2023年10月12日
私だけの特捜最前線→99「哀・弾丸・愛 7人の刑事たちT・U〜船村刑事の葛藤が見事に描かれた大傑作」
※このコラムはネタバレがあります。かつ長文です。
特捜最前線のドラマ解説コラムも99本目となりました。今回は特捜最前線屈指の名作と言われている「哀・弾丸・愛 7人の刑事たち」を紹介します。おやっさんこと船村刑事(大滝秀治)の代表作でもあります。
もともとこの作品は、番組初期に「愛・弾丸・哀」のタイトルで放送されたものをリメイクしたドラマです。船村が主役ではありますが、神代課長(二谷英明)や若手刑事たちの見せ場も用意しています。
銀行強盗を撃てなかった船村
強盗(中西良太)が銀行に立てこもった事件に出動した特命課。強盗からのコーヒー差し入れ要求に合わせて、強行突入に踏み切ることにし、船村刑事と叶刑事(夏夕介)は裏口に回ります。
強盗に足を撃たれた警備員(加藤武)がいたため、看護師を装ったカンコ(関谷ますみ)がコーヒーを持って行内に入っていました。強行突破に逆上した強盗は、カンコと人質の女子行員を撃ったのでした。
その時、船村は犯人を狙撃する姿勢を取りながら、なぜか拳銃を下ろしてしまいます。その結果、強盗を取り押さえはしたものの、撃たれた女子行員は死亡し、カンコも重傷を負ってしまったのです。
ところが事件は解決したわけではありません。銀行側から強盗が奪った金とは別に、3000万円が無くなっているとの通報があったのです。強盗は単独犯ではなかったのか・・・特命課の捜査が始まります。
コーヒーを用意した喫茶店は、強盗が働いていた店でした。マスターの証言で強盗には恋人(芦川よしみ)がいることが分かります。その恋人宅に送り主不明の1000万円が届けられたのです。
共犯者の存在が確定的になり、マスターが怪しいとにらんだ船村と叶。雨の中、逃亡をくわだてたマスターを必死で追う船村。しかし、心臓の発作が起きてしまい、マスターを取り逃がしてしまったのでした。
ミスが続いた船村が起死回生
ミスを犯した船村を心配する特命課のメンバーに対し、神代課長は休養を命じたと説明したうえで「捜査に戻れ」と命じます。そんな時、マスターが入水自殺したとみられる遺体で発見されたのです。
特命課が銀行で再度現場検証を行った結果、3000万円の現金を持ち出せる可能性のある人物として被害者の女子行員をマークします。そして、女子行員が年配の男と一緒にいたとの目撃情報を得たのです。
紅林刑事(横光克彦)らの捜査によって年配の男とは、足を撃たれた警備員だと分かりました。取調室で船村は強盗を厳しく詰問し、警備員が主犯であるとの自供を引き出し、行方を追って出動します。
ライフルを持った警備員が立て籠もっている貨物駅ターミナルに来たメンバー。船村は「心臓の具合が今一つ」だとして待機し、神代らは拳銃を携帯して倉庫へと突き進んでいきます。
警備員は隙をついて、近くにいた子供を人質にして逃走を図ります。それを追うメンバーの耳に、一発の銃声が鳴り響きます。駆け付けた先には、警備員を射殺し、仁王立ちになっていた船村の姿がありました。
刑事局長(御木本伸介)から栄転の名のもとに第一線からの引退を告げられ、一度は退職を決意した船村でしたが、事件解決の功績で刑事の職に踏みとどまります。が、その表情は決して晴れやかではなかったのでした。
退職の意を固めた船村と翻意を促す神代
ドラマの肝は、船村刑事の心の葛藤を描き切っていることに尽きます。第一線から退くよう勧告されていた船村が、刑事でありたいと執着してもがき苦しみ、退職届を出そうかというところまで追い込まれます。
事件関係者として接していた警備員は元刑事で、現職時代に自分と同じ境遇だったことが分かります。警備員は「栄転の話を断ってスッパリ辞めた」と語り、自分の夢を嬉々としてしゃべります。
警備員と意気投合した船村は「この仕事が好きだった。自信があった。紙切れ一枚で横っ面張られたようだった。負けるものかと思っていたらミスをしちまった」と愚痴をこぼし、退職へと傾いていくのです。
ところが紅林刑事の捜査により、警備員は警察を辞めた後、仕事を転々として不遇だったことが分かります。それでも船村は、一度決意した思いを振り切れず、退職届を提出しようと刑事局長の元に出向きました。
そこに神代が現れます。神代は、警備員の辞め方は鮮やか過ぎたとし、「一つの道を進んできた者が、そう簡単に他の道を歩めるものか。私にはできない。未練がましい男なんでね」と語ります。
そして「人間は年を取ることからは逃げられない。でも、年を取らなければできないことや分からないこともある」と諭し、船村に翻意を促します。それでも船村の心はまだ揺れたままでした。
強行突破の時の心境を語る船村
特命課は、行方をくらました警備員の潜伏先を探るため、逮捕した強盗を厳しく追及します。ですが、警備員に大恩がある強盗は口を割りません。そこに船村が戻ってきて、取り調べを申し出たのです。
船村は、強盗に対して「お前のような奴は古だぬきに騙されやすいんだぞ」と、警備員を悪しざまに言いつらいながら追い込んでいきます。この取り調べこそ、船村が真価を発揮した場面と言えるでしょう。
潜伏先に向かう前、船村は強行突破の時の心境を「(強盗を射殺することで)自分がまだやれることを証明したかった」と打ち明け、拳銃を構えた瞬間「(その考えに)ゾッとした」と吐露します。
直前で拳銃を下ろしてしまった船村に、神代は声を震わせながら「それでいいんだよ」と言います。でも船村は「私のためらいが人を殺した・・・それだけが事実なんです」と贖罪の思いを語るのでした。
ドラマには船村の娘である香子(木村理恵)も登場します。香子は、船村の栄転話を聞いて「よかったじゃない」と口にします。でも、心の中では「父さんは刑事を辞める気はないだろう」と思っていました。
船村が休養を申し渡された後、香子は母親の仏壇の引き出しにある退職届を見つけ、動揺します。船村が退職を撤回したと聞いて、一番安堵したのは香子だったのかもしれませんね。
若い刑事たちにもスポット
この作品のサブタイトルには「7人の刑事たち」と付いています。ドラマでは船村や神代課長だけでなく、叶、紅林、吉野といった若い刑事たちにもスポットを当てたシーンが描かれています。
叶刑事は船村とコンビを組むことが多く、体調に不安を抱える船村を常に気遣っていました。一方で、同情されたと思った船村が、叶を激しく叱り飛ばすシーンもありました。
船村が休養を命じられた時、叶は自宅を訪ねます。応対した香子に叶は「いつまでも現場にいてほしい。僕らはみんな、おやっさんを目標にしているんです」と思いのたけを打ち明けました。
警備員を主犯と断ずる紅林は、警備員を信じている船村が「俺の目は節穴だと思っているのか」と激高したのに対し、「この事件に関しては節穴です」と言い返し、その根拠を理路整然と報告します。
直後の車中で紅林は「生意気なことを言いました」と船村に謝り、さらに「(捜査のやり方は)みんなおやっさんに教わったことなんです。おやっさんが辞めるなら自分も辞めます」とまで言い切りました。
吉野刑事は船村との直接的な会話はありません。ドラマでは重傷を負ったカンコを勇気づける思いやりがクローズアップされ、カンコの元婚約者になりすまして病室に花を届けるという心憎いことをやっています。
このドラマは、特捜最前線7周年記念特別企画として放送され、脚本はおやっさんこと船村刑事主演作を書かせたらこの人しかいない、という塙五郎さんが手がけています。
ゲスト出演者も警備員役の加藤武さん、強盗役の中西良太さん、恋人役の芦川よしみさんと名役者ぞろいで、準レギュラーの御木本伸介さん(刑事局長役)、木村理恵さん(香子役)も登場するスペシャル版でした。
なお、このドラマについては、以前にコラムで書かせていただきました。私の個人的な思いについては、そちらのコラムをご覧いただければ幸いです。
→note連載前コラム(4)日曜雑感「おやっさんに重ね合わせて」
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