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2016年03月29日
アガサ・クリスティから(21) (ゼロ時間へ#その3)
(ゼロ時間へ)
オードリイに逮捕状が出た。
トレシリアン老未亡人が何者かに殺された件での逮捕状である。
かなり前から犯人が周到に用意した犯行でもあった。
証拠は、ネヴィルが不利になるものばかりだった。
もう少しで絞首刑も免れなかった。とバトル警視に言わしめた程。
しかし睡眠薬で眠らされていたバレットの証言で、ネヴィルは嫌疑を免れた。
バレットは、事件の夜、外に出掛けるネヴィルを見た後、老未亡人に呼び出され生きている老未亡人に会っていた。
ネヴィルの嫌疑が無くなった後、別の証拠もいくつか見つかり、また金銭上の動機も浮上して来た。
つまり老未亡人が亡くなったことにより、老未亡人が持っていたマシュー卿の莫大な遺産がネヴィルとその妻に渡り、老未亡人自身の遺産はメリィ・アルディンに大半、残りをハーストールやバレットの召使いにいくのであった。
遺産を受け取るネヴィルの妻とは、オードリイのことであった。
またケイは自分に遺産相続されると思い込んでいた。
あらゆることが、オードリイを不利にして行った。
オードリイは追い詰められ、自殺を図るが、やはり自殺未遂したマクハーターに助けられる。
オードリイは「絞首刑になるのが怖い」と言った。
一方、ネヴィルもバトル警視からオードリイを必死にかばっていたが、たまたま耳にしたトーマス・ロイドから騎士道的精神では、かばいきれない。本当のことを言うべきだ。と、オードリイの不祥事である別の男との駆け落ちを話す。
当事者しか知らないはずと思っていたネヴィルは驚愕した。
ネヴィルやトーマスが、オードリイをかばうのだが、遂にオードリイに逮捕状がおりる。
オードリイは、ホッとしていた。
何もかもが終わって嬉しい。とまで言って・・・。
##########################
以下が(ゼロ時間へ#その2)の続きである。
そこへ突然の来訪者が現れる。
マクハーターである。
バトル警視がマクハーターの申し出を受け、別の所で話し合いをすると、
皆を誘導して、外に出るように促した。
またケイは既に逮捕状が降りているオードリイに噛み付いていた。
「最初からあんただと思っていた。」
それをとめるネヴィル。
ひるんだケイが可哀想だとテッド・ラティマがかばうと、ケイは泣き出してしまった。
一方、逮捕状がおり、連れ去られていくオードリイにネヴィルは手を差し伸べて「オードリイ」と言った。
なんの感情も示さない彼女の視線が彼の上に流れた。
「大丈夫よ、ネヴィル。なんとも思っていませんわ。」
大した退場だ。と言ったテッド・ラティマをネヴィルは睨んだ。
またバトル警視はマクハーターから貰った証言を元に実験をしたいと言い出した。
一同は訳が分からぬまま、バトル警視に従い、渡し場で待つマクハーターと落ち合い、モーターランチで海に出た。
モーターランチはガルスポイントの下の河を下り、入江に入って行った。
なお進んで行き、スクーターヘッドのそそり立った岩影の下あたりで舟を停めた。
バトル警視は言った。
「これは極めて変わった事件です。
私がこれまで知っているもののなかで、いちばん奇妙なものであります。」
そして王室顧問弁護士ダニエル氏の理論を挙げた。
「殺人とは、ある一定の時刻に一定の場所へと集中された数多くの様々な条件が累積した極点なのです。」
「殺人そのものは物語の結末なのですよ。つまりゼロ時間です。」
「今がそのゼロ時間なのですよ。」
マクハーターのぞく、5つの狐につままれたような顔が、バトル警視を見つめていた。
メリィ・アルディンが、トレシリアン老未亡人殺人事件が、その累積した極点にあたるのか?と問い正した。
しかしバトル警視の答えは、予想外であった。
トレシリアン老未亡人の殺人事件は第一目的の付随に過ぎず、これはオードリイ・ストレンジを殺害しようとした事件なのだと。
するどく息を吸い込む音が警視の耳に聞こえた・・・。
こうしてバトル警視は、犯人がかなり前から周到な計画を練り、オードリイ・ストレンジを絞首刑にして殺害するように仕組んで行った事件の解明を伝えていった・・・。
ネタバレしないギリギリラインまで書いてみたのだが、ほとんど書いてしまったのも同然である。
唯一、犯人名のみは伏せたが・・・。
やはり本書を読んで頂きたい。
じわじわと追い込み、真実が明かされる瞬間のはっとする感じを味わって頂きたいと思う。
犯人はバトル警視も言っているが、大した自惚れで、自分が犯人だとはバレないと思っている為、虚をつかれ、真相が解明されると大きく崩れてしまった・・・。
そこに幼い日の犯罪も重なって 映し出されるかのようであった・・・。
オードリイは蜘蛛の巣に掛かった蝶のように身動き出来なかったのだ。
事件が解決した後、オードリイは誰かと結ばれる。
ゼロ時間は終わったのだった。
(アガサ・クリスティから22へ続く)
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アガサ・クリスティから(20) (ゼロ時間へ#その2)
(ゼロ時間へ)
何もかもを持っていると言われるネヴィルの不利になる証拠が山ほど出てきたのだ。
驚きを隠せない一方、あまりにも無防備過ぎる証拠のオンパレードに違和感を感じる者がいた。
バトル警視である。
本書を読んだ後に(ゼロ時間へ#その1)を参照して頂くと分かるのだが、ほんのいくつかの断片を残し、既に約90パーセントは事件のクロスワードパズルの断片ピースは出尽くしているのである。
ほんのいくつかの断片について、今回は書いてみようと思う。
@亡くなったクレーヴスの話が、なんらかの関係があるとしたら・・・?
これは事件後にもメリィ・アルディンとトーマス・ロイドの中でも話し合われている位である。
まず その子供の個性でもある肉体的特徴と精神的特徴は?
本書では、登場人物全てに肉体的特徴も雑談の中などでさり気なく挙げている。
例えば、オードリイは手の小指がかなり長い。逆にメリィ・アルディンは小指が短い。ネヴィルも左手の小指は短い。など。他の人の特徴も本書の中にある。
A男女関係である。
ネヴィルと新しい妻ケイと元妻オードリイ。
激しく嫉妬心をぶつける若く美しい妻ケイ。
一見、何を考えているのか分からないような元妻オードリイ。
その間を揺れるネヴィル。
そしてケイを慕うテッド・ラティマ、
オードリイを慕うトーマス・ロイドという近しい人物もいる。
誰にも男女関係がないメリィ・アルディンは、離婚して不幸だったはずのオードリイに何もないうつろな人生より、ずっとましだと言う場面もある。
色々あり苦労する男女関係もあれば、
全く何もなく、ただ虚ろな男女関係なしもあるというところなのだろうか?
最大のポイントは、やはり(ある・なし限らず)男女関係だろう。ここにこそ、動機が眠っているのだから。
アガサ・クリスティの”ゼロ時間へ”は
発表が1944年で、約70年前の作品である。しかし、現在でも充分通ずる話でもある。古びてはいないのだ。
時代に伴い時代背景も何もかも変化してしまってはいるのにも関わらず。
アガサ・クリスティの推理小説の特徴はいくつかある。
そのひとつが、時に奇抜なアリバイとトリック。
事実を誠実に記してはいくのだが、読者の目を欺く事件の見せ方。
他のひとつが、男女関係含む人間模様を描くのが上手いということ。
普遍的でもある人間模様をより多く描いている為、古びた感じがしないのかも知れない。
話は少々、脱線したが、睡眠薬で眠らされていた召使いのバレットが眼を覚まし、当日の夜の証言を始める。
当日の夜、ネヴィルが出掛けた後に殺されたトレシリアン老未亡人に呼び出されたことが判明した。
またネヴィルの出掛けた姿も見ていた。
バトル警視はネヴィルに言う。
「もう少しで絞首刑になる所だった。誰かあなたを憎んでいる人を知りませんか?」と。
ネヴィルは、びっくりしながらも、離婚でつらい思いをさせたオードリイはいるが、それを許し、寛大に振る舞う彼女は天使のようだ。と答える。
ネヴィルは実際、ギリギリの所で嫌疑を免れる。
そして、事件は別展開をみせていく。
捜査の中で、バトルが名探偵ポアロを思い出す所がある。
ポアロの気まぐれ=釣り合いの取れていないものに全神経を集中させるのだ。
古風な鋼鉄の灰止め。左側の把手が右側に比べ、磨かれて光っていた。
指紋も右側にはあり、左側のは指紋がなかった。
結局、凶器はネヴィルのゴルフクラブではなく、この灰止めの左側の把手であると判明。
他にもいくつかの証拠も出てくる。
ネヴィルの新しい妻ケイは、自分にも相続権があるように思っているので、念の為、捜査班が弁護士に確認をする。
ネヴィルの後見人であるマシュー卿の五万ポンドの遺産を預かっていたトレシリアン老未亡人が亡くなったので、ネヴィルとその妻が莫大な財産を半分半分相続することになっていた。
このことより、ネヴィルの新しい妻ケイは、自分に相続権があると信じていた。
しかし弁護士は、遺言書作成の際のネヴィルの妻がケイではなく、オードリイであることから、遺言書にははっきりと記されていると言った。
「遺贈の点は、実に明白に記されています。この 遺産は、マシュー卿の被後見人たるネヴィル・ストレンジとその妻オードリイ・エリザベス・ストレンジ、旧姓スタンディシュとの間で配分されるものでありまして、離婚とは関係がありません。」
弁護士の証言より、金銭上の動機も生じたことが判明する。
莫大な遺産を相続するネヴィルとオードリイ、また自分に相続権があると信じているケイ、メリィ・アルディンも老未亡人からの遺産で一生食べていけるだけの収入にありつく。
ハーストールやバレット達、使用人も老未亡人から遺産を受け取る予定である。
しかしバトル警視は、どうも動機は金銭上ではない他の思いだと感ずる。
そして犯人が、ひどくひねくれているとも感じていた。
自殺しそこねた男アンドリュー・マクハーターは、人生をやり直しつつあり、自分の中の何かに決別すべく、また何故か惹かれるこの土地・スタークヘッドに来ていた。
ホテルでは見知らぬ人の妙に魚臭いスーツを間違って手渡される。
自殺未遂した場所に立ち、当時の気持ちを確かめたが何も感じなくなっていた。
その矢先、崖から飛びこもうとした白いドレス姿の美しい女性を自殺から救う。
彼女は今、話題となっているトレシリアン老未亡人殺害事件の関係者であることがすぐに分かった。
つまりネヴィルの前夫人オードリイであった。
彼女は「怖い。絞首刑になるのが怖い。」と怯えていた。
確かにネヴィルの嫌疑が晴れた後、金銭上も証拠も愛憎の理由も全てがオードリイを指し示しているようであった。
彼女は追い詰められていたのだ。
やはり自殺未遂の経験があるマクハーターは、ひどく感じ入り彼女を助けると誓い、老未亡人の屋敷に返す。
いよいよ嫌疑はオードリイに向いていて、バトルはネヴィルにそのことを告げる。
ネヴィルは否定しつつ、オードリイをかばう。
しかしトーマス・ロイドがネヴィルの騎士道的かばい方では、オードリイをかばえないと、ネヴィルとオードリイの離婚原因について言及する。
実はオードリイがネヴィルを裏切って
別の男と駆け落ちをしていたのだった。
ネヴィルは綺麗な負け方をすると言われているそのスポーツマンシップで、また騎士道的精神で、離婚はしたが、オードリイをかばった。
そして誰にもオードリイの駆け落ちのことは知られず、ネヴィルの新しい美しい妻のことでの離婚したと皆が思っていた。
ネヴィルは、オードリイを深く愛していたのだろうか?
離婚後、多額な慰謝料を彼女に与えようとしたが、オードリイはプライド高く、そのお金には手をつけていなかった。
ネヴィルとオードリイしか知り得ないと思っていた事実関係をトーマス・ロイドが知っていたことにネヴィルは驚愕していた。
実は、オードリイが駆け落ちした相手はトーマス・ロイドの交通事故で亡くなった兄であった。
彼らのかばい立ても虚しく、オードリイに遂に逮捕状が示される。
「これで本当にほっとしましたわ、とても嬉しいの終わったことが!」とつぶやき、ネヴィルが飛び出し、何も喋らない方が良い。とかばう。
しかし、オードリイは「どうしてなの?ネヴィル。皆、本当のことですもの・・・私、すっかりつかれてしまって。」と言った。
(アガサ・クリスティから21に続く)
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2016年03月27日
アガサ・クリスティから(19) (ゼロ時間へ#その1)
(ゼロ時間へ)
この話には、私立探偵ポアロもミス・マープルの推理もない。
(余談だが/映画では、原作と異なり バトル警視をミス・マープルに替えて作られている。)
エルキュール・ポアロの知人であるバトル警視が、作中でポアロを思い出す程度である。
バトルは[チムニーズ館の秘密][七つの時計][ひらいたトランプ][殺人は容易だ]などにも登場するロンドン警視庁勤務のがっしりした体格、彫りが深い無表情の風貌を持つ警視である。目で見たものも確認が取れるまで信用しない確実さを重んじる実直なタイプである。
犯人は、バトル警視を見誤ることが多い。その鈍重な雰囲気からか?くみし易い無能力者のように ついつい考えてしまうようだった。
ある日のこと、全てを無くし悲観して崖から飛び降り自殺した男が助けられて、病院のベッドの上で困惑していた・・・死ぬことさえ、ままならず。
生きていれば、ただそれだけで、必ず誰か必要としている人の役に立つ日が来ると若く信仰深い看護婦に諭されていた。
また別の場所では、1人の人間が黙々と綿密な計画を紙に記しているのが分かる。びっくりするのは、その内容が用意周到な殺人計画であることだった・・・。
”ゼロ時間へ”は、犯行時刻を原点ゼロとして、その時間を目指して様々な糸が絡み合い、ついにゼロ時間に達するという構成の元に成り立っている。
登場人物
●トリーヴス
有名な弁護士団の一員である老弁護士。
「私はよく出来た推理小説を読むのが好きでね。」著名なミスター・トリーヴスは、弁護士や判事など法曹関係者が集まっている席で言った。中には王室顧問弁護士もいた位である。
「だがね、どれも出だしがいけない!皆、殺人で始まっておるのだ。しかし、殺人は終局なのだよ。物語はそのはるか前から始まっている。時には何年も前から。」
要するに、すべてが集約されるある点、クライマックスにいたるその時がゼロ時間なのだ。ゼロ時間へ。とミスター・トレーヴは続けた。
彼は、独自の見解を持っていた。
(有名な弁護団の一員であった老弁護士は、独自の見解と別に 自分でも気付かぬうちに大きな鍵をも握っていた・・・。)
●カミラ・トレシリアン夫人
富豪の老未亡人。
●メリィ・アルディン
トレリシアンの遠縁の従妹。
●ネヴィル・ストレンジ
身体能力が高いスポーツ万能選手。
●ケイ
ネヴィルの華やかな雰囲気を持つ現在の妻。
●オードリイ
ネヴィルの最初の妻。
●テッド・ラティマー
ケイの友人。
●トーマス・ロイド
オードリイの遠縁の従兄。
●ハーストール
執事。
●ジェーン・バレット
小間使い。
●アリス・ベンサム
小間使い。
●エンマ・ウエルズ
小間使い。
●スパイサー
料理女。
●アンドリュー・マクハーター
自殺しそこねた男。
●ロバート・ミッチェル
警察署長。
●ラーゼンビイ博士
警察医。
●ジョーンズ
部長刑事。
●バトル
警視。
●ジェームズ・リーチ
警部。バトルの甥。
前述のトリーヴスの独自の見解の”ゼロ時間”とは別の話を彼はしていた。
場所は、お金持ちのカミラ老未亡人の屋敷。
カミラ老未亡人が後見人である人気テニス選手のネヴィルは、現在の妻である華やかなケイを連れて来ていた。
この9月は、いつもネヴィルの元妻オードリイも訪ねて来るのが慣習になっていた為、周囲は心配する。
しかしネヴィルは過去のわだかまりが溶けるようにケイとオードリイの仲を取り持とうとする。
他にはカミラの遠縁の従妹、オードリーの従兄やケイの男友達など。
カミラ老未亡人の屋敷で客人が集まる晩餐会。
カミラ老未亡人の知人であるトリーヴスは、皆の前で興味深い話をした。
ある小さな子供が友達を弓で射殺してしまった。本人も目前の事故にひどく落ち込んでいて、周囲の人間達は心配して事故に怯える子供をかばった。
しかし森の中で、その子供が弓射撃の練習をかなり積んでいたのを見た農夫がいた。
弓の取り扱い方が分からず、事故で殺めた状況とは考えられない話であった。
結局、その子供は計画殺人を成功させたのではないか?という話であった。
話し手であるトレーヴスは、その子供には他の人にない特徴があって、もし成人した子供に会っても判明出来る。と豪語した。
その子供は事件での不利益を被らないようにと、新しい名前で再スタートしていたはずであった。
そんな話の後には、ネヴィル氏の新しい妻と元妻がこのカミラ老未亡人の屋敷に同時期過ごすことについての懸念が密かに話題となっていた。
その華やかな新しい妻と元妻との間にいるネヴィル・ストレンジ。
もしも英国の中で最も運がいい、これ以上何の申し分もないといったような人物を1人選ぶとしたら、このネヴィルだろうと思われるくらいに全てを兼ね備えていた。
第一級のテニス選手であり、スポーツ万能選手であった。
テニスだけのチャンピオンになるにはあまりにも万能過ぎたのかも知れない。
ゴルフが上手く、水泳が達者、アルプス登山のものすごいのも何度かやってのけた。
35歳で輝くばかりの健康美、男前もよく金持ちで、新婚早々のすばらしい美人の奥さんがいた。
それが、ケイであった。
そして別れた元妻が、オードリイである。オードリイは美人ではないが、静かな何か人を惹きつける独特のものを持っていた。
色々な話題も語り尽くした後、晩餐会もお開きになって、トレーヴスは宿泊しているホテルに戻った。
テッド・ラティマが送って行き、散歩途中のトーマス・ロイドとも遭遇。
2人に付き添われてホテルにトレーヴスは着いた。
しかし残念なことにエレベーター前には故障中の貼り紙があった。心臓が悪いトレーヴスには大変だったが、階段を登り、部屋に戻らざる得なかった。
残り2人は、ホテルを後にした。
翌朝、ホテルのベッドの上で、トレーヴスは心臓発作で亡くなっていた。
カミラ老未亡人の屋敷では、やはり目には見えないが ネヴィルを挟んで 新しい妻ケイと元妻オードリイの不自然な同時期の滞在が不穏な空気を醸し出していた。
ネヴィルが元妻オードリイに社交辞令的に気を遣う姿が、勝気で美貌の新妻が気に入らず、オードリイにあたるという風であった。
遂には、ネヴィルはケイと別れてオードリイとやり直したい。とまで口にするようになる。
そんなネヴィルに対して、召使いから動向を聞いたのか?カミラ老未亡人はネヴィルを呼びだし、新しい妻を捨て元妻に戻るような不道徳なことは許さないと叱責をする。
しばらくして、カミラ老未亡人が殺される大事件が起きる。
事件前の男と争うような声、ゴルフクラブで頭部を殴打しての殺人。
ゴルフクラブはネヴィルのもので、彼の指紋がついていると判明。また隠された衣服には返り血や二、三人の女性のものと思われる髪の毛がついていた。
事件前に争うような声もネヴィルだと思われた。
全ての証拠がネヴィルを示していた。
あまりにも あっけない程の大量の証拠に違和感を覚えるものがいた。
甥のリーチ警部から手助けを頼まれたバトル警視であった。
本当の事件の真相と犯人の真意をつかむ為、ネヴィルを犯人嫌疑のままにして捜査が始まった。
(アガサ・クリスティから20へ続く)
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2016年03月26日
アガサ・クリスティから(18) (ナイル殺人事件#その4=映画)
(ナイル殺人事件)映画編A
登場人物の続き
●ポアロ友人の英国特務機関員レイス大佐
デヴィッド・ニーブン
●リネットの財産管理人のアンドリュー・ペニントン
ジョージ・ケネディ
●大富豪老婦人のマリー・ヴァン・スカイラー
ベティ・ディヴィス
●スカイラー付き添いのバウァーズ
マギー・スミス
●女流作家のサロメ・オッタボーン
アンジェラ・ランズベリー
●サロメの娘のロザリー・オッタボーン
オリヴィア・ハッセー
●社会主義者のジェームズ・ファーガスン
ジョン・フィンチ
●医者のベスナー
ジャック・ウォーデン
●ロックフォード
サム・ワナメイカー
以上が、前回アガサ・クリスティから(17) のブログに挙げた登場人物と共に登場した人物である。
やはりオールスターキャストなので目移りがするが、ジャクリーンを演じたミア・ファローの次は、メイド役のジェーン・バーキンにいきたいと思う。
ジェーン・バーキン。
お洒落で自由なフランス女優、歌手のイメージだが、本人は意外なことにイギリス人である。
1968年にフランスに渡り、主演俳優と事実婚や映画監督と結婚をしている。(また破局もしている。)
ジェーンの娘たちも1人は写真家、2人は女優になっている。
また彼女が歌う歌も独特な味わいがある。一度、聴いてみて欲しい。日本限定「ベスト」アルバムも出ている。
日本のテレビドラマ[美しい人]の主題歌にも使用され、また東日本大震災の復興支援チャリティーコンサートも行った。
ある時、飛行機の中で 籐カゴの中にぐちゃぐちゃと荷物を詰め込んでいるのを見たエルメス社の社長が、様々なものが入れやすい大きいサイズのバッグを作り、ジェーンにプレゼントした。
これが若い人から年配の人まで 夢中になったエルメスの有名なバッグ[バーキン]の始まりである。
余談だが、エルメスには有名なケリーバックがある。こちらはモナコ王妃となった妊娠中のグレース・ケリーがお腹を隠すのに使ったバッグである。
つい最近、ジェーン・バーキンはエルメスに対して、残酷な殺し方をしたワニ皮を使ったバッグを自分の名前である[バーキン]とは呼ばないで欲しい。と声明を出した。
それを受けたエルメス側も残酷な殺し方を避ける=バッグの工法を考慮する。との解答を寄せていたのが記憶に新しい。
ジェーン・バーキンは今も現役ジェーン・バーキンであった。
デヴィッド・ニーブン。
古くからの映画ファンなら見落としようもない俳優。
映画をあまり良く知らない人でも、スクリーンのどこかで見たことがある顔。
[嵐が丘][八十日間世界一周旅行][ナバロンの要塞]などなど、数え上げたらキリがない位の作品群。
[ピンクパンサー]のファントム、[007カジノロワイヤル]のジェームズ・ボンドであり、[旅路]ではアカデミー主演男優賞も手にした名優。
かつてのジェームズ・ボンドが、やはり英国特務機関員というイギリスの特殊機関にいるレイス大佐を演じる。
ジョージ・ケネディ。
[シャレード]や[エアポート]シリーズなど。アカデミー助演男優賞を貰った名脇役である。
リネットの財産管理人ペニントンを演じる。
ベティ・デイヴィス。
アカデミー賞を11回ノミネートされた最高記録を持っていたこともある名優=大女優である。
同じ演技をしたことがないという程、ハリウッド屈指の演技派。
因みに11回の記録を塗り替えたのは、やはり演技派キャサリン・ヘップバーンであり、なおキャサリン・ヘップバーンをすごい勢いで超えたのは、あのメリル・ストリープの現在19回である。
[イヴの総て]などオールドファンには懐かしい映画も多い。
そのベティ・デイヴィスが、盗癖のある大富豪老婦人ヴァン・スカイラーを演じる。
アンジェラ・ランズベリー。
ミセス・サロメ・オッタボーンを怪演。後に同じアガサ・クリスティの作品である[クリスタル殺人事件]では、ミス・マープルを演じている。
オールスターキャストなので、まだまだ書き足りない位なのだが、何人かだけ抜粋して紹介してみた。
オリヴィア・ハッセー。
[ロミオとジュリエット][マザーテレサ]
十代の頃は、あの美しく過ぎるジュリエットである。
日本人には、歌手布施明との結婚・離婚も記憶に残るところである。
サロメの娘ロザリー・オッタボーンを演じる。
原作のコーネリアが不在の為、ロザリー役+原作のコーネリアの役割である。
人物紹介の最後はエルキュール・ポアロで締めくくりたい。
ピーター・ユスティノフが演ずるポアロは、ユーモラスで温厚な雰囲気を持っている。原作に雰囲気は近いが、小男の原作とは異なり、大男である。
この後の映画、テレビでもポアロに扮するので、また取り上げようと思う。
[ナイル殺人事件]では、雄大なエジプトの悠久の地に馬で駆け抜けて行く美男美女の男女。サイモン・マッコーキンデール演じるサイモン・ドイルとロイス・チャイルズ演じる大富豪リネット。階段ピラミッドを手に手を取り、駆け上がって行く2人。カメラのアングルが雄大なエジプトを映し出している。
前述した人物達が織りなして行く物語・・・それは、どこまでも愛憎劇なのだった。
(アガサ・クリスティから19に続く)
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2016年03月25日
アガサ・クリスティから(17) (ナイル殺人事件#その3=映画)
(ナイル殺人事件)の映画編@
”ナイル殺人事件”
一言で言うと映画にならないはずがない題材である。
風光明媚な悠久の地・エジプトを舞台に繰り広げられるアガサ・クリスティの推理小説。
しかも愛憎劇の中。(詳細やストーリーはナイル殺人事件の本文、または、このブログの#その1、#その2を参照して頂きたい)
映像化は、当然の流れであろうと察せられる。
今回は1978年のイギリス映画、【ナイル殺人事件】を書き綴ってみようと思う。
音楽は誰しもが聞いたことのあるゴッド・ファーザーの愛のテーマでお馴染みのニーノ・ロータである。
一部を除き、ほぼ原作のままである。
その一部とは、原作のコーネリアは登場しない。故にファーガソンがコーネリアに恋心を抱きつつも失恋することはなく、ロザリーと恋愛に落ちることになる。またジャクリーンが娯楽室でサイモンを小型拳銃で撃った際も原作のコーネリアに代わり、ロザリーが現場に居たことになっている。
配役は以下である。
●私立探偵エルキュール・ポアロ
ピーター・ユスティノフ
●美貌の大富豪リネット・リッジウェイ
ロイス・チャイルズ
●友人リネットに元婚約者サイモン・ドイルを略奪結婚されたジャクリーン・ド・ベルフォール
ミア・ファロー
●元婚約者ジャクリーンの友人の大富豪リネットと結婚したサイモン・ドイル
サイモン・マッコーキンデール
●リネットのメイド、ルイーズ・ブルジェ
ジェーン・バーキン
●登場人物続きは、次のブログにて紹介
やはりアガサ・クリスティの映画は、オリエント急行殺人事件に続き オールスターキャストであった。
オールスターなので目移りするが、ミア・ファロー=ジャクリーン・ド・ベルフォールから 取り上げたいと思う。
ミア・ファロー。
ローズマリーの赤ちゃん
ジョンとメリー
華麗なるギャツビー
含め40本以上の作品に出演。
それ以前に舞台ではシェークスピア、チェーホフ、ゴーリキー、ロルカの舞台女優も務める本格派である。
映画では、役柄を演じることもさることながら、他の人では醸し出せない不思議な魅力を備えている。
単なる美人ではない、妖精(のような)美と言ったような風情を持っている。
"ナイル殺人事件"の強い個性を持つ、エキセントリックなジャクリーンは、ミア・ファローにとてもよく似合っている。
私自身は、同じくアガサ・クリスティの”ゼロ時間へ”に出てくるオードリーもミア・ファローの不思議な妖精美が似合うような気がしている位である。
私生活では、俳優のフランク・シナトラ、ドイツ系ユダヤ人ピアニストのアンドレ・プレヴィン、それぞれと結婚し、離婚している。その後、ウッディ・アレンとの間に子供も設けている。プレヴィン、ウッディ・アレンとの間に実子が4人、養子が10人の計14人の子持ちでもある。養子は貧困地域の引き取り手が少ない障害がある人が多い。
あのプレイボーイで有名なフランク・シナトラ、多分ありとあらゆる美女に囲まれ、ありとあらゆる美女を見て来たはずである。
ウッディ・アレンも映画から推測しても好みにうるさそうである。マニアックなこだわりもありそうで。
単なる美人を超える魅力を持つミア・ファローなら、彼らが一度は生涯を共にしたのも うなずけるのだった。
昔、何かの映画雑誌で読んだところによると、ミア・ファローはハリウッドのお姫様のように育ったとあった。
(おままごと)をひとつするにしても、ビバリーヒルズの豪邸で、やはりビバリーヒルズ育ちの子供達とほぼ本物に近い道具や特注ドレスで行なっていたと書いてあったような記憶がある。
”華麗なるギャツビー”のデイジーも似合うはずである。
あの現実離れしたような不思議な魅力はそこから来ているのかも?知れない。
父はオーストラリア出身の映画監督ジョン・ファロー、母は女優のモーリン・オサリバンで、映画界のサラブレッドでもある。父の反対を押し切っての女優スタートだったようだ。
国連親善大使を含め、社会活動も活発な才媛(イェール大学、バード大学)でもある。
70年代ビートルズ達とインドに瞑想に行ったり、逸話も沢山ある。
また女優としては、ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞含む数々の賞も取っている。
何より、ミア・ファローはミア・ファローでしかあり得ない。他の人では代われない個性の持ち主なのだ。
”ナイル殺人事件”のジャクリーン。
ミア・ファローの後は他の人は難しいように思う。
圧倒的な個性を持つミア・ファローの後に取り上げたいのは、やはり個性的なジェーン・バーキンである。
(アガサ・クリスティから18に続く)
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2016年03月24日
アガサ・クリスティから(16) (ナイル殺人事件#その2)
(ナイル殺人事件)
若く美貌の大富豪リネット・リッジウェイは友人ジャクリーンを裏切り、彼女の婚約者サイモン・ドイルと略奪結婚する。
ジャクリーンは、復讐に燃え、執拗に行く先々に嫌がらせ的な付きまといをする。
新婚旅行のエジプトにおいても、付きまとっていた。
サイモンは、ジャクリーンがついてこれないようにナイル河のクルーズの船旅を予約する。
ジャクリーンは付きまといを諦めてはいなかった。
困り果てたリネットに頼まれたポアロは、ジャクリーンが嫌がらせ的な付きまとい以外、まだ法を冒していない状況なので引き受けずにいた。
しかしジャクリーンには、過去を諦めるようにうながす。
また彼女の将来を憂い、警告をする。
それでもジャクリーンの愛憎の気持ちは強まることはあれど、変わることがなかった。
船旅が始まった。
そこにはジャクリーンの姿がなかった。
ようやくジャクリーンから離れることが出来て、サイモンとリネットは、心底ほっとしていた。
しかし・・・・・。
(以下、前回の続きである)
船のクルーズは最初にルクソールに着いた。
カルナック神殿、ルクソール神殿、王家の谷と観光は続いた。
船は北上して、デンデラ神殿に着いた後、サイモンとリネットの頭上に石材が落ちて来た。
幸い、大丈夫であったが、落石事故なのか?故意なのか?分からぬままであった。
現場には、ジャクリーン以外の人達がいたのだ。
いづれにせよ、皆それぞれ、何らかの理由でリネットを恨んでいた。またはリネットの存在を心良くは思っていなかった。憎んでいた。
再びジャクリーンが、目の前に現れた時のリネットの驚きは恐怖に近いものだった。
ジャクリーンの執拗な付きまといから解放され、ほっとしていた矢先だったので 反動で、前以上のショックを受けていた。
夜の娯楽室。
サイモンとリネットの夫妻は、他の皆とブリッジを楽しんでいた。
そこに突然、泥酔したジャクリーンが入って来て、露骨にサイモンに絡み始める。
リネットは席を立ち、不愉快な雰囲気に他の者も退席する。
ジャクリーンは失恋の話をしながら、執拗かつ遠回しにサイモンを責めていた。
話しにかこつけなから、絡んでいたのだった。
ジャクリーンはそばにいるコーネリアを話し相手に選び、離さない。
しかし、実際はコーネリアに話しながらも、その目はサイモンから離れなかった。
3人になった時、サイモンに絡んでいたジャクリーンがいきなり小型拳銃を出し、サイモンを撃ってしまった。
足を撃たれたサイモンはハンカチで押さえたが、そのハンカチは真っ赤に染まっていた位であった。
ジャクリーンは、自分がしてしまった事にすっかり怯え、ヒステリー状態になった。
ファガーソンが物音に気付いて戻り、コーネリアと共にヒステリー状態のジャクリーンを部屋に連れ帰った。
コーネリアはジャクリーンに付き添い、ファガーソンは医者ベスナーを探しに行った。
そして医者を娯楽室に連れて行き、サイモンの診察を見守った。
サイモンの怪我はかなりの重症であった。もちろん、歩くこともままならない。
しかし、サイモンは事件を大ごとにはしたくなかった。
彼女を裏切り、追い詰めた責任を感じていたのだろうか⁈
関係者以外は知らぬままに その夜は過ぎて行った・・・。
後にポアロは、この夜のことをまるで睡眠薬を盛られていたかのよう熟睡していて、サイモンとジャクリーンの間にそんな事件が起きたことは知らなかった。と言った。
翌日、寝室でリネットが殺されているのが発見される。
ダイイングメッセージだろうか?現場には血でJと記されていた。
いつもリネットが身につけていた、邸宅が買える程高価な真珠が盗まれていることも判明する。
状況を見て、レイス大佐はポアロにある種の捜査権を与えた。
ポアロは捜査に乗り出したが、ほぼ全員がリネットを憎んでいたことが分かったのだった。
次にメイドが殺された。
そしてオッタボーンが頭を撃ち抜かれる。
凶器は、メイドがベスナー医者の外科用メス、オッタボーンがペニントン所持の拳銃。
いづれも持ち主は、盗まれたとしている。
犠牲者2人とも、リネットが殺された夜、何かを船上で見たようだった。
メイドはそれで犯人を脅迫してお金をせしめようとしたらしい形跡があった。死体の手に札の破れた紙片を握っていたのだ。
お喋りなオッタボーンもあの夜、眠れなくて部屋を出て、船上にいた。と言っていた・・・。
犯人は彼女達を生かしておくことはなかった・・・。
動機として一番怪しいジャクリーンは
当日夜、リネットの寝室に行くことは出来なかった。
サイモンを小型拳銃で撃った後、錯乱状態で その前後ずっとコーネリアが付き添っていて、一人になることがなかった。
つまり娯楽室で泥酔してサイモンに絡んだ際、リネットは他の客同様、あまりの不愉快さで退席したが、その後、コーネリア、サイモンといる時に小型拳銃でサイモンを撃ち、ヒステリー状態に陥った。
そしてファガーソンとコーネリアに部屋に抱きかかえられて戻り、ずっとコーネリアに付き添われて自室いたのだった。
一方、ジャクリーンに足を撃たれたサイモンも怪我がかなりの重症で動くことは出来なかったのだ。
2人とも リネットが娯楽室を出た後から朝、死体で発見されるまで、別の場所にいたのだ。
ジャクリーンはコーネリアに付き添われ、小型拳銃で撃たれたサイモンは医者も動けない程の重症であると証言した。
一方、いくつかの問題点が挙げられる。
●リネット真珠の件
盗まれる。偽物とすり替えられる。
社交界で同じような事件が、度々起こっていた。
社交界の貴婦人でリネットの友人でもある随分魅力的なジョアナ・サウスウッドの周辺でも よく起こっていた。
(しかし彼女の身の回りからは、真珠はもちろん、他の問題になった宝石類は出てこなかった。)
●川底から投げ捨てたと思われる拳銃がスカーフにくるまれて出てきた。
2発の弾丸が使用された跡があった。
スカーフは事件が起きる少し前に紛失していた大富豪の貴婦人ヴァン・スカイラーのものであった。
●デンデラ神殿での石材落下の件
他にも伏線がいくつか絡み、もつれたまま、ポアロと共に事件は終盤へとなだれ込んでいく。
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”ナイル殺人事件”は、アガサ・クリスティの推理小説である。
事件が起こり、名探偵ポアロが登場し、各登場人物の人物描写と共にめいめいのアリバイやそれぞれの抱いてる動機が解明されていくのだ。
推理小説として、しごく当たり前な話である。
ただアガサ・クリスティの作品には推理小説でカテゴリーをくくるだけでは作品を表すことが出来ないような時も多々あった。
事件を挟んでの人物や心理描写、人間模様が描き出されている作品も多かった。
ある意味、''ナイル殺人事件”は推理小説の事件を挟んだリネットとサイモンとジャクリーンとの三角関係の中にある友情・裏切り・恋愛・結婚そして嫉妬、復讐・愛憎劇・・・・・。なのだった。
そう確かに愛憎劇なのだ・・・・・。
あのポアロにポアロ自身の人生の中に愛はなかった。と言わしめている愛=愛とは裏腹の憎悪。
探偵として名声を極めたポアロが持っていなかった恋愛に通ずる直情的な愛。
リネットはリネットの、
サイモンはサイモンの・・・・・
そして注目すべきは?ジャクリーン。ジャクリーンの愛とは⁈
読者は、この三角関係の誰に自分の感情を重ねて読むのだろう・・・?
◯若く頭脳も明晰で全てを持っている美貌の大富豪リネット。
◯女性を魅了は出来るが何も持たざるもの、そして手に入れられるものがあるならば節操がないサイモン・ドイル。
◯破産し没落した家の娘、大富豪友人に婚約者を取られてしまう不運を圧倒的な独特の個性で乗り切ろうとする女性ジャクリーン。
あるいは他の登場人物に気持ちを重ねるのかも?知れない。
とても控え目に生きているようなコーネリアや対外的には母の付属品の域を出ないロザリー、思想にいかれたファガーソン(実はその社会主義に反する爵位を持った貴族である。大学で思想にかぶれたらしい。)など他の個性の人物に?
リネットとサイモンとジャクリーンの誰がこの不毛の三角関係の愛の勝者なのだろうか?
いや、愛に勝ち負けはないはず。
厳密に言えば、彼ら3人は、”愛”に程遠い直情型の欲望なのかも知れないのだが・・・。
しかし、愛憎劇であるのには間違いない。
”愛憎劇”
そして、この(愛憎劇)という言葉が”ナイル殺人事件”最大のヒントのような気がするのだった・・・。
(アガサ・クリスティから17に続く)
///余談///
イメージに使用したアネモネの花言葉
全体的な花言葉は、[はかない恋][恋の苦しみ][見捨てられた][見放された]
白いアネモネ[真実・期待・希望]
紫色アネモネ[あなたを信じて待つ]
赤いアネモネ[君を愛す]
アネモネはギリシャ神話の美と愛の女神アフロディーテに愛された美青年アドニスが狩りの途中、猪に殺された時、流れ出た血の後に生まれた花といわれている。
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2016年03月23日
アガサ・クリスティから(15) (ナイル殺人事件#その1)
(ナイル殺人事件)
このブログの最初にも書いたのだが、アガサ・クリスティは考古学者と再婚し、各国を回り エキゾチックな外国の風景をも作品に取り入れていた。
また戦時下の体験よりか?彼女は初期の段階でスパイ小説的なものを数多く描いてもいた。
ナイル殺人事件もエジプトのピラミッド含めたエキゾチックな異国の旅が背景にあり、またポアロの友人レイス大佐は英国特務機関員である。
(余談だが、このレイス大佐は「ひらいたトランプ」にも登場する。)
アガサ・クリスティらしいと言えば、とてもアガサ・クリスティらしい作品である。
雄大なエジプトを背景に男女の愛憎始め、様々な憎しみが付きまとう中、遂に事件が起こる。
大富豪かつ美貌のリネット・リッジウェイが殺された。
それまでの憎しみの数々の中、起こるべくして起こってしまったような事件であった。
犯行現場はナイル河をクルーズする船の中。クローズド・サークルである。
血で描かれたダイイングメッセージの頭文字。
我らの探偵エルキュール・ポアロが登場する作品でもある。
前述した”予告殺人事件”に登場した真珠の首飾り。
真珠とミス・マープルならではの洞察力、女性が多種多様に感じる宝石=真珠を記したのだが、今回も真珠が登場する。
前述は、女主人の首元を飾っていたが、今回の”ナイル殺人事件”では若く美貌の大富豪リネットの首元を飾っている。
そして大富豪リネットの財力を示すかのように邸宅が買える位に値打ちある真珠であった。
今回はポアロが、真珠を扱う。
リネット殺害の現場を調査するうち、かなり高価な真珠が盗まれていることが分かる。
そして盗まれた真珠そのものは、本物でもなく、偽物にすり替えられていたものであった。
社交界の中にある闇も事件の近くに横たわっていたのだ。
''予告殺人事件”の真珠とは違う運命を持つ”ナイル殺人事件”の真珠であった。
ネタバレしないこのブログで''なぞなぞ”のようなヒントを書いてみた。
【果たして本当にリネットの傲慢さが引き起こさせた殺人事件なのだろうか?】
エジプトの魅惑的な風景を取り入れた映画でも有名な作品である。
まずは原作から。
●エルキュール・ポアロ
ベルギー出身の私立探偵。
●リネット・リッジウェイ
若い美貌の大富豪。
親友ジャクリーンの婚約者を略奪して
サイモン・ドイルと結婚したばかりである。
●サイモン・ドイル
婚約者だったジャクリーン・ド・ベルフォールを捨て、彼女の親友であった大富豪リネット・リッジウェイと結婚した。
●ジャクリーン・ド・ベルフォール
サイモン・ドイルの元婚約者。
親友リネットに婚約者を略奪婚され、恨んでいる。
●ルイーズ・ブルージェ
リネットのメイド。
実は付き合っていた恋人のことで、リネットに反対され、恨んでいた。
●レイス大佐
ポアロの友人、英国特務機関員。
途中から船に乗り込む。
●ヴァン・スカイラー
大富豪の貴婦人。
実は盗癖がある。
邸宅が買える程のリネットの真珠の首飾りを密かに狙っていた。
●コーネリア・ロブスン
スカイラーの従妹。
盗癖のあるスカイラーのお目付け役。
●バウァーズ
スカイラーの看護婦。
リネットの祖父に破産させられた家の出身。
●ジョアナ・サウスウッド
リネットの友人で社交界の貴婦人。
●ミセス・アラートン
ジョアナの従妹。ティムの母親。
●ティム・アラートン
アラートンの息子。
リネットの友人。
●アンドリュー・ペニントン
リネットの財産管理人。
実は横領していて、リネットにばれそうになる。
●スターンデイル・ロックフォード
ペニントンの共同経営者。
●ジム・ファンソープ
弁護士。
●ウィリアム・カーマイケル
ジムの伯父。
弁護士。
●ファーガスン
社会主義のアナーキスト
リネットのような大富豪を汚らわしい産物だと思っている。
●ギド・リケティ
考古学者。
●カール・ベスナー
医者。
リネットに藪医者とののしられ、憎んでいた。
●サロメ・オッタボーン
女流作家。
実はリネットをモデルに[砂漠に降る雪]なる官能小説を出版、リネットから裁判に訴えられていた。
●ロザリー・オッタボーン
作家オッタボーンの娘。母親がリネットに訴えられている。
●フリートウッド
船の機関士
リネット・リッジウェイは、莫大な財産を引き継いだ若く美貌の大富豪であった。頭脳も明晰であり、何もかも揃っていた。
ある日、親しい友人である破産した家の娘ジャクリーン・ド・ベルフォールに頼み事があると言われる。
今まで困窮したジャクリーンに裕福なリネットは手を差し伸べようとしたが、プライドの高いジャクリーンは断わっていたのだ。
ジャクリーンは頼み事として、彼女の失業中の婚約者サイモン・ドイルを屋敷での仕事に雇って欲しいと言い出す。
そして、サイモン・ドイルと結婚してエジプトに新婚旅行に行く予定だと告げる。
リネットは、ジャクリーンの願い通り、サイモン・ドイルを雇った。
数ヶ月後、華やかな結婚式の後、エジプトへ新婚旅行に出掛ける2人の姿があった。サイモン・ドイルとリネット・リッジウェイの2人。
サイモン・ドイルは婚約者であったジャクリーンを無情にも捨て去り、大富豪であるリネット・リッジウェイに乗り換えていた。
またリネット・リッジウェイも没落し困窮した状態にあった友人ジャクリーンの唯一の希望でもある大切な婚約者を略奪し、結婚したのだった。
ジャクリーンは?
ジャクリーンは、憎しみのあまり、今や元婚約者と元友人の夫婦を行く先々、付け回して嫌がらせをしていた。
まさかと思うエジプトくんだりまでも付きまといをしていた。
困ったリネットは、たまたま居合わせエルキュール・ポアロにジャクリーンのことを頼む。
しかしポアロは休暇中であることやジャクリーンが付きまといだけで、まだ法を冒していないことから、あまり良い返事を与えなかった。
ただジャクリーンには過去を清算するように、そして彼女の将来を憂い 警告もしたが、ジャクリーンは隠していたピストルを持ち出し頭に向ける真似をして、リネットを殺してやりたい。と憎しみをぶつける。
嫌気がさしたサイモンもナイル河をクルーズする船を予約して、ジャクリーンがこれ以上ついてこれないようにする。
船にはジャクリーンが居ないことで、ほっとするサイモンとリネット。
船旅が始まる。
しかし・・・・・。
(アガサ・クリスティから16に続く)
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アガサ・クリスティから(14) (予告殺人事件#その2)
(予告殺人事件)
●レティシア・ブラックロック
リトル・パドックス館の女主人
●ドラ・バンナー
レティシアの古くからの親友
●パトリック・シモンズ
レティシア・ブラックロックの従弟
●ジュリア・シモンズ
レティシア・ブラックロックの従妹
●フィリッパ・ヘイムズ
かなり美人であるリトル・パドック館の下宿人
●ミッチー
メイド
●イースターブルック大佐
心理学者
●ローラ・イースターブルック
イースターブルック大佐夫人
●エドマンド・スウェッテナム
文学青年
●スウェッテナム夫人
エドマンドの母
●ヒンチリフ
マーガトロイドと養鶏業を営む
●マーガトロイド
ヒンチリフと養鶏業を営む
●ジュリアン・ハーモン
牧師
●ダイアナ(バンチ)・ハーモン
ジュリアンの妻
●ルディー・シャーツ
強盗
村のホテル従業員のスイス人。
殺されてしまう。
●クラドック
捜査課の警部
●ライデスデール
警察署長
●ヘンリー・クリザリング卿
前警視総監
●ジェーン・マープル
セント・メアリ・ミードに暮らすミス・マープル。老婦人。
村人達が必ず目を通す地元新聞に日時と場所明記の上で殺人を予告される。
予告日予告現場リトル・パドック館に野次馬で村人達が集まった。
予告時刻に明かりが消えて、銃声がした。
この殺人予告をパーティーか余興のサプライズと考えていた人達は、灯りがつき、ホテル従業員のスイス人が倒れているのを見て 本当の事件なのだと初めて知る。
警察が動き出し、その時、現場にいたリトル・パドック館の人達および村人達を1人1人調べて行く・・・。
その中で特筆すべきは、このリトル・パドック館の女主人がもうすぐ莫大な遺産を引き継ぐ可能性が高いということであった。
昔ランダル・ゲドラという大資産家の元で仕事をし貢献していたレティシア・ブラックロック。
ゲドラ夫人が亡くなれば、次の遺産は
レティシアが相続する。と遺言書にあり、万が一、レティシアがゲドラ夫人前に亡くなれば、ランダル・ゲドラの妹の子供達ピップとエンマが相続する。とあった。
現在、ゲドラ夫人は病床に伏し、死の間際とされている・・・・・・。
クラドック警部とたまたま、この村に滞在していた牧師夫人の縁故、ミス・マープルは協力をして 事件解決を目指し、調べて行くが・・・・・。
その目をかいくぐって 第2の殺人が起こってしまう。
次の犠牲者は、レティシアの古くからの親友ドラ・バンナであった。
親友を亡くしたレティシアの喪失感は測り知れなかった。
古くからの大切なものをなくしたのも同じだった。
どこかにレティシア・ブラックロックの次に莫大な財産を相続する権利を持つピップとエンマがいたとしたら?!
事件の中で捜査は進められていく。
狙われているかも知れない上、古くからの親友を亡くしたレティシア・ブラックロックはひどく落ち込んでいた。
一方で、養鶏を営むマーガトロイドは、同業者のヒンチリフに現場での立ち位置から、事件当日のことを見てたはず見れたはずと言われ 、なんとか思い出そうとしていた。
しかし、いくら考えあぐねても何も思い出せず、ふと気づくことがあった。
つまり見ていないのだった。
本来、あるべきはずのものを・・・。
彼女もまた殺されてしまう。
事態は緊迫した中、次はミス・マープルが行方不明となってしまう。
ミス・マープルの行方不明も 心配のあまり、レティシア・ブラックロックを一層落ち込ませていた。
そんな落ち着かない状況下にリトル・パドック館のメイドが、とんでもないことを言い出す・・・。
以上が簡単なネタバレしないギリギリラインのあらすじである。
前回に書いたヒントの大粒真珠。
ミス・マープルが女性ならではの感性で、その真珠に見ていた側面とは・・・・。
(予告殺人)も また前述の作品群と同じくアガサ・クリスティを代表する作品であった。
(アガサ・クリスティから15に続く)
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2016年03月22日
アガサ・クリスティから(13) (予告殺人事件#その1)
(予告殺人事件)
ある日のこと、村人達が皆、見るという地元新聞の広告に皆が驚いていた。
そこには「殺人のお知らせを申し上げます。・・・10月29日金曜日、午後6時半よりリトル・パドック館にて・・・」とあった。
リトル・パドック館の持ち主のレティシア・ブラックロックは、半ば 呆れつつ、このイタズラの犯人=パーティーか余興のサプライズに思いを寄せる。
親友であるドラ・バンナーは心配するが、当日の村人達を想定しながらブラックロックは簡単な飲み物などの用意をする。
当日、女主人ブラックロックの予想通り、野次馬の村人達は色々な口実を設け、予告のあった時間あたりにリトル・パドック館に集まり始まる。
広告に予告された時間6時半きっかりに停電になり、銃声が鳴り響く。
その時でさえ、パーティーの余興だと思った人もいた位である。
しかし明かりがつき、本当に人が殺されるのを知ってから、現場はパニックとなる。
殺された人物は、村のホテルに勤務する従業員のスイス人だった。
警察の捜査が始まり、現場にいた1人1人を調べて行く。
騙したはずが騙されていた。そのようなことも、この予告殺人のお話の中でも見受けられた。
もちろん、ネタバレしないこのブログでは”なぞなぞ”のようなヒントを散りばめようと思う。推理小説の醍醐味と共に。
大きなヒントをひとつ。
リトル・パドック館の女主人レティシア・ブラックロックはいつも大きな真珠を身につけている。
それが彼女のトレードマークでもあったが、まがいものか?と思う程の大粒真珠だった。
ある時、その真珠が切れてバラバラになって落ちてしまった。
普段とても落ち着き、威風堂々のレティシアが慌てふためく・・・相当な真珠の品なのだろうか?・・・。
ミス・マープルでしか、分かり得なかっただろう人間模様も描かれていて、
最後まで読み尽くすと、儚くも哀しげなお話なのだと分かるのだった。
やはりこの予告殺人の事件には、ポアロよりもミス・マープルが似合うのだった。
ポアロなら、レティシアの真珠の真贋含む資産価値がすぐに分かったかも知れない。
しかし女性がお気に入りの宝石を身につける時、その美しさはもちろん、お洒落であったり、(これは資産価値から来るものだが)ステータスであったり、あるいは思い出に繋がるものや、お守り的な思い入れやその他様々な思いをその人なりに持っていたりするのだ。
男性にとっての資産価値ある真珠は、女性にとっては、その女性の数だけ、様々な思い入れがあるに違いない。
資産価値だけではない宝石の多種多様な側面を女性は感じ取っているのである。
ミス・マープルなら、もちろん真珠の資産価値以外の側面を女性ならではの感性で読み取っていたに違いない。
因みに私自身は、この作品を実は数回読んでいる。
推理小説は、最初の読書時にスリル、ときめき、謎解きの面白さや結末へのカタルシスがあり、次に読む時は結末やアリバイ、トリックも知った上での細部に宿るあれこれを味わう楽しみ方がある。
その後もその本を手に取るのは、上記を越える何か別の魅力を感じた時が多い。
登場人物か?物語か?それとも他の何かか?とても魅力的であるのは間違いない。
(アガサ・クリスティから14に続く)
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アガサ・クリスティから(12) (予告殺人#その0=予告殺人事件へ行く前に。)
(予告殺人事件)に行く前に。
アガサ・クリスティには、優秀な探偵が幾人もいる。
中でもエルキュール・ポアロとミス・マープルはかなり有名である。
生みの親であるアガサ・クリスティ自身が、こよなく愛したミス・マープルの事件を取り上げようと思う。
ミス・マープルが探偵の時は、アガサ・クリスティの持つ人間観察力に基づく人物描写が増すように思える。
イギリスの小さな田舎町にずっと暮らし、ほぼ外に出たことがないオールドミスの老婦人。
白い雪のような髪に編み物を手にした彼女は、言うのだった。
村の中であった出来事や村のある人に
とてもよく似ている。と。
実際、彼女はこの独特の人間的な推理力で皆が解けずにいる事件を解いてしまうのだ。
短編にも彼女らしいものがあるが、長編への登場も多い。やはり、このブログで おいおい紹介したいと思う。
ミス・マープルが登場する事件は、故に人間模様やその人が持つ個性や人間性が事件のヒントになることが多い。
隠れた個性でさえ、ミス・マープルの穏やかだが、鋭い洞察力であぶり出されるのだ。
(予告殺人事件)もポアロではなく、ミス・マープル登場なのが、とてもよく分かる作品であった。
まず冗談にも思えるような殺人予告から、事件は始まるのだった。
新聞広告に日時、場所指定の上、殺人予告がなされる。
村人達やその家の関係者達は、あまりにもびっくりするその広告に 一部の心配する人を除き 何かの余興か愉快なパーティーのサプライズなのだろうと考える。
(アガサ・クリスティから13に続く)
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