K君の息子がバドミントンをやっているようで、そのトーナメント表を見たら僕の息子の名を見つけたと。明日(5日)に行くので来ないかと。
心臓の鼓動が高まった。対面するには試合という重要な場だ、それはそぐわない。試合には母親も見に来るだろうとか色んなことが去来する。
でも聞いた以上、行くしかない。遠くから見れればそれでいい。
とても大きな会場で人で溢れていた。
まずはK君に連絡。そしたらK君の息子が出たダブルスはもう負けて終わったので帰るという。こちらに戻って初めて会うのでしばらく立ち話。K君が息子の学校の応援席を通った選手に聞いてくれた。そんなことさえ自分で出来ないくらいの臆病さがその時の自分だ。
息子の高校の選手たちが座っている席の後ろに陣取る。
16面のコートで男女が試合。ダブルスが終わってからシングルスの試合ということだが、どの試合をしているのか分からない。K君からはシングルスの組み合わせの表しかもらっていない。会場でも配っていない。アナウンスで試合番号と高校、選手を読み上げたのを聞くのが唯一の方法。
会場に着いたのは10時半くらい。1時間ほど耳を傾けていたがずっとコートではダブルスの試合。息子はダブルスには出ないのだろうか、それも分からない。大会本部は組合せ表も配布しなければ進行状況も貼りださない。
朝飯も食ってきていないので近くで何か食事をと会場を出た。何もない場所だ。会場の前の洋食屋に入るがほぼ満員で食事が終わるまで1時間かかった。
息子の高校の応援席のすぐ近くの父兄席に座れた。依然コートはダブルスの試合。応援席に座っているだろうかと注視する。あの子じゃないかなと思う子がいた。2年前に両親に会いに来てくれた時よりも少し雰囲気は似ていて目元は自分、鼻の高さは母親によく似てる。
遠くから横顔をズームで何枚も写メを撮る。
息子がその子だという確信も持てないので感情の持って行き場がない。14時過ぎまで居たがずっとダブルスでシングルスが始まる気配がないので家に帰った。
帰ってからもモヤモヤしていた。
正しい行動だったのか、他にすることはなかったのか。でもどうしょうもない、息子らしき人物を眺めながら呑んで過ごす。この子が息子なのか確信がないからどうしようもない、思い込むこともできない。
翌日の朝はタンスの整理をしていた。寝室は服を置いているがタンスの中の整理が全くできていない。
そうしているとK君からメッセージが来た。
「○○君(息子)が1回戦に勝って2回戦を今日やるよ」
悩むことはないのだが、自分の近くに息子がいるということだけでも値打ちのある事なのだ、すぐに向かった。
会場でK君と落ち合う。K君と息子の母親は我々の結婚前からテニス仲間だった。そしてK君の奥さんは息子の母親と幼なじみという関係。10年位前まで息子を見かけるたびに写メを送ってくれていた。奥さんの両親も息子を見かけると写真を撮ってくれてK君経由で送ってくれていた。
K君の息子もシングルスの試合がある。二人で会場アナウンスに注意しながら話し込んでいた。そしたらK君が○○さんが来たという。息子の母親、自分の元嫁だ。
我々の後ろで立っているようだ。
会って話すには何故この場所にいるかと説明も必要だ。実家に移り住んだことも知らない。彼女の精神を乱したくない。この場で17年ぶりに会うにはそぐわない。
しばらくすると前のスタンドに移動して熱心に試合を見ている。自分が見える範囲にいてくれたら偶然出くわすこともない。
K君がトイレにいった。その時に彼女と出くわした。もちろん自分が来ていることはK君は言わない。
なんと息子のシングルスの試合は終わって帰るということだった。熱心に見ていたのは息子の試合だったのだ。自分たちの席からは手前のコート3面は見えなかった。それと息子だと思っていた子はずっと座ったままだったのだ。アナウンスに耳を傾けてはいたが聞き逃していたようだ。
がっかりした、仕方がないが。それと同時に座っていた子は完全に他所の子だった。(2年前の息子の写真をK君に見せたところ間違いないと言っていたくらい似ていた)
K君が生徒に息子がどこに座っているか聞いてくると言ってくれた。その行為が息子の耳の入ったらどうだろうかとも考えたが、試合も見れなかったのでその行為に甘えた。
「2列目の2番目にいる」とK君が聞いてきた。その方向を後方ナナメから見る。背の高さが座っていても分かる、肩幅も広い。少し顔が見える、間違いない。涙でかすむ。
彼はコートで試合している選手を応援している。
もう我慢が出来なかった。彼らの席の前に行ってカメラを自撮りにして息子を正面から眺めた。そして写メも撮った。
席に戻ると彼らの席が騒然とし、息子を含めた何名かがこちらを見ている。そして息子がスマホをこちらに向けて写真を撮る。
この時は父親が来たということが解ってそうしたのかと思った。
後で考えると、自分が不自然に写真を撮っていることを誰かが見て、女子の盗撮犯に思われたのかもしれない、そして息子は犯人の写メを撮ったのか。
盗撮犯には間違いない。でもどっちだと思って自分の写メをとったのだろうか。
思い切って声をかけるか?どうすべきか自分で判断ができなかった。17年ぶりにじかに自分の息子を見たことでこれ以上望むことなどできなかった。精神が高ぶり過ぎていた。
K君の息子の試合もいつやるか分からないので帰ろうということになった。それに救われたように同調した。
帰りに彼の前を通っていく。彼を見上げて一瞬立ち止まる。彼の高校が試合中だったようだ。一瞬彼はこちらを見たがすぐにコートに目が行く。こちらに何の関心も向けなかった。
やはりあの時はただの盗撮犯だと思われたのだろうか。写メを撮った時は青のサングラスに青のマスク。目の前を通るときはサングラスから普通のメガネ。さっきの盗撮犯としてももう認識されなかった。
そもそもは、息子に気づいてもらえないかという自分の情けなさだと後になって思う。
帰ってからも色々と思った。果たして自分の行動が正しかったのか、足りなかったのか。
でも仕方ない、舞い上がってしまっていた。
こどもの日、プレゼントを貰ったのは自分だ。
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image