2023年05月04日
私だけの特捜最前線→82「少年はなぜ母を殺したか!〜舞台は裁判所の法廷内だけという斬新な演出のドラマ」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は後期の異色作ともいえる「少年はなぜ母を殺したか!」を紹介します。なぜ異色かと言うと、最初から最後まで裁判所の法廷でドラマが展開するという斬新な演出だったからです。
被告人は有罪か無罪か。法廷で繰り広げられる検察側と弁護側の対決に、神代課長(二谷英明)ら特命課の面々をどうやってかかわらせるのか。脚本の長坂秀佳氏の腕の見せどころでもあります。
被告人は有罪か、無罪か
被告人は21歳の男性。女性検事(関弘子)による冒頭陳述は「被告人はマリファナや野球賭博に狂い、それを見とがめた母親といさかいになって殺してしまった」とし、被告人も起訴事実を認めています。
法廷に神代課長ら特命課のメンバーが入場します。裁判では出番なしのはずなのに、なぜでしょう。その答えは、女性弁護人(山口果林)が「被告人は無罪」と言い切ったことにありました。
特命課は、被告人の供述と実際の行動との間におかしな点があるとして、検察から再調査却下を言い渡されたのにもかかわらず、独自に捜査を始め、被告人にはアリバイがあることを突き止めていました。
おやっさん(船村刑事、大滝秀治)らが弁護側証人となって、捜査で得た矛盾点を語っていくのですが、女性検事は反対尋問でことごとく退けます。そして、論告求刑で「無期懲役」と断言したのです。
ところが最終弁論で、特別弁護人として神代と叶刑事(夏夕介)が加わり、新たな証人に立った桜井刑事(藤岡弘、)と橘刑事(本郷功次郎)によって、衝撃の事実が突き付けられたのです。
桜井と橘の捜査で、マリファナと野球賭博に狂っていたのが実は母親のほうだったと判明。だが、被告人は涙を流しながら「違う」と反発します。なぜか・・・実は、真犯人は父親(石濱朗)だったのです。
母親の真実が暴かれた家族は
このドラマは、裁判所の法廷だけで1話完結するという斬新な演出に目がいってしまいがちですが、被告人と父親、母親、妹や弟をめぐる家族愛の部分がとても印象的なストーリーになっています。
母親の乱行を知っていた被告人は、そのことを父親にも妹弟にも隠し通そうとします。事実を知って怒りのままに母親(妻)を殺してしまった父親の罪までも一身にかぶろうとしたのです。
ラストシーンで証言台に立った父親が犯行を自白したことで、すべてが明らかになってしまいます。父親は、被告人がなぜ身代わりになったのかを独白していくのです。
被告人は「母が悪人としてさらされるのは耐えられない。あんな母でも、自分にとって優しい、女神のような母さんだった。母の名誉を守るために罪をかぶる」と、父親に告げたそうです。
それは同時に、心臓に病気を持つ父親が収監されることには耐えられないだろうという気遣い、同じように母を慕う妹弟に真実を知られたくないという思いが混ざり合ったものでもありました。
被告人が無罪となっても、誰一人として喜ぶ者はいません。家族たちは当然ですが、女性弁護士も、特命課の面々も同じです。ゆえに、今回のドラマも超激辛のラストで終わってしまいました。
特命課を「弁護側」にした演出
もう一つの見どころは、警察機構にある特命課が「弁護側」に立って、被告人の無罪を証明した点にあります。検察側で犯罪を立証する展開よりも、かなりハードルが高い展開だと思われます。
特命課を積極的に裁判にかかわらせるため、弁護士資格の無い者が被告人の弁護活動をできる「特別弁護人」という仕組みを使っています。これは刑事訴訟法に規定されており、神代の切り札でもありました。
検察が起訴に持ち込んだ犯罪を、あえて独自の再捜査に踏み切った理由として、証人尋問に立った紅林刑事(横光克彦)は「組織としてより、人間としての道を取るという神代の方針だ」と言い切っています。
ストーリー解説で書いたように、事件の真相を知って利を得る者は誰もいません。しかし特命課は「真実を追及することこそ、刑事の務め」という原点を守り、供述の矛盾を突き崩すことにしたのです。
極論かもしれませんが、初動捜査をした所轄署や検察が、被疑者の自白ばかりを優先させたがゆえに「一つ間違えれば冤罪を生み出しかねない事態に陥っていた」ということを言いたかったのではないでしょうか。
弁護士役の山口果林さんは、特捜最前線では他の作品にも同じ役柄で出演しています。関弘子さんの眼光鋭い検事役がドラマを引き締めてくれましたし、父親役の石濱朗さんの独白シーンも素晴らしかったです。
なお、ドラマが法廷だけを舞台としていたため、母親役はキャスティングされていません。女優によっては先入観を持たれてしまう可能性もあったので、この点でも見事な演出と言えるでしょうね。
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