2016年03月29日
アガサ・クリスティから(20) (ゼロ時間へ#その2)
(ゼロ時間へ)
何もかもを持っていると言われるネヴィルの不利になる証拠が山ほど出てきたのだ。
驚きを隠せない一方、あまりにも無防備過ぎる証拠のオンパレードに違和感を感じる者がいた。
バトル警視である。
本書を読んだ後に(ゼロ時間へ#その1)を参照して頂くと分かるのだが、ほんのいくつかの断片を残し、既に約90パーセントは事件のクロスワードパズルの断片ピースは出尽くしているのである。
ほんのいくつかの断片について、今回は書いてみようと思う。
@亡くなったクレーヴスの話が、なんらかの関係があるとしたら・・・?
これは事件後にもメリィ・アルディンとトーマス・ロイドの中でも話し合われている位である。
まず その子供の個性でもある肉体的特徴と精神的特徴は?
本書では、登場人物全てに肉体的特徴も雑談の中などでさり気なく挙げている。
例えば、オードリイは手の小指がかなり長い。逆にメリィ・アルディンは小指が短い。ネヴィルも左手の小指は短い。など。他の人の特徴も本書の中にある。
A男女関係である。
ネヴィルと新しい妻ケイと元妻オードリイ。
激しく嫉妬心をぶつける若く美しい妻ケイ。
一見、何を考えているのか分からないような元妻オードリイ。
その間を揺れるネヴィル。
そしてケイを慕うテッド・ラティマ、
オードリイを慕うトーマス・ロイドという近しい人物もいる。
誰にも男女関係がないメリィ・アルディンは、離婚して不幸だったはずのオードリイに何もないうつろな人生より、ずっとましだと言う場面もある。
色々あり苦労する男女関係もあれば、
全く何もなく、ただ虚ろな男女関係なしもあるというところなのだろうか?
最大のポイントは、やはり(ある・なし限らず)男女関係だろう。ここにこそ、動機が眠っているのだから。
アガサ・クリスティの”ゼロ時間へ”は
発表が1944年で、約70年前の作品である。しかし、現在でも充分通ずる話でもある。古びてはいないのだ。
時代に伴い時代背景も何もかも変化してしまってはいるのにも関わらず。
アガサ・クリスティの推理小説の特徴はいくつかある。
そのひとつが、時に奇抜なアリバイとトリック。
事実を誠実に記してはいくのだが、読者の目を欺く事件の見せ方。
他のひとつが、男女関係含む人間模様を描くのが上手いということ。
普遍的でもある人間模様をより多く描いている為、古びた感じがしないのかも知れない。
話は少々、脱線したが、睡眠薬で眠らされていた召使いのバレットが眼を覚まし、当日の夜の証言を始める。
当日の夜、ネヴィルが出掛けた後に殺されたトレシリアン老未亡人に呼び出されたことが判明した。
またネヴィルの出掛けた姿も見ていた。
バトル警視はネヴィルに言う。
「もう少しで絞首刑になる所だった。誰かあなたを憎んでいる人を知りませんか?」と。
ネヴィルは、びっくりしながらも、離婚でつらい思いをさせたオードリイはいるが、それを許し、寛大に振る舞う彼女は天使のようだ。と答える。
ネヴィルは実際、ギリギリの所で嫌疑を免れる。
そして、事件は別展開をみせていく。
捜査の中で、バトルが名探偵ポアロを思い出す所がある。
ポアロの気まぐれ=釣り合いの取れていないものに全神経を集中させるのだ。
古風な鋼鉄の灰止め。左側の把手が右側に比べ、磨かれて光っていた。
指紋も右側にはあり、左側のは指紋がなかった。
結局、凶器はネヴィルのゴルフクラブではなく、この灰止めの左側の把手であると判明。
他にもいくつかの証拠も出てくる。
ネヴィルの新しい妻ケイは、自分にも相続権があるように思っているので、念の為、捜査班が弁護士に確認をする。
ネヴィルの後見人であるマシュー卿の五万ポンドの遺産を預かっていたトレシリアン老未亡人が亡くなったので、ネヴィルとその妻が莫大な財産を半分半分相続することになっていた。
このことより、ネヴィルの新しい妻ケイは、自分に相続権があると信じていた。
しかし弁護士は、遺言書作成の際のネヴィルの妻がケイではなく、オードリイであることから、遺言書にははっきりと記されていると言った。
「遺贈の点は、実に明白に記されています。この 遺産は、マシュー卿の被後見人たるネヴィル・ストレンジとその妻オードリイ・エリザベス・ストレンジ、旧姓スタンディシュとの間で配分されるものでありまして、離婚とは関係がありません。」
弁護士の証言より、金銭上の動機も生じたことが判明する。
莫大な遺産を相続するネヴィルとオードリイ、また自分に相続権があると信じているケイ、メリィ・アルディンも老未亡人からの遺産で一生食べていけるだけの収入にありつく。
ハーストールやバレット達、使用人も老未亡人から遺産を受け取る予定である。
しかしバトル警視は、どうも動機は金銭上ではない他の思いだと感ずる。
そして犯人が、ひどくひねくれているとも感じていた。
自殺しそこねた男アンドリュー・マクハーターは、人生をやり直しつつあり、自分の中の何かに決別すべく、また何故か惹かれるこの土地・スタークヘッドに来ていた。
ホテルでは見知らぬ人の妙に魚臭いスーツを間違って手渡される。
自殺未遂した場所に立ち、当時の気持ちを確かめたが何も感じなくなっていた。
その矢先、崖から飛びこもうとした白いドレス姿の美しい女性を自殺から救う。
彼女は今、話題となっているトレシリアン老未亡人殺害事件の関係者であることがすぐに分かった。
つまりネヴィルの前夫人オードリイであった。
彼女は「怖い。絞首刑になるのが怖い。」と怯えていた。
確かにネヴィルの嫌疑が晴れた後、金銭上も証拠も愛憎の理由も全てがオードリイを指し示しているようであった。
彼女は追い詰められていたのだ。
やはり自殺未遂の経験があるマクハーターは、ひどく感じ入り彼女を助けると誓い、老未亡人の屋敷に返す。
いよいよ嫌疑はオードリイに向いていて、バトルはネヴィルにそのことを告げる。
ネヴィルは否定しつつ、オードリイをかばう。
しかしトーマス・ロイドがネヴィルの騎士道的かばい方では、オードリイをかばえないと、ネヴィルとオードリイの離婚原因について言及する。
実はオードリイがネヴィルを裏切って
別の男と駆け落ちをしていたのだった。
ネヴィルは綺麗な負け方をすると言われているそのスポーツマンシップで、また騎士道的精神で、離婚はしたが、オードリイをかばった。
そして誰にもオードリイの駆け落ちのことは知られず、ネヴィルの新しい美しい妻のことでの離婚したと皆が思っていた。
ネヴィルは、オードリイを深く愛していたのだろうか?
離婚後、多額な慰謝料を彼女に与えようとしたが、オードリイはプライド高く、そのお金には手をつけていなかった。
ネヴィルとオードリイしか知り得ないと思っていた事実関係をトーマス・ロイドが知っていたことにネヴィルは驚愕していた。
実は、オードリイが駆け落ちした相手はトーマス・ロイドの交通事故で亡くなった兄であった。
彼らのかばい立ても虚しく、オードリイに遂に逮捕状が示される。
「これで本当にほっとしましたわ、とても嬉しいの終わったことが!」とつぶやき、ネヴィルが飛び出し、何も喋らない方が良い。とかばう。
しかし、オードリイは「どうしてなの?ネヴィル。皆、本当のことですもの・・・私、すっかりつかれてしまって。」と言った。
(アガサ・クリスティから21に続く)
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