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海上自衛隊幹部中級課程にて体験した、特別警備隊副長吊し上げ事件というのがあります。
上官を吊し上げしたのは、最初で最後の体験でもありました。
何が起きていたのか?なぜ中級学生があんなに激怒したのか?
今回は、吊し上げ事件の背景と顛末についてお話いたします。
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(1)隊員を増強いしたい?身勝手なことを言ってるんじゃねえ!
幹部中級課程の授業の中で、特別警備隊に関する授業が行われました。
特別警備隊に関する授業は、細心の注意を払って行われます。
・授業名の秘匿化(別の授業名に書き換え)
・ノート・メモの厳禁(情報保全のため)
・マイクの不使用(電波受信による漏洩を防ぐため)
これほどの注意を払って、厳格に行わます。
1.1 部隊を2個中隊に増強したい
特別警備隊副長により、特別警備隊の訓練・任務の授業が行われ、内部用広報PVによる訓練映像も流されました。
その後、将来的な計画として2個中隊規模への部隊増強計画と、要員募集の呼びかけが副長からありました。
そして質疑応答に入ったとたんに、副長吊し上げ大会になってしまいました。
(関連記事):【海自】特殊部隊を作った男の「功と罪」を考える。
図1 特別警備隊
引用URL:在日フランス大使館facebookより
1.2 怒りの矛先は部隊全般へ!
中級学生の怒りは、要員選抜訓練から広報用PVでの装備情報の話など多岐にわたりました。
特に航空畑の学生の怒りは相当なものがあり、実際にSBUを載せて降下訓練を実施したHSパイロットもいました。
彼にすると、実際に見ていたものと授業で見せられた内容が違うものです。
(111空HSパイロット)
『我々にも秘匿するのか!実際に合同訓練に参加した者まで!』
艦艇畑の人間も、人事関係で怒り心頭です。
・『訓練脱落者の人事評価を下げて部隊に返して、希望者が増えると思っているのか!』
・『人事評価のせいで職種転換せざる得なくなった海曹もいるんだぞ!』
我々中級艦船装備課程の中には、艦発隊でSBUの装備研究に従事した先輩もいました。
『一般公開と変わらない装備を見せてどうする!そこまでして情報を秘匿したいか!』
(関連記事):【艦発隊】特別警備隊(SBU)に関係する研究について
1.3 統率科長:落ち着け!冷静に意見上申を提出しろ!
完全な吊し上げ状態になり、統率科長(1佐)が仲裁に入りました。
(統率科長)
『諸君らが、非常に憂いているのはよくわかったが今ここで吊し上げても問題は解決しない。』
『一度冷静になれ、そして意見のあるものは文書に書き起こして私に提出しろ。』
統率科長の仲裁により、完全に頭に血が上っていた中級学生は冷静さを取り戻しました。
仲裁が無ければ、何時間でもやっていたと思います。
それほど、特別警備隊に対しての怒りが各部隊で蓄積していたのだと思います。
あの死亡事故の件もあり、相当ヒートアップしていました。
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(2)コースアウトしてしまう特警隊行き
なぜこれほど、中級学生が特別警備隊に対して怒りを感じてしまうのか?
当時の人事評価体系や、その後の人事教育育成計画が破綻してたからです。
特修科である「特別警備基礎課程」「特別警備応用課程」にも問題がありました。
2.1 脱落者を不適格扱い!
特別警備隊は、高度で通常よりも厳しいことは明白でありどうしても脱落者が発生します。
人事評価体制についても、ある程度融通を効かせるべきでした。
ただ当時では脱落者の扱いを、通常の課程教育と同じように扱っておりました。
特別警備隊の基礎課程・応用課程については、第1術科学校(特別警備隊)が、人事評価を行います。
課程の離脱希望者について、「志望課程を履修する意志がない」という扱いになり人事評価が行われました。
ここで「自己都合での学生罷免(怠け者扱い)」の扱いになり原隊復帰とさせられると、その後の評価が悪くなっていきます。
元々特別警備隊を志願する海曹・幹部は、勤務評価の良いものが結構多くいました。
一度不適格をつけられると、以前の評価に戻すには時間が掛かり、昇給対象への影響も重なり隊員がやる気を失う状態でした。
志願者の人事上の扱いを見て、後輩隊員に特別警備隊への志願意欲を失わせていたのです。
2.2 異動した特警隊員にも厳しい扱い。
特別警備隊の隊員となって勤務をした隊員にも、厳しい現実が当時にはありました。
特別警備隊の勤務を終了した隊員は、元の職種で活躍しながら部隊警備能力強化の基礎要員というのが創設時の人事体系構想でした。
しかし、現実には元の職種に戻っても階級・職歴相応の技量が釣り合わない現実があり、中級・上級の海曹特技課程に進めず職種転換をせざるを得ないものが多く出ました。
最初の人事教育体系の構想が破綻した現実を、中級学生たちは分隊士・分隊長としてみてきました。
その怒りが、SBU副長吊し上げ事件につながりました。
図2 特殊部隊
引用URL:flickr.com
2.3 ある体育幹部の嘆き
特別警備隊への怒りと共に、ある体育幹部の嘆きもありました。
『俺がいたら絶対にそんなことはさせなかった』
中級共通教育で一緒になった、体育科教官(体育幹部)の嘆きがありました。
この方は、自衛隊体育学校で徒手格闘を習得して指導教官の資格も持っていました。
徒手格闘有資格者が作成した特警隊の徒手格闘訓練カリキュラムが存在していたはずが、死亡事故が起きて初めて作成してあったカリキュラムが書き換えられていたことが判明したのです。
(体育幹部が3術校教官に転出した後、カリキュラムが改変されていた。)
体育幹部は、嘆きと共に相当な怒りを持っていました。
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(3)秘密主義と知識習得の狭間における葛藤
中級課程における特警隊副長吊し上げ事件は、いろんな背景の上に起きた事象でした。
特別警備隊に関する情報は、秘匿情報とすべきものですがあまりにも秘密主義になっていました。
中級学生にさえ何も情報を示さない状態で要求ばかりが先行し、志願した隊員や脱落者へのフォローが不十分でした。
当時はすでに特別警備課程志願者が不足して、隊員補充も出来ず長期在籍者がいる有様でした。
そこに2個中隊規まで増強したいという、楽観的な発言が火をつけた状態です。
中級課程卒業後、特別警備隊に関する扱いについていくつかの改善策が実施されたのがせめてもの救いです。
少しは、部隊運用及び教育訓練への意見上申が効いたのではないかと思います。
現在は、もっと改善しているといいなあ・・・
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しかしこうやって憤りを直接伝えるほど仕事に向き合う人達が沢山いることが何よりも今後の展望が明るいものになるだろうという期待にもなります
いつか変わるものと願います!
特警隊要員による、自隊警備練度向上については一部実施されて成果が上がったところもあれば、あまり行われなかったところもあります。
横須賀陸警隊の市街戦練度についてはかなり上がりました。
しかし、地方部隊などでは温度差がありうまくいかなかった部分もあります。
皮肉な話として、一番練度が上がったのが造修補給所や弾薬補給所などの補給部隊・機関だったりします。
(職種転換したSBU要員が後方部隊に配置された例が多く、結果自隊警備訓練の練度向上につながる皮肉な結果になりました)