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2012年05月31日

十三月の翼・17(天使のしっぽ・二次創作作品)







 木曜日。2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
 ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意



イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。

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   ―闇歌(やみうた) 禍歌(まがうた) 呪歌(のろいうた)―

 
 「何を・・・する気だ・・・?」
 自分を見上げる少女に向かって、アカネが唐突にそう問いかけた。
 「何って?」
 少女が訊き返す。酷く、白々しく。
 「あなたは・・ご主人様に、何をする気なんだ・・・?」
 「分かってんじゃないの?」
 微笑む。ゾッとするほど、朗らかに。
 「この間、わたしがあげた、もう一つのヒント。分かってるんでしょ?そっちの方も。そこまで辿り着いたんだもの。分かってない筈、ないよね?。正解だよ。それ。」
 自分の考えが正しい事を肯定する、その言葉。けれど、それを聞いた途端、逆にアカネはさらに険しく、その顔を強張らせた。
 「・・・あの時・・・。」

 ―黄昏に染まる部屋。
 望まざれど開かれた、茶会。
 少女が手に弄ぶティーカップ。
 底に積もった、溶けかけの砂糖。
 踊る指。
 幽かに響いた、唄。
 漏れる、朱煌。
 そして、サラリとこぼれる、真っ白い砂糖。
 
 ミカが言っていた。
 手品か何かで摩り替えたに決まっていると。
 けど。
 「・・・違う。あれは、確かに“水に染まった”砂糖だったんだ・・・。それを、あなたが・・・”白”に戻した。」
 「ほら、やっぱり、分かってるじゃん。」
 少女が笑う。コロコロと。酷く、嬉しそうに。
 「笑うなっ!!」
 思わず声を荒げ、その勢いのまま、アカネは少女に詰め寄った。
 揺れる互いの髪先が触れ、互いの瞳に映る鏡像が見取れる距離。
 問い詰める。
 「答えろ・・・!!」
 それが、どんな“力”なのかなんて訊こうとは思わない。
 どんな類の“力”であれ、もたらす結果はどうせ同じ。
 例え、幾千幾万の“力”の類があったとしても、この娘が望む“結果”の形はただ一つしか有り得ないのだから。
 だから、それを確かめる事など無為。
 「・・・あなたは・・・その“力”で・・・」
 それよりも、今確かめるべきは、その奥に在る真意。
 その“力”がもたらす結果をもって、何を成すのか。
 何を望むのか。
 知るべきは、それ。
 けど、
 けれど―
 本当はそれすらももう、訊く必要など無いと、分かっていた。
 何故なら、その結果から成せる事もまた、ただ一つしかないのだから。
 ならば、
 もはやそれは想定ではなく、確信。
 可能性ではなく絶対。
 けれど。
 それでも、まだ、確かめずにはいられなかった。
 認めたくはなかった。
 自分が抱くのと同じ、想い。同じ人へと向ける、想い。
 それが、そんな“形”を取るなどという事を。
 そんな“形”に、歪むなどという事を―
 「・・・ご主人様に、何を、する気なんだ!?」
 だから、問う。
 ―クス、クスクスクス―
 耳朶に響く笑い声。
 少女は、笑う。自分を見下ろすアカネを上目づかいに見ながら、酷く、楽しげに。そして、嬉しげに。
 「えらいえらい。よくそこまで、自力で辿り着けたねぇ?誉めたげるよ。まぁ、もっとも・・・」
 笑いながら、スルリと立ち上がる。
 「なんとなぁく、気付くなら“キミ”じゃないかな、とは思ってたけどね・・・。」
 そう言って向けた顔には、それまでにない親しげな色が浮かぶ。
 「・・・どういうことだ・・・?」
 自分に対する呼びかけの型が、妙に馴れ馴れしい「キミ」に変わったことに眉を潜めながら、アカネが問う。
 「だから、なんとなく、だよ。」
 言ってまた、クスクス笑う。
 「でも、そこまで辿り着くとは思わなかった。天使の思考傾向じゃ、結構ムズイと思ったんだけど・・・。きっと、思考傾向がわたしと似てるんだろうなぁ?」
 と、そこで言葉を切り、考える様に人差し指で唇を撫でる。
 「ねぇ、キミさ、本当は天使より悪魔の方が向いてるんじゃない?」
 「―っ、ふざけっ・・・!?」
 侮辱ともとれる言葉に荒げた声を、思わず飲み込む。
 頬を這う、酷く冷たい感覚。
 音も無く伸び来た白い指。それが、サラサラとアカネの頬を撫でていた。
 「―っ!!?」
 思わず飛びずさろうとしたアカネの身体が、ガクリと止まる。
アカネの顔を、一瞬早く伸びた少女の両手が、挟み込む様にして捕らえていた。
 「なっ・・・あっ!?」
 驚く間もあらばこそ、そのままグイッと強く引かれる。
 その華奢な身の何処にあるのかと思う程に、抗い難い力。
 成す術もなく引き寄せられた顔が、互いの鼻先スレスレで止まった。
 「いいなぁ、その顔。キミ、やっぱり可愛いねぇ・・・。」
 視界いっぱいに迫った、琥珀の瞳。それが内に暗い煌を籠もらせながら、ニタリと歪む。
 貫く悪寒。頬に張り付く薄氷の皮膚が、アカネの体温を慈しむ様に吸い上げる。
 「いいよ。答えてあげる。」
 琥珀の深淵の奥で、朱い灯火がボゥと灯る。
 「キミの疑念に。キミの未知に。キミの深憂に。」
 朱い焔が這い上がる。ユラリユラリと、揺らめきながら。
 「その疑念が会得に変わる様に。その未知が既知に変わる様に。その深憂が、本当の畏怖に変わる様に―」
 這い上がった朱が、ゆっくりと琥珀の輝きを染めてゆく。
 朱く、朱く、深く、深く。
 見つめ合う、アカネの瞳も、染めてゆく。
 「う・・・!?」
 不意に襲う、強い目眩。頭の隅で危険を伝える警鐘が鳴るが、身体が麻痺した様に動かない。
 頬を挟んでいた両手がスルスルと首に回り、アカネの頭を抱く様に絡めこむ。
 近い顔がさらに寄せられ、互いの額と額が、ヒタリと着く。もう、互いの視界を占めるのは、互いの瞳だけ。
 「放、せ・・・!!」
 抜け行く力を振り絞り、もがく。
 けれど、細腕の束縛は微塵も揺るがない。
 「大人しくしなさい。いい娘だから。」
 愚図る妹を諌める様に、少女が言う。
 「いいものを、見せてあげるから。」
 白い髪がザワリとざわめき、そして薄い唇が静かに踊り始める。

 『―♪町の仕立て屋の娘さん
 問屋の旦那に恋煩い
 だから ない知恵絞って考えた♪―』
    
 (また・・唄・・・?)
 それは西洋の童唄を思わせる、場違いといえば場違いな詩列。
 けれどそこに絡み付く旋律は、ただ唄と呼ぶにはあまりにも深冷で、そして禍々しい。
 戸惑う様に彷徨った視線が、ふと自分たちの足元に落ちる。
 最初に目に飛び込んだのは夜目に眩しい、螢緑の煌。
 何時の間にか淡く灯る陰火が地を走り、彼女たちを中心に奇怪な円陣を描き出していた。
 (魔法・・陣!?)
 それに内包された無数の幾何学模様が、少女の唄声に合わせる様に明滅する。そして、その様が、少女が紡ぐ“唄”の正体をアカネに教える。
 (違う・・ただの唄じゃない!!これは・・・魔法起動の呪歌!?)
 心臓が、今度こそ恐怖に跳ね上がる。
 けれど、気付いた時にはもう遅く―

 『―♪わたしの心臓(ハート)とあの人の心臓(ハート)
 縫って合せりゃ想いはいっしょ
 こりゃとびきりいい考えと 
 勇んでシャキシャキ 仕立ての準備♪―』

 夜闇に放たれた禍唄が終句を結ぶ。
 途端、アカネの視界は真っ赤に染まり、世界が傾ぐ。
 (・・・あ・・・?)
 朱に染まる視界。その端で舞う、白銀の髪。響く余韻。吸われる体温。甘い、香り。
 「―怖がらなくていいよ。これは、ただの―の魔法・・・。だから、怖くないよ・・・。」
 ゆっくりと帳の堕ちる意識。その端で、少女が囁く。
 酷く優しく。淡々と。
 「そう。怖く、ないよ・・・。」
 笑う声。
 サワサワ、サワサワ、髪が舞う。
 朱く傾ぐ世界。
 歪んだ三日月。
 そして、

 ―暗転。



                                           続く
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