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2023年04月06日

私だけの特捜最前線→79「マニキュアをした銀行ギャング!〜叶刑事が女革命家との知恵比べに挑む」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回は「マニュキアをした銀行ギャング!」を紹介します。主役は夏夕介さん演じる叶刑事と、ゲスト出演者で女革命家役の根岸季衣さんで、スリルとサスペンスあふれるドラマになっています。

銀行強盗を企てた女と凶悪犯たち

別々の事件で逃亡中の凶悪犯3人が、銀行強盗を企てましたが未遂に終わり、そのうちの1人は犯人グループに射殺され、残りの2人と首謀者が車で逃走する事件が起きました。

首謀者は、黒の十字軍を名乗る革命組織のリーダー的存在だった女で、未遂に終わった銀行の支店長室に別人を装って入り込み、支店長(佐原健二)と護衛していた叶刑事を脅し、現金強奪を目論みます。

支店長宅には、見張り役の凶暴な犯人の一人がいるため、叶刑事も下手に動けません。すでに銀行強盗発生をキャッチしていた特命課は、神代課長(二谷英明)が陣頭指揮を取り、作戦を展開していました。

特命課が仕掛けた盗聴器が女によって発見された瞬間、叶刑事はもう一人の犯人を足蹴りして窓から突き落とし、女と揉み合いになります。暴発だったのか、失敗を悟ったのか、女は拳銃で自分の腹を撃ってしまいます。

アジトに移され、人質にされていた支店長の妻と幼い娘にも、命の危険が忍び寄っていましたが、橘刑事(本郷功次郎)らがすんでのところで見張り役を取り押さえ、事件は無事解決したのでした。

知恵を絞る叶や神代課長

このドラマは長坂秀佳氏が脚本を担当し、叶刑事や神代課長が女革命家に悟られないように、支店長室という密室でのようすや犯人たちの動きをどうやって探るか、という視点で描かれています。

そもそも叶が支店長室にいたのは、非常通報装置を確認するためでした。叶は「装置をテストする」と偽り、集中管制室にいた橘に「一人で十分なので応援はいりません」と、平静を装って連絡します。

これを叶からのメッセージと受け止めた神代課長は、現場に急行中だったパトカーを止め、犯人たちに警戒されないように銀行の車両を使って、橘や紅林刑事(横光克彦)らを現場に向かわせました。

橘たちは、変装して支店長室へ突入しようと考えますが、神代課長は「相手が女革命家なら、面相は割れている」と止め、代わりに高杉婦警(カンコ、関谷ますみ)を制服姿のまま支店長室へと向かわせます。

婦警が来たことで犯人たちは一瞬ひるみますが、カンコは「叶さんの様子を見てこいと言われた」と、業務命令で来たことを強調しながら、たばことともに盗聴器を叶の手元に届けたのです。

カンコの度胸の良さには驚かされますね(笑)

幼い娘を救った女革命家の詩

そして最大の見どころは叶刑事と女革命家との対決です。冷静沈着でいながら、時には情に訴える叶こと夏夕介さん、そして理想に燃える女革命家こと根岸季衣さんの熱演あってのドラマと言えます。

女革命家が銀行強盗を企てたのは、組織を立て直す資金を得るために手段を選ばなかったため。反政府的な革命という理想を掲げているので、相棒の犯人たちとは違い、人殺しは本意ではありません。

女革命家は、少女の頃の夢と現実のギャップを読んだ詩を学生時代に発表していました。叶はその詩を口ずさみながら、支店長の娘が自分にプレゼントしてくれた「家の絵」を女革命家に渡し、人質解放を求めました。

やがて状況が急展開するなか、銃で腹を撃って瀕死の女革命家に、人質の居場所に電話するよう懇願する叶。「本当に平和を願う者なら、何の罪もない幼い子供を殺すことなんて、できるはずがない」と訴えかけます。

女革命家は、自分の詩が脳裏に浮かんだのです。そして、幼い娘を助けるためにアジトに電話をかけました。電話を切った後、力尽きた女革命家の手には、叶から受け取った「家の絵」が握られていたのです。

叶の訴えかけた言葉・・・とある為政者にも聞かせたいですね!



支店長を演じた佐原健二さんは、ウルトラQの万城目淳として主演し、ウルトラシリーズの幹部役でもお馴染みです。特捜では、今回のような被害者だけでなく、犯人役も演じています。

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2023年03月30日

私だけの特捜最前線→78「列車大爆破0秒前!〜たくさんのエッセンスが詰まった大傑作」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回紹介するのは「列車大爆破0秒前!」です。この作品は放送110回、二谷英明さんの復帰記念作として放送され、特捜最前線のなかでも傑作の一つに挙げてもいいようなドラマです。

二谷さんの復帰については後ほど書くとして、まずはストーリーから紹介していきましょう。ちなみにドラマは一般公募の原案をもとに、メインライターの長坂秀佳氏が脚本を担当しています。

恋人を殺された犯人の復讐

滝刑事(桜木健一)の先輩刑事が、何者かに爆殺されます。現場にいた犯人の車を追う滝刑事ですが、犯人が仕掛けた警察無線妨害装置によって混乱させられ、犯人を取り逃がしてしまうのです。

メンバーが特命課に戻ると、長期出張中だった神代課長(二谷英明)の姿がありました。神代は事件について推理しながら、捜査のヒントを与え、的確な指示を出します。カミソリの名は健在でした。

やがて犯人像が浮かび上がります。5年前に先輩刑事たちとやくざ(辻萬長)との銃撃戦で、通りかかった女性がやくざの弾に当たって殺された事件があり、犯人は女性の恋人だったのです。

刑事2人を殺した犯人は、特命課に「やくざを列車に乗せろ」と指示します。犯人は列車爆破を企み、乗客もろともやくざを殺す気と思わせ、実はライフルで射殺しようと計画していたのです。

桜井刑事(藤岡弘、)が犯人の狙いに気づき、神代課長の機転で犯人はやくざの射殺に失敗します。その直後、駆け付けた特命課員によって犯人は逮捕され、事件は無事解決したのでした。

二谷さんの復帰と長坂脚本の醍醐味

このドラマは1時間番組ではもったいないくらい、さまざまなエッセンスが詰まっています。その最大のものは、何と言っても長期不在だった神代こと二谷英明さんの復帰作ということです。

ドラマでは、神代課長はICPOに長期出張しているとの設定になっていましたが、実はスキー場でのロケで大けがをし、番組から離脱していたのです。その間、桜井刑事の復帰や滝刑事の加入などがありました。

二谷さんの登場場面は、特命課のオフィスだけでしたが、切れ味鋭い推理や的確な指示ぶりを発揮。とくに、ラストのやくざを救った起死回生の策は見事の一言に尽きます。

それから、ドラマの中で次から次へと繰り出されるトリックとどんでん返し。これは長坂脚本の醍醐味でもありますし、特捜最前線ならではの面白さといっても過言ではありません。

冒頭、逃走に使った無線妨害装置の設置場所に「殺された女性へのメッセージ」を込めている点。地名から紅林が名前を読み解き、さらに番地から神代が殺害年月日を言い当てる場面は見事です。

逆探知されることを計算し、アマチュア無線を使って電話を中継させるというトリックを使い、列車爆破と見せかけて、実はライフルを使うという手段の選び方・・・まさに、スリリングな展開を演出しています。

滝刑事の未熟さも見どころ

もう一つ注目したいのは、加入間もない滝刑事が未熟ぶりと人間性を見せるドラマであることです。初対面の神代への挨拶もろくにさせてもらえず、切れ者ぞろいの特命課にあって、滝の要領の悪さはひときわ目立ちます。

滝は、この2回前の作品「午前0時に降った死体!」で特命課に配属されますが、刑事になる動機が「出世をしたいから」で、爆殺された先輩刑事も同じタイプだったことから、影響を受けたものと思われます。

女性が殺された現場で橘刑事(本郷功次郎)と語り合う場面では、先輩刑事を爆殺した犯人への憎しみ、そして「自分が犯人を逮捕する」という思いを橘にぶつけます。

しかし橘から「デカは憎しみで動いちゃだめだぞ」とたしなめられます。神代不在の中で滝を特命課に迎え入れた橘としては、何とか一人前の刑事になってほしいとの思いだったのでしょう。

ところが滝は、やくざを列車に乗せようとした時、やくざの妻と子供を反対ホームに呼び寄せてしまうのです。そして、船村刑事(大滝秀治)に「自分が身代わりになります」とまで申し出る始末。

人間味あふれるシーンではありますが、あまりにも刑事としては未熟で思慮不足と言え、それが自身のラスト出演となる「地下鉄・連続殺人事件!」での大チョンボにつながってしまうのですね(苦笑)

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2023年03月23日

特捜最前線 登場人物コラム「特命課課長・神代警視正」

今週は、ドラマ解説ではなく、ちょっとした小話を書きます。題して「登場人物コラム」。
登場するのは、リーダーである特命課課長の神代警視正です。

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神代警視正を演じるのは二谷英明さんで、言うまでもなく特捜最前線の顔です。太陽にほえろなら石原裕次郎さん、西部警察なら渡哲也さんの役どころでもあります。

ただし、リーダー像は裕次郎さんや渡さんとはかなり異なります。二谷さんの神代警視正は、課長という立場をとても強く意識しているのと同時に、組織の序列にも厳格だと思います。

部下である特命課員には、かなり厳しい面があり、文句を言おうものなら「課長命令だ」の一言で退けます。ただ、この言葉は決して、何かを押し付けるために使っているわけではありません。

一見理不尽な命令であっても、実は捜査の突破口を開いたり、窮地を脱したりするきっかけになることが多々あり、だからこそメンバーもブツクサ言いながら従っているのです。

もう一つ、神代課長は「全責任は私が持つ」という言葉もよく口にします。メンバーに全幅の信頼を置き、ミスやトラブルがあったら自分が守るという姿勢を貫いているのです。

神代課長は警視正という警察組織でも上級官僚にあたる立場ですが、決して自己保身に走ることはありません。いざとなれば、泥をかぶる肝の座った人物として描かれています。

神代課長には、冷静沈着であり、順法精神を貫いているというイメージがありますが、時々メンバーが心配するほど、暴走とも言えるような単独行動を起こすことがあります。

代表的なエピソードは、娘の夏子が射殺された「凶弾II・面影に手錠が光る!」。この回の神代課長の常軌を逸した行動はすさまじいものがあり、二谷さんの鬼気迫る演技が光るドラマでした。
私だけの特捜最前線→7「兇弾、凶弾U〜神代課長の娘とその死」

神代課長が理想的な上司かと問われると、私も即答できないのですが、少なくとも神代課長の下で働けば、仕事の厳しさを学び、スキルアップが図れることは間違いないだろうと思います

今回のコラムはここまでといたします。

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2023年03月16日

私だけの特捜最前線→77「少女・ある愛を探す旅!〜橘刑事の執念の捜査で女性のルーツを見つけ出した!」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回は番組後期に放送された作品から「少女・ある愛を探す旅!」を紹介します。戸籍のない女性が登場するドラマで、橘刑事(本郷功次郎)が「戸籍の行方」を探って奔走するというものです。

なお、タイトルでは「少女」となっていますが、登場するのが20歳という設定のため、コラムでは女性とさせていただきます。さすがに少女っていう感じでもありませんので(苦笑)

戸籍のない女性と出会った橘刑事

ビルから飛び降り自殺を図ろうとした女性(原陽子)を保護した橘刑事は、彼女が無戸籍だと知ります。女性はシングルマザーに育てられましたが、母親は女性が中学生の時に男と蒸発してしまったのです。

行方不明の母親は、強盗殺人容疑で指名手配されていたことが判明します。押し入ったスーパーで警官たちと銃撃戦となり、母親が持ち去った拳銃で警官が射殺されたというのです。

母親と蒸発した男が主犯で、すでに逮捕されていました。男は「母親は拳銃を撃っていない」と言い張ります。ただ、警察への不信感があるためか、母親の居所については頑として口を割りません。

事件を再度検証した桜井刑事(藤岡弘、)から、男の言い分通りである可能性が浮上します。母親が隠した拳銃から4発の弾が残っていれば、母親は拳銃を撃っておらず、無実が証明されるのです。

男の自白から、母親の居所が分かりますが、1年前に母親は亡くなっていたのです。それも「警察の方が来たら、お探しのものは実家の古井戸の中にあると伝えて」という言葉を残して・・・

橘刑事は、女性の協力を得ながら、母親の人生とルーツを探し求めていきます。そこには、事件の真相を突き止めるということ以上に、女性に「真の母親の姿を知ってもらいたい」という強い思いが込められていました。

橘はなぜ、戸籍探しにこだわったのか

このドラマは、長坂秀佳氏が脚本を書いており、謎解きを非常に多く盛り込んでいるのが特徴です。それは同時に、地道で丹念な捜査を身上とする橘刑事の真骨頂が発揮できる展開でもあったのです。

特命課が強盗殺人事件のことを知らなかった段階で、橘は「女性の戸籍探しを自分にやらせてほしい」と申し出ます。「殺しなら力を入れるが、小娘の自殺は放っておく・・・それは、平等ではない」との理屈です。

これは私の推測ですが、橘刑事は女性の姿に「自分の子供」と同じ思いを抱いたのではないでしょうか。橘には息子しかいませんが、世代はちょうど同じ。苦労して生きてきた女性を見放せなかったのでしょう。

母親は、男と蒸発してしまったことから、周囲の人に「ふしだらな女」だと見られていました。女性もそんな母親を軽蔑し、挙句の果てには「戸籍なんかいらない」と突っぱねていたのです。

捜査が進むにつれ、母親も実は私生児で戸籍がなかったことが分かります。そして、自分も戸籍のない娘を生んでしまいます。しかも父親である男は莫大な借金を母親に押し付けて行方をくらましていたのです。

母親を知る古い知人たちは「借金を返すために必死に働いた」「男嫌いで通っていた」と語ります。女性は、母親の本当の姿を知ることで自分と向き合い、橘に「戸籍を探し、母の無実を証明する」ことを誓うのです。

感動のラストシーンへの怒涛の展開

長坂脚本の面白さは、謎解きのヒントが得られたと思ったら、それが途絶えてしまい、絶望感の中で次のヒント探しに奔走していく、というドラマの繰り返しにあります。

とくにラストへと向かうシーンでは、女性が口走った方言をきっかけに、母親が拳銃を捨てたと思われる実家の古井戸を探し当てるまでのスピーディーな展開は、まさに見事の一言に尽きます。

そして見つかった拳銃を神代課長(二谷英明)が手に取り、弾が4発残っていたことが確認できた時・・・母親の無実が証明され、それは同時に女性が自分のルーツを見つけ出した瞬間でもあったのです。

なお、このドラマは再放送が見送られた作品だったといいます。おそらく昭和の時代には「無戸籍」をテーマにすることがはばかられたのではと思われます。今見れば、とくに問題はなさそうに思えますが。



この回を含む前後4回には、的場刑事役として渡辺裕之さんが出演しています。ドラマでは、橘刑事と行動を共にしながら、捜査の在り方を学んでいく若い刑事を好演しています。

それから古い知人役として、落語家の橘屋圓蔵さんがゲスト出演しました。場面はわずかですが、立て板に水のごとく、母親の人柄について語るところは、さすが噺家さんですね。

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2023年03月09日

私だけの特捜最前線→76「津上刑事の遺言!〜特捜のフルメンバーが集結した記念すべきドラマ」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回は放送350回記念作品として放送された「津上刑事の遺言!」を紹介します。放送当時、唯一の殉職刑事だった津上刑事こと荒木しげるさんを再登場させ、過去のレギュラー刑事もゲスト出演した回です。

交通事故の被害者は青信号で渡ったのか

4年前の細菌爆弾事件で殉職した津上刑事宛に、子供の字で書かれた嫌がらせハガキが特命課に届きます。調べたところ、書いた少年は津上が死んだことを知らず、自分との約束を反故にしたと思い込んでいたのです。

津上が少年と約束したのは、横断歩道を渡っていて車にはねられた父親が、青信号で渡っていたことを証明するというものです。加害者は「歩行者の信号無視」を主張し、その言い分どおりの執行猶予判決が下っていました。

津上は、同じサイクルで稼働していた近くの信号で、老婆が同時に渡っていたことを突き止めていたのです。特命課は総力を挙げて老婆を探しますが、証言を取る寸前で老婆は病死してしまいました。

唯一の手掛かりを失った特命課でしたが、叶刑事(夏夕介)が信号機のサイクルに気づきます。コンピューターによってサイクルを逆算し、事故当時に歩行者信号機が何色だったのかを突き止めていくのです。

加害者を立ち会わせた検証の結果、信号機は青だったことが証明され、加害者も自分が信号無視をして被害者をはねてしまったと自供します。津上と少年との約束は4年越しに果たされたのでした。

キーマンの叶刑事と津上の回想シーン

ドラマのキーマンになるのが、叶刑事でした。津上の後任として入った叶はメンバーで唯一、津上がどんな人物だったのかを知りません。そのことをおやっさん(船村刑事、大滝秀治)に語るシーンがあります。

叶は「自分は何だか焦っている。みんなが燃えているのに、自分だけが冷めているような・・・」と言い、おやっさんに津上がどんな刑事だったのかを問いかけます。

おやっさんは「愛を持って捜査にあたった男だ」と語り、生前の津上がおやっさんの前で「子供との約束は必ず守ります」と誓った時のことを振り返ります。叶は、おやっさんを通して津上という人物を知ったのです。

捜査のキーワードとなる「現場100回」「盲点」は、津上がメモ帳に書き残した言葉でした。警察学校卒業後に特命課に着任した津上が、神代や先輩刑事から教わった「心得」でもあったのでしょう。

橘刑事(本郷功次郎)や桜井刑事(藤岡弘、)の回想の中に、津上と交わした「現場100回」「盲点」という言葉が登場し、これが捜査の突破口になるというドラマの展開は見事の一言に尽きます。

西田敏行さん、桜木健一さんも登場

この作品は、「殉職した津上がやり残していた捜査を特命課が引き継ぐ」というストーリーにしたことで、津上のシーンを回想という形にし、荒木しげるさんがゲスト出演をすることができました。

さらに、放送初回からの津上の同僚だった高杉元刑事こと西田敏行さん、津上の殉職の時に一緒だった滝元刑事こと桜木健一さんという、過去のレギュラー刑事もゲスト出演しています。

仕事をやり残して死んだ津上と、約束をひたすら待っていた少年のために、特命課の誰もが捜査を引き継ぎたいと思っていたでしょう。捜査にあたり、神代課長(二谷英明)は特命課のメンバーにこう告げます。

「交通法規の無視も、我々が日頃取り扱っている事件と同等だ」。つまり、被害者が信号を守っているのなら、加害者が信号無視をしたわけで、法を守る者として見逃すことはできないという姿勢を表したのです。

ともすれば、「津上の遺志を継ぐ」という視点になりがちなドラマの展開なのですが、特命課が単なる交通事故をなぜ再捜査するのか、という「大義名分」を与えているところに長坂秀佳脚本の妙があると思います。



ラストシーンは、山口百恵さんの「いい日旅立ち」をバックに、雪の中を走ってきたり、夕景で手を振ったりする津上が現れます。夕景のシーンは、津上殉職編のラストに登場した場面を使っています。

そこへ重ねるように「津上、これでお前も安心してゆっくり眠れるな」というナレーション。あえて、西田敏行さんに語らせた演出は素晴らしく、ドラマのフィナーレを見事に飾ってくれました。

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2023年03月02日

私だけの特捜最前線→75「制服のテロリスト達!〜人間・津上明を描き切った作品

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※このコラムはネタバレがあります。

今回紹介するドラマ「制服のテロリスト達!」は津上刑事(荒木しげる)が主演で、ラストシーンを中心に全編にわたって人間味あふれる若き刑事の姿を見せてくれています。

暴力団を狙うテロリストとは?

暴力団員が拳銃で撃たれる事件が起き、その容疑者として現職の若手警察官(佐藤仁哉)が浮上。彼は、数年前の事件で津上刑事と捜査をしたことがあり、とても正義感の強い警察官です。

数年前の事件では、真犯人とにらんだ暴力団幹部が組員を替え玉に使って罪を逃れていました。幹部を捕まえるのには証拠が不十分で、警察官は「証拠第一主義」の警察の捜査に憤っていたのです。

やがて、暴力団事務所が何者かに襲われ、組員が殺されるだけでなく、覚せい剤まで奪われる事件が発生します。津上は、犯行グループに警察官が加わっているとみて、彼を逮捕するために近づきます。

警察官は「誰かが泥水をかぶらなければいけない」と主張しますが、津上に「覚せい剤を強奪するような者は殺人警察官だ」と非難されます。ところが警察官は、強奪した事実は知らなかったのです。

それを確かめるため、津上を振り切って行方をくらます警察官。津上の追跡を邪魔した彼の恋人は「あの人は覚せい剤も暴力団も憎んでいた。強奪などするはずがない」と涙ながらに訴えたのです。

翌日、警察官は死体となって発見され、津上も主犯格の警察官(磯村健治)に狙撃されます。事件は、警察機構や捜査の在り方に不満を持つ若い警察官たちの犯行の疑いが強まっていきました。

法に従うのが警察官の務め

このドラマのテーマになっているのは「警察官の職務権限とは何か」ということです。特命課の執務室で、神代課長(二谷英明)をまじえた刑事たちの会話の中で問題提起されます。

おやっさんこと船村刑事は、若い警察官たちが「証拠第一主義や暴力団員でも人権を守るということに不満を漏らしている」現状を説明し、津上は「彼らの気持ちが分からないでもない」と同調します。

「それは間違っている」と、間髪入れずに神代課長が口をはさみ、「人間の社会には秩序が必要で、それを決めるのが法律。あくまでも法に従って人を裁くのが我々の任務だ」と諭したのです。

この姿勢は、ラストシーンでより鮮明に描かれます。主犯格の警察官を追い詰め、「ぶっ殺してやる」と拳銃を突きつける津上。正義感を利用し、己の私利私欲に走った主犯格への怒りをあらわにします。

その前に立ちはだかったのが神代です。神代は「お前も殺人警察官になってしまうぞ」と諫めます。激しい怒りのままに「俺はどうなってもかまいません」と叫ぶ津上。と、その時、神代は津上に鉄拳を食らわしました。

刑事として津上がすべきことは、主犯格を殺すのではなく、逮捕して法の裁きを受けさせることなのです。それが分かっていても、怒りに任せて行動してしまった津上を見る神代の目は、どこか寂し気な感じがしました。

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2023年02月23日

私だけの特捜最前線→74「殉職・涙と怒りの花一輪〜おやっさんこと大滝秀治さんの名演技を味わう」

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※このコラムはネタバレがあります。

今回は初期の作品より「殉職・涙と怒りの花一輪」を紹介します。主役はおやっさんこと船村刑事(大滝秀治)で、人間・船村の喜怒哀楽がたっぷり楽しめるドラマです。

拳銃を奪われた若き巡査

船村が何かと目配りしていた巡査(真夏竜)が、何者かに拳銃を奪われるという失態を犯します。巡査は、犯人逮捕の際に殉職した同期刑事の息子で、船村は父親とも言えるような存在でした。

責任を取って辞表を書く巡査に、船村は「辞めれば責任がとれるのか」と叱り、父親の墓前で再起を誓わせます。巡査は汚名返上のため、津上刑事(荒木しげる)とともに犯人探しに全力を傾けます。

犯人のアジトを見つけた巡査は、津上の指示を破って単身踏み込んでしまいます。しかし、犯人を取り逃がしただけでなく、奪われた拳銃を発砲され、父親と同じように殉職してしまったのです。

特命課は二人組のうちの一人を捕らえ、拳銃を所持しているもう一人の行方を追います。追い詰められた犯人の男は、惚れていた水商売の女を人質に取って立てこもってしまうのです。

船村は、巡査や同期刑事と同じように、命を懸けて犯人に立ち向かっていきます。その気迫に押された犯人が拳銃を捨てると、船村は怒りの鉄拳を犯人に浴びせ続けたのでした。

おやっさん流の取り調べ

このドラマは、何と言っても大滝秀治さんの名演技が全てというほど、人間味あふれる船村像を見せてくれます。とくに、取調室で共犯の行方を追及するシーンは「おやっさん、ここにあり」という名場面です。

「壊れ物を片付けようか」と前置きしたおやっさん。甘ったれたことを吐く男を張り飛ばし、男の隣に座って怒気を含んだ表情で、前途ある巡査の命を奪い、その母親や恋人の夢も打ち砕いたのだと断罪します。

そして「人間は家族、友人、恋人が互いにいたわり合って生きている。一人の人間を殺すということは、家族や友人を撃ち殺すのと同じことだ」と責め立て、ついに自供を引き出すのです。

もちろん、今の世の中にあっては、おやっさん流の取り調べ方は許されないでしょう。ただ、おやっさんが訴えかけた言葉は、いつの時代であっても不変なものだろうと信じています。

他の刑事ドラマでは決して見られない、おやっさん、すなわち大滝さんあっての取り調べシーン。得意の長ゼリフが続いても、よどみなく語りきってしまうところは、さすが名優と言えるでしょう。

高杉刑事のバイプレーヤーぶり

そして、初期の特捜最前線で素晴らしいバイプレーヤーぶりを見せてくれる西田敏行さん演じる高杉刑事。このドラマでも、数少ない登場場面でしっかりと存在感を見せつけてくれます。

息子同然の巡査を殉職させてしまい、母親の悲しみと恋人からの恨み言を一身に浴びたおやっさんは、同期刑事の墓前で「(巡査を)殺したのは私かもしれない」と詫びていました。

そこに高杉が現れます。高杉は、自分がミスを犯したときのことを引き合いに出しながら「失敗しても一杯やって元気を出せって言ったじゃないですか」とワンカップ酒を差し出します。

しかし高杉は、単におやっさんを慰めに来ただけではありません。拳銃に弾が4発残っていることもしっかりと伝えます。つまり、一刻も早く捜査に復帰してもらうよう暗に促していたのです。

おやっさんはワンカップ酒を飲まず、墓石にかけて撫でまわし、涙を流します。ワンカップ酒は、このシーンを撮るために必要だったと思いますが、そこに高杉が入ることで一層味わい深い演出になっています。



なお、ドラマで巡査役を演じた真夏竜さんは、ウルトラマンレオの主人公を務めたことで有名です。また、母親役は往年の名女優・月丘千秋さん、恋人役は竹井みどりさんが演じていました。

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2023年02月16日

私だけの特捜最前線→73「誘拐、誘拐U〜前後編でガラリと印象が変わってしまったドラマ」

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※このコラムはネタバレがあります。

特捜最前線では、身代金目的の誘拐をテーマにしたドラマがいくつかありますが、今回紹介する「誘拐」は、第66回「誘拐・東京―函館縦断捜査」、第67回「誘拐U・パニックイン・函館」の前後編になっています。

金を奪った老人は元警察官だった

前編の「東京―函館縦断捜査」は、サスペンスと緊張感のあるストーリーになっています。ドラマは、銀行に天下りした元警視庁幹部(天津敏)の娘(鳥居恵子)が誘拐され、身代金を要求する電話がかかってきたところから始まります。

犯人は527万7500円をすべて100円玉でそろえろという要求をしました。その金を持って列車に乗り込んだ元幹部のスキをついて、老人(吉田義夫)が奪おうとしますが、特命課が阻止して老人は逮捕されたのです。

老人は元警察官で、上司の発砲命令に従って犯人を射殺してしまい、懲戒免職となっていました。その上司が元幹部だったのです。黙秘していた老人は、津上刑事(荒木しげる)の静止を振り切って飛び降り自殺しました。

その直前の取り調べで、老人は船村刑事(大滝秀治)に悪態をつき、取調官を代えろと要求していました。死を覚悟していた老人は、若い刑事なら失敗しても取り返しがつくと考えていたのです。

要求額は、老人が定年まで勤めていれば受け取れた退職金額でした。「なんで心を見抜けなかったのか」と悔しがる船村。しかし、事件はこれで終わったのではなく、犯人側からさらなる身代金要求が出されたのです。

誠直也さんのアクションシーン

元幹部の秘書がトランクを持って、北海道苫小牧行のフェリーに乗船したのを追跡した紅林刑事(横光克彦)と吉野刑事(誠直也)。乗船者の中に元刑事(中田博久)がいることが判明します。

この元刑事は、凶悪犯の取り調べが行き過ぎて免職処分になっていました。しかも、取り調べを命じた上司が元幹部だったのです。元刑事は、秘書からトランクを奪って、貨物列車に乗って逃亡を図ります。

ストーリーとは外れますが、誠直也さんが走っている貨物列車に飛び乗る場面、さらには貨車の上での誠さんと中田博久さんの格闘へと続き、二人の体を張ったアクションシーンは、特撮顔負けの迫力満点!

結局、二人とも貨車から振り落とされ、元刑事は転落死してしまいます。身代金の2700万5千円は、体の不自由な我が子のために、元刑事が退職までに積み立てる計画だったはずの金額でした。

ところが、老人も元刑事も単なる共犯者に過ぎませんでした。主犯格の男(石山律雄)は、元幹部から時価1億2千万円相当の金貨を受け取ることに成功します。男は身代金を奪えたら、娘を解放するつもりだったのです。

支離滅裂な後編の展開・・・

後編の「パニックイン・函館」は、前編とは雰囲気が全く異なります。ちなみに主犯格ですが、彼は元捜査主任で、元幹部が指揮する汚職事件の捜査方針に反した行動の責任を取って退職していたのです。

その後編ですが、誘拐されたはずの娘が、なぜか主犯格に恋愛感情を持ってしまい、逃亡を手助けするという展開。しかも、主犯格の愛人である水商売女(有吉ひとみ)と張り合う場面まで出てくるほどです(苦笑)

娘の行動はエスカレートし、主犯格に父親が所有するセスナ機を手配するという無謀さ。ただ主犯格は、逮捕された愛人を釈放させるため、セスナ機を使って爆弾投下の脅しを仕掛ける結果になってしまいます。

これに輪をかけて無茶苦茶なのが元幹部。なんと、セスナ機の燃料タンクに穴を開けていたのです。しかも、娘が同乗していなかったのをいいことに「このまま飛べば墜落するだけだ」とまで言い切るほどです

この言葉には、さすがに神代課長(二谷英明)も「たとえどんな人間でも命を奪う権利は我々にはない」と激怒。主犯格の要求通りに愛人を釈放し、セスナ機を着陸させるよう訴えかけたのです。

しかし、愛人の逃亡を確認した主犯格は、セスナ機を郊外の山腹に激突させて爆死。誰一人言葉を発しないまま、エンディングテーマの「私だけの十字架」が流れ、後味の悪いドラマが終わってしまいました。

理解に苦しむ娘と元幹部の行動

正直に言わせてもらいます。前編だけが傑作でした。後編も単発のストーリーだったら面白い作品だったのかもしれませんが、前編とセットになるとどうしても凡作と言わざるを得ないのです。

まず、誘拐された娘の思考と行動が全然理解できません。後編の展開に備えてなのか、監禁されていた前編から、主犯格に対して「あなたは悪い人じゃない」と言わせています。でも説得力がありません。

どうせなら、監禁されていた娘に犯人グループが、父親である元幹部の卑劣な無責任ぶりを徹底的に罵り、娘が父親に憎しみを持つような設定にすれば、主犯格に対する気持ちの変化も理解できたと思います。

また元幹部が、現役時代に部下の不始末から責任逃れをし、それが事件の引き金になったというのは、組織にはよくある話ですが、理解できないのは娘の言いなりのままセスナ機を用意し、細工まで施したことです。

娘を誘拐した主犯格への仕返しのつもりにしては、燃料タンクに穴を開けるのは極めて悪質です。未必の故意による殺人未遂に問われかねません。警察出身者である元幹部の行動としては不可解の極みです。



後編でも、本郷功次郎さんがセスナ機にしがみついたり、車とセスナ機のカーチェイスがあったりと、派手なアクションシーンがありました。ただ、肝心のストーリーが・・・といったところですね。

いつも評価ばかりでなく、たまには辛口の感想も書きますよ(苦笑)

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2023年02月09日

私だけの特捜最前線→72「刑事を愛した女〜桜井刑事の葛藤を描いた激辛なドラマ」

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※このコラムはネタバレがあります。

特捜最前線のスタート時から出演している桜井刑事(藤岡弘、)は、初期の段階では若くして警部になった超エリート刑事として描かれています。「刑事を愛した女」は、その頃の桜井が主役のドラマです。

検察側の証人に立ったのは?

大手企業を乗っ取ろうとした総会屋が殺され、実行犯を追っていた桜井と同僚刑事は犯人を逮捕しますが、その際に同僚刑事は階段から転落し、植物人間になってしまいました。

事件の背後にいる大物が実行犯の自供で起訴され、裁判にかけられます。検事(岸田森)が実行犯を証人として出廷させようとしましたが、実行犯は特命課が護送中、スキをついて逃げてしまったのです。

検事はその代わりに桜井刑事を証人に立てましたが、大物と実行犯を仲介した人物についてはあいまいな証言をします。桜井はその人物が、同僚刑事だったことを薄々感じていたのです。

同僚刑事の妻(山口いずみ)は、かつての桜井の恋人だった女性でした。桜井は自分が証言することで、同僚刑事の妻や母親が不幸な目に遭うと思っていました。ところが、検察側は妻を証人に立てることを決めたのです。

妻を出廷させてはいけないと考えた桜井は、逃亡した実行犯を探し、ついに身柄を確保します。しかし、出廷時間には間に合いませんでした。妻は法廷で、自分の夫(同僚刑事)が共犯であることを証言したのです。

桜井の苦悩と激辛な展開

このドラマには、若き桜井刑事のエピソードが盛り込まれています。結婚まで考えていた女性が同僚刑事の妻になる・・・そのうえ、同僚刑事は出世競争で桜井をライバル視していました。

同僚刑事は暴力団と密着するうちに、大物の手下となってしまいます。逮捕時に実行犯を射殺しようとまで考えていたのですが、逆に自分が事故に遭ってしまいました。妻はそのことを証言台で語ったのです。

妻の心は、すでに夫(同僚刑事)から離れてしまい、以前の恋人だった桜井に移っていました。その思いにはこたえられない桜井、同僚刑事の家庭を壊したくない桜井、そして一人やけ酒をあおる桜井。

そんな桜井に、神代課長は「刑事は犯罪を捜査する。それだけだ」と叱責します。それでも迷いが立ち切れない桜井。エリートではあっても、刑事としてまだ未熟な桜井刑事の姿が描かれているのです。

ドラマには、さらなる衝撃のシーンが待ち受けていました。同僚刑事の母親が、植物人間になってしまった息子の姿を悲観し、生命維持装置を外してしまうという「殺人」を犯してしまったのです。

妻が赤裸々な証言を行った直後だっただけに、非常に激辛な展開だと言わざるを得ません。そして、母親による息子殺しの代償として、妻は自由の身になれたのですが、どこか重苦しいラストとなったドラマでした。

超エリートに対抗するおやっさん

桜井刑事から離れますが、ドラマの中盤でちょっとした見どころがありました。それは、岸田森さん演じる検事が特命課にやって来て、さまざまな不手際を叱責するという場面です。

検事は不手際を理由に「君たちは刑事失格だ」と糾弾します。その言葉に血の気の多い吉野刑事(誠直也)が激高しそうになりますが、割って入ったのがおやっさんこと船村刑事(大滝秀治)。

「失敗することが失格と言うなら、いつでも刑事失格だ」と、さりげなく検事の言葉を批判します。神代課長や桜井をもしのぐような超エリートである検事は「君は何という名だ」と高飛車な物言いを続けます。

おやっさんは名前を名乗りながら「あなたがオシメを当てている時から刑事をやっている者だ」と静かに啖呵を切ります。そして検事が立ち去った後、「どうなることかと冷や冷やした」と笑い飛ばすのです。

超エリートのキャリア対たたき上げのベテラン・・・岸田森さんと大滝秀治さんという名優同士の火花が散った名場面であるとともに、それを見守った高杉、吉野、津上という特命課のチームワークも垣間見れた気がします。



この作品は初期の特捜らしい見どころの多いドラマといえます。脚本を書いた塙五郎さんは、特捜で数々の印象的な作品を手掛けたメインライターの一人です。

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2023年02月02日

私だけの特捜最前線→71「傷痕・夜明けに叫ぶ男〜情に厚かったがゆえにピンチを招いた高杉刑事」

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※このコラムはネタバレがあります。

西田敏行さん扮する高杉刑事は、特捜最前線の初期に登場する個性豊かな刑事で、キャラクターは唯一無二とも言えます。その主演作の一つ「傷痕・夜明けに叫ぶ男」を紹介します。

ほら吹き老人に翻弄された高杉

高杉刑事は、ひょんなことから知り合った浮浪者の老人(加藤嘉)から「殺人を目撃した」と打ち明けられます。殺されたのは代議士の義理の父親で、老人は代議士が犯人だと言うのです。

老人は「せんみつ(千のうち三つしか本当のことを言わない)」と呼ばれるほら吹き男で、高杉も再三騙されてしまいます。それでも高杉は老人の言葉を信じ、真相を突き止めようと奔走しました。

老人が「代議士の腕に嚙みついた」と告白したので、高杉は単身代議士宅に乗り込みます。しかし、むりやり服をまくり上げても傷跡は無く、代議士から訴えられるピンチに陥ってしまったのです。

しばらくして、老人が瀕死の重傷を負って病院に担ぎ込まれました。老人は高杉に「今度こそ証拠を残してやった」とつぶやき、そのまま息を引き取ったのです。高杉は老人の最期の言葉を信じ、代議士の元へ向かいます。

代議士の腕を確かめようとした高杉は、側近たちに妨害されます。しかし、神代課長(二谷英明)によって、代議士の腕に残った歯型が見つかりました。それは正真正銘、老人が嚙みついた跡だったのです。

西田敏行さんと加藤嘉さんの共演

このドラマは、高杉刑事役の西田敏行さんと老人役の加藤嘉さんという名優の共演が最大の見どころです。時にコミカルに、時にシリアスに演じる二人のシーンは名場面の連続と言っていいでしょう。

老人には一人息子(平泉征)がおり、大事に持っていた手帳には息子のことばかり書いていました。しかし息子の方は、自分と母親を捨てて浮浪者になってしまった父親を「あんな男」呼ばわりしていたのです。

実は高杉も父親を憎んでいましたが、亡くなってから慕情を寄せるようになっていました。老人の言動や行動に亡き父を見る思いで接し、何度騙されても信じたいという気持ちを持ち続けていたのです。

事件が解決し、老人の墓前に手を合わせる高杉。息子は「すべてが終わったんです」と、まるで厄介払いができたかのように淡々としています。その態度を見て、高杉は遺品の手帳を渡せなくなりました。

老人は高杉を翻弄しながらも、息子のように接し、いつしか二人は心を通い合わせることができたのです。しかし、実の息子とは離反したままで、この世を去った老人・・・辛いラストシーンとなりました。

「情」の人だった高杉刑事

高杉刑事は特捜最前線の中でも異色の存在でした。西田敏行さんらしさが存分に発揮された見せ場が後半にあります。代議士の逮捕状をめぐる神代課長とのやり取りのシーンです。

代議士を逮捕すべきと主張する高杉に対し、神代は「二度も同じ過ちを繰り返すのか」とたしなめます。しかし高杉は「死んでしまった老人の最期の言葉まで疑うのか」と激しく怒ります。

「俺は人間です。そんな鬼の下では働けません」と啖呵をきる高杉に対し、神代は「刑事だったら理性だけは失うな」と𠮟り飛ばします。他の刑事なら、この一喝で冷静になっていたところでしょう。

ところが高杉は、一転して表情を曇らせ「(老人は)俺の親父にそっくりだったんです」と涙を流します。神代の言う理性よりも、喜怒哀楽がストレートに出る「情の高杉」ならではの場面と言えるでしょう。

当時売れっ子俳優だった西田さんは、次第に特捜最前線への出演が減っていき、転勤という形で降板します。西田さんの持ち味だった「情」は、おやっさん(船村刑事)が引き継いでくれたと個人的には思っています。


なお、このドラマでは犯人の代議士役で小林昭二さんが出演しています。言うまでもなく、ウルトラマンのムラマツキャップ、仮面ライダーの立花藤兵衛として一世を風靡した名優ですね。

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プロフィール
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マイケルオズ@フリーランスライター
「特捜最前線」がマイブームになっているオヤジです。リアルタイムの頃は津上刑事より若かったのに、今はおやっさんよりも年長者になりました(苦笑)
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