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2023年06月15日

私だけの特捜最前線→86「リミット1.5秒!〜かつてのライバル、桜井と元刑事の差は何だったのか」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回紹介する「リミット1.5秒!」は、桜井刑事(藤岡弘、)主演の正統派刑事ドラマとも言えるようなハードボイルドな作品となっており、最後の最後まで手に汗握る展開のドラマです。

桜井を拉致する元刑事

路上で拉致された女性(音無真喜子)からと思われる電話を受けた桜井刑事は、指定された場所へと向かったまま消息を絶ちます。特命課の刑事たちが懸命に探していた頃、桜井と女性はある場所に監禁されていました。

桜井を監禁したのは、8年前まで同僚だった元刑事(川地民夫)。当時、彼は拉致監禁事件に巻き込まれ、極限状態に置かれたなかで侵入してきた警官を犯人と間違えて撃ってしまいます。

元刑事は警察の査問委員会で停職の懲戒処分となりました。その決定に対し、「直後に事件現場へ来た桜井が自分に不利な証言をしたためだ」と誤解したまま、元刑事は辞職して姿を消していたのです。

桜井の監禁はその復讐で、元刑事は「これは裁判なんだよ、桜井」と薄笑みを浮かべます。仲間である右足を引きずる男が、一緒に監禁されている女性を激しく痛めつけます。桜井にはそれが耐えられません。

別室に連れ込まれた女性の悲鳴が、桜井をどんどんと追い込んでいきます。桜井は、あの時の元刑事と同じように精神的なダメージを受け、極限状態に達しようとしていたのです。

桜井をワナにはめる元刑事

特命課の捜査によって元刑事の所在が明らかになります。一筋縄ではいかないと考えた神代課長(二谷英明)は、あの時の事件の調書を持参して元刑事のもとを訪ねました。

神代は「拳銃を持つ者は冷静で客観的な判断が求められる。君ほどの腕前だったなら、1秒あれば判断できたはずだ」と語ります。しかし元刑事の復讐心を覆すことはできません。

元刑事は、監禁中の桜井に対して「俺にわびろ」と命じます。しかし桜井もまた、「冷静で無い者は拳銃を持つべきではない」と言い切ります。そこで元刑事は、最後のワナを仕掛けるのです。

尾行中の吉野刑事(誠直也)の右足を狙撃し、病床の吉野の元に「監禁場所に一人で来い」という脅迫状を送り付けた元刑事。あの時と全く同じ状況をセッティングし、桜井を試そうとしたのでした。

仲間の男と同じように、右足を引きずりながら単身乗り込んできた吉野。女性に促され、拳銃を構える桜井刑事・・・だが彼は、元刑事とは違い1秒を待つことができ、ワナにはまらなかったのでした。

桜井と元刑事との差とは

このドラマは、拉致監禁という極限状態の姿を演じた藤岡弘、さんの熱演と、冷酷な復讐鬼ぶりを見せてくれた元刑事役の川地民夫さんの名演技に尽きると思います。

ともにエリート刑事として切磋琢磨したライバル。二人の差は、どんな極限状態であっても冷静な判断ができたか、できなかったか、だけでした。そのことを元刑事のラストのセリフが物語っています。

クライマックスで、踏み込んできた男(吉野)を冷静に見極め、引き金を引かなかった桜井。元刑事は「1秒の負けだ。だが、この1秒の差は大きい」と、ようやく自分の非を認めたのでした。

元刑事は犯罪を犯すようなダーティーな人物ではなく、あくまでも自分の正当性を証明したかった、それを桜井に認めさせたかっただけでした。実の妹を使って、痛めつけられる女性の演技をさせてまでも・・・

その女性役は、当時の人気女優だった音無真紀子さんが演じています。ドラマ終盤で真相が明らかにされるまでの痛めつけられぶりも、迫真の演技だったと言えるでしょうね。

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2023年06月08日

特捜最前線 登場人物コラム「特命課・紅林警部補」

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今週は、ドラマ解説ではなく、ちょっとした小話を書きます。題して「登場人物コラム」。
登場するのは、特命課の紅林警部補です。

横光克彦さん演じる紅林警部補は、番組初期に桜井警部(藤岡弘、)がニューヨークへ赴任することに伴い、外事課との合同捜査を経て、後任として着任しました。

自己紹介の時、高杉刑事(西田敏行)に下の名前をいじられると、すかさず「親が付けてくれた大事な名前だ」と怒り、早くも生真面目さを見せてくれます。

比較的若くして警部補に昇進しているので、エリート刑事ということが言えるでしょう。同郷の公安幹部から「俺の下で働かないか」と誘われたこともありました。

若手刑事のなかでは地味なタイプであり、自身が主役となる回以外では存在感が薄いようです。ただ、時折鋭い推理を見せつけることもあります。

紅林のエピソードといえば、幼い時に生き別れになった母親を探すというドラマが挙げられるでしょう。別人が母親に成りすましていた第1作目を経て、完結編であるドラマ「面影列車」が作られます。

紅林が母親の消息をつかんだ時、母親は交通事故で亡くなっていました。深い悲しみのなかで思い出した「母親の口癖」が、ドラマのクライマックスにかかわっていたというストーリーは感動ものでした。
私だけの特捜最前線→60「面影列車!〜紅林刑事は母と再会できたのか?」

生真面目なタイプの紅林ですが、物事を斜に構えて見る傾向があり、時には皮肉を言ったり、茶化したりすることもあります。

典型的な体育会系である橘警部(本郷功次郎)や吉野刑事(誠直也)、体を張ることが多い叶刑事(夏夕介)とは一線を画すタイプなので、特命課という個性派集団の中では貴重なバイプレイヤーでしたね。

紅林を演じる横光克彦さんにとっても、特捜最前線は俳優としての代表作になったでしょう。横光さんは後に政治家に転じ、衆議院議員を計7期も務めました。

今回のコラムはここまでといたします

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2023年06月01日

私だけの特捜最前線→85「女未決囚408号の告白!〜母親と娘の愛憎に切り込む桜井刑事」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回は「女未決囚408号の告白!」をご紹介します。主役は桜井刑事(藤岡弘、)で、公判直前の殺人事件に対し、謎として残された点を推理しながら事件の真相に迫っていくという話です。

幼女の謎の言葉の意味は?

夫を刃物で刺し殺した女性(中村晃子)を逮捕、送検した特命課。検察も起訴し、初公判が開かれようとした時、謎として残された2点が引っ掛かる桜井刑事は、独自に再調査を行います。

1点目は両手で握っていた刃物に指紋が8本しか残っていなかったこと。もう1点は事件直後に女性がどこかへ電話をかけるのを目の前で見ていた幼女の謎の言葉「メリーさんのひつじ」でした。

幼女は「電話がメリーさんのひつじを歌ったの」と言い、桜井が「それは男の声?女の声?」と聞くと、「電話の声」と返したのです。この謎の意味がどうしても分かりません。

女性は4人姉妹の長女で、木彫り職人の母親(佐々木すみ江)とは犬猿の仲でした。事件の1年前には、家族全員が集まる中で母親にナイフを突きつけ、火のついたタバコを投げ捨てるという悪態を見せていました。

桜井は拘置所にいる女性に連日面会し、真相を探ろうとします。しかし、女性は桜井に罵声を浴びせるだけ。激しい怒りを誘ってしまったことから、ついに桜井は面会中止へと追い込まれてしまいます。

女性と母親の真相に切り込む桜井

特命課の調べで、女性が母親にナイフを突きつけた出来事の前日、母親の夫が眠る墓所の近くで一家5人が焼死する火事が起きていたことがわかり、火事の直前に母親が墓参りに来ていたことも判明しました。

その姿を女性が目撃していたこと、母親が普段から煙管を吹かしていたこと、そして殺された夫が何らかのネタで母親を脅そうとしていたこと・・・こうした状況をもとに、桜井は一つの推理を導き出します。

それは「女性が夫を殺した理由は、母親を守るためだった」。表向きには憎しみ合っていた女性と母親ですが、実は心の底で深く結びついていました。その立証となったのが「メリーさんのひつじ」だったのです。

夫を殺した女性は、母親の元に電話をかけますがすぐに切ってしまいます。思い直してリダイヤルを押し、もう一度電話をかけようとしますが、やはり母親が出る前に切ってしまったのです。

ミレドレミミミと鳴ったリダイヤル音こそが、幼女が聞いた「メリーさんのひつじ」でした。さらに女性の関係者の中で、このリダイヤル音となる電話番号の持ち主は母親宅だけだったのです。

母親と娘の真の姿を映像で見せる

この作品は、謎解きの部分も面白かったのですが、何といっても母親と娘(女性)との関係性を分かりやすく描いた点にあります。脚本の長坂秀佳氏も、監督の天野利彦氏も見事としか言いようがありません。

ドラマ中盤過ぎに、母親と娘が同じしぐさをするシーンを対比するように演出しています。例えば、枕を軽くたたく癖とか、タオルを干すときのしわ伸ばしであるとか、お茶を飲む時に一礼する姿とか・・・

口ではお互いを罵っている母娘ですが、そうした場面を流すことで絆の深さを見せつけてくれました。終盤には、女性が幼いころ、母親のしぐさを真似する姿を見せる「感涙もの」のシーンもあったほどです。

面会を拒否する女性に対し、桜井は手紙で自分の推理について書き記しながら、「真相が分かっても量刑は変わらないかもしれません。でも、心が違います」と訴えかけます。

推理が正しいことの証明として、凶器の握り方を示してほしいと書き残した桜井。裁判に出廷する直前、桜井の前で女性はゴルフクラブの握り方をしてくれます。桜井の気持ちが通じたラストシーンでした。


母親役を演じた佐々木すみ江さんといえば、2008年の大河ドラマ「篤姫」に主人公の養育係「菊本」役として出演しています。

主人公が将軍家に嫁ぐことになった時、菊本は「自分のような身分の者が養育係と知れたら面子が立たない」と案じ、自害することで自分の存在を消してしまったのです。

遺言となった「女の道は一本道でございます」という言葉は、その後の篤姫こと天璋院の生涯を決定づけていきました。脇役でありながら、主役級に負けない強烈な印象に残ったことが記憶に残っています。


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2023年05月25日

私だけの特捜最前線→84「殺人トリックの女!〜白川由美さんゲスト出演も夫婦共演せず」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回は第350回記念作品「殺人トリックの女!」をご紹介します。このドラマは何といっても、ゲストに二谷英明さんの妻である白川由美さんが登場したのが全てだと言い切ってもいいでしょう。

白川さんは東宝のスター女優として活躍中、当時日活のスターだった二谷さんと結婚。二人はおしどり夫婦として評判だったそうです。娘は、女優から実業家に転身した二谷友里恵さん。

二谷英明さんの看板ドラマだった特捜最前線で、白川さんがゲスト出演するというのは大きなトピックスだったでしょう。白川さんは法歯学者の冷泉教授役として出演しています。

裏の裏をかいた巧妙なトリック

荒川で男性の遺体が発見されます。自殺か他殺か不明でしたが、男性の衣服にヘロインが縫い付けられていたことから、麻薬組織に関係がある人物とみて特命課が捜査に乗り出しました。

現場検証にやって来たのが、神代課長(二谷英明)と因縁浅からぬ法歯学者の冷泉教授(白川由美)。冷泉教授の洞察力や分析力は確かなものがありますが、なぜか特命課を目の敵にしているのです。

冷泉教授によって、被害者は多摩川で殺害された疑いがあることがわかり、被害者も特定されます。さらに歯の治療痕の捜査によって、歯科大学病院の男性助教授が容疑者として浮上しました。

ところが、神代課長の指摘によって「女の仕業と見せかけた男」の裏をかいた「女の犯行」だと見破ります。そして、新たに容疑者として浮かび上がったのが、次期教授争いをしていた女性助教授だったのです。

冷泉教授によってトリックを次々と暴かれていく女性助教授。そして決定的な物的証拠を突きつけられ、ついに自白に追い込まれます。女性助教授は「男に負けたくなかった」とつぶやくのでした。

神代課長VS冷泉教授のバトル

このドラマは、長坂秀佳氏脚本の真骨頂とも言えるトリックに次ぐトリックの連続で、正直なところ、最初に見た時は冷泉教授のトリック破りを理解するのに苦労したほどです(苦笑)

それ以上に見どころだったのは、神代課長VS冷泉教授のバトルです。実はこのドラマで二人は直接共演していません。電話を通じたやり取りが一度だけあったきりです。

物証を積み重ねながら、犯人像を絞り上げていく冷泉教授。その結果「男性助教授が犯人ではないか」という結論を導き出します。ところが神代課長は「メモ書き」という形で冷泉教授に忠告するのです。

「策士策に溺れ、知将知に溺れる」「犯人に法医学知識あり」「ヘロインの意味は何か」。とくに、冷泉教授が見落としていたヘロインの謎を解いていく過程で、女性助教授の犯行が立証できたのでした。

今回は直接対決がありませんでしたが、第419回「女医が挑んだ殺人ミステリー!」では、神代VS冷泉が見られます。すなわち、おしどり夫婦の共演というわけです。いつかご紹介したいと思っています。

冷泉教授に対抗する吉野と紅林

別なお楽しみとして、冷泉教授と特命課員との対決シーンも見逃せません。とくに吉野刑事(誠直也)紅林刑事(横光克彦)は、かなりの対抗意識を燃やしていました。

吉野刑事は現場検証の場で早くも衝突。検視結果報告の場では、自殺と決めつける吉野に対し、「自殺だとしたら、ずいぶん難しい死に方をしたものですねえ」と冷静に論破されてしまいます。

捜査で冷泉教授とコンビを組まされた吉野は、神代課長を敵視する冷泉教授に対し、「うちの課長は男です」と擁護する熱弁を振るいますが、冷泉教授はサラリと聞き流してしまうのでした。

紅林刑事は冷泉教授に「理詰めで皮肉っぽい口」をききます。しかし、ヘリコプターを操縦させられた挙句、「ただ乗ってみたかっただけ」と軽くあしらわれてしまいます。

単純で一本気な吉野は、冷泉教授の人間性にひかれていきますが、紅林の方は「法歯学だか何だか知らないが・・・」などと、なかなか認めようとしません。このあたりの二人の対比もなかなか面白いですね。

ちなみにおやっさん(船村刑事、大滝秀治)と橘刑事(本郷功次郎)は、触らぬ神に祟りなしという姿勢に終始しています。これは「年の功」とでも言うべきサラリーマンの知恵なのでしょうか(笑)

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2023年05月18日

私だけの特捜最前線→83「パパの名は吉野竜次!〜子役が人間味あふれる吉野をサポート」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回はタイトルでも分かるように、吉野刑事(誠直也)主演の「パパの名は吉野竜次!」をご紹介します。と言っても、本当の主役は竜太役で出演した子役(岩淵健)だと思っています(笑)

吉野を「パパ」と慕う子供

高速道路で6歳の男の子が保護されました。彼が父親を吉野竜次だと話したことから、特命課に届けられてきます。そして、身に覚えがなく面食らう吉野刑事に「パパぁ」と抱きつくのです。

調べたところ、男と一緒にいる母親から「吉野のところへ行け」と放り出されたことが分かりました。さらに子供には長い間虐待を受けたと思われる傷が全身にあったのです。

男が手配中の暴行犯と分かり、吉野は子供に母親のことを問い詰めます。子供は吉野を父親だと思っていましたが、吉野が「俺は君の父親じゃない」と叱り飛ばすと、ついに母親の名前と住所を告白したのです。

翌朝、子供は吉野の家から姿を消します。そして母親は、吉野が所轄署に居た時、コインロッカーに生まれたばかりの赤ちゃんを捨てようとした当時16歳の少女だったことも分かりました。

吉野は、子供を捨てて男と逃げた母親を許せず、神代課長(二谷英明)に「俺が育てます」と宣言します。しかし、子供と母親が再会し、親子の絆の深さを見せつけられた吉野は、寂し気な思いで見守ったのでした。

吉野の人間的な魅力が随所に

この回は、誠直也さん演じる吉野刑事の人間ドラマと言い切っていいほど、吉野がクローズアップされています。DVDシリーズでは、吉野主演作は数少ないのですが、そのなかでもこの作品は名作と言っていいでしょう。

ドラマの前半は、父親にされて面食らいながらも、子供の面倒を一生懸命見ようとする吉野のコミカルさが見られます。しかし、事実が徐々に分かってくると、次第にシリアスに変わっていきます。

吉野は母親である少女と出会った時、彼女に「神様は必ず見ているし、助けてくれる。この子は君以外に頼れる人間はいない」と諭し、父親が誰だか分からなくても、子供を育てるように促していました。

その少女の存在を完全に忘れていた吉野は「俺が言った言葉は恥ずかしい」と忘れていたことを猛省します。一緒にいたおやっさん(大滝秀治)は「忘れない人間などいない」と慰めるのです。

女が「あの子はロッカーで死ぬはずだったんだ」とうそぶいていたことを聞き、怒りに震える吉野。そして嫌がる女を無理やり引きずって、子供が入院している病院に連れて行く吉野・・・

吉野刑事は一本気で直線的な描かれ方をされがちですが、この作品では心根の優しいナイーブな一面も見せてくれます。脚本は竹山洋氏が手掛けていますが、竹山氏はのちに吉野刑事殉職編も書いています。


それから、何といっても子役の岩淵健さんの演技が素晴らしく、ドラマを盛り立ててくれています。とくに、母親を最後までかばい続ける場面は、涙なしには見られないでしょう。

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2023年05月11日

特捜最前線 登場人物コラム「特命課・桜井警部補」

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今週は、ドラマ解説ではなく、ちょっとした小話を書きます。題して「登場人物コラム」。
登場するのは、特命課の桜井警部補です。

桜井警部補は、番組スタート時からのレギュラーメンバーの一人で、最初の頃は「警部」の肩書だった超エリートでした。演じたのは藤岡弘、さんです。

初期の桜井は、神代課長(二谷英明)に次ぐナンバー2の立場にあり、ドラマの演出では他のメンバーとは一線を画し、神代と並ぶ二枚看板的な感じで扱われていました。

藤岡さんが他のドラマに出演するため、番組を離れることになり、ドラマ上では「外国に逃亡した麻薬密売組織を追うため、アメリカに派遣される」という設定がされたのです。

そして1年後、桜井は「ニューヨーク市警から追放されたダーティーな刑事」として帰国するというセンセーショナルな再登場を果たします。その破天荒で自分勝手な行動ゆえに、特命課への復帰も「警部の身分はく奪」という異例の形でした。

特命課ですでにナンバー2の座にいた橘警部(本郷功次郎)とは、ギクシャクした関係がしばらく続きましたが、桜井は徐々に橘の実力を認めていき、神代の両腕として活躍することになります。

桜井のキャラクターは、鋭い推理力と素早い行動力で事件解明に導く天才肌の刑事で、それが時には単独行動につながっていくこともありました。

印象的なエピソードとして、「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!」を挙げます。問答無用で犯人を射殺した疑いをかけられた桜井が、査問にかけられる話です。
私だけの特捜最前線→17「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!〜真相究明を拒む桜井の真意は?」

桜井は、人質になった女性の名誉と尊厳を守るため、あえて自分が泥をかぶりました。その真相を橘ら特命課の刑事たちが突き止めていく・・・見事なドラマでした。

個人的には、桜井は「プロフェッショナルに徹した刑事」という印象を持っています。上司や同僚としては、とても頼もしい存在なのですが、プライベートな面ではやや近づきがたい感じかな(笑)

今回のコラムはここまでといたします。

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2023年05月04日

私だけの特捜最前線→82「少年はなぜ母を殺したか!〜舞台は裁判所の法廷内だけという斬新な演出のドラマ」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回は後期の異色作ともいえる「少年はなぜ母を殺したか!」を紹介します。なぜ異色かと言うと、最初から最後まで裁判所の法廷でドラマが展開するという斬新な演出だったからです。

被告人は有罪か無罪か。法廷で繰り広げられる検察側と弁護側の対決に、神代課長(二谷英明)ら特命課の面々をどうやってかかわらせるのか。脚本の長坂秀佳氏の腕の見せどころでもあります。

被告人は有罪か、無罪か

被告人は21歳の男性。女性検事(関弘子)による冒頭陳述は「被告人はマリファナや野球賭博に狂い、それを見とがめた母親といさかいになって殺してしまった」とし、被告人も起訴事実を認めています。

法廷に神代課長ら特命課のメンバーが入場します。裁判では出番なしのはずなのに、なぜでしょう。その答えは、女性弁護人(山口果林)が「被告人は無罪」と言い切ったことにありました。

特命課は、被告人の供述と実際の行動との間におかしな点があるとして、検察から再調査却下を言い渡されたのにもかかわらず、独自に捜査を始め、被告人にはアリバイがあることを突き止めていました。

おやっさん(船村刑事、大滝秀治)らが弁護側証人となって、捜査で得た矛盾点を語っていくのですが、女性検事は反対尋問でことごとく退けます。そして、論告求刑で「無期懲役」と断言したのです。

ところが最終弁論で、特別弁護人として神代と叶刑事(夏夕介)が加わり、新たな証人に立った桜井刑事(藤岡弘、)と橘刑事(本郷功次郎)によって、衝撃の事実が突き付けられたのです。

桜井と橘の捜査で、マリファナと野球賭博に狂っていたのが実は母親のほうだったと判明。だが、被告人は涙を流しながら「違う」と反発します。なぜか・・・実は、真犯人は父親(石濱朗)だったのです。

母親の真実が暴かれた家族は

このドラマは、裁判所の法廷だけで1話完結するという斬新な演出に目がいってしまいがちですが、被告人と父親、母親、妹や弟をめぐる家族愛の部分がとても印象的なストーリーになっています。

母親の乱行を知っていた被告人は、そのことを父親にも妹弟にも隠し通そうとします。事実を知って怒りのままに母親(妻)を殺してしまった父親の罪までも一身にかぶろうとしたのです。

ラストシーンで証言台に立った父親が犯行を自白したことで、すべてが明らかになってしまいます。父親は、被告人がなぜ身代わりになったのかを独白していくのです。

被告人は「母が悪人としてさらされるのは耐えられない。あんな母でも、自分にとって優しい、女神のような母さんだった。母の名誉を守るために罪をかぶる」と、父親に告げたそうです。

それは同時に、心臓に病気を持つ父親が収監されることには耐えられないだろうという気遣い、同じように母を慕う妹弟に真実を知られたくないという思いが混ざり合ったものでもありました。

被告人が無罪となっても、誰一人として喜ぶ者はいません。家族たちは当然ですが、女性弁護士も、特命課の面々も同じです。ゆえに、今回のドラマも超激辛のラストで終わってしまいました。

特命課を「弁護側」にした演出

もう一つの見どころは、警察機構にある特命課が「弁護側」に立って、被告人の無罪を証明した点にあります。検察側で犯罪を立証する展開よりも、かなりハードルが高い展開だと思われます。

特命課を積極的に裁判にかかわらせるため、弁護士資格の無い者が被告人の弁護活動をできる「特別弁護人」という仕組みを使っています。これは刑事訴訟法に規定されており、神代の切り札でもありました。

検察が起訴に持ち込んだ犯罪を、あえて独自の再捜査に踏み切った理由として、証人尋問に立った紅林刑事(横光克彦)は「組織としてより、人間としての道を取るという神代の方針だ」と言い切っています。

ストーリー解説で書いたように、事件の真相を知って利を得る者は誰もいません。しかし特命課は「真実を追及することこそ、刑事の務め」という原点を守り、供述の矛盾を突き崩すことにしたのです。

極論かもしれませんが、初動捜査をした所轄署や検察が、被疑者の自白ばかりを優先させたがゆえに「一つ間違えれば冤罪を生み出しかねない事態に陥っていた」ということを言いたかったのではないでしょうか。



弁護士役の山口果林さんは、特捜最前線では他の作品にも同じ役柄で出演しています。関弘子さんの眼光鋭い検事役がドラマを引き締めてくれましたし、父親役の石濱朗さんの独白シーンも素晴らしかったです。

なお、ドラマが法廷だけを舞台としていたため、母親役はキャスティングされていません。女優によっては先入観を持たれてしまう可能性もあったので、この点でも見事な演出と言えるでしょうね。

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2023年04月27日

私だけの特捜最前線→81「ナイター殺人事件!〜昭和の家族の風景を描いた作品」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回紹介する「ナイター殺人事件!」は、昭和の高度成長期だからこそ作れたドラマと言ってもいいでしょう。その時代を知る者には、懐かしくもある家族の風景が描かれているからです。

事件は、叶刑事(夏夕介)が引っ越してきた高層住宅団地で起きます。ストーリーを解説する前に、ドラマ中盤で吉野刑事(誠直也)が見た「団地の光景」について触れます。

吉野の言葉を借りると、「どの家庭にも父親がいて、母親がいて、子供が1人か2人いて、テレビの置き場も座る位置も一緒で、見ている番組はナイター中継」。そして「まるで画一的だ」とつぶやくのです。

画一的といえば、高層住宅団地は間取りも同じ。昭和の時代、テレビは一家に一台、チャンネル権は父親にあり、ナイター中継は巨人戦。ドラマでも、王貞治選手が登場する場面が再三写されていました。

銃の暴発事故、実は計画的殺人だった

さて、ストーリー解説を始めます。事件は、王選手がホームランを打った瞬間に起こります。子供がいたずらしていた銃が暴発し、向かいの棟に住む男性の頭を銃弾が直撃するという事故が発生します。

叶刑事は、男性の葬儀後の妻の行動に不審を抱き、捜査を開始します。事情聴取での子供の父親の供述と、子供が銃で遊んでいた行為にも矛盾点が見つかり、事故ではなく事件だったという確信を持つのです。

やがて、男性には一戸建て住宅資金のために生命保険がかけられていることがわかり、父親は子供の育児に振り回されていて「逃げた妻の代わりになる女性が欲しい」と思っていたことも判明します。

利害関係が一致した妻と父親には男女関係もあり、事故に見せかけた殺人の疑いが濃くなってきました。しかし、二人とも「カーテン越しでは家の中は見えない」「過失致死による事故だ」と頑強に否定します。

ここで、吉野刑事の「画一的な家族」という言葉がヒントになります。叶刑事は、茶の間で男性の座る位置に、あらかじめ照準を合わせておき、ナイター中継のクライマックスで狙撃するトリックを見破ったのです。

特命課によって、妻と父親は逮捕されました。後に残された父親の子供が、ぼんやりと外を眺めている姿を見て、叶刑事は「醜い事件に巻き込まれ、子供が宙に浮いてしまった」と複雑な表情を浮かべるのでした。

トリックを見破った叶刑事の鋭さ

このドラマは、叶刑事の洞察力と推理力が存分に発揮された回でした。とくに、銃の暴発に見せかけたトリックを見破っていく過程では、叶刑事の鋭さが際立つように描かれています。

非常によくできたストーリーだったのですが、腑に落ちない脚本・演出もあります。それは、叶の自宅の隣に住む浪人生の存在です。彼は引っ越し当日から「うるさい」と苦情を吐くような胡散臭い人物でした。

浪人生は、実は空き巣の常習犯で、事件当日も空き巣狙いに失敗した直後、父親が銃を撃つ瞬間を目撃していました。それをネタに父親を脅迫し、口止め料を要求するのです。

最後は、父親と浪人生がもみ合いになり、そこに妻が加わったところで、特命課が3人を取り囲み、一網打尽にするという展開。事件の全面的な解決という点では、スッキリしたのかもしれません。

ですが、あえて言うならば、浪人生の役どころが必要だったのかどうか。叶刑事がトリックを鮮やかに見破ったのであれば、そこから事件解決へと導いていく方が良かったのではないかと思えてなりません。



ちなみに、妻役は水島彩子の名前で活動していた頃の奈良富士子さん、父親役は小坂一也さんが演じ、浪人生役として、後半の特捜最前線で準レギュラーとなった梅原正樹さんが出演しています。

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2023年04月20日

私だけの特捜最前線→80「特命ヘリ緊急発進! 〜これぞ本格派刑事ドラマという緊迫のストーリー」

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※このコラムはネタバレがあります。

特捜最前線は社会派ドラマとか、人情派ドラマとか言われがちですが、今回紹介する「特命ヘリ緊急発進!」は、ラストまで手に汗握る本格派の刑事ドラマというストーリーを見せてくれます。

この回の主役は神代課長(二谷英明)ですが、カンコを含む特命課全員に見せ場があり、スリリングかつサスペンスあふれる展開は、長坂秀佳脚本の中でも屈指のドラマと言っていいでしょう。

証言者抹殺を狙う暗殺者VS特命課

空港で不審な外国人を見つけ、とっさに尾行を開始した神代。その外国人はグリーンベレー(アメリカ陸軍特殊部隊群)に所属していたことがある暗殺者だとわかり、特命課全員が一気に緊迫感に包まれます。

外国人はレンタカーで都内のあちこちを移動しますが、神代は漏らさず追っていきます。ライフルを入手した謝礼を包んだ英字新聞と、彼の行動範囲から、特命課は狙われている人物を探り当てます。

その人物はアメリカの政府高官がからむ汚職事件の証言をするため、裁判所に出廷する予定になっていました。陸路では狙撃の危険があるとして、神代は特命ヘリを緊急出動させるのです。

外国人は、デートクラブの女を通して愛人に催涙ガス入りのライターを渡し、愛人はヘリを操縦する紅林刑事(横光克彦)のライターとすり替えます。操縦中にライターを使えば・・・これが真の狙いでした。

紅林に無線で危険を知らせようとする神代。しかし、共犯者が妨害電波を発信させて無線が使えません。証言者が葉巻をくわえ、紅林に火を求めます。すり替えられたライターとは知らない紅林は・・・

結局、危機一髪のところで紅林に危険を知らせることができ、紅林は無事に任務を遂行。神代らは外国人と共犯者を逮捕して一件落着。紅林が戻ってきたところでドラマは終わります。

息つく間もない長坂脚本

この作品というか長坂脚本のスゴさは、冒頭で神代が外国人を目撃してから、ラスト直前の共犯者を逮捕するまで、息つく間もなくストーリーが展開されるところにあります。

まずは、この外国人が何者かを探ることから始まり、次に何が目的で日本にやって来たかを探り、要人暗殺と分かればターゲットとなる人物を探る。そして、共犯者の行方を追う特命課。

外国人は非常に用心深く、簡単にはボロを出しません。限られた時間のなかで推理を重ね、先を読み、部下に指示を出す神代は、まさに「カミソリ」の異名そのままの鋭さを見せつけてくれます。

神代が外国人を逮捕した際、外国人が「グッバイ、カミシロ」と自分の名を口走ったことに疑問を抱き、そこからライターのトリックを見破るまでの流れるような展開は見事の一言に尽きます。

ゲスト出演者との絡みもほとんどないため、メンバーは余計な感情を抱くことなく、忠実かつ徹底して任務にあたります。社会派もしくは人情派の特捜最前線の中では異色の作品ということも言えるでしょう。

ラストで、ヘリから降りてきた紅林が「ライターを持つのが怖くなりましたよ」と苦笑し、応じた神代が「私もタバコは吸わん。当分はな」と笑顔を見せるシーンで、ようやく一息ついたという感じでした。


これだけの本格的な刑事ドラマにあって、特捜最前線らしさが現れたのがクライマックスシーン。拳銃を持った共犯者が廃墟の工場に逃げ込み、神代ら特命課の面々が追い詰めていくところです。

特命課は一発も発砲せず、最後は神代が相手の背後に回って無傷で逮捕にこぎつけました。他の刑事ドラマの演出であれば、おそらく派手な銃撃戦が展開されていたところでしょう。

どちらが見ごたえがあるのか・・・それは好みの問題ということですね(笑)

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2023年04月13日

特捜最前線 登場人物コラム「特命課・橘警部」

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今週は、ドラマ解説ではなく、ちょっとした小話を書きます。題して「登場人物コラム」。
登場するのは、ナンバー2である特命課の橘警部です。

橘警部はスタート当初からのレギュラーではなく、第53話「背番号のない刑事!」が初出演作となりました。演じるのは本郷功次郎さんです。

長崎県警の駐在所勤務だった橘をヘッドハンティングしたのは神代課長でした。登場時こそヨレヨレの小汚い中年男でしたが、すぐにダンディーな刑事姿になっていきました。

橘警部は、特命課のナンバー2として神代課長の右腕となる人物です。神代課長が捜査の指揮を橘警部に委ねる場面が多く、信頼の高さがうかがえます。

桜井警部補(藤岡弘、)と比較されがちですが、天才肌で一匹狼の桜井に対し、橘は地道で丹念な捜査が身上のうえ、メンバーと一緒に行動することが多いです。

事件に対して疑問を抱いたら、とことんまで追及するのが持ち味で、自らを「牛」に例え、小さな証拠を積み重ねながら真相を手繰り寄せる手腕は一目置かれています。

代表的なエピソードには、「虫になった刑事!」があります。容疑者がどんな人間であろうと、捜査の手を緩めることなく、ひたすら真実を追い求める姿は圧巻の一言です。
私だけの特捜最前線→64「虫になった刑事!〜真相究明にとことん尽くす橘刑事のプロ意識」

橘の泣き所は「子供」で、子供が危険にさらされたり、悲しい思いをしたりすることを何よりも恐れます。それは、自分の子供に父親らしいことができなかったという橘の自責の念からきていると思います。

紅林刑事や吉野刑事にとっては、橘警部は上司という立場にもなるわけですが、自ら行動して引っ張っていくタイプなので、言うなれば「親分肌」という感じでしょう。頼もしい限りです。

リアルタイムで見ていた頃は、体育会系っぽかった橘は正直、あまり好きなキャラクターではありませんでした。橘の年齢をとっくに過ぎた今は、むしろ親近感を持って見させてもらっています(笑)

今回のコラムはここまでといたします。

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マイケルオズ@フリーランスライター
「特捜最前線」がマイブームになっているオヤジです。リアルタイムの頃は津上刑事より若かったのに、今はおやっさんよりも年長者になりました(苦笑)
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