2016年03月29日
アガサ・クリスティから(21) (ゼロ時間へ#その3)
(ゼロ時間へ)
オードリイに逮捕状が出た。
トレシリアン老未亡人が何者かに殺された件での逮捕状である。
かなり前から犯人が周到に用意した犯行でもあった。
証拠は、ネヴィルが不利になるものばかりだった。
もう少しで絞首刑も免れなかった。とバトル警視に言わしめた程。
しかし睡眠薬で眠らされていたバレットの証言で、ネヴィルは嫌疑を免れた。
バレットは、事件の夜、外に出掛けるネヴィルを見た後、老未亡人に呼び出され生きている老未亡人に会っていた。
ネヴィルの嫌疑が無くなった後、別の証拠もいくつか見つかり、また金銭上の動機も浮上して来た。
つまり老未亡人が亡くなったことにより、老未亡人が持っていたマシュー卿の莫大な遺産がネヴィルとその妻に渡り、老未亡人自身の遺産はメリィ・アルディンに大半、残りをハーストールやバレットの召使いにいくのであった。
遺産を受け取るネヴィルの妻とは、オードリイのことであった。
またケイは自分に遺産相続されると思い込んでいた。
あらゆることが、オードリイを不利にして行った。
オードリイは追い詰められ、自殺を図るが、やはり自殺未遂したマクハーターに助けられる。
オードリイは「絞首刑になるのが怖い」と言った。
一方、ネヴィルもバトル警視からオードリイを必死にかばっていたが、たまたま耳にしたトーマス・ロイドから騎士道的精神では、かばいきれない。本当のことを言うべきだ。と、オードリイの不祥事である別の男との駆け落ちを話す。
当事者しか知らないはずと思っていたネヴィルは驚愕した。
ネヴィルやトーマスが、オードリイをかばうのだが、遂にオードリイに逮捕状がおりる。
オードリイは、ホッとしていた。
何もかもが終わって嬉しい。とまで言って・・・。
##########################
以下が(ゼロ時間へ#その2)の続きである。
そこへ突然の来訪者が現れる。
マクハーターである。
バトル警視がマクハーターの申し出を受け、別の所で話し合いをすると、
皆を誘導して、外に出るように促した。
またケイは既に逮捕状が降りているオードリイに噛み付いていた。
「最初からあんただと思っていた。」
それをとめるネヴィル。
ひるんだケイが可哀想だとテッド・ラティマがかばうと、ケイは泣き出してしまった。
一方、逮捕状がおり、連れ去られていくオードリイにネヴィルは手を差し伸べて「オードリイ」と言った。
なんの感情も示さない彼女の視線が彼の上に流れた。
「大丈夫よ、ネヴィル。なんとも思っていませんわ。」
大した退場だ。と言ったテッド・ラティマをネヴィルは睨んだ。
またバトル警視はマクハーターから貰った証言を元に実験をしたいと言い出した。
一同は訳が分からぬまま、バトル警視に従い、渡し場で待つマクハーターと落ち合い、モーターランチで海に出た。
モーターランチはガルスポイントの下の河を下り、入江に入って行った。
なお進んで行き、スクーターヘッドのそそり立った岩影の下あたりで舟を停めた。
バトル警視は言った。
「これは極めて変わった事件です。
私がこれまで知っているもののなかで、いちばん奇妙なものであります。」
そして王室顧問弁護士ダニエル氏の理論を挙げた。
「殺人とは、ある一定の時刻に一定の場所へと集中された数多くの様々な条件が累積した極点なのです。」
「殺人そのものは物語の結末なのですよ。つまりゼロ時間です。」
「今がそのゼロ時間なのですよ。」
マクハーターのぞく、5つの狐につままれたような顔が、バトル警視を見つめていた。
メリィ・アルディンが、トレシリアン老未亡人殺人事件が、その累積した極点にあたるのか?と問い正した。
しかしバトル警視の答えは、予想外であった。
トレシリアン老未亡人の殺人事件は第一目的の付随に過ぎず、これはオードリイ・ストレンジを殺害しようとした事件なのだと。
するどく息を吸い込む音が警視の耳に聞こえた・・・。
こうしてバトル警視は、犯人がかなり前から周到な計画を練り、オードリイ・ストレンジを絞首刑にして殺害するように仕組んで行った事件の解明を伝えていった・・・。
ネタバレしないギリギリラインまで書いてみたのだが、ほとんど書いてしまったのも同然である。
唯一、犯人名のみは伏せたが・・・。
やはり本書を読んで頂きたい。
じわじわと追い込み、真実が明かされる瞬間のはっとする感じを味わって頂きたいと思う。
犯人はバトル警視も言っているが、大した自惚れで、自分が犯人だとはバレないと思っている為、虚をつかれ、真相が解明されると大きく崩れてしまった・・・。
そこに幼い日の犯罪も重なって 映し出されるかのようであった・・・。
オードリイは蜘蛛の巣に掛かった蝶のように身動き出来なかったのだ。
事件が解決した後、オードリイは誰かと結ばれる。
ゼロ時間は終わったのだった。
(アガサ・クリスティから22へ続く)
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