2018年02月21日
拓馬篇−3章◇
畳を敷いた部屋に二人の女性がいる。一人は守るべき娘、一人はその親。二人の近くには白い狐がしずかに座する。だれも狐の存在を気取らぬまま、千変万化の機械に注目した。そこに娘と瓜二つな歌女が映る。
「あ、融子ちゃんが出るのね!」
「ふーん。歌番組以外にも出るんだね」
母は融子をわが子のような親しみをおぼえているらしかった。その一方、娘は己と似た者の話題を嫌っていた。嫌う理由を、狐はまだ理解できていない。
時刻は狐の主要な務めを果たす頃合いになる。狐は家屋をすりぬけた。屋根へあがり、その近隣の屋根へと小さな体を跳ねる。狐は警官という職分の若い男に従い、住民を脅かす存在を捜す。捜索すべき対象のすがたかたちは聞かなかった。特定できるだけの情報が足りないのだ。こうなっては他人に危害を加える者すべてに対処すればよい。特に女子供を守ることはいまの主の意向にそぐう。そのような考えから狐は町を出歩いた。
狐は自身が遣わされる事件の関係者のもとへ向かった。はじめの被害者を介抱したという女子の視察である。女子の宿舎に寄ると彼女の部屋の明かりは点いていない。若者の就寝にはまだ早い時刻だ。中を確認するも人はいない。部屋主は外出中だと判断し、べつの場所へ移る。
狐は舗装された道に等間隔で立つ柱の上にのぼった。遠方を見渡したところ、奇妙な音が耳に届く。人間の声、それも悲鳴に近い。ただちに音の鳴った方角へ駆けた。
木々に囲まれた公園の近く、地に伏せる男が二人いた。遅かったか、と悔しさを覚える。倒れた男に外傷はなく、呼吸も異常がない。あとは自力で起き上がれるかが問題だ。被害者の様子をうかがい、時が経過すると女が二人見えた。その片割れは先ほど侵入した部屋の主だ。スザカミヤという少女。もう一人の女の素性はわからない。
「また、人が倒れてる……」
「……行こう、お姉ちゃん。早く!」
髪の長い少女が姉の手を引く。狐は街灯に照らされた女性の顔を確認した。姉とよばれるだけあって少女と似た容貌だ。二人が逃げるように走った。狐は彼女たちを尾行しなかった。行き先はすでに知っているからだ。
狐は再び男たちの様子を見る。彼らが生きていることはいい。その後に目を覚ますかだ。そのいかんによって、犯人は特定でき、今後の行動に左右される。
男どもがいまだに寝る様子に狐は痺れを切らした。平時はせぬようにと忠告された実体化を果たす。そして男の頬を突く。二、三突いて反応がなく、今度は勢いをつけて殴る。軽い悲鳴をあげて、やっと男が起きた。これで若い主が危惧する被害ではないとわかった。狐はムダな時間をついやした、と辟易しながら、守るべき者のもとへ帰った。
「あ、融子ちゃんが出るのね!」
「ふーん。歌番組以外にも出るんだね」
母は融子をわが子のような親しみをおぼえているらしかった。その一方、娘は己と似た者の話題を嫌っていた。嫌う理由を、狐はまだ理解できていない。
時刻は狐の主要な務めを果たす頃合いになる。狐は家屋をすりぬけた。屋根へあがり、その近隣の屋根へと小さな体を跳ねる。狐は警官という職分の若い男に従い、住民を脅かす存在を捜す。捜索すべき対象のすがたかたちは聞かなかった。特定できるだけの情報が足りないのだ。こうなっては他人に危害を加える者すべてに対処すればよい。特に女子供を守ることはいまの主の意向にそぐう。そのような考えから狐は町を出歩いた。
狐は自身が遣わされる事件の関係者のもとへ向かった。はじめの被害者を介抱したという女子の視察である。女子の宿舎に寄ると彼女の部屋の明かりは点いていない。若者の就寝にはまだ早い時刻だ。中を確認するも人はいない。部屋主は外出中だと判断し、べつの場所へ移る。
狐は舗装された道に等間隔で立つ柱の上にのぼった。遠方を見渡したところ、奇妙な音が耳に届く。人間の声、それも悲鳴に近い。ただちに音の鳴った方角へ駆けた。
木々に囲まれた公園の近く、地に伏せる男が二人いた。遅かったか、と悔しさを覚える。倒れた男に外傷はなく、呼吸も異常がない。あとは自力で起き上がれるかが問題だ。被害者の様子をうかがい、時が経過すると女が二人見えた。その片割れは先ほど侵入した部屋の主だ。スザカミヤという少女。もう一人の女の素性はわからない。
「また、人が倒れてる……」
「……行こう、お姉ちゃん。早く!」
髪の長い少女が姉の手を引く。狐は街灯に照らされた女性の顔を確認した。姉とよばれるだけあって少女と似た容貌だ。二人が逃げるように走った。狐は彼女たちを尾行しなかった。行き先はすでに知っているからだ。
狐は再び男たちの様子を見る。彼らが生きていることはいい。その後に目を覚ますかだ。そのいかんによって、犯人は特定でき、今後の行動に左右される。
男どもがいまだに寝る様子に狐は痺れを切らした。平時はせぬようにと忠告された実体化を果たす。そして男の頬を突く。二、三突いて反応がなく、今度は勢いをつけて殴る。軽い悲鳴をあげて、やっと男が起きた。これで若い主が危惧する被害ではないとわかった。狐はムダな時間をついやした、と辟易しながら、守るべき者のもとへ帰った。
タグ:拓馬
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