木曜日。2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
新品価格 |
―闇歌(やみうた) 禍歌(まがうた) 呪歌(のろいうた)―
「何を・・・する気だ・・・?」
自分を見上げる少女に向かって、アカネが唐突にそう問いかけた。
「何って?」
少女が訊き返す。酷く、白々しく。
「あなたは・・ご主人様に、何をする気なんだ・・・?」
「分かってんじゃないの?」
微笑む。ゾッとするほど、朗らかに。
「この間、わたしがあげた、もう一つのヒント。分かってるんでしょ?そっちの方も。そこまで辿り着いたんだもの。分かってない筈、ないよね?。正解だよ。それ。」
自分の考えが正しい事を肯定する、その言葉。けれど、それを聞いた途端、逆にアカネはさらに険しく、その顔を強張らせた。
「・・・あの時・・・。」
―黄昏に染まる部屋。
望まざれど開かれた、茶会。
少女が手に弄ぶティーカップ。
底に積もった、溶けかけの砂糖。
踊る指。
幽かに響いた、唄。
漏れる、朱煌。
そして、サラリとこぼれる、真っ白い砂糖。
ミカが言っていた。
手品か何かで摩り替えたに決まっていると。
けど。
「・・・違う。あれは、確かに“水に染まった”砂糖だったんだ・・・。それを、あなたが・・・”白”に戻した。」
「ほら、やっぱり、分かってるじゃん。」
少女が笑う。コロコロと。酷く、嬉しそうに。
「笑うなっ!!」
思わず声を荒げ、その勢いのまま、アカネは少女に詰め寄った。
揺れる互いの髪先が触れ、互いの瞳に映る鏡像が見取れる距離。
問い詰める。
「答えろ・・・!!」
それが、どんな“力”なのかなんて訊こうとは思わない。
どんな類の“力”であれ、もたらす結果はどうせ同じ。
例え、幾千幾万の“力”の類があったとしても、この娘が望む“結果”の形はただ一つしか有り得ないのだから。
だから、それを確かめる事など無為。
「・・・あなたは・・・その“力”で・・・」
それよりも、今確かめるべきは、その奥に在る真意。
その“力”がもたらす結果をもって、何を成すのか。
何を望むのか。
知るべきは、それ。
けど、
けれど―
本当はそれすらももう、訊く必要など無いと、分かっていた。
何故なら、その結果から成せる事もまた、ただ一つしかないのだから。
ならば、
もはやそれは想定ではなく、確信。
可能性ではなく絶対。
けれど。
それでも、まだ、確かめずにはいられなかった。
認めたくはなかった。
自分が抱くのと同じ、想い。同じ人へと向ける、想い。
それが、そんな“形”を取るなどという事を。
そんな“形”に、歪むなどという事を―
「・・・ご主人様に、何を、する気なんだ!?」
だから、問う。
―クス、クスクスクス―
耳朶に響く笑い声。
少女は、笑う。自分を見下ろすアカネを上目づかいに見ながら、酷く、楽しげに。そして、嬉しげに。
「えらいえらい。よくそこまで、自力で辿り着けたねぇ?誉めたげるよ。まぁ、もっとも・・・」
笑いながら、スルリと立ち上がる。
「なんとなぁく、気付くなら“キミ”じゃないかな、とは思ってたけどね・・・。」
そう言って向けた顔には、それまでにない親しげな色が浮かぶ。
「・・・どういうことだ・・・?」
自分に対する呼びかけの型が、妙に馴れ馴れしい「キミ」に変わったことに眉を潜めながら、アカネが問う。
「だから、なんとなく、だよ。」
言ってまた、クスクス笑う。
「でも、そこまで辿り着くとは思わなかった。天使の思考傾向じゃ、結構ムズイと思ったんだけど・・・。きっと、思考傾向がわたしと似てるんだろうなぁ?」
と、そこで言葉を切り、考える様に人差し指で唇を撫でる。
「ねぇ、キミさ、本当は天使より悪魔の方が向いてるんじゃない?」
「―っ、ふざけっ・・・!?」
侮辱ともとれる言葉に荒げた声を、思わず飲み込む。
頬を這う、酷く冷たい感覚。
音も無く伸び来た白い指。それが、サラサラとアカネの頬を撫でていた。
「―っ!!?」
思わず飛びずさろうとしたアカネの身体が、ガクリと止まる。
アカネの顔を、一瞬早く伸びた少女の両手が、挟み込む様にして捕らえていた。
「なっ・・・あっ!?」
驚く間もあらばこそ、そのままグイッと強く引かれる。
その華奢な身の何処にあるのかと思う程に、抗い難い力。
成す術もなく引き寄せられた顔が、互いの鼻先スレスレで止まった。
「いいなぁ、その顔。キミ、やっぱり可愛いねぇ・・・。」
視界いっぱいに迫った、琥珀の瞳。それが内に暗い煌を籠もらせながら、ニタリと歪む。
貫く悪寒。頬に張り付く薄氷の皮膚が、アカネの体温を慈しむ様に吸い上げる。
「いいよ。答えてあげる。」
琥珀の深淵の奥で、朱い灯火がボゥと灯る。
「キミの疑念に。キミの未知に。キミの深憂に。」
朱い焔が這い上がる。ユラリユラリと、揺らめきながら。
「その疑念が会得に変わる様に。その未知が既知に変わる様に。その深憂が、本当の畏怖に変わる様に―」
這い上がった朱が、ゆっくりと琥珀の輝きを染めてゆく。
朱く、朱く、深く、深く。
見つめ合う、アカネの瞳も、染めてゆく。
「う・・・!?」
不意に襲う、強い目眩。頭の隅で危険を伝える警鐘が鳴るが、身体が麻痺した様に動かない。
頬を挟んでいた両手がスルスルと首に回り、アカネの頭を抱く様に絡めこむ。
近い顔がさらに寄せられ、互いの額と額が、ヒタリと着く。もう、互いの視界を占めるのは、互いの瞳だけ。
「放、せ・・・!!」
抜け行く力を振り絞り、もがく。
けれど、細腕の束縛は微塵も揺るがない。
「大人しくしなさい。いい娘だから。」
愚図る妹を諌める様に、少女が言う。
「いいものを、見せてあげるから。」
白い髪がザワリとざわめき、そして薄い唇が静かに踊り始める。
『―♪町の仕立て屋の娘さん
問屋の旦那に恋煩い
だから ない知恵絞って考えた♪―』
(また・・唄・・・?)
それは西洋の童唄を思わせる、場違いといえば場違いな詩列。
けれどそこに絡み付く旋律は、ただ唄と呼ぶにはあまりにも深冷で、そして禍々しい。
戸惑う様に彷徨った視線が、ふと自分たちの足元に落ちる。
最初に目に飛び込んだのは夜目に眩しい、螢緑の煌。
何時の間にか淡く灯る陰火が地を走り、彼女たちを中心に奇怪な円陣を描き出していた。
(魔法・・陣!?)
それに内包された無数の幾何学模様が、少女の唄声に合わせる様に明滅する。そして、その様が、少女が紡ぐ“唄”の正体をアカネに教える。
(違う・・ただの唄じゃない!!これは・・・魔法起動の呪歌!?)
心臓が、今度こそ恐怖に跳ね上がる。
けれど、気付いた時にはもう遅く―
『―♪わたしの心臓(ハート)とあの人の心臓(ハート)
縫って合せりゃ想いはいっしょ
こりゃとびきりいい考えと
勇んでシャキシャキ 仕立ての準備♪―』
夜闇に放たれた禍唄が終句を結ぶ。
途端、アカネの視界は真っ赤に染まり、世界が傾ぐ。
(・・・あ・・・?)
朱に染まる視界。その端で舞う、白銀の髪。響く余韻。吸われる体温。甘い、香り。
「―怖がらなくていいよ。これは、ただの―の魔法・・・。だから、怖くないよ・・・。」
ゆっくりと帳の堕ちる意識。その端で、少女が囁く。
酷く優しく。淡々と。
「そう。怖く、ないよ・・・。」
笑う声。
サワサワ、サワサワ、髪が舞う。
朱く傾ぐ世界。
歪んだ三日月。
そして、
―暗転。
続く
タグ:天使のしっぽ
【このカテゴリーの最新記事】