
 「そこはアンタの言う事じゃないだろ・・・」
 とうとうと・・・と言うにはいささかのんびりした口調で話すホワイトボードに向かって、ミカが突っ込む。
 「まぁ、それは置いといて・・・」
 タマミが、よっと何かを置く動作をする。
 「うちのメンバーで、一番その子と会ってるのはアカネお姉ちゃんです。どうですか?何かこう、弱点みたいなものはー?」
 「弱点・・・?」
 それを聞いたアカネは、クスリと笑う。それはどこか、自嘲的な笑みだった。
 「・・・あの娘に、弱点なんかないよ。」
 「アカネちゃん・・・?」
 その様子におかしさを感じたアユミが声をかけるが、アカネは構わずに続ける。
 「あの娘は強い・・・。あんなに強い存在、わたしは知らない・・・。」
 「ちょっとアカネ、敵を誉めてどうすんのよ?」
 「・・・敵?」
 バンッ
 突然響く、大きな音。
 アカネがテーブルを叩き、立ち上がっていた。
 「あの娘が敵だって言うんなら、わたし達はなんなのさ!?」
 激昂。
 その場の全員が驚く。
 「ご主人をお守りするって言ったって、その術も、力もない!!ただご主人様の優しさにぶら下がって悦に入ってる、すねかじりじゃないか!!それで、何が守護天使さ!?笑わせないでよ!!」
 「ア・・・アカネちゃん!?」
 ランが落ち着かせようとするが、アカネの暴走は止まらない。
 「皆にも話したろ!?あの娘が悪魔に転生する為にとった道を!!手段を!!あの悪夢みたいな世界で、たった一人で、狂いそうになって、狂いながらも想いを抱き続けて・・・。敵う訳ないだろ!?めいどの世界なんて生温い世界で、メガミ様に護られて、沢山の仲間に囲まれて天使になったわたし達なんかが!!」
 その言葉に、今度はミカがいきり立つ。
 「何言ってんのよ!?それじゃあんた、アイツにご主人様取られても仕方ないって言うの!?」
 「そんな事言ってない・・・!!だけど、これだけは言えるよ!?この期に及んでこんな間抜けな座談会でお茶を濁してる様じゃ、あの娘からご主人様を護る事なんて、絶対に出来ない!!出来っこない!!」
 「この・・・!!」
 ミカが手を振り上げる。思わず目を瞑るアカネ。しかし、頬を打つ衝撃はいつまでたっても襲ってこなかった。
 アカネが瞑っていた目を開ける。
 そこには、手をふりあげたミカを抑えるツバサとクルミの姿。
 「は、放しなさいよ、あんた達ー!!」
 「そう言う訳には・・・」
 「いかないなの〜!!」
 そんな三人を前に、呆然と佇むアカネ。と、その袖を引く者がいる。
 見れば、目に涙を浮かべたモモが首を横に降りながらアカネの袖を握りしめていた。
 「あ・・・」
 我に帰った様に、周りを見回す。
 悲しそうな顔で見つめているラン。
 困ったようにオロオロしているタマミ。
 「アカネ姉ちゃん・・・ミカ姉ちゃん・・・」
 「けんかしちゃいやだぉー。」
 ナナとルルも、半べそをかいて見つめている。
 ポン
 誰かが、アカネの肩を叩いた。
 振り返ると、そこには厳しい顔をしたアユミ。
 「アカネちゃん。席を外してください。」
 「え・・・?」
 「些か、冷静さを失ってらっしゃる様です。少し、頭を冷やしてきてください。」
 「・・・でも・・・!!」
 「今のあなたでは、皆の枷にしかなりません!!」
 きっぱりと、言う。
 「・・・分かった・・・。」
 そう言うと、アカネは部屋を出て行った。
 それを見送ると、アユミはホッと息を吐いて、今度は今だツバサとクルミに束縛されたままのミカに向き直る。
 「・・・と言う訳ですから、ミカさん。いい加減その手を下ろしてくださいませんこと?」
 そう言われ、ミカはやっとその手を下ろす。
 やれやれと手を離す、ツバサとクルミ。
 「・・・ったく、一体どうしたのよ。あの娘。」
 眉間に寄ったしわを揉みほぐしながら、ミカが言う。
 「少し前から、様子がおかしいとは思っていましたが・・・」
 開いたままの戸の向こうに、アユミは心配げな視線を送る。
 「思ったよりも、悪魔から受けた影響が大きかったのかもしれません。私達も、いささか浅慮だったでしょうか・・・」
 「・・・分かります・・・」
 不意に聞こえた声に、皆の視線が集まる。
 その中心には、顔をうつむかせたランの姿。
 「ランには分かります・・・。アカネちゃんの気持ち・・・。」
 ランのその言葉に、その場にいる皆が返す言葉を持たなかった。


 その頃、アカネは一人ベランダへと出ていた。
 一つ深呼吸をすると、空を見上げる。
 今夜は晴れという話だったが、見上げる空は雲に覆われ、シトシトと霧雨が降っていた。
 「ふふ・・・ルルのせいだな・・・。」
 そう呟くと、欄干にもたれてそのまま座り込む。
 馬鹿な事を言ってしまった。今更ながらに後悔する。
 今は、こんな内輪揉めなどしている時ではないというのに。
 「本当、どうしようもないな・・・。わたし・・・。」
 「そんな事ないれすよ。」
 「!!」
 急にかけられた声に驚いて顔を上げると、そこにはいつのまに来たのか、両手を後ろ手に組んだミドリがこちらを見下ろしていた。
 「ミドリ・・・。」
 「アカネさんがどうしようもなかったら、ミドリさんなんかもっとどうしようもないのれす。」
 そう言うと、ミドリはアカネの隣にチョコンと腰を下ろす。
 「アカネさん、悪魔さんの事、怖いれすか?」
 その言葉に、アカネの肩がビクリと震える。
 しばしの間。
 やがて、アカネは 躊躇いがちに頷いた。
 それを見たミドリは、腕を組んで「うーん」と唸り出す。
 「アカネさんをここまで怖がらせるとは、悪魔さん、恐るべしなのれす。一体、どんな凄い方なのれしょう?」
 そう言って、両手で顔を隠す。
 ドロン
 そんな音とともに、顔を覆った手の間から、煙が上がる。
 「こんなれすか?」
 手を離すと、出てきたのはベロベロと舌を出す一つ目小僧の顔。
 「ぶっ!?」
 思わず手で口を押さえるアカネ。
 「それとも、こんなれすか?」
 また、ドロン。
 今度は洗面器が入りそうな程大きな口をした、つるっぱげの大入道の顔。御丁寧に鼻毛まで飛び出ている。
 「くっ・・・あは、あはははは」
 アカネは、堪らず笑い出す。
 「あはは、はは、は・・・息、苦し・・・分かった、分かった!!わたしの負けだ!!だから・・・はは・・も、止めて・・・あはははは・・・」
 「アカネさん、やっと笑ったのれす。」
 顔を元に戻しながら、ミドリは微笑む。
 「・・・まったく、敵わないな。ミドリには・・・」
 目じりの涙を拭きながら、アカネはそう言ってはぁ、と息をついた。
 「何か、しんどい時には、笑うのが一番れすよ。笑えば、悲しいのも、辛いのも、みんなどこかに飛んでっちゃうれす。トキさんが言ってました。」
 「トキさんが・・・」
 「トキさんだけじゃないのれす。千石屋のご主人さんも、ミカ姉さんも、アユミ姉さんも、みんな、みんな、アカネさんの事、心配しているのれす。」
 それを聞いたアカネは、また目を伏せる。
 「・・・分かってるよ。よく、分かってる・・・。だけど・・・」
 口ごもるアカネの顔を、ミドリは心配げに覗き込む。
 「悪魔さん、そんなに怖いお顔なんれすか?」
 その言葉に、アカネはクスリと笑う。
 「顔は、怖くないよ。むしろ、可愛いくらい。背丈だって、ミドリと同じくらいだ。」
 言いながら、ミドリの頭をポンポンと叩く。
 「ほえ・・・じゃあ、何がそんなに怖いのれすか?」
 「怖いっていうのは、そういう“怖さ”じゃないよ。」
 そう言うと、アカネは欄干にもたれかかって天を仰ぐ。
 「あの娘と会ってると、話してると、自分の心を見透かされる様な気がするんだ。」
 「心の奥、れすか?」
 「ああ。心の奥の、もっと奥・・・。自分の心の暗い、部分。」
 「心の、暗い部分?」
 「そう・・・。」
 アカネは自分の胸に手を当てる。
 「あの娘の目は言ってくるんだ。ここにいるお前は、本当のお前じゃない。それは、ご主人様を、世界を騙すために作られたただの偽物。本当のお前は、もっと醜い。嫉妬深くて、残酷で・・・。ご主人様をお守りするのも、お世話をするのも、本当は自分の独占欲を満たしていたい、ただそれだけで、ご主人様の事なんて本当は何も考えちゃいない・・・。」
 胸に当てられた手が、ぎゅうっと服を握り締める。
 「所詮、天使(お前)も、悪魔(わたし)と同じなんだって・・・!!」
 掴む手に絞られた襟が、ギリギリと首を絞める。
 「否定したい・・・否定したいのに・・・!!」
 自分で自分を苛む様に、首を絞める手に力を込める。
 「わたしはそれを否定出来ない!!するだけの強さも、力もない!!全てをさらけ出すあの娘は、あんなにも強いのに!!」
 ミドリは、何も言わない。ただ、黙ってアカネの言葉を聞いている。
 「わたしは・・・わたしは・・・!!」
 堪らず、両手で顔を覆う。指の隙間から、滴がこぼれた。
 と―
 フワリ。
 不意に頭が、柔らかい温もりに包まれる。
 アカネの頭を、ミドリが優しく抱き包んでいた。
 「ミドリ・・・?」
 「大丈夫れすよ・・・。」
 アカネの髪を優しく撫でながら、ミドリが言う。
 「ほら。アカネさんはこんなにあったかいのれす。こんなあったかい人が、偽物の筈ないのれす。」
 「・・・でも・・・」
 その言葉を遮る様に、ミドリが抱き締める腕に力を込める。
 その腕の温もりが、鼓動が、より強く感じられる。
 「ミドリさんも、あったかいれすよね?」
 「・・・・・・。」
 温かい腕の中、アカネは小さく頷く。
 「ミドリさんだけじゃないれす。ご主人様やミカ姉さんもアユミ姉さんも、モモさんにナナさん。みんな、みんなあったかいれす。みんな、一緒なのれす。だから何も心配ないのれす。」
 「・・・ミドリ・・・。」
 「それとも、それでもアカネさんは自分が偽物って言うれすか?それじゃあ、ミドリさん達やご主人様も、偽物だってことになっちゃうれすよ?」
 「・・・う・・うぅ・・・」
 細かく震え出す、アカネの肩。薄い胸に埋められた顔から、漏れ出す嗚咽。
 「だから大丈夫。大丈夫れすよ・・・。」
 ミドリは言いながら、優しくアカネの頭を撫で続けた。
 いつまでもいつまでも、撫で続けた。
 ・・・いつしか霧雨を降らせていた雲は晴れ、半分に満ちた月が優しく地表を照らし始めていた。


 「―全く、敵わないわねぇ・・・。」
 「さすがは相棒、といった所でしょうか。」
 ベランダの様子を覗きながら、ミカとアユミは小声でそう呟きあう。
 「それにしても、どうする?あのガキンチョ小悪魔の対策。」
 「ユキ・・・メガミ様から11人でも張れる御封陣の方法を教わっています。いざと言う時には、それを使ってご主人様をお守りしましょう。それより気になるのは・・・」
 「あの小悪魔が言ってたっていう、「次の満月までご主人様を守れば、ミカ達の勝ち」っていう話?」
 ミカの言葉に、アユミは頷く。
 「あんなガキンチョの言う事なんか、当てになる訳ないでしょ。出鱈目よデ・タ・ラ・メ。」
 「そうでしょうか?それでもあの娘、アカネちゃんには妙な義理堅さを持ってる様に思えます。まんざら出鱈目とも・・・」
 「じゃあ、どう言う意味だっていうのよ?」
 「それが分かれば苦労は・・・」
 「う〜ん?」
 「ふ〜む?」
 一緒に頭を捻る二人。しかし、答えなど出る筈もなく―
 「あー、もう、やめやめ!!とにかく、次の満月までご主人様をあの小悪魔に渡さなければいいだけじゃない!!あいつの言う事がウソかホントか、そん時なってみれば分かるわよ!!」
 「まぁ、それはそうですけど・・・。あとですね、実はもう一つ気になる事が・・・」
 「ナナやクルミの話?」
 「ええ。」
 ミカの言葉に、アユミは頷く。
 「あんなの、人違いに決まってるでしょ?あいつがそんな玉かどうか、あの日しっかり確かめたじゃない?それとも何?あんたまだあいつと交渉の余地があるとでも思ってんの?」
 「可能なら、それに越した事はないとは思っていますが・・・」
 今だ思案顔のアユミに向かって、ミカがピラピラと手を振る。
 「あんまり悩んでると、禿げるわよ。だいじょーぶ。いざとなったら、こっちにはユキ(メガミ様)っていう奥の手があるんだから。負けやしないって・・・」
 「それも、腑に落ちないんですの。」
 「え?」
 「こちらに、メガミという絶対上位の存在があるというのに、あの娘にはそれを気にする様子もありませんでした。あんな狡猾な娘が、そんなリスクを放っておくとは思えないんですが・・・」
 「何よそれ・・・。向こうにも、何か奥の手があるって言うの?」
 ミカの問いに、アユミは黙ってうつむくだけだった。


 ―アユミとミカが頭を悩ませていた丁度その頃、遠く離れたとある人里離れた山の中―。
 ヴォン ヴォン ヴォン
 夜の静けさを裂いて、周囲に満ちる羽音。
 深い夜闇の中、無数の蜂を引き連れた少女がその顔に薄笑みを浮かべて立っていた。
 「ふふ、これか・・・。」
 少女の前にあるのは、見上げる程に巨大な岩。
 その表面は酷く苔生し、それが遥か昔からここに鎮座している事を如実に伝えていた。
 少女はツカツカと岩に近づくと、その表面を指先でコンコン、とつついた。
 「もしもし、聞こえますかー?」
 返事をする者はいない。しかし、少女は構わず続ける。
 「・・・“あんた”、いい加減寝疲れたんじゃない?」
 囁く様にそう言いながら、少女は岩に頬を寄せる。
 「ねぇ?うんざりしてるでしょう?”何百年”も、こんな中に閉じ込められて・・・」
 誘惑する様な、甘い声音。
 「・・・出してあげようか・・・?」
 ピクリ
 その言葉に、岩の中で何かが動く。
 「わたしが出してあげる。それだけじゃない。極上の“餌”も用意してあげる・・・。」
 岩に囁きながら、その表面を指先でくすぐる。
 「美味しいよ。ホントに、”上物”中の”上物”なんだから・・・。」
 ゾロリ・・・
 岩の中で蠢く、”何か”の気配。
 「だから、ね?ちょっとだけ、言う事聞いてくれない・・・。」
 キチリ・・・
 それに応える様に、岩の中から小さく響く、音。 
 それを感じた少女は、クスクスと嬉しげ笑う。
 「契約、成立・・・。おありがとうござい・・・。」
 岩を撫でる少女の指に、淡い光が灯る。
 深い山林の中、無数に舞う蜂の羽音だけが、不気味に夜の静寂に響いていた。



                                    続く
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