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2017年10月28日
アガサ・クリスティから (156) (ミス・マープルと十三の謎*聖ペテロの指の跡【1】)
(ミス・マープルと十三の謎*聖ペテロの指の跡【1】)
毎週、順番に本人しか知らない謎を出して、メンバーで推理をし合い、謎を解いていく(火曜ナイトクラブ)。
メンバーは、ほとんど村から出たこともないような白髪で高齢のミス・マープル、その甥で作家のレイモンド、女流画家のジョイス、元ロンドン警視庁の警視総監・ヘンリー卿、教区の牧師でもあるペンダー博士、弁護士であるペザリック氏。
この六人で毎週、謎を解いてきたのだった・・・意外にも、どの謎も、ひざの上で編み物をしながら、ずばりと真相を言い当てるのは詮索好きな老嬢ミス・マープルだった。
今回はいよいよミス・マープルに謎提案の順番が回って来た・・・。
彼女の話とは・・・。
・・・・・・・・・
「さて、ジェーン伯母さん、いよいよあなたの番が来ましたよ。」レイモンド・ウエストが言った。
「そうですわ、ジェーン伯母さま、皆、何かピリッとした味のある話を楽しみにしていますのよ。」ジョイス・ラムプリェールが調子を合わせた。
ミス・マープルは、穏やかながらも、二人が彼女を笑いものにしているとやんわりと言った。
「私なんか、ずっとこんな辺鄙な村に住みついていますからね、面白いことに出会ったことなんかないと思ってらっしゃるんでしょうねえ。」
レイモンドは、村の生活が平和で平穏無事だなんて、もう思えないし、伯母さんからあんなに恐ろしい事実を聞かされた後では、セント・メリー・ミードに比べたら広い世間の方がまだ穏やかで平和に思える。と言った。
「それはねえ、おまえ。」とミス・マープル。
「人間というものはね、どこにいたって同じですよ。それに、こうして村に住んでいると事実をずっと近くで観察する機会にめぐまれますからね。」
彼女が知り得た村の小さな出来事は、皆さんがつまらなく思えるであろうこと。
まあ、例えば、誰がジョーンさんの網かばんの編み目を切ったか?・・・人間の色々なことを探求しようとする人にはとても面白い材料だが、面白く思われないであろうということ。
そんなことをミス・マープルは考えたらしく、しばらく、話題を迷っていたが・・・たった一つだけ、皆が面白く思えるような話題を思い出したらしかった。
それは今から、10〜15年位前の話であるらしい。
ミス・マープルの姪であるメイベルの話だった・・・。
彼女はいい子だったが、すこし足りない感じでメロドラマ的なことが好きだった。
22歳の時に激しい気性のデンマンという男と反対を押し切って結婚した。
結婚してから、幾度となく、ミス・マープルは夫妻の家にも招待されていたが、村を離れることを好まないミス・マープルは一度も訪ねたことはなかった。
二人が結婚して10年経った時、夫であるデンマンは急死した。
子どもがいなかったので、姪のメイベルが財産を全て相続したのだった。
ミス・マープルは何か手伝うことや相談があるのなら、訪ねていくことを伝えたが、姪からは(大丈夫)というしっかりした調子の手紙を受け取った。
しかし3か月もすると、こんどはヒステリックな調子で(事態がますます悪化している、もうしんぼうしきれなくなった、どうかすぐ来てもらいたい。)という手紙をミス・マープルは受け取った。
取るものも取り合えず、ミス・マープルは駆け付けた・・・。
姪はひどく悩んでいた・・・彼女が夫を毒殺したのだと、うわさが街中にひろがっていて、もともと仲良くしていた友人や知人でさえ、彼女を避けて通るのだった・・・。
日に日に、噂はひどくなり、広まっていった・・・。
(次号に続く)
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2017年10月15日
アガサ・クリスティから (154) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【20】)
(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【20】)
弁護士が言うには、それから一か月ほどしてから、フィリップ・ギャロッドと一緒によそで食事をしたらしい。
食後、あれこれと雑談している時に彼が最近聞いた面白い事件なんだが・・・と次のような話をしてくれたらしい。
「この事件について申し上げたいことがあるんですよ。ペザリックさん。もちろん、ごく、内々で。」
「ええ、内々でね。」とペザリックは答えたという。
その時はまだ彼が何を伝えようとしているのか、ペザリックには分からなかった。
**********
「僕の友達のことですがね。その男は親類から遺産を譲られることをあてにしていたのですが、その親族が全く別の値打ちのない人物に遺産を残すつもりだと知ったのです。その男は全くのこと、憂鬱になりました。彼はいささか目的の為には手段を選ばないタイプの男でしてね・・・。」
フィリップ・ギャロッドの話は続いた。
その親類の家には、正当な遺産相続人であるその友達に非常に忠実な女中がいたという。
彼はこの女中に簡単な指示を与えた・・・。
つまり、こうである。
インキをいっぱいに入れた万年筆を女中に渡して、主人の書き物机のいつもペンが入っている引き出しとは違う方にその万年筆を入れさせた。
そしてこうしろとだけ言った。
どんな書類にでも主人が署名する際に、証人になってほしいと言われたら、彼が渡した万年筆・・・いつものペンと全く同じ形のペンを持って行くようにいいつけた。
彼女は最初のペンが入っている方ではなく、彼が渡したペンが入っている方の引き出しを開け、主人に渡したのです。
女中はそれだけしか言われていませんでした。
そして忠実な女中は彼の指図を正直にそのまま実行しました・・・。
(次号に続く)
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2017年10月09日
アガサ・クリスティから (153) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【19】)
(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【19】)
「ええっと、まさかだと思うけど・・・ペザリックさんは自分で神の御手に成り代わって。それをやったんじゃないでしょうしね。」
これはほんのジョークのつもりだったのだが、小柄な弁護士は威厳をそこなわれたとばかり、むっとして身を乗り出した。
「何をくだらんことをおっしゃる。」彼はきっとして言った。
慌てて、ヘンリー卿は言葉をついだ。
「ペンダー博士はどう思われますか?」
老牧師に質問が回って来た。
**********
ペンダー博士は(私にもよく分からない)と前置きしたうえで、こう言った。
「スプラッグ夫人か、その亭主のうち、どちらかがすり替えたんじゃないですか?
今ヘンリー卿が言われたことが動機になってね。
例えば、ペザリックさんが帰った後で、スプラッグ夫人がその抜き取った手紙を読んだ。
これはちょっとした板挟みですな。
自分のやった行動を白状するわけにもゆかず、遺言状はみんなに見せたし・・・で。
それで抜き取ったが、(自分に有利に書いてあった)遺言状をクロード氏の書類の中にでも入れておいた。
クロード氏の死後に発見されるようにと願って。
それが何故、発見されなかったのかは、私にはわかりませんがね。
あのエマ・ゴーントがそれをひょっと見つけて・・・主人たちへの忠誠心で・・・こっそり破るか、燃やしたのではないだろうか?と思います。」
「私、ペンダー博士の推理が一番当たっているような気がするわ。」
ジョイスが弁護士に聞いた。
「それが正しくって?ペザリックさん。」
弁護士は首を振った。
「では、その後を続けるとしましょう。わたしもその時は皆さんと同じく、あっけにとられ、何がなんだか分からないままでした。この真相を解くことが出来ない・・・おそらく駄目だと思っていましたね。・・・ところが、それを教えられたんですよ。しかもなかなか如才ない教え方でね。」
弁護士が言うには、それから一か月ほどしてから、フィリップ・ギャロッドと一緒によそで食事をしたらしい。
食後、あれこれと雑談している時に彼が最近聞いた面白い事件なんだが・・・と次のような話をしてくれたらしい。
「この事件について申し上げたいことがあるんですよ。ペザリックさん。もちろん、ごく、内々で。」
「ええ、内々でね。」とペザリックは答えたという。
その時はまだ彼が何を伝えようとしているのか、ペザリックには分からなかった。
(次号に続く)
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