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2019年06月22日

低食物摂取アルツハイマー病患者に対するリバスチグミンパッチの有効性

(アルツハイマー型認知症の患者さんの末期に食べなくなる人がいます。
リバスチグミンパッチが有効だという検討結果 
その後この人たちは楽しく暮らせる日々を取り戻せたのかが気になります)


低食物摂取アルツハイマー病患者に対するリバスチグミンパッチの有効性
提供元:ケアネット 公開日:2019/04/26

多くのアルツハイマー病(AD)患者
(欧米ではアルツハイマー型認知症とは言わないで、アルツハイマー病といいます)は、
食物摂取不良や食欲不振を経験し、認知障害の進行を加速させる。アルツハイマー病おじさん人形.jpg


これまでのいくつかの報告によると、
リバスチグミンがAD患者の食欲を改善させることが示唆されている。

香川大学の角 徳文氏らは、
AD患者における低食物摂取を改善させるための
リバスチグミンパッチの有効性について検討を行った。
Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2019年3月12日号の報告。

対象は、「AD患者の食物摂取に対するリバスチグミンの効果に関する研究
(Attitude Towards Food Consumption in Alzheimer's Disease Patients Revive with Rivastigmine Effects study)」にて募集した、
食欲不振または不十分な食物摂取のいずれかを経験したAD患者。

対象患者に、リバスチグミンパッチを16週間使用した。
患者の食物摂取量、体重、MMSEスコア、すべての有害事象を調査した。

主な結果は以下のとおり。

・AD患者38例(年齢:86.2±5.4歳)を調査した。
・ベースライン時の平均MMSEスコアは、10.1±7.0であった。
・リバスチグミンパッチ使用1週目で、
食物摂取量(54.9±98.0g、p<0.01)および
食物摂取率(9.3±17.6%、p<0.01)の増加が認められ、
試験期間を通じて維持された。
・多重線形回帰分析では、独立変数が食物摂取量または食物摂取率と有意な関連を示さなかった。
・MMSEスコアのより高い群では、食物摂取量に変化傾向が示されたが、
統計学的に有意ではなかった(p=0.07)。

著者らは「リバスチグミンパッチは、
AD患者の食物摂取不良や食欲不振を改善させる可能性があることが示唆された」としている。
(鷹野 敦夫)

原著論文はこちら
Tsuno N, et al. Geriatr Gerontol Int. 2019 Mar 12. [Epub ahead of print]

2019年06月21日

アルツハイマー型認知症の薬はうたかたの夢か(解説:岡村 毅 氏)

(アミロイドベータが原因ではなく、結果だった。)

アルツハイマー型認知症の薬はうたかたの夢か(解説:岡村 毅 氏)
提供元:臨床研究適正評価教育機構 公開日:2019/04/25

岡村 毅( おかむら つよし ) 氏

東京都健康長寿医療センター・東京大学大学院

J-CLEAR評議員

試験中止の認知症薬、BACE-1阻害薬による結果の詳細/NEJM(2019/04/22掲載)アルツハイマー病徘徊人形.jpg


私たちの世代はアルツハイマー型認知症の薬の恩恵にはあずかれない。
いつかは実現するかもしれないし、そう願うが、現実を見つめよう。

本論文は、アルツハイマー型認知症について広く信じられている
アミロイド仮説(「アルツハイマー型認知症のセントラルドグマ」)に基づくものだ。

つまりアミロイドをつくる酵素(BACE)を阻害する物質が、
治療薬となるのではという考え方であった。

しかし、本欄でも過去に紹介したように、
すでに認知症になっている人に対して行われた研究では効果は見られなかった
(「認知症の薬はいったいいつできるのか? バプティスト史観から」)。

すでに認知症になってからでは遅いのだ、
発症する前(症状はないがアミロイドは増えている段階)ではきっと効果があるはずだ、
というのが今回の論文の考え方である。

しかし、結果はまったく効果がないというものであった。

これまでの連載を見返してみたところ、ダメでした、ばかり書いてきたようだ。
セロトニン受容体拮抗薬(「新薬が出ない世界で」)、
アミロイド抗体(「新薬が出ない世界で」)、
タウ凝集阻害剤(「新しい戦略に基づく認知症新薬開発ものがたり」)が敗北してきた。

最近もエーザイによる期待の新薬が失敗であったことが報じられたばかりである
(2019年3月22日付 日本経済新聞 電子版)。

とはいえ、実はここまでは専門家には常識であろう。
ではここからどう考えるのか?

1つはサイエンスとしての認知症学である。

アルツハイマー型認知症では、事実としてアミロイドがたまっている。
また死後脳の研究や、
アミロイドイメージングの研究では
症状の進行と、アミロイドの広がり(Braakステージ)が関連している。

であれば、アルツハイマー型認知症の病理と
アミロイドが関連していると考えるのが自然である(アミロイド仮説)。

そして創薬は目と鼻の先だと誰もが思った。
しかしアミロイドに介入することが、効果を上げない。
専門家が密かに持っていた恐ろしい疑念
―アミロイドは原因ではなく結果ではないか―があらわになりつつある。

今や悲観論が基調であるが、
精神科医としてはバランス思考を心掛けたいものである。

巨大製薬企業が文字通り命(社運)を懸けて行った根本治療薬の創薬は、
まったく利益を生まない純粋な社会貢献となり、
確実に私たちを次のステージへと導いたと考えよう。

私たちは無理だが未来の世代が恩恵にあずかれるように、
創薬に携わる人々を支援したいものだ。

もう1つは人文の学としての認知症学である。
長寿の実現により高齢期は伸長し、
認知症とともに生きることが普通になった。

もしも90歳で認知機能がゆっくり低下していくことが
病気であり不幸ならば、
私たちは長生きしてみんな不幸になるわけだ
(そんな世界は正しくないよね?)。

そもそも幸福とは何か、
しばし立ち止まって考える時期であろう

(命あるもの滅びる。生き甲斐とは何ぞや。
今を生きる。今をみずみずしく楽しく快活に生きる。
そして何をしたいのか? その途上で死は訪れるー『私個人の考え』)。

2019年06月20日

NHKの経頭蓋直流電気刺激番組を受け学会が注意喚起 「マスコミ報道や宣伝に惑わされぬよう」

またやっちゃったNHK

感じられないほど微弱な電流が、治療やスポーツの世界を一変させようとしている。
腕や足などに流すと、筋肉の疲労回復が早まり、
肉離れやねんざなどのケガがより早く治ることが明らかになりつつある。

さらに、アメリカで開発された別のヘッドホン型の機器を装着し、
脳の運動野に電気刺激を与えてトレーニングすると、
神経細胞の信号伝達を強化するという。

「パワーや瞬発力が向上する」と、世界記録保持者やプロアスリートで利用が拡大している。
こうした動きに対し、
「新たなドーピングでは?」
「効果は慎重に見極めるべき」という声も上がり、
ルールなき普及に懸念も広がり始めている。急速に利用が進む新技術に迫る。

臨床ニュース
NHKのNHKの経頭蓋直流電気刺激番組を受け学会が注意喚起
「マスコミ報道や宣伝に惑わされぬよう」番組を受け学会が注意喚起
NHKちょこっと電流.jpg

「マスコミ報道や宣伝に惑わされぬよう」


日本臨床神経生理学会2019年4月15日 (月)配信 精神科疾患神経内科疾患整形外科疾患その他

日本臨床神経生理学会はこのほど、
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)について、
マスコミの報道や機器の宣伝に影響され、危険な使用をしないよう注意を喚起した。

2019年3月13日にNHKが放送した番組の中で、
tDCSが特集されたことを受けての対応。

近年、自分で刺激できる簡易な装置が一般に販売され、
スポーツや算数の成績向上に役立つという効能がうたわれているが、
同学会では「これらの効果は科学的な検証が十分になされたものではなく、
装置の安全性の検証も不十分である」として警鐘を鳴らしている。

テレビ番組では、
同学会のtDCSの安全性に関する提言を引用して刺激の上限を紹介しているが、
同学会は「この刺激以下の設定であれば安全であるというものではない」と指摘。

tDCSの安全な刺激パラメーターの範囲は十分に確立したものではなく、
病院や研究施設の倫理委員会の承認を得てから行うものであり、
方法に精通した医師の管轄のもと科学的な検証のために行うことを前提にしていると。

international federation of clinical neurophysiology(IFCN)のガイドラインでも
同様の注意勧告がされているとして、注意を呼びかけている。

2019年06月19日

心血管疾患一次予防はLDL<100mg/dL、二次予防は<70mg/dLに!

脂質異常症について、よくまとめられています。
実臨床の指針として参考になります!
健診などで、要注意、経過観察、要治療となった方は一読ください。


心血管疾患一次予防はLDL<100mg/dL、二次予防は<70mg/dLに!

西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
2019年04月19日 06:05

小生今まで、トップジャーナル(N Engl J Med、Lancet、JAMA)で脂質異常症の総説が
掲載されるのをずっと待っていました。

待ち続けて、はや幾星霜。
N Engl J Med(2007; 357: 1009-1017)に
中性脂肪血症(Hypertriglyceridemia)の総説が掲載されたことはあるのですが
高コレステロール血症だけは不思議なことに今まで掲載されたことがないのです。検診結果.jpg

今回JAMA(2019年2月4日オンライン版)30715135に
米国心臓協会(AHA; American Heart Association)、ACC(American College of Cardiology) の
高コレステロール血症のガイドラインが掲載されました。
総説ではありませんが、これ以上待ってもいつ出るか分かりません。
ガイドラインってちっとも面白くないのですが、「まっいいか」とまとめました。

長女が2歳の時、家内が所用で東京へ出かけました。
玄関でしばらく泣いていたのですが、そのうち小生のところへやってきて
「まっ、いいか」と言われました。まあ、小生は second best というところなのでしょう。

JAMA「高コレステロール血症治療ガイドライン」最大のポイントは次の8点です。

@今後10年のASCVDリスク、冠動脈石灰化スコアを計算しよう
ATGは1,000mg/dL以上で膵炎起こすのでfibrateなどで下げよ
BTG 1,000mg/dL未満は早期冠動脈疾患・遺伝高脂血症家族歴なければ
生活スタイル改善のみ
CLDL採血はTG>400mg/dL超えていなければ食後で可
D脂質異常症は生活改善、地中海食推奨、毎日8,000歩歩こう!
EASCVDの一次予防はLDL5割減らし目標LDL<100mg/dL、
二次予防は<70mg/dL!
FASCVDでは強力スタチン(クレストール、リピトール)使用
GスタチンでLDL下がらねば
ゼチーアかPCSK9阻害薬(レパーサ、プラルエント注)追加せよ


1. 今後10年のASCVDリスク、冠動脈石灰化スコアを計算しよう

小生のオーベンが若いとき占い師に「あなたは36歳で死ぬ」と言われました。
「何をいい加減なことを」と一笑に付したのですが、
心の底で「自分は36歳までしか生きられない」とずっと引っかかっていたのです。 

このわだかまりがやっと消えたのは37歳になったときだったと言うのです。
やはり占いと言うのは将来に希望を与えるものでなくてはいけません。

民主党内閣のとき、野田首相が「このままでは日本は持ちません」と言いましたが、
リーダーがこんなことを言うのは最悪です。
チャーチルのように、リーダーは常に希望を見せなければなりません。

この脂質異常症ガイドラインによると、
今後10年のASCVD(atherosclerotic cardiovascular disease)イベント(脳卒中、心筋梗塞)が
予測できるサイトがあります
https://clincalc.com/cardiology/ascvd/pooledcohort.aspx)。
計測値としてTch、HDL、収縮期血圧が必要です。

小生のLDLは131mg/dL、HDL 64mg/dL、収縮期血圧118mmHgで、
今後10年の自分のASCVDイベント予測は、なんと10.2%、
生活改善でリスク因子を減らせば8.8%でした。
LDLを30%以上も下げよと言うのです(ガーン!)。

10年のASCVDリスクが7.5%以上はスタチン開始を推奨なのです。
小生、血圧は110mmHg代だしwalkingもしていて physically fit(健康)と思い込んでいたので、
これにはショックでした。皆様もぜひ計算してみて下さい。

前記サイトで今後10年のASCVDリスクとその対策は以下の通りです。

【ASCVDリスクと対策】
・5%未満:低リスク
・5〜7.4%:ボーダーライン
・7.5〜19.9%:中等度、LDLを30%以上下げるべき。
中等度スタチン(クレストール10mg/日〕使用で
ハザード比(HR)0.76〔95%CI、0.64〜0.91、絶対リスク減少率(ARR)1.1%、5年間で〕
・20%以上:高度、LDLを50%以上下げるべき

このような冠動脈疾患や脳卒中発症リスクの計算サイトは国内にもあります。
小生の10年内脳卒中発症リスクは、大阪府のサイト
http://www.osaka-ganjun.jp/health/si-estimate/)だと1.4%、
日本動脈硬化学会での冠動脈疾患発症リスクは2.6%でした
http://www.j-athero.org/general/ge_tool.html)。
米国の小生のASCVDリスクと較べて随分低値です。

動脈硬化によるイベント発症は民族的差が大きいのかなあと思いました
小生、何事も前向きに考える性格なので、日本のサイトを信じることにしました。
こうしてリスクは先送りにされていくのです。

Hominēs id quod volunt crēdunt.
人は信じたいと思うことを信じるものだ(カエサル)。

未来予測で思い出すのがギリシャ悲劇、オイディプス(エディプス)王です。
「父を殺し母と交わる」という
恐るべきデルフォイのアポロンの神託を避けようとすればするほど
かえって神託は確実に遂げられていくのです。

アポロンの神慮が全て遂げられたことをオイディプスが愕然として知ったとき、
母は自殺しオイディプスはわが両眼を手でくりぬくのです。
かくてオイディプスは呪われた子供たちと放浪の旅に出るのです。

学生のとき、ペロポネソス半島のコリント、ミケーネ、スパルタ、オリンピアを回り
フェリーで海峡を渡ってバスでデルフォイを訪ねました。
デルフォイはパルナッソス山の中腹にあります。
西側の眼下の谷はオリーブ畑に覆い尽くされ絶景でした。

ASCVDリスクが境界から中等度リスクの患者で
スタチン開始を迷った場合は心臓の単純CTを撮り
「冠動脈石灰化スコア(CAC score)」を計算することがあります。
これは冠動脈の石灰化のCT濃度(HU; Hounsfield unit)に
全スライスの石灰化面積をかけた総量を見るものです。

例えば、1スライスで石灰化が4mm2で濃度2HUなら4×2=8、
これを50〜60スライス総和したCAC scoreを出すのです。
この単位をAgatston unitと言います。

CAC scoreが0 Agatston unitなら今後10年のASCVDリスクは5%未満です。
ただし糖尿病、喫煙歴、ASCVD家族歴がないときです。
1〜99 Agatston unitsならASCVDリスクは55歳以上で7.5%以上あります。

100 Agatston units以上はスタチン開始です。

2. 高TGは1,000mg/dL以上で膵炎を起こすのでフィブラート系薬などで下げよ

 N Engl J Med(2007; 357: 1009-1017)の高中性脂肪(TG)血症総説によると、
TG1,000〜2,000mg/dLと高過ぎるときは膵炎を起こすので
薬(フィブラート系薬、ニコチン酸系薬、ω‐3脂肪酸エチル)で下げます。
しかし1,000mg/dL未満の場合は、治療すべきかどうかはっきりしないのです。

最近のUp to Date(2019.3)を調べてみてもこの辺りは変わっておらず、
ライフスタイルを改善してもTGが886r/dL以上の場合は、フィブラート系で下げよとのことです。

 TGを下げる薬剤はフィブラート系薬、ニコチン酸系薬、ω‐3脂肪酸エチルのうち、
Up to dateの推奨はフィブラート系です。一番よく下がるからです。

Fibrateの中では米国ではフェノフィブラート(商品名リピディル、トライコア)や
Gemfibrozil(国内未承認)、
世界ではベザフィブラート(ベザトールSR)が使用されています。

ニコチン酸系薬(ユベラN、ペリシット、コレキサミン)は
あまり効かないので滅多に使わないそうです。
ω‐3脂肪酸エチル(ロトリガ)はTGを45%下げるけどLDLが31%上がったそうです。
というわけで第一選択はやっぱりフィブラート系薬です。

【フィブラート系薬】
・ベザフィブラート(ベザトールSR)
・フェノフィブラート(リピディル、トライコア)

3. TG 1,000mg/dL未満は早期冠動脈疾患・家族性高脂血症の家族歴なければ生活スタイル改善のみ

TG1,000mg/mL未満で薬剤治療すべきは次の2つのときです。
下記の疾患がなければライフスタイル改善だけでよいのです。
Up to dateではライフスタイルを改善しても
TG 886mg/dL以上のとき、「フィブラート系薬開始」です。

【TG 1,000mg/dL未満で薬剤治療すべきとき】
a. 家族歴で早期冠動脈疾患(男55歳前、女65歳前)のあるとき
b. 下記3つの遺伝性高脂血症の家族歴のあるとき

 @ Familial combined hyperlipidemia
 A Familial hypoalphalipoproteinemia
 B 2型糖尿病の residual dyslipidemia

 小生は、TG 1,000mg/dL未満で前記の早期冠動脈疾患、高脂血症の家族歴がなければ放置しております。

4. LDL採血はTG>400mg/dL超えていなければ食後で可

なお脂質異常症の採血は空腹時に行う必要はなく食後で構いません。
LDL採血はTG>400mg/dLを超えていなければ食後でよいのです。

5. 脂質異常症は生活改善、地中海食推奨、毎日8,000歩歩こう!

脂質異常症でライフスタイル改善は全ての年齢で推奨です。
しかし具体的改善方法にはこのガイドラインでは触れられていません。
現在、欧米で高血圧、糖尿病に推奨の食生活は地中海食(Mediterranean diet)です。
要点は次の3つです。

【地中海食要点3つ】
@ 摂取すべきは全粒穀物(玄米)、全粒粉(白いパンでなく茶色のパン)、
果物、野菜、ナッツ、豆、オリーブ油、鶏肉、魚、食塩制限6g以下
A 避けるべきは赤い肉(豚、牛)、最悪は加工肉(ソーセージ、ベーコン、ハム)、砂糖入り飲料
B 適量のアルコール(男性22g、女性24gまで)取れ、
白ワインより赤ワインを(アルコール20gはビール500mL、日本酒180mL、ワイン180mL、ウイスキー60mL相当)

前記を見ると、地中海食って食塩制限さえすれば和食でも同じだよなと思いました。
わが家ではご飯は玄米食で、バターは長いこと食卓で見ていません。
以前小生がいた病院の医長は子だくさんで、6人の子供さんがいらっしゃり
家に先生の居場所がなくて「私は食卓医です」とのことでした。

わが家ではバターは使いませんが
オリーブ油は、通販でいろいろ買い求めて楽しんでおります。
最高級のオリーブ油をextra virgin oil、普通のオリーブ油はvirgin oilと言います。
色々試してみると随分味が違うものだなと思います。
高級品はやはりおいしいのです。

肉は豚肉や牛肉を避け
極力、鶏肉、魚を推奨です。

最悪は加工肉(ソーセージ、ベーコン、ハム)です。
加工肉を食べるくらいなら豚肉、牛肉の方がまだましなのです。
たぶん加工肉だと消化が良過ぎるからなのでしょう。

適量のアルコールの推奨は嬉しいです。
以前、知り合いの医師が肝硬変の患者さんのアルコール摂取量を聞いて
「俺の酒量の方がよっぽど多い」とぼやいていました。

そう言えば宮沢賢治の「雨ニモマケズ」では、
「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ」とありますが
ASCVDには程遠い食事でしょう。

花巻の賢治の実家近くに賢治がよく通ったという「やぶ屋」という蕎麦屋が今でもあります。
賢治はここを「Bush(藪)」と呼んで
弟の清六や生徒たちとここへ来たとのことです。

決まって「三矢サイダーと天ぷらそば」を注文したそうで、
小生もこれを頼みましたが変な取り合わせでした(味が全然合わない!)。

そう言えば岩手出身の同級生の祖父が賢治と盛岡農林高等学校で同級生でした。
「賢治は目立たない奴」だったとのことでした。

賢治は1896年(明治29)年生まれで、
名古屋の双子の「きんさん・ぎんさん」が1892(明治25)年生まれでしたので、
きんさん・ぎんさんよりも年下ということになります。
それにしても宮沢賢治1人で岩手県の観光はどんなに助かっているかしれません。

賢治がつくった花巻農学校精神歌4番は次の通りです。

「日ハ君臨シ カガヤキノ
太陽系ハ マヒルナリ
ケハシキタビノ ナカニシテ
ワレラヒカリノ ミチヲフム」

「太陽系ハ マヒルナリ」なんてその壮大さにシビレます。こんな校歌だったら嬉しい。

昨年(2018年)、日本整形外科学会で鈴木大地スポーツ庁長官の記念講演がありました。
それによると、日本人の1日の平均歩数は6,800〜6,900歩だそうです。
鈴木長官は「Fun+Walk プロジェクト」と言って、
これに+1,000歩して毎日8,000歩歩くことを国民の全国的運動としたいと言うのです。

出勤時、1駅か2駅手前で降りて歩くのです。
「毎日8,000歩歩けばほとんどの生活習慣病を予防できる」からです。

これはわれわれや患者さんの具体的目標としてとても良いなと思いました。
長官は13階の長官室までの350段を毎日歩いているそうです。
皆様、毎日8,000歩歩きましょう。
今はスマホで簡単に歩数をチェックできます。

当、西伊豆健育会病院の事務職員が、家のルームランナーで走っているというので、
「こんな素晴らしい大自然の中で暮らしているのになんでルームランナーなんか?」
と聞いたところ、
「だって夜は道に街灯がなくて真っ暗だし、
鹿やイノシシが出て怖くてとても走れない」とのことでした。
そうか、僻地でこそルームランナーは必需品なのかと目からうろこでした。

当、西伊豆健育会病院では昨年の年末、
イノシシの牙のメッタ突きで爺さんが入院しました。

西伊豆では毎年秋になると周囲の山で鹿の鳴く声も聞こえます。
「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋は悲しき」
と言うような風流な声ではなく「キエーッ!」のようなギョッとする声です。

6. ASCVDの一次予防はLDL5割減らし目標LDL<100mg/dL、二次予防は<70mg/dL!

TGは1,000mg/dL以下の場合、下げることの良しあしははっきりしません。
一方、今回のJAMAの高コレステロール血症ガイドラインによると、
LDLだけはしっかり下げるべきだと言うのです。

薬物でLDLを下げることで
ASCVDすなわち心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡のイベントが減る
ことはRCTで既に確実なのです。

驚くのはLDL目標値のその凄まじさです。
ASCVDの一次予防にはLDLを5割も減らして目標LDL<100mg/dLに、
更に二次予防(心筋梗塞や脳卒中患者の再発予防)にはなんとLDL<70 mg/dLにせよ
というのです(マジすか!)。

小生、今まで最初からLDLを100mg/dL以下にしようなんて考えたことがありませんでした。
繰り返します。ASCVDの一次予防はLDL<100mg/dL、2次予防はLDL<70mg/dL!

LDLの層別化目標値は下記の通りです。
ASCVDとは心筋梗塞、脳卒中です。
層別化されて、ごちゃごちゃ面倒なので、次の2点にまとめておきます。

@ ASCVDはLDL5割減らし一次予防はLDL<100mg/dL、二次予防は<70mg/dL
A LDL≧70mg/dLでASCVD一次予防は、ハイリスク患者が5割、中等リスク・糖尿病患者は3割減らせ

なおハイリスク患者とは次のような患者です。

・急性冠動脈症候群
・家族性高脂血症
・糖尿病
・慢性腎不全
・動脈硬化性の心血管疾患を繰り返す患者
・多発血管疾患

LDLの層別化(stratified)目標値は以下の通りです。

【ASCVD 一次予防】
・LDL≧190mg/dL20〜75歳患者は強力スタチンでLDLを50%以上減らし目標LDL<100mg/dLとする
・糖尿病でLDL≧70mg/dLの40〜75歳患者は中等度スタチンでLDLを30%以上減らす
・ハイリスクでLDL≧70mg/dLの40〜75歳患者は強力スタチンでLDLを50%以上減らす
・中等リスクでLDL≧70mg/dLの40〜75歳患者は中等度スタチンでLDLを30%以上減らす

【ASCVD二次予防】
・ハイリスクの18歳以上ASCVD患者は強力スタチンでLDLを50%以上減らし目標LDL<70mg/dLとする
・その他の18歳以上ASCVD患者はLDLを50%以上減らす

7. ASCVDでは強力スタチン( クレストール、リピトール)使用

ではLDLを下げるのにどんな薬剤を使うのかと言うと、
Up to Dateでは次のような薬剤が挙げられています。
米国の薬用量の多さに驚きます。

ロスバスタチン(クレストール)とアトルバスタチン(リピトール)は用量により、
強力と中等を使い分けています。

Up to Dateでは心血管疾患患者には中等スタチンでなく
最初から強力スタチンを推奨です。
下記の薬剤、用量を推奨です。
しかし、クレストールやリピトールをこんなに大量使用する勇気は小生にはありません。

【強力スタチン】
・ロスバスタチン(クレストール)20〜40mg、国内2.5、5mg錠で2.5〜5mg/日分1
・アトルバスタチン(リピトール)40〜80mg、国内5、10mg錠で1日1回10〜40mg

【中等スタチン】
・ロスバスタチン(クレストール)5〜10mg、国内2.5、5mg錠で2.5〜5mg/日分1
・アトルバスタチン(リピトール)10〜20mg、国内5、10mg錠で10〜40mg/日分1
・プラバスタチン(メバロチン)40mg、国内5、10mg錠で10〜20mg/日を分1か分2
・シンバスタチン(リポバス)40mg、国内5、10、20mg錠で5〜20mg/日分1
・ピタバスタチン (リバロ)4mg、国内1、2、4mg錠で1〜4mg/日分1

小生、外来でスタチンの名称を「くるめ RAP」と覚えております。
薬剤の強度は「く(クレストール)>る(リピトール)>め(メバロチン)」でそれぞれRAPの順でRosuvastatin、Atrovastatin、Pravastatinです。

今まで、プラバスタチン (メバロチン)から使いはじめて恐る恐る、
アトルバスタチン(リピトール)、ロスバスタチン(クレストール)へとグレードアップしていました。
しかしUp to DateではASCVDでは最初から強力スタチンのクレストールからどんと行けと言うのです。

8.スタチンでLDL下がらねば、ゼチーアかPCSK9(レパーサ、プラルエント注)追加せよ

この1、2年で言われ出したのは、
スタチン(肝でのコレステロール合成阻害)による治療でLDLが十分下がらぬ場合、
エゼチミブ(ゼチーア、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬)や
PCSK9阻害薬(proprotein convertase subtilisin/kexin type9 : 注射薬レパーサ、プラルエント)を
追加してさらにLDLを低下させるべきだと言うのです。
こんなPCSK9阻害薬のレパーサ、プラルエントなんて注射薬は小生、その存在さえ知りませんでした。
しかしそれにしても高価です。

【レパーサ、プラルエント注の国内用量】
・レパーサ(エボロクマブ):140mg、2万4,136円/シリンジ、2週に1回140mg、または4週に1回420mg皮下注、効果不十分なら2週に1回420mg
・プラルエント(アリロクマブ):75mg、2万2,948円/シリンジ、150mg4万4,481円/シリンジ、2週に1回75mg皮下注、効果不十分なら2週に1回150mg

スタチン高用量にエゼチミブ併用でLDLの中央値は54mg/dLに、アリロクマブ併用で48mg/dL、エボロクマブ併用で30mg/dLに低下しました。

これらでASCVDイベントはそれぞれHR0.90(95%CI 0.84〜0.96)0.85(同 0.78〜0.93)、0.80(同 0.73〜0.88)となりARRは1.5〜1.8%でした。

少し気になったのは、臨床試験で一次予防にスタチンでイベントを予防できましたが
エゼチミブではできなかったと言うのです。

仲田 和正(なかた かずまさ)
西伊豆健育会病院病院長。
1978年に自治医科大学卒業、静岡県立中央病院(現静岡県立総合病院)全科ローテート研修、
1980年に浜松医科大学麻酔科研修(4〜9月)、静岡県国民健康保険佐久間病院外科・整形外科。
1984年に自治医科大学整形外科、大学院、
1988年に静岡県島田市民病院整形外科、1991年に静岡県西伊豆病院整形外科。

2019年06月18日

高齢者の運動療法の進め方、工夫のポイント

(どういう状態になっても身体を動かすことはいいことだ!)

第8回 高齢者の運動療法の進め方、工夫のポイント【高齢者糖尿病診療のコツ】 

公開日:2019/04/16

患者さんごとに「個別の治療」、「個別の管理目標」が求められる高齢者の糖尿病診療。

判断に迷う場面も多いのではないでしょうか。

事前アンケートで寄せられた、
高齢者特有の問題に対する診療上の迷いや疑問に、
東京都健康長寿医療センター 糖尿病・代謝・内分泌内科の先生方が回答します。ロコモ片足立ち.jpg


Q4 転倒・骨折リスク低減に、推奨できる運動はありますか?

転倒・骨折リスクの低減には、バランス運動が効果的です。

例えば片足立ちは、体幹を支える大腿四頭筋の筋力維持に有効です。

転倒防止に机や椅子につかまって行っても構わないので、
片足立ちを左右30秒ずつ、1日3回程度から開始して、
徐々に時間を延ばしていきます

これらの運動は道具も不要で膝などへの負担も少ないため、取り組みやすく、おススメです。

最近では、慢性腎臓病においても運動は腎機能を悪化させず、一部は改善するという報告があります。

また、定期的な運動を行っている血液透析患者の生命予後は、
運動を行っていない患者に勝るという報告もあります7)。

合併症があり、思うように運動できない場合でも、
「家の中の掃除や簡単な料理など、家事を行ってみる」ところから始めて、
「少しでも外出してみる」方向へ進み、徐々に自信がついてから、
「これなら続けられる」と感じて自己効力感を高めていくことができれば、
運動の効果が期待できると思います。

また、1つの運動に飽きてしまったら、いくらでも別の運動に変えていって構いません。

高齢糖尿病患者に対する運動療法の目的は、
健康寿命を延ばすことです。

個人差が大きいため、個々に合った運動療法が見つかるまで色々な方法を提案し、その中から患者さん自身が選び、継続していけるようになることが望ましいでしょう。

参考文献
1) Singh NA, et al. J Am Med Dir Assoc.2012; 13: 24-30.
2) Lee J, et al. Diabetes Therapy.2017; 8: 459-473.
3) Liao C-D, et al. Nutrients.2018.Dec 4[Epub ahead of print]
4) Yardley JE, et al. Diabetes Care.2012; 35: 669-675.
5) Okamoto T, et al. J Appl Physiol.2007; 103: 1655-1661.
6) Levine JA, et al. Science.2005; 307: 584-586.
7) Greenwood SA, et al. J Kidney Dis.2015; 65: 425-434.

2019年06月17日

笑う門には「長寿」来る!?

(今を楽しまなければ、なんのための人生?笑う門には福来たる!)

笑う門には「長寿」来る!?

2019年04月16日 14:45

ユーモアや笑いが健康上プラスに作用するという考えは、
医療者だけでなく一般集団の間でも浸透しつつある。空から笑顔.jpg


山形大学看護学科基礎看護学講座教授の櫻田香氏らは、
笑いと死亡や心血管疾患のリスクとの関連を検討するため、
地域住民を対象に前向きコホート研究を実施。

その結果、日常生活における笑いの頻度が、
全死亡および心血管疾患の独立した危険因子であることが示されたと、
J Epidemiol(2019年4月6日オンライン版)に発表した。
(関連記事「笑い声を聞くだけで健康になる?」)

40歳以上の1万7,000人超を対象に、前向き試験を実施

これまでの研究で、
前向きな気持ちが寿命を延長し、心血管疾患のリスクを低下させることが明らかにされている。

逆に、身体的障害や、うつ病などの
ネガティブな心理的要因が心血管疾患のリスク増加と関連することが示されている。

長寿者を対象とした複数の研究において、
100歳以上では神経質な人の割合が少なく、外
向的で大らかであるといった傾向がしばしば確認されている。

しかし、日常生活における笑いの頻度と全死亡率および心血管疾患の発症率を
縦断的に検討した前向き研究は過去に行われていなかった。

そこで櫻田氏らは今回、一般集団における
毎日の笑いの頻度と死亡率および心血管疾患との関連性を前向きに検討した。

声を出して笑った回数を自己申告してもらい、
@週1回以上群
A月1回以上・週1回未満群
B月1回未満群―に分類。

毎日の笑いの頻度と全死因死亡率の増加および心血管疾患の発症率との関連を、
Cox比例ハザードモデル分析で解析した。

解析対象は、山形大学医学部が牽引する山形県コホート研究の参加者で、
毎年健康診断を受けている40歳以上の男女1万7,152人。
平均年齢は62.8歳で、男性7,003人、女性1万149人だった。

自己申告による笑いの頻度は、
週1回以上群が1万4,096人(82.2%)で、
月1回以上・週1回未満群は2,486人(14.5%)、
月1回未満群は570人(3.3%)だった。

高頻度の笑いと死亡リスクの低さが関連

中央値で5.4年の追跡期間中に257例が死亡し、138例が心血管疾患を発症した。

Kaplan-Meier曲線を用いて生存率を解析したところ、
全死亡率および心血管疾患の発症率は、
笑いの頻度が低い群で有意に高い
ことが示された
(それぞれP=0.003、P<0.001、log rank検定 )。

次に、Cox比例ハザードモデルを用いて、
毎日の笑いの頻度と全死亡率および心血管疾患の発症率との独立した関連性を検討した。

年齢、性、血圧値、喫煙の有無、飲酒状況を調整し解析したところ、
週1回以上群に対する月1回未満群の全死亡リスクは有意に高かった
〔ハザード比(HR)1.95、95%CI1.16〜3.09、P=0.014〕。

同様に、週1回以上群に対する月1回以上・週1回未満群の心血管疾患イベント発生リスクは有意に高かった
(同1.62、1.07〜2.40、P=0.023)。

櫻田氏らは「日本の一般集団では、
日々の生活における笑いの頻度が全死亡率および心血管疾患の独立した危険因子であることが示された」とし、
「笑いの頻度を増やせば、心血管疾患の発症リスクが減り、寿命の延伸につながるのではないか」と結論している。
(比企野綾子)

2019年06月16日

ペットと肺がん死亡率に意外な関連

(ネコを飼っている女性は飼っていない女性に比べ、『肺がん死亡率が2.85倍』と有意に高かったー犬は関連なし。なんでだろう。鳥は糞に有害なカビが住んでいるので理解できるが、猫は何を飼い主に感染させているのだろうか?)

ペットと肺がん死亡率に意外な関連

提供元:ケアネット 公開日:2019/04/17

わが国でもペットを飼っている人は多く、ここ数年はネコがイヌを上回っている。
今回、米国ジョージアサザン大学のAtin Adhikari氏らは、
米国の全国コホートにおける18年間の追跡調査で、
ネコを飼っている女性は飼っていない女性に比べ、
『肺がん死亡率が2.85倍』と有意に高かったことを報告した。

ペットによるこの影響は、喫煙やアトピー性疾患の交絡によって説明されないという。猫写真.jpg

Environmental Research誌2019年2月25日号に掲載。

この研究の対象は、
1988〜94年の米国国民健康栄養調査
(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)IIIにおいて、
ペット所有に関する質問に回答した『19歳以上の1万3,725人』で、
2010年12月31日まで追跡調査を行った(最長22年)。

主な結果は以下のとおり。

・対象者の約43%がペットを飼っており、
20.4%がネコ、4.6%が鳥を飼っていた。

・18万3,094人年(unweighted)の追跡期間中に肺がんで213人死亡し、
肺がん特異的死亡率は1,000人年当たり1.00であった。

・喫煙・飲酒・身体活動・BMI・アトピー性疾患歴・血清中コチニンについて調整後、
女性では、ペット所有者は非所有者に比べて、肺がん死亡率が2倍以上であった
(ハザード比[HR]:2.31、95%信頼区間:1.41〜3.79)。

ペット別のHRは、
ネコが2.85(1.62〜5.01)、
鳥が2.67(0.68〜10.5)

イヌが1.01(0.57〜1.77)で、
ネコおよび鳥の所有がこの関連に大きく起因していた。

男性では、ペットの有無やペットの種類にかかわらず、有意な関連はみられなかった。
(ケアネット 金沢 浩子)

原著論文はこちら
Adhikari A, et al. Environ Res. 2019;173:379-386. [Epub ahead of print]

2019年06月15日

『延命治療のお話』

『延命治療のお話』
スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草(268)
公開日:2019/04/18 企画・制作 ケアネット

ニ百六十八の段 延命治療のお話
外来診療をしていると、たまに延命治療の話になることがあります。

主として高齢女性の場合です。

「体が不自由になってまで生きたくない」

「頭がボケてまで生きたくない」

「だから、延命治療はやめて欲しい」

だいたいこんな感じ。

こういう話が出たら、ちょうどいいタイミングなのでご本人の意思を確認します。

こういったイメージでしょうか。

「皆さん、そうおっしゃいますよ」

「線を引くとしたら、自分で食べて自分でトイレに行けるかどうか、その辺ですかね」

ここは個人個人で違うので、本人の意思確認が必要です。

四肢麻痺の寝たきり状態になっても生きたいという人もいるのは事実。

さらに必要な確認があります。

DNR(Do Not Resuscitate:蘇生処置拒否)とか、そんな大げさな話ではありません。

何をもって延命治療と称するのか、です。

痛いこと、苦しいこと。

それがキーワードだと私は思います。

「回復して自立できる見込みが高ければ、つらい治療でも耐える」

「寝たきりの可能性が高ければ痛い治療は勘弁して欲しい」

「奇跡的に回復するかもしれないので、苦しくない治療は続けて欲しい」

その辺が最も多いようです。よく、

「挿管はどうしましょう、心臓マッサージはどうしましょう、昇圧剤はどうしましょう」

と尋ねる先生がいますが、そもそも挿管の何たるか、心臓マッサージの何たるかから説明しなくてはなりません。

忙しい外来でできたモンじゃないし、何か違和感があります。

どの程度まで回復したら意味があると思うのか
痛いこと、苦しいこと、も我慢するのか
その辺だけ確認しておきます。


確認するだけでなく、カルテにも書きます。

後は、自分が意思表示できなくなったら誰に意思決定を頼むか?

それも大切です。

とはいえ、いざ重大な局面になると何も決められない人が多いのが現実。

だから、本人の意思を確認してカルテに書いておきます。

そうそう、1つ大切な事を忘れていました。

「いよいよの時は苦しみだけはとって欲しい」

これを言う人もすごく多いですね。

最も大切なことかもしれません。

ということで最後に1句

『幕引きも 準備が大切 心せよ』

中島 伸 ( なかじま しん ) 氏
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 脳神経外科、総合診療科

[略歴]
昭和34年神戸市生まれ。昭和59年大阪大学医学部卒業。麻酔科、脳神経外科、放射線科、救急などで研修する。平成6年〜9年の間、米国ボストンのハーバード大学およびブリガム・アンド・ウイミンズ病院に留学した。

2019年06月14日

開業医は長生きできない? 死亡時年齢は70.8歳

医師になった時、医師の平均寿命は日本人平均より5歳短いと聞きました。
開業医は10歳短いみたいです。勤務医でも似たり寄ったりでしょうから、10歳短い!


岐阜県保険医協会が寿命に関する調査結果を公表
開業医は長生きできない? 死亡時年齢は70.8歳

60歳代の死亡が最多、背景に「過酷な労働」の指摘
2019/3/22 三和 護=編集委員

岐阜県保険医協会が実施した調査で、
開業医の死亡時平均年齢が70.8歳と短く、
特に60歳代の死亡割合が34%と多いことが明らかになった。

同協会会長の浅井徳光氏は「長生きできない背景には、
勤務医時代からの過酷な労働がある」と指摘、
「開業医の働き方改革も急務」と訴えている。

同協会副会長の永田正和氏によると、
今回の調査は「開業医は厳しい労働環境にあり、早死にする人も多いのではないか。
協会会員の死亡時年齢を調べてはどうか」という会員からの提案がきっかけだった。

これを受け、2008〜2017年の10年間に、
岐阜県保険医協会を死亡退会した85人について、
死亡時年齢を調査した。
内訳は、医科会員が60人、歯科会員が25人、男性が76人、女性が9人だった。

集計の結果、死亡時平均年齢は70.8歳だった。
「この結果には本当に驚いた。
あくまでも参考値だが、
厚生労働省の統計にある死亡時平均年齢(2015年)は、
男性が77.7歳、女性が84.3歳であり、明らかな差があった」(浅井氏)。

また、年齢別死亡数を見ると、年齢死亡数の分布.jpg
医科歯科別年齢死亡数.jpg

60歳代が29人(34.1%)と最も多く、
70歳代が19人(22.4%)、
80歳代が17人(20.0%)と続いた(図1左)。

厚労省の年齢別死亡数(図1右)では、80歳代にピークがあり、
90歳代、70歳代、60歳というパターンだった。

「開業医の場合は、ピークが若い年代にシフトしており、明らかに異なっていた」(永田氏)。

年齢別死亡数を医科と歯科別に集計した結果が図2だ。
歯科では死亡例が60歳代に集中しており、
医科の場合も60歳代に急増し、70歳代、80歳代とほぼ同じ水準となっている。

浅井氏と永田氏は、
短命の背景には「勤務医時代から積み重なった過重労働がある」との見方を示す。

その上で浅井氏は「働き盛りともいえる60歳代の死亡割合が多いのは、
地域医療の継続という意味でも問題がある」とし、
「医師の働き方改革を進めるには、
開業医が厳しい労働環境にあることを直視した議論が必要だ」と訴えている。

2019年06月13日

もう蛋白尿はチェックしなくてよいのか

蛋白尿陽性者は陰性者に比べCKD(慢性腎臓病)の進展が早く生存率が低い!
検診で尿タンパク(+)で3(経過観察)とされていても、再検されることを強く勧めます


もう蛋白尿はチェックしなくてよいのか
厚労省・AMED研究班報告から
2019年04月11日 13:45

研究の背景:nephropathy(糸球体障害)からkidney disease(腎臓病)へ

最近、糖尿病(性)腎症の概念が変化し、
かつては@所見なし→Aアルブミン尿→B蛋白尿→C推算糸球体濾過量(eGFR)低下→D透析
という流れで進むと考えられていたものが、
かなりの頻度で蛋白尿を示さずにeGFRが低下する患者が存在することが明らかになっている。

このため2016年以降、糖尿病性の糸球体障害(nephropathy)と考えられていた糖尿病(性)腎症は、
尿細管間質の変化も含めた腎臓病(kidney disease)、
すなわち糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease;DKD)として捉えるべきとされるようになった
(Diabetes Care 2016;39:S4-5、関連記事「変わる糖尿病腎症の概念、治療も変わる?」)。

では今後は、eGFRの変化のみに注視し、アルブミン尿や蛋白尿には目を向ける必要はないのであろうか。
このたび、その質問に対する答えが
わが国の厚生労働省・日本医療研究開発機構(AMED)の研究班(班長:金沢大学・和田隆志教授)
から出された(Diabetes Care 2019年3月4日オンライン版)。
この腎生検を伴う報告は圧倒的な説得力があろう。
わが国の誇るべき研究結果と考え、ご紹介したい。

研究のポイント1:日本を代表する18病院の腎生検レジストリ研究

本研究は、1985年1月1日〜2016年12月31日に日本を代表する18病院※で実施された
腎生検のレジストリデータを後ろ向きに解析したものである。

腎生検の結果、DKD以外の腎疾患が診断されたり、
検体が不適切であったりした患者は除外され、
その後の経過を3カ月以上追跡できていない患者も除外された。

また、血清学的にDKD以外の腎疾患が診断される患者も除外された。
その上で、腎生検の結果は以下のような分類法で分類された。

(1)Fioretto分類(Diabetologia 1996;39:1569-1576)
カテゴリー1:正常かほぼ正常(メサンギウム拡大、尿細管間質・動脈性変化、動脈ヒアリン沈着といった点での軽度の変化)
カテゴリー2:典型的糖尿病(性)腎症(糸球体、尿細管間質、動脈性変化がバランスの良い重症度で生じている状態)
カテゴリー3:非典型的糖尿病(性)腎症(糸球体変化がないか軽度でありながら、間質や動脈性の変化が重症である状態)

(2)Tervaert分類(J Am Soc Nephrol 2010;21:556-563)
クラス1:光学顕微鏡で評価した糸球体基底膜の肥厚と軽度で非特異的な変化
クラス2:軽症(2a)あるいは重症(2b)のメサンギウム拡大を呈しているものの、結節性病変や糸球体の50%以上での全節性硬化は呈していない状況
クラス3:結節性病変はあるものの、糸球体の50%以上での全節性硬化は呈していない状況
クラス4:糸球体の50%以上での全節性硬化がある状況

(3)日本糖尿病(性)腎症分類(糸球体病変)
@びまん性病変:グレード0〜3
A内皮下スペース拡大:グレード0〜3
B結節性病変:グレード0〜1
C滲出性病変:グレード0〜1
Dメサンギウム分解/微小動脈瘤:グレード0〜1
E血管極血管新生:グレード0〜1
F全節性硬化:グレード0〜1
G分節性硬化:グレード0〜1
H糸球体拡大:グレード0〜1

(4)日本糖尿病(性)腎症分類(間質性病変)
@interstitial fibrosis and tubular atrophy (IFTA;間質の線維化および尿細管萎縮の評価):グレード0〜3
A間質性細胞浸潤:グレード0〜3

(5)日本糖尿病(性)腎症分類(血管性病変)
@ 動脈ヒアリン沈着:グレード0〜3
A 内膜壁肥厚:グレード0〜3

有効な腎生検が実施された患者の、
その後の経過観察期間において以下のアウトカムの発症が検討された。

主要アウトカム:慢性腎臓病(CKD)の進展
〔@末期腎不全(透析導入、腎移植、腎不全死)、
AeGFRの50%以上の低下、
B血清クレアチニン値の倍増―のいずれか〕

二次アウトカム:全死亡率

本研究はレジストリ研究であり、ランダム化比較試験ではないが、
蛋白尿の存在がアウトカムに及ぼす影響の因果関係を追及すべく、
統計解析においては、プロペンシティスコアマッチングを実施した。
マッチされたのは年齢、性、糖尿病罹病期間、腎生検時の腎機能(eGFR)である。

研究のポイント2:蛋白尿の有無で病理像は異なっていた

1985年1月1日〜2016年12月31日に腎生検の結果、
895例の患者がDKDと診断された。
うち13例は、DKD以外の病変の存在やその後の経過観察期間が3カ月未満
であるといった理由により除外された。
また、腎生検の時点でeGFRが60mL/分/1.73m2以上の人を除外すると、
残りは526例となった。

この526例のうち、88例は尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)が300mg/gCr未満
の蛋白尿陰性者であり、438例が蛋白尿陽性者であった。

そこから年齢、性、糖尿病罹病期間、腎生検時の腎機能(eGFR)でマッチするように患者を抽出し、
82例の蛋白尿陰性者と164例の蛋白尿陽性者が選択された(1 : 2のマッチング)。

プロペンシティスコアマッチング後の両者の臨床特性を比較すると、
蛋白尿陰性者の方がレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬の内服が少ないながら血圧が低めで、
HbA1cは高めである一方、LDL-Cは低めで、ヘモグロビン(Hb)が高かった。

また、蛋白尿陰性者と陽性者の病理像を比較すると、
陰性者では正常像あるいはそれに近い像を呈する人が多かった
(Fioretto分類カテゴリー1が62%)のに対し、
陽性者では典型的な糖尿病(性)腎症の像を呈する人が多かった
(Fioretto分類カテゴリー2が66%)。

また、糸球体病変だけでなく、
間質性病変や血管性病変についても蛋白尿陰性者の方が軽症であることが判明した。

研究のポイント3:蛋白尿陽性者は陰性者に比べCKDの進展が早く生存率が低い蛋白尿有無とCKD進展.jpg
蛋白尿有無と生存率.jpg


こうした臨床特性や病理像の異なる蛋白尿陰性者と陽性者で、
その後のCKDの進展(主要アウトカム)や全死亡率(二次アウトカム)を見ると、
図1、2の通りで、
蛋白尿陽性者に対する陰性者の腎症進展のハザード比は
0.15(陽性者:231人/1,000人・年 vs.陰性者:30人/1,000人・年 )
と有意に低く、
年齢、性、糖尿病罹病期間、eGFR基礎値を調整後に検討しても同様であった
(ハザード比0.13)。
(図1〜2ともDiabetes Care 2019年3月4日オンライン版)

例えば、腎生検後5年においてCKDの進展のない確率を求めると、
蛋白尿陰性者では86.6%(95%CI 72.5〜93.8%)、
陽性者では30.3%(同22.4〜38.6%)であり、
5年生存率を求めると、
陰性者では98.3%(同88.7〜99.8%)、
陽性者では82.6%(同73.6〜88.8%)であった。

なお、念のためRAS阻害薬の有無で層別解析しても、この結果は同様であったという。

また、蛋白尿陰性者に限定してCKDの進展を予測する因子を求めたところ、
Hbが低いこと、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を使用していること、
IFTA(間質の線維化および尿細管萎縮の評価)が重症であることが抽出され、
多変量解析を行うとIFTAが重症であることのみが残った。

私の考察:蛋白尿のチェックはやはり重要

Diabetic nephropathy(糖尿病による糸球体症)から
diabetic kidney disease(糖尿病による腎臓病)へ
と概念が変わる中で、
蛋白尿の有無にかかわらず末期腎不全まで進行してしまう人がいるのだから
と蛋白尿を軽視する向きがいるかもしれない。

しかし、今回の研究は、やはり蛋白尿の有無は極めて重要であることをはっきりと示した。
また、蛋白尿の存在は糸球体だけでなく、間質性病変や血管性病変の進行を意味していることが分かった。

さらに、蛋白尿陰性者での腎症進展の要因として間質性病変の重症度が重要であることも見えてきた。
やはり、蛋白尿(糸球体病変)も重要ではあるが、
蛋白尿以外の要素(間質性病変)も重要なのである。

※虎の門病院、虎の門病院分院、金沢大学病院、藤田医科大学病院、国立病院機構千葉東病院、新潟大学病院、東北大学病院、筑波大学病院、福岡大学病院、獨協医科大学埼玉医療センター、神戸大学病院、金沢医科大学病院、長崎大学病院、奈良医科大学、琉球大学病院、岡山大学病院、聖マリアンナ医科大学病院、名古屋大学病院(論文の記載順に従う。奈良医科大学のみ病院名でなく大学名なのは論文ママ)
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田中松平
元消化器外科医で,頭からつま先まで診れる総合診療科医です. 医学博士 元日本外科学会認定指導医・専門医, 元日本消化器外科学会認定指導医・専門医, 元日本消化器内視鏡学会専門医, 日本医師会認定産業医, 日本病理学会認定剖検医,
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